脳室が「広がる」か「潰れる」か―CTで読み解く水頭症・萎縮・占拠性病変
第100回医師国家試験 B問題 第52問
国試問題にチャレンジ
頭部単純CTで両側側脳室拡大がみられないのはどれか。
- a.Alzheimer病
- b.くも膜下出血
- c.正常圧水頭症
- d.慢性硬膜下血腫
- e.中脳水道閉塞症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
頭部CTで脳室が拡大する機序は、髄液の通過障害や吸収障害による水頭症と、脳実質が減る脳萎縮の二つに大別されます。Alzheimer病は萎縮による拡大、くも膜下出血は急性水頭症や続発性正常圧水頭症による拡大、正常圧水頭症は脳室系全体の拡大、中脳水道閉塞症は両側側脳室と第3脳室の拡大を示します。一方、慢性硬膜下血腫は脳を外から圧迫する占拠性病変であり、脳室は拡大せず圧排されて狭小化し、片側性なら正中偏位を伴います。慢性硬膜下血腫と正常圧水頭症はいずれも治療可能な認知症であり、脳室の「拡大か圧排か」というCT所見で鑑別できることは、高齢者の認知機能低下や歩行障害を診る際に役立つ視点です。
解答・解説
正解はdです
頭部CTで両側の側脳室が大きく見える状態は、大きく二つの機序に分けて考えると整理しやすい。
1. 水頭症(髄液が過剰にたまる)
脳脊髄液(髄液)は主に脳室内の脈絡叢で産生され、側脳室→Monro孔→第3脳室→中脳水道→第4脳室→Luschka孔・Magendie孔→くも膜下腔と流れ、最終的にくも膜顆粒などから静脈系へ吸収される。この経路のどこかが塞がる(閉塞性水頭症)か、吸収が障害される(交通性水頭症)と、上流の脳室に髄液がたまり拡大する。
2. 脳萎縮(脳実質が減る)
脳の実質が減ると、その分だけ脳室や脳溝が相対的に広がる。これを「ex vacuo(空いた分を埋める)」性の拡大と呼ぶことがある。Alzheimer病などの変性疾患や加齢がこれにあたる。
3. 逆に脳室が狭くなる病態
頭蓋内に占拠性病変(血腫・腫瘍・脳浮腫など)ができると、脳が押されて脳室は圧排され小さくなる。片側性病変なら同側の側脳室が潰れ、正中構造が反対側へ偏位(midline shift)する。 本問では、選択肢の各疾患が上記のどれに当てはまるかを考える。Alzheimer病は脳萎縮、くも膜下出血・正常圧水頭症・中脳水道閉塞症は水頭症の機序で脳室が拡大しうる。一方、慢性硬膜下血腫は脳表と硬膜の間にたまった血腫が脳を外側から圧迫する占拠性病変であり、脳室はむしろ圧排されて狭小化する。したがって「両側側脳室拡大がみられない」のは慢性硬膜下血腫である。
選択肢考察
- ×a. Alzheimer病
Alzheimer病ではアミロイドβの沈着やタウ蛋白の蓄積(神経原線維変化)により神経細胞が脱落し、脳が萎縮する。萎縮は側頭葉内側(海馬・海馬傍回)から始まり、進行すると頭頂葉などを含むびまん性の萎縮となる。脳実質の減少に伴って側脳室(特に下角)や脳溝が二次的に拡大するため、CTで両側側脳室の拡大がみられる。したがって本問の「拡大がみられない」には当てはまらない。
- ×b. くも膜下出血
くも膜下出血では、急性期に血液が脳室内へ穿破したり、血腫が髄液の通り道を塞いだりすることで急性水頭症を起こし、脳室が拡大する。さらに発症から数週〜数か月後には、くも膜下腔に広がった血液成分によってくも膜顆粒での髄液吸収が障害され、続発性の正常圧水頭症(交通性水頭症)を来すことがある。このように急性期・慢性期のいずれにも両側側脳室の拡大が起こりうるため、本問の正解ではない。
- ×c. 正常圧水頭症
正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus:NPH)は、腰椎穿刺で測る髄液圧が正常範囲(おおむね200 mmH2O以下)であるにもかかわらず、脳室が拡大し、歩行障害・認知障害・尿失禁の三徴を呈する病態である。CTやMRIでは側脳室・第3脳室を含む脳室系全体の拡大がみられ、Evans index(両側側脳室前角の最大幅÷同じ断面の頭蓋内腔最大幅)が0.3を超える。特発性NPHでは、Sylvius裂や脳底槽は拡大する一方で高位円蓋部の脳溝が狭小化する所見(DESH)が特徴的である。脳室拡大を示す代表的疾患であり、正解ではない。
- ○d. 慢性硬膜下血腫
慢性硬膜下血腫は、軽微な頭部外傷後おおむね3週間〜数か月の経過で硬膜とくも膜の間に被膜に包まれた血腫がゆっくり増大する疾患で、高齢者や飲酒歴のある男性、抗凝固薬・抗血小板薬の服用者に多い。血腫は脳の外側から脳実質を押す占拠性病変として働くため、CTでは脳表に沿った三日月形の血腫(低〜等〜高吸収と時期により変化)とともに、同側の側脳室の圧排・狭小化、脳溝の消失、正中構造の反対側への偏位がみられる。両側性の場合は両側の脳室が圧排されて小さくなり、正中偏位が目立たないこともある。いずれにしても脳室は拡大ではなく縮小する方向に変化するので、本問の正解である。
- ×e. 中脳水道閉塞症
中脳水道は第3脳室と第4脳室をつなぐ細い管で、髄液循環路の中で最も狭い部位の一つである。先天性の中脳水道狭窄症や、松果体部腫瘍などによる圧迫で閉塞すると、閉塞部より上流にある両側側脳室と第3脳室に髄液がたまって拡大する(閉塞性水頭症)。下流の第4脳室は拡大しないのが特徴で、閉塞部位の推定に役立つ。両側側脳室が拡大する疾患であり、正解ではない。
脳室の大きさを変化させる主な病態
・脳室拡大(水頭症) 閉塞性(非交通性):中脳水道狭窄症、脳腫瘍(松果体部腫瘍、後頭蓋窩腫瘍など)、Chiari奇形、Dandy-Walker症候群など。閉塞部位より上流の脳室のみが拡大する。 交通性:くも膜下出血後、髄膜炎後、特発性正常圧水頭症など。髄液吸収障害により脳室系全体が拡大する。 ・脳室拡大(脳萎縮) Alzheimer病、前頭側頭型認知症、Huntington病(尾状核萎縮により側脳室前角が拡大)、多発性脳梗塞、加齢など。脳溝の開大も伴うことが多い。 ・脳室狭小化(占拠性病変・脳腫脹) 硬膜下血腫、硬膜外血腫、脳内出血、脳腫瘍、広範な脳梗塞後の浮腫、びまん性脳腫脹など。片側性なら正中偏位を伴う。
閉塞部位と拡大する脳室
・Monro孔の閉塞:閉塞側の側脳室のみ拡大 ・中脳水道の閉塞:両側側脳室+第3脳室が拡大、第4脳室は正常 ・第4脳室出口(Luschka孔・Magendie孔)の閉塞:第4脳室を含む全脳室が拡大
慢性硬膜下血腫の要点
高齢者の軽微な頭部外傷後、数週〜数か月して頭痛、片麻痺、認知機能の低下、歩行障害などが緩徐に出現する。認知症と誤認されやすいが、穿頭血腫洗浄(ドレナージ)術で改善が期待できる「治療可能な認知症」の一つである。正常圧水頭症も同じく治療可能な認知症(シャント術)であり、両者はCT所見(脳室拡大か圧排か)で鑑別できる。
POINT
・脳室拡大の二大機序は「水頭症(髄液貯留)」と「脳萎縮」である。 ・占拠性病変(慢性硬膜下血腫など)では脳室は拡大せず、圧排されて狭小化し、正中偏位を伴う。 ・中脳水道閉塞では両側側脳室と第3脳室が拡大し、第4脳室は拡大しない。 ・くも膜下出血は急性水頭症と続発性正常圧水頭症の両方の原因となる。 ・慢性硬膜下血腫と正常圧水頭症はともに治療可能な認知症であり、CTで鑑別する。
