脈は「2本の指」で「同時に」測る―バイタルの基本に潜む落とし穴
第100回医師国家試験 E問題 第17問
国試問題にチャレンジ
成人の脈拍について適切なのはどれか。
- a.橈骨動脈を母指で触知して測定する。
- b.5秒間数えて12倍して脈拍数とする。
- c.左右差は両側を同時に触診して確認する。
- d.発熱時には脈拍数は減少する。
- e.吸気時には脈拍数は減少する。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
成人の脈拍は、検者自身の拍動を拾わないよう母指ではなく示指・中指などの指腹で橈骨動脈に触れ、15秒×4または30秒×2で数え、不整脈があれば1分間数えます。左右差は両側を同時に触診して比べるのが原則で、大動脈解離、高安動脈炎、鎖骨下動脈狭窄などの重要な手がかりとなり、上下肢の同時触診は大動脈縮窄症の発見にも役立ちます。発熱時には脈拍数が増加し(1℃あたりおよそ8〜10/分)、増加が乏しければ比較的徐脈として腸チフスやレジオネラ症などを考えます。吸気時には迷走神経活動の低下で脈拍数が増え、呼気時に減る呼吸性洞性不整脈が生理的にみられ、吸気時に血圧が下がる奇脈とは区別が必要です。手技の理由と生理を理解しておくことが、正確なバイタルサイン評価と異常所見の拾い上げにつながります。
解答・解説
正解はcです
脈拍の診察は、バイタルサインの中でも最も基本的な手技の一つである。本問は、その正しい測り方(どの指で触れるか、何秒数えるか、左右差をどう確認するか)と、脈拍数が生理的に変動する条件(発熱、呼吸)を問うている。 手技については、「検者自身の脈を拾わない指で触れる」「数える時間を短くしすぎない」「左右を比べるときは同時に触れる」という三つの原則を押さえておけばよい。生理的変動については、体温が上がると代謝亢進に伴い脈拍数が増えること、吸気時には迷走神経の緊張が弱まって脈拍数が増え、呼気時に減ること(呼吸性洞性不整脈)を理解しておく。 これらに照らすと、両側を同時に触れて左右差を評価するという記述のみが適切である。
選択肢考察
- ×a. 橈骨動脈を母指で触知して測定する。
母指の指腹には検者自身の比較的太い動脈の拍動があり、自分の脈を患者の脈と取り違えるおそれがある。そのため、橈骨動脈の触知は示指・中指(必要に応じて環指を加えた第2〜4指)の指腹をそろえて行う。複数の指で触れると、脈の強さや緊張度も評価しやすい。母指を用いるとする記述は不適切である。
- ×b. 5秒間数えて12倍して脈拍数とする。
5秒間の計測では、1拍の数え違いが12拍/分の誤差に拡大してしまい、正確さに欠ける。通常は15秒間数えて4倍する(あるいは30秒間数えて2倍する)方法がとられる。さらに、心房細動などの不整脈があって脈が不規則な場合は、1分間まるごと数えるのが原則である。したがって5秒×12倍とする記述は不適切である。
- ○c. 左右差は両側を同時に触診して確認する。
脈拍の強さやタイミングの左右差は、片側ずつ順番に触れたのでは比較が難しく、わずかな差を見落としやすい。両手で左右の橈骨動脈を同時に触れることで、拍動の大きさや到達時間のずれを直接比べることができる。左右差は大動脈解離、大動脈炎症候群(高安動脈炎)、鎖骨下動脈の狭窄・閉塞、胸郭出口症候群などの手がかりとなる重要な所見であり、この記述は適切である。なお、上肢と下肢の比較(橈骨動脈と大腿動脈の同時触診)では、大動脈縮窄症で下肢の拍動が弱く遅れることが確認できる。
- ×d. 発熱時には脈拍数は減少する。
発熱時は代謝と酸素消費量が増加し、交感神経も緊張するため、脈拍数は増加する。目安として体温が1℃上がるごとに脈拍数はおよそ8〜10/分増えるとされる(Liebermeister の法則)。発熱の割に脈拍数が増えない状態は比較的徐脈と呼ばれ、腸チフス、レジオネラ肺炎、オウム病などで知られる特徴的な所見である。一般的な記述として「減少する」は誤りである。
- ×e. 吸気時には脈拍数は減少する。
吸気時には肺の伸展受容器からの入力などにより心臓迷走神経の活動が抑えられ、また胸腔内圧の低下によって右心への静脈還流が増えるため、脈拍数は増加する。呼気時には逆に迷走神経活動が回復して脈拍数は減少する。この呼吸に伴う周期的な心拍変動を呼吸性洞性不整脈(呼吸性不整脈)といい、若年者で目立つ生理的な現象である。吸気時に減少するとする記述は逆であり誤りである。
脈拍の診察で評価する項目
・脈拍数: 成人の正常はおよそ60〜100/分。100/分を超えれば頻脈、60/分未満を徐脈とする。 ・リズム: 整か不整か。不整の場合は規則的な不整(期外収縮の二段脈など)か、完全に不規則(絶対性不整脈=心房細動)かを区別する。心房細動では心拍数と脈拍数の差(脈拍欠損)が生じることがあり、聴診で数える心拍数と同時に比べる。 ・大きさ・立ち上がり・緊張度: 大脈・小脈、速脈・遅脈など。大動脈弁狭窄症では小さく立ち上がりの遅い脈(小脈・遅脈)、大動脈弁閉鎖不全症では大きく急峻な脈(大脈・速脈)となる。 ・左右差・上下肢差: 両側同時触診で評価する。
特殊な脈
・奇脈: 吸気時に収縮期血圧が10 mmHg を超えて低下する現象。心タンポナーデ、重症気管支喘息発作などでみられる。 ・交互脈: 強い脈と弱い脈が交互に現れる。高度の左心機能低下を示唆する。
発熱と脈拍
体温上昇に伴って脈拍数は増加するのが通常である。これに反して脈拍数の増加が乏しい比較的徐脈は、腸チフス、レジオネラ症、オウム病、薬剤熱などの鑑別に役立つ。
POINT
・橈骨動脈は示指・中指(第2〜4指)で触れ、母指は用いない(検者自身の拍動を拾うため)。 ・脈拍数は15秒×4(または30秒×2)で求め、不整脈があれば1分間数える。 ・左右差は両側同時に触診して評価する。大動脈解離、高安動脈炎、鎖骨下動脈狭窄などの手がかりとなる。 ・発熱で脈拍数は増加する(1℃あたり約8〜10/分)。増えない場合は比較的徐脈を考える。 ・吸気で脈拍数は増加し、呼気で減少する(呼吸性洞性不整脈)。
