「先生によって言うことが違う」をなくす―患者会の声から学ぶクリニカルパス
第100回医師国家試験 D問題 第28問
国試問題にチャレンジ
ある病院で患者会を開催したところ,以下のような意見が出た。 患者A 「検査の進め方に不満を持っています。ある検査をした後,次にどのような検査をするのか,説明が不十分だと思います」 患者B 「同室のAさんと私は,同じ病気で同じ治療を受けているはずなのに,食事内容や入浴がいつからできるかについて,それぞれの主治医が言うことが食い違っています。こういうことは医師によって考えが異なるのですか」 患者C 「看護師や放射線技師が,医師の治療の進め方を十分には理解していないみたい」 この状態を改善するために最も適切なのはどれか。
- a.病院機能評価の受審
- b.臨床機能評価指標〈クリニカルインディケーター〉の確認
- c.患者満足度の調査
- d.クリニカルパスの作成
- e.診療録の様式変更
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
患者への説明不足、同じ疾患・治療での主治医間の方針のばらつき、多職種間の情報共有不足は、いずれも「いつ・誰が・何を行うか」が標準化・共有されていないことに起因し、これを同時に改善する手段がクリニカルパスの作成です。クリニカルパスは特定の疾患・治療について検査・処置・投薬・食事・安静度・入浴・説明内容などを日ごとに定めた標準診療計画で、医療の標準化、インフォームドコンセントの充実、チーム医療の推進、効率化に役立ちます。病院機能評価、クリニカルインディケーター、患者満足度調査は医療の質を評価・測定する手段であり、診療プロセスを直接変える手段とは区別して理解する必要があります。標準経過から外れた場合はバリアンスとして記録・分析し、パスの改善につなげます。チーム医療の一員として働く上で、標準化と個別対応を両立させる考え方は欠かせない基盤となります。
解答・解説
正解はdです
患者の声から問題点を抽出する
3人の患者の発言は、それぞれ次のような問題を示している。 ・患者A:検査の順序や今後の予定が患者に示されていない。つまり、入院から退院までの診療の見通し(診療計画)が患者と共有されていない。 ・患者B:同じ疾患・同じ治療であるのに、食事の開始時期や入浴の許可時期が主治医ごとに異なる。診療内容が標準化されておらず、医師個人の裁量や経験に依存している。 ・患者C:看護師や診療放射線技師などのメディカルスタッフが治療の流れを把握していない。多職種の間で診療方針が共有されていない。
3つの問題に共通する解決策
これらはいずれも「ある疾患・治療について、いつ・誰が・何を行うかが決まっておらず、共有もされていない」ことに起因する。これを一度に解決する道具が、特定の疾患や治療(手術・検査など)について、日ごとの検査・処置・投薬・食事・安静度・清潔(入浴)・説明内容・到達目標を時間軸に沿って一覧化した標準診療計画、すなわちクリニカルパスである。 クリニカルパスを作成すれば、①患者用パスを用いて入院時に今後の予定を示せる(患者Aへの対応)、②食事や入浴の開始日などが根拠に基づいて統一される(患者Bへの対応)、③医師・看護師・技師・薬剤師などが同じ計画表を見て動くのでチーム内で情報が共有される(患者Cへの対応)。
設問の考え方
選択肢には病院全体の質を「評価・測定する」手段(病院機能評価、クリニカルインディケーター、患者満足度調査)が並んでいるが、これらは問題の発見や現状把握には役立っても、個々の診療プロセスそのものを直接改善する手段ではない。本問では問題点がすでに患者会で明らかになっているので、求められるのは具体的な改善策であり、それに当たるのがクリニカルパスの作成である。
選択肢考察
- ×a. 病院機能評価の受審
病院機能評価は、日本医療機能評価機構などの第三者機関が、病院の組織運営・患者の権利と安全・診療や看護の体制などを一定の基準で審査し、認定する仕組みである。病院全体の質を客観的に点検し改善のきっかけとする意義はあるが、審査を受けること自体で、特定の疾患の診療手順が統一されたり、患者に予定が説明されたりするわけではない。本問の具体的な問題に対する直接の対策とはいえない。
- ×b. 臨床機能評価指標〈クリニカルインディケーター〉の確認
クリニカルインディケーター(臨床指標)は、医療の質を数値で表す指標である。例えば平均在院日数、術後合併症率、再入院率、院内感染発生率、特定疾患の死亡率などがあり、診療の構造・過程・結果を測定・比較するのに用いる。現状を把握し、改善の効果を評価するには有用だが、指標を確認するだけでは説明不足や医師間の方針のばらつき、多職種の情報共有不足は解消されない。
- ×c. 患者満足度の調査
患者満足度調査は、患者の視点から病院の問題点を拾い上げる手段である。しかし本問では、患者会の場で問題点がすでに具体的に指摘されている。さらに調査を重ねても新たな改善にはつながりにくく、今求められているのは問題を解決する具体的な手段である。
- ○d. クリニカルパスの作成
クリニカルパスは、特定の疾患・治療について入院から退院までの検査・処置・投薬・食事・安静度・入浴・患者説明などを日ごとに時系列で定めた標準診療計画である。患者用パスを渡せば患者は今後の検査や治療の流れを事前に知ることができ(患者Aの不満の解消)、エビデンスに基づいて標準化された計画に沿うことで主治医による食事・入浴開始時期の食い違いがなくなる(患者Bの不満の解消)。また、医師・看護師・技師などが同じ計画を共有して動くため、チーム医療の連携が改善する(患者Cの不満の解消)。3つの問題を同時に改善できる最も適切な方策である。
- ×e. 診療録の様式変更
診療録の様式を、例えば問題志向型診療記録(POMR:problem-oriented medical record、患者の問題点ごとに主観的情報・客観的所見・評価・計画〈SOAP〉の形で記載する方式)に変えれば、医療者間で患者の問題点を共有しやすくなる可能性はある。しかし、診療録は主に医療者側の記録であり、患者への予定の説明や、医師ごとに異なる診療内容の標準化には直接つながらない。本問の問題を総合的に解決する手段としてはクリニカルパスに劣る。
クリニカルパス(クリティカルパス)とは
もとは1950年代の米国の工業分野で、作業工程を管理する手法(クリティカルパス法)として生まれ、1980年代に米国の医療現場へ導入された。医療では、医療費の抑制と入院期間の短縮を目的に広まった。日本では1990年代後半から普及し、現在は多くの病院で使われている。
構成
・横軸に時間(入院日、手術前日、手術当日、術後1日目…退院日)、縦軸に項目(検査、処置、投薬、点滴、食事、安静度、清潔〈入浴・シャワー〉、指導・説明、観察項目、到達目標〈アウトカム〉)をとった表形式が基本である。 ・医療者用パスと、患者にわかりやすく書かれた患者用パスがある。 ・予定どおりに進まない場合(合併症の発生など)は「バリアンス(逸脱)」として記録し、その集計・分析をもとにパスを見直す。
導入の利点
・医療の標準化:エビデンスに基づく診療を行いやすくなり、医師ごとのばらつきが減る。 ・インフォームドコンセントの充実:患者が入院から退院までの経過を事前に理解できる。 ・チーム医療の推進:多職種が同じ計画を共有し、役割分担が明確になる。 ・効率化:不要な検査や重複の削減、在院日数の短縮、医療費の適正化につながる。 ・教育:研修医や新人スタッフにも標準的な診療の流れが示される。
注意点
・すべての患者が標準経過をたどるわけではないため、個々の状態に応じて逸脱を判断・対応する柔軟性が必要である。
医療の質を評価する仕組みとの違い
・病院機能評価:第三者機関による病院全体の審査・認定。 ・クリニカルインディケーター:医療の質を数値で測る指標。 ・患者満足度調査:患者の視点からの評価。 いずれも「評価・測定」の手段であり、クリニカルパスのような「診療プロセスを標準化する」手段とは性格が異なる。医療の質の評価の枠組みとしては、ドナベディアンが提唱した「構造(ストラクチャー)・過程(プロセス)・結果(アウトカム)」の3つの側面が知られている。
POINT
・クリニカルパスは特定の疾患・治療の標準診療計画で、検査・処置・食事・安静度・入浴・説明内容などを日ごとに定める。 ・効果は「医療の標準化(医師間のばらつきの解消)」「患者への説明とインフォームドコンセントの充実」「多職種によるチーム医療の推進」「効率化・在院日数の短縮」である。 ・病院機能評価、クリニカルインディケーター、患者満足度調査は医療の質を評価・測定する手段であり、診療プロセスを直接改善する手段とは区別する。 ・標準経過から外れた場合はバリアンスとして記録し、分析してパスの改善に活かす。
