転びやすさと「考えの遅さ」―運動疾患の中で認知症が主役になる進行性核上性麻痺
第100回医師国家試験 B問題 第6問
国試問題にチャレンジ
認知症が主要な症状となるのはどれか。
- a.Parkinson病
- b.線条体黒質変性症
- c.進行性核上性麻痺
- d.筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉
- e.オリーブ橋小脳萎縮症
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
運動障害を主体とする神経変性疾患でも認知機能低下はさまざまに生じますが、病像の中心的な要素として認知症が現れるのは進行性核上性麻痺です。進行性核上性麻痺は4リピートタウが蓄積するタウオパチーで、易転倒性、下方視優位の垂直性核上性注視麻痺、頸部後屈を伴う体軸性筋強剛、L-ドパ反応性の乏しいパーキンソニズムに加え、思考緩慢や遂行機能障害、アパシーを主体とする皮質下性認知症が比較的早期からみられます。Parkinson病の認知症は主に進行期の合併症状であり、多系統萎縮症(線条体黒質変性症・オリーブ橋小脳萎縮症)では認知機能が比較的保たれ、ALSでは一部に前頭側頭型認知症を合併するものの主要症状は筋力低下・筋萎縮です。皮質性認知症と皮質下性認知症の違い、各疾患の病理蛋白やMRI所見をあわせて整理しておくと、パーキンソニズムを呈する患者の鑑別に役立ちます。
解答・解説
正解はcです
本問は、運動障害を主体とする神経変性疾患のなかで、認知機能障害が病像の中心的な要素の一つとなる疾患を選ぶ問題である。 選択肢はいずれも神経変性疾患であるが、大きく分けると次のようになる。 ・Parkinson症候群を呈する疾患: Parkinson病、線条体黒質変性症、進行性核上性麻痺 ・小脳失調を主体とする疾患: オリーブ橋小脳萎縮症 ・運動ニューロン疾患: 筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉 このうち、線条体黒質変性症とオリーブ橋小脳萎縮症は、現在ではまとめて多系統萎縮症〈MSA〉として扱われる。 考え方の軸は「認知症が経過のどの時期に、どの程度の比重で現れるか」である。Parkinson病、多系統萎縮症、ALSでも認知機能低下がみられることはある。しかし、病像の前景に立つのはあくまで運動症状(パーキンソニズム、小脳失調、筋力低下・筋萎縮)である。 これに対して進行性核上性麻痺〈PSP〉は、比較的早期から前頭葉機能を中心とした認知機能障害が目立ち、次の4つと並ぶ主要症候とされる。 ・パーキンソニズム ・垂直方向の核上性眼球運動障害 ・易転倒性 ・頸部の後屈傾向を伴う体軸性の筋強剛 この点から正解はcとなる。PSPの認知症は皮質下性認知症の代表例として知られる。
選択肢考察
- ×a. Parkinson病
Parkinson病の中核症状は運動症状である。安静時振戦、筋強剛、無動(寡動)、姿勢保持障害の4つがそろい、黒質のドパミン神経細胞が脱落して起こる。 非運動症状も多彩で、抑うつ、不安、アパシー(意欲低下)、幻視、睡眠障害、自律神経障害がみられる。認知症も決してまれではなく、Parkinson病に伴う認知症〈PDD〉として知られる。長期経過では多くの患者が認知症に至ることが近年明らかになっている。 ただし、認知症は主に進行期にみられる合併症状であり、初期から病像の前景に立つものではない。なお、パーキンソニズムの出現前か出現後1年以内に認知症が現れる場合は、Lewy小体型認知症〈DLB〉として扱うのが一般的である(いわゆる1年ルール)。
- ×b. 線条体黒質変性症
線条体黒質変性症は、多系統萎縮症のうちパーキンソニズムが前景に立つ病型で、現在はMSA-P(P: parkinsonism)と呼ばれる。 多系統萎縮症は、オリゴデンドロサイト(乏突起膠細胞)の細胞質内にαシヌクレインからなる封入体(グリア細胞質内封入体〈GCI〉)が蓄積する疾患である。臨床像は次のとおりである。 ・パーキンソニズム: 左右差が乏しく、振戦は目立たない。L-ドパの効果は乏しい ・自律神経障害: 起立性低血圧、排尿障害など ・小脳症状 病期が進むと認知機能低下を伴う例もある。しかし、認知機能が比較的保たれることが多く、認知症は主要症状ではない。
- ○c. 進行性核上性麻痺
進行性核上性麻痺は、4リピートタウが淡蒼球、視床下核、黒質、中脳被蓋、歯状核などに蓄積するタウオパチー(タウ蛋白が異常蓄積する疾患群)である。 主要症候は次のとおりである。 ・病初期からの易転倒性: 後方へ転倒しやすい ・垂直性核上性注視麻痺: 特に下方視が障害される ・体軸優位の筋強剛: 頸部が後屈しやすい ・L-ドパ反応性の乏しいパーキンソニズム ・認知機能障害 認知機能障害は前頭葉機能の低下が中心である。思考緩慢(反応や思考が遅くなる)、遂行機能障害、アパシー、脱抑制、性格変化、保続がみられる。記憶面では、覚えることよりも思い出すこと(想起)が障害されやすい。 このように記憶障害より思考の緩慢さや意欲低下が目立つ病像は「皮質下性認知症」と呼ばれ、PSPはその代表である。病初期から出現しうるため、認知症が主要症状となる疾患として本問の正解となる。
- ×d. 筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉
ALSは、上位運動ニューロン(大脳皮質運動野から錐体路)と下位運動ニューロン(脳幹運動神経核・脊髄前角細胞)がともに選択的に変性する疾患である。臨床像は次のとおりである。 ・筋力低下と筋萎縮 ・線維束性収縮 ・腱反射亢進 ・球麻痺(構音障害、嚥下障害) ・呼吸筋麻痺 古典的には陰性徴候(出にくい症状)として、感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡とともに認知症が挙げられ、知的機能は保たれる疾患と教えられてきた。 現在では、一部の症例で前頭側頭型認知症〈FTD〉を合併する(ALS-FTD)ことが知られている。TDP-43蛋白の蓄積やC9orf72遺伝子の異常を共通の基盤とする疾患スペクトラムと考えられている。ただし、ALSの主要症状はあくまで運動ニューロン障害による筋力低下であり、認知症が主要症状とはいえない。
- ×e. オリーブ橋小脳萎縮症
オリーブ橋小脳萎縮症は、多系統萎縮症のうち小脳性運動失調が前景に立つ病型で、現在はMSA-C(C: cerebellar)と呼ばれる。臨床像は次のとおりである。 ・小脳症状: 体幹失調、失調性構音障害など ・自律神経障害: 起立性低血圧、排尿障害、勃起障害など ・経過中に加わるパーキンソニズム MRIでは橋底部の十字状の高信号(hot cross bun sign)や、小脳・中小脳脚の萎縮がみられる。bの線条体黒質変性症と同じく、認知機能は比較的保たれることが多く、認知症は主要症状ではない。
パーキンソニズムを呈する主な神経変性疾患の比較
・Parkinson病 病理: 黒質ドパミン神経脱落、Lewy小体(αシヌクレイン) 特徴: 左右差のある安静時振戦から始まることが多い。L-ドパが著効する 認知症: 進行期に合併が増える(PDD) ・Lewy小体型認知症 病理: Parkinson病と同じくαシヌクレイン 特徴: 認知機能の変動、繰り返す具体的な幻視、パーキンソニズム、レム睡眠行動異常症 認知症: 早期から中核をなす ・多系統萎縮症(MSA-P/MSA-C) 病理: オリゴデンドロサイト内のαシヌクレイン封入体 特徴: 自律神経障害が目立つ。L-ドパの反応は乏しい 認知症: 主要症状ではない ・進行性核上性麻痺 病理: 4リピートタウ。房状アストロサイトが特徴的 特徴: 易転倒性、垂直性(特に下方視)核上性注視麻痺、頸部後屈、体軸性筋強剛。MRIで中脳被蓋の萎縮(hummingbird sign) 認知症: 前頭葉性・皮質下性の認知症が早期からみられる ・大脳皮質基底核変性症 病理: 4リピートタウ。アストロサイト斑が特徴的 特徴: 左右差の強い筋強剛・ジストニア、肢節運動失行、他人の手徴候、皮質性感覚障害 認知症: 伴うことが多い
皮質性認知症と皮質下性認知症
・皮質性認知症(Alzheimer型認知症が代表) 記銘力障害、失語・失行・失認などの大脳皮質巣症状が目立つ ・皮質下性認知症(進行性核上性麻痺、Huntington病、Parkinson病など) 思考の緩慢化、意欲低下、遂行機能障害、想起障害が目立ち、皮質巣症状は乏しい
ALSと認知症
以前は「ALSでは認知症はみられない」とされていた。現在では、ALSの一部に前頭側頭型認知症を伴うこと、両者がTDP-43病理を共有する連続したスペクトラムであることが知られている。
POINT
・進行性核上性麻痺の主要症候は、易転倒性、垂直性(下方視優位)核上性注視麻痺、頸部後屈を伴う体軸性筋強剛、パーキンソニズム、前頭葉性(皮質下性)認知症である。 ・Parkinson病の認知症は進行期に目立つもので、主症状は運動症状である。 ・線条体黒質変性症(MSA-P)とオリーブ橋小脳萎縮症(MSA-C)は多系統萎縮症に含まれ、認知機能は比較的保たれる。 ・ALSは運動ニューロン疾患であり、主要症状は筋力低下・筋萎縮である。一部に前頭側頭型認知症を合併することがある。
