食べられても殺せない―慢性肉芽腫症と「カタラーゼ」が決める起炎菌
第100回医師国家試験 B問題 第67問
国試問題にチャレンジ
慢性肉芽腫症で感染の原因となりやすいのはどれか。
- a.Listeria monocytogenes
- b.Mycobacterium tuberculosis
- c.Pneumocystis jiroveci(旧carinii)
- d.Staphylococcus aureus
- e.Streptococcus pneumoniae
対話形式の解説
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ドクターまとめ
慢性肉芽腫症はNADPHオキシダーゼの先天的欠損により、食細胞が病原体を貪食できても活性酸素を産生できず殺菌できない原発性免疫不全症です。カタラーゼ陰性菌は自ら産生した過酸化水素が殺菌に利用されるため比較的処理されますが、黄色ブドウ球菌などのカタラーゼ陽性菌やアスペルギルスなどの真菌は殺菌されず、膿瘍やリンパ節炎、肺炎を反復します。一方、結核菌やリステリア、ニューモシスチスは細胞性免疫不全で、肺炎球菌などの莢膜菌は液性免疫不全・補体欠損・無脾症で問題となる病原体です。診断はNBT還元試験やDHR試験で行い、ST合剤・抗真菌薬・インターフェロンγによる予防と造血幹細胞移植が治療の柱です。免疫不全の型と起こりやすい感染症を病態から結びつけて理解することは、易感染性患者の診療で起炎菌を推定する力につながります。
解答・解説
正解はdです
問われているテーマ
慢性肉芽腫症(chronic granulomatous disease:CGD)は、好中球や単球・マクロファージなどの食細胞が病原体を貪食できても、殺菌できない原発性免疫不全症である。本問は、この殺菌障害の機序から「どのような病原体に弱くなるか」を導けるかを問うている。
病態の要点
食細胞は病原体を取り込むと、NADPHオキシダーゼ(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を電子供与体として酸素を還元する酵素複合体)を活性化し、スーパーオキシド(O2−)を作る。これが過酸化水素(H2O2)へと変換され、さらにミエロペルオキシダーゼの働きで次亜塩素酸などの強力な殺菌物質が作られる(呼吸バースト)。CGDではNADPHオキシダーゼの構成成分(gp91phox、p22phox、p47phox、p67phox、p40phoxなど)のいずれかが先天的に欠損しているため、この一連の活性酸素産生が起こらない。
どの病原体が問題になるか
ここで鍵となるのが病原体自身の持つカタラーゼ(H2O2を水と酸素に分解する酵素)である。 ・カタラーゼ陰性菌(肺炎球菌などのレンサ球菌、インフルエンザ菌など)は、自らの代謝で生じたH2O2を分解できず菌体内に蓄積させる。食細胞に取り込まれると、このH2O2を食細胞のミエロペルオキシダーゼが利用して殺菌物質を作れるため、CGD患者でもある程度殺菌される。 ・カタラーゼ陽性菌は自らのH2O2を分解してしまうため、食細胞に「材料」を提供しない。CGDの食細胞はH2O2を自前で作れないので、これらの菌を殺せない。 したがってCGDでは、黄色ブドウ球菌をはじめとするカタラーゼ陽性の細菌、およびアスペルギルスなどの真菌による感染が反復・重症化する。一方、細胞性免疫(T細胞)が主役となる細胞内寄生菌やニューモシスチスは、CGDに特徴的な病原体とはいえない。 以上から、選択肢の中でCGDの代表的起炎菌は黄色ブドウ球菌である。
選択肢考察
- ×a. Listeria monocytogenes
リステリア菌はグラム陽性桿菌で、マクロファージ内で増殖する通性細胞内寄生菌である。カタラーゼ自体は陽性であるが、防御の中心はT細胞とマクロファージ活性化による細胞性免疫であり、感染リスクが高いのは新生児、妊婦、高齢者、ステロイドや免疫抑制薬の使用者、細胞性免疫不全の患者である。食細胞の活性酸素産生障害であるCGDに特徴的な病原体ではない。
- ×b. Mycobacterium tuberculosis
結核菌は代表的な細胞内寄生菌であり、防御の主役はTh1細胞が産生するIFN-γによるマクロファージの活性化、すなわち細胞性免疫である。結核が問題となるのはHIV感染症、TNF-α阻害薬の使用、ステロイド長期投与、糖尿病などである。なおCGDでは生ワクチンのBCG(ウシ型結核菌の弱毒株)で播種性感染や局所の重い反応が起こりやすいことが知られるが、選択肢の中で最も典型的なCGDの起炎菌として挙げるべきものではない。
- ×c. Pneumocystis jiroveci(旧carinii)
ニューモシスチス・イロベチイ(現在の正式表記はjirovecii)は真菌に分類され、ニューモシスチス肺炎(PCP)を起こす。発症のリスクはCD4陽性T細胞の減少(HIV感染症でCD4<200/μL)、ステロイドや免疫抑制薬の使用、重症複合免疫不全症など細胞性免疫不全である。CGDで問題となる真菌はアスペルギルスなどの糸状菌であり、ニューモシスチスはCGDに特徴的ではない。
- ○d. Staphylococcus aureus
黄色ブドウ球菌はカタラーゼ陽性のグラム陽性球菌である。自身が産生するH2O2をカタラーゼで分解してしまうため、活性酸素を自前で作れないCGDの食細胞はこの菌を殺菌できない。その結果、皮膚膿瘍、リンパ節炎、肝膿瘍、肺炎、骨髄炎などの化膿性感染を繰り返し、CGDで最も頻度の高い細菌性起炎菌の一つとなっている。
- ×e. Streptococcus pneumoniae
肺炎球菌はカタラーゼ陰性のグラム陽性双球菌である。菌自身が作ったH2O2が菌体内に残るため、CGDの食細胞でもミエロペルオキシダーゼ系を介してある程度殺菌でき、CGDでは重症化しにくい。肺炎球菌などの莢膜をもつ菌が問題になるのは、オプソニン化が障害される液性免疫不全(無ガンマグロブリン血症など)、補体欠損症、摘脾後・無脾症である。
慢性肉芽腫症の概要
・遺伝形式:約2/3がX連鎖劣性遺伝(CYBB遺伝子、gp91phoxの欠損)で男児に多い。残りは常染色体劣性遺伝(p47phox、p22phox、p67phoxなどの欠損)である。原発性の食細胞機能異常症の中で最も多い疾患である。 ・発症:多くは乳幼児期から、化膿性リンパ節炎、皮膚膿瘍、肺炎、肝膿瘍、骨髄炎、肛門周囲膿瘍などを反復する。 ・病名の由来:殺菌されずに残った菌を中心に、肝、脾、リンパ節、肺など細網内皮系に富む臓器で肉芽腫が形成される。消化管や尿路に肉芽腫が生じ、炎症性腸疾患に似た腸炎や通過障害を起こすこともある。 ・主な病原体:黄色ブドウ球菌、セラチア、クレブシエラ、大腸菌、バークホルデリア、ノカルジアなどのカタラーゼ陽性菌と、アスペルギルス(肺感染が重要な死因)、カンジダなどの真菌。BCG接種後の播種性感染にも注意する。 ・診断:NBT(ニトロブルーテトラゾリウム)還元試験で還元が起こらない、あるいはフローサイトメトリーによるDHR(ジヒドロローダミン123)試験で活性酸素産生が欠如していることで確認し、遺伝子検査で病型を確定する。 ・治療:ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)による抗菌薬予防、イトラコナゾールによる抗真菌薬予防、インターフェロンγの投与が行われる。根治治療は造血幹細胞移植である。
免疫不全の型と起こりやすい感染の対応
・好中球の数や機能の異常(CGDなど):黄色ブドウ球菌などのカタラーゼ陽性菌、アスペルギルスなどの真菌 ・液性免疫(抗体)不全:肺炎球菌、インフルエンザ菌などの莢膜をもつ細菌 ・補体欠損:後期成分(C5〜C9)の欠損でナイセリア属(髄膜炎菌など) ・細胞性免疫不全:結核菌などの抗酸菌、リステリア、ニューモシスチス、ヘルペスウイルス科ウイルス、クリプトコックスなど ・摘脾後・無脾症:肺炎球菌などの莢膜をもつ細菌(劇症感染)
POINT
・慢性肉芽腫症はNADPHオキシダーゼの欠損により、食細胞が活性酸素を作れず殺菌できない疾患である。 ・カタラーゼ陽性菌(黄色ブドウ球菌、セラチア、クレブシエラ、バークホルデリア、ノカルジアなど)と真菌(アスペルギルスなど)の感染を反復する。 ・カタラーゼ陰性菌(レンサ球菌、肺炎球菌など)は自前のH2O2が利用されるため重症化しにくい。 ・診断はNBT還元試験・DHR試験、X連鎖劣性遺伝(gp91phox)が最多。 ・結核菌、リステリア、ニューモシスチスは細胞性免疫不全で問題となる病原体である。
