StudyMed医師国家試験

血小板・湿疹・易感染―Wiskott-Aldrich症候群の免疫検査を「T細胞」から読み解く

第100回医師国家試験 B問題 第64問

国試問題にチャレンジ

第100回 B問題 第64問

Wiskott-Aldrich症候群でみられるのはどれか。

  1. a.IgG高値
  2. b.IgM高値
  3. c.B細胞数の増加
  4. d.T細胞数の減少
  5. e.好中球機能低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は原発性免疫不全症のひとつ、Wiskott-Aldrich症候群の免疫学的な検査所見を問う問題だ。T細胞、B細胞、免疫グロブリン、好中球のうち、どこにどんな異常が出るかを整理しておけば迷わない。まずはこの病気について知っていることを教えてくれるかな。
医学生医学生
X連鎖潜性遺伝で男の子に起こる病気で、3主徴は血小板減少、湿疹、易感染性だったと思います。
ドクタードクター
その通り。原因はX染色体上のWAS遺伝子の変異で、その産物であるWASPというタンパク質が血球の中でアクチン細胞骨格の再構成を調節している。これが働かないと、リンパ球が動いたり、相手の細胞と密着して情報をやり取りしたりすることがうまくできなくなるんだ。
医学生医学生
免疫学の講義で「免疫シナプス」という言葉を習いました。T細胞が抗原提示細胞とくっつくところですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。T細胞は抗原提示細胞と免疫シナプスを形成して活性化するけれど、その形成にアクチンの再構成が欠かせない。WASPがないとT細胞受容体刺激に対する増殖や活性化が障害されるうえ、T細胞自体がアポトーシスを起こしやすくなる。その結果、末梢血のT細胞数は年齢とともに進行性に減っていくんだ。だから正解はT細胞数の減少だよ。
医学生医学生
なるほど。でも易感染性と聞くと、抗体が足りないのかと思ってB細胞のほうに目が行ってしまいました。
ドクタードクター
自然な発想だね。実際、抗体産生にも異常はあるんだけど、B細胞の数そのものはおおむね正常範囲に保たれる。問題は数ではなく機能で、T細胞からの補助がうまくいかないことや、多糖体抗原への反応が悪いことが原因なんだ。だからB細胞数の増加は誤り。ちなみにB細胞がほとんどいなくなる代表はX連鎖無ガンマグロブリン血症、いわゆるBruton型だね。
医学生医学生
免疫グロブリンはどうなるんでしょう。IgGやIgMが高いという選択肢もありましたが。
ドクタードクター
ここが本症の大事なポイント。免疫グロブリンは「IgMが低く、IgAとIgEが高い」というパターンを示しやすく、IgGは正常かやや低値のことが多い。IgEの上昇は湿疹とも関連していると考えられている。だからIgG高値もIgM高値も本症の特徴ではないんだ。
医学生医学生
IgMが低いのは、多糖体抗原に対する抗体がうまく作れないからですか。
ドクタードクター
そうだね。肺炎球菌の莢膜のような多糖体抗原への反応はIgMが主体で、ここが特に弱い。それを反映するのが同種血球凝集素、つまり抗A・抗B抗体の低値だ。逆にIgMが高くなる原発性免疫不全といえば何を思い出す?
医学生医学生
CD40リガンド欠損症などの高IgM症候群です。CBTの問題集で、クラススイッチができないからIgMだけ残る、と覚えました。
ドクタードクター
完璧。最後に好中球機能低下はどうだろう。
医学生医学生
好中球が殺菌できない病気というと、慢性肉芽腫症が浮かびます。
ドクタードクター
その通り。慢性肉芽腫症はNADPHオキシダーゼの欠損で活性酸素を作れず、カタラーゼ陽性菌や真菌の感染を繰り返す。Wiskott-Aldrich症候群では好中球の数や殺菌能は基本的に保たれているとされるので、これも誤りだね。
医学生医学生
整理すると、T細胞は数も機能も落ちる、B細胞の数は正常、IgMは低くてIgAとIgEは高い、好中球は保たれる、ということですね。
ドクタードクター
よくまとまったね。発展知識も押さえておこう。血小板減少は小型血小板を伴うのが特徴で、普通の免疫性血小板減少症で大きめの血小板が見られるのとは対照的だ。新生児期からの血便や紫斑で気づかれることがあり、頭蓋内出血は重大な死因になる。
医学生医学生
小児科の実習で、血小板減少の男の子では血小板の大きさも見るように言われました。
ドクタードクター
大事な視点だね。それから自己免疫性溶血性貧血や血管炎などの自己免疫疾患、悪性リンパ腫の合併が多いことにも注意が必要だ。根治療法は造血幹細胞移植で、遺伝子治療も行われている。感染予防には免疫グロブリン補充や抗菌薬の予防投与を使う。なお血小板減少だけを示す軽症型として、X連鎖血小板減少症もある。
医学生医学生
湿疹のある男の子が血便や出血を繰り返していたら、アトピーで片付けずに血小板とその大きさを確認する、ということですね。
ドクタードクター
その通り。皮膚、血液、免疫の所見をひとつの病気として結びつけられるかが診断のカギになるよ。

まとめ

Wiskott-Aldrich症候群はWAS遺伝子変異によるX連鎖潜性の原発性免疫不全症で、小型血小板を伴う血小板減少、湿疹、易感染性を3主徴とします。WASPの欠損によりアクチン再構成が障害されるため、T細胞は免疫シナプス形成や活性化がうまくいかず、数も年齢とともに進行性に減少します。B細胞数はおおむね正常で、免疫グロブリンはIgM低値、IgG正常〜低値、IgA・IgE高値となりやすく、多糖体抗原への抗体産生不良が特徴です。好中球機能は保たれ、好中球の殺菌障害は慢性肉芽腫症、IgM高値は高IgM症候群、B細胞欠如はBruton型無ガンマグロブリン血症と対比して覚えると、原発性免疫不全症全体を体系的に整理できます。自己免疫疾患や悪性リンパ腫の合併が多く、根治療法は造血幹細胞移植である点も臨床上重要です。

解答・解説

正解はdです

本問は、原発性免疫不全症の一つであるWiskott-Aldrich症候群(WAS)の免疫学的検査所見を問う問題である。

疾患の要点

WASはX連鎖潜性(劣性)遺伝の疾患で、原則として男児に発症する。原因はX染色体上のWAS遺伝子の変異で、その産物であるWASP(Wiskott-Aldrich syndrome protein)は血球に発現し、アクチン細胞骨格の再構成を調節している。WASPが働かないと、リンパ球の免疫シナプス形成や細胞移動、血小板の形成などが障害される。 臨床的な3主徴は、(1)小型血小板を伴う血小板減少(出血傾向)、(2)湿疹(アトピー性皮膚炎様)、(3)易感染性(反復する細菌・ウイルス感染)である。

免疫学的所見の整理

・T細胞: 機能が障害され、数も年齢とともに進行性に減少する。 ・B細胞: 数はおおむね正常範囲である。 ・免疫グロブリン: IgMは低値、IgGは正常ないし低値、IgAとIgEは高値となることが多い。特に肺炎球菌などの莢膜多糖体抗原に対する抗体産生が不良で、同種血球凝集素(抗A・抗B抗体、IgM型)が低値となる。 ・好中球: 数・殺菌機能は基本的に保たれる。 したがって、選択肢のうち本症の所見として合致するのはT細胞数の減少である。「IgMは下がり、IgA・IgEは上がる」という免疫グロブリンのパターンをセットで覚えておくと、IgG高値・IgM高値の選択肢を除外しやすい。

選択肢考察

  1. ×a.  IgG高値

    WASではIgGは通常、基準範囲内か、やや低値を示す。高値は本症の特徴ではない。本症で高値になりやすい免疫グロブリンはIgAとIgEであり、IgEの上昇は湿疹とも関連している。

  2. ×b.  IgM高値

    WASではIgMは低値となり、年齢とともに低下していく傾向がある。多糖体抗原に対する抗体(IgM主体)の産生が特に障害されるためで、同種血球凝集素(抗A・抗B抗体)の低値として確認できる。IgMが高値となる原発性免疫不全症は、CD40リガンド欠損症などの高IgM症候群である。

  3. ×c.  B細胞数の増加

    WASでは末梢血B細胞数は通常、基準範囲内である。抗体産生の異常はB細胞の数の問題ではなく、T細胞からの補助の障害や多糖体抗原への反応性低下など、機能面の問題による。B細胞数が著しく減少するのはX連鎖無ガンマグロブリン血症(Bruton型)である。

  4. ○d.  T細胞数の減少

    WASPはT細胞が抗原提示細胞と接着して免疫シナプスを形成する際のアクチン再構成に必要であり、その欠損によりT細胞受容体刺激に対する増殖・活性化が障害される。さらにT細胞はアポトーシスを起こしやすく、末梢血T細胞数は乳幼児期以降、年齢とともに進行性に減少する。細胞性免疫の低下は、ヘルペスウイルス属などのウイルス感染や日和見感染の反復につながる。

  5. ×e.  好中球機能低下

    WASでは好中球の数や殺菌能は基本的に保たれており、臨床的に好中球機能低下は本症の特徴とはされない。好中球機能低下をきたす代表的疾患は、NADPHオキシダーゼの欠損により活性酸素を産生できない慢性肉芽腫症(カタラーゼ陽性菌や真菌による感染を反復)である。ほかにChédiak-Higashi症候群、白血球接着不全症なども好中球機能異常の代表である。

Wiskott-Aldrich症候群のまとめ

・遺伝形式: X連鎖潜性。原因遺伝子WAS(Xp11.23)、産物はWASP。 ・3主徴: 血小板減少(血小板容積が小さい小型血小板が特徴)、湿疹、易感染性。 ・出血症状: 新生児期からの血便、点状出血、紫斑。頭蓋内出血は重大な死因となる。 ・合併症: 自己免疫疾患(自己免疫性溶血性貧血、血管炎、腎症など)、悪性リンパ腫などの悪性腫瘍の頻度が高い。 ・治療: 根治療法は造血幹細胞移植。遺伝子治療も研究・実施されている。感染予防に免疫グロブリン補充や抗菌薬予防投与、出血に対して血小板輸血を行う。脾摘により血小板数は改善するが、感染リスクが高まる。 ・軽症型: WAS遺伝子変異で血小板減少のみを示すX連鎖血小板減少症(XLT)がある。

主な原発性免疫不全症の比較

・X連鎖無ガンマグロブリン血症: BTK遺伝子異常。B細胞欠如、全免疫グロブリン著減。 ・高IgM症候群: CD40リガンド欠損など。IgM正常〜高値、IgG・IgA・IgE低値。 ・DiGeorge症候群: 22q11.2欠失。胸腺低形成によるT細胞減少、低Ca血症、心奇形。 ・重症複合免疫不全症(SCID): T細胞欠損(病型によりB細胞も欠損)。 ・毛細血管拡張性運動失調症: ATM遺伝子異常。小脳失調、毛細血管拡張、IgA・IgG2低値。 ・慢性肉芽腫症: 好中球の殺菌能低下。

POINT

・Wiskott-Aldrich症候群: X連鎖潜性、男児。3主徴は血小板減少(小型血小板)・湿疹・易感染性。 ・免疫所見: T細胞数・機能の進行性低下、B細胞数は正常。 ・免疫グロブリン: IgM↓、IgG正常〜↓、IgA↑、IgE↑。多糖体抗原への抗体産生不良。 ・好中球機能は正常(好中球機能低下の代表は慢性肉芽腫症)。 ・自己免疫疾患・悪性リンパ腫を合併しやすい。根治は造血幹細胞移植。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。