StudyMed医師国家試験

脳室が「広がる」か「潰れる」か―CTで読み解く水頭症・萎縮・占拠性病変

第100回医師国家試験 B問題 第52問

国試問題にチャレンジ

第100回 B問題 第52問

頭部単純CTで両側側脳室拡大がみられないのはどれか。

  1. a.Alzheimer病
  2. b.くも膜下出血
  3. c.正常圧水頭症
  4. d.慢性硬膜下血腫
  5. e.中脳水道閉塞症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、頭部CTで両側側脳室が拡大しない疾患を選ぶ問題だ。ポイントは、脳室の大きさがどんな仕組みで変わるのかを整理すること。仕組みさえ押さえれば、各疾患を自然に振り分けられるよ。まず、脳室が大きくなる理由として何が思い浮かぶかな。
医学生医学生
水頭症です。髄液がたまって脳室が膨らむイメージがあります。
ドクタードクター
そう、それが一つ目の機序だ。髄液は主に脈絡叢で作られ、側脳室からMonro孔、第3脳室、中脳水道、第4脳室を通ってくも膜下腔へ出て、くも膜顆粒などから吸収される。この流れが途中で塞がるのが閉塞性水頭症、吸収が悪くなるのが交通性水頭症だ。ほかに脳室が大きく見える理由はある?
医学生医学生
神経解剖の実習で、ご高齢のご遺体の脳は脳溝が開いていて脳室も広かったのを覚えています。萎縮でしょうか。
ドクタードクター
その通り。脳実質が減れば、空いた分だけ脳室や脳溝が相対的に広がる。これが二つ目の機序の脳萎縮だ。では逆に、脳室が小さくなるのはどんなとき?
医学生医学生
何かが脳を押しつぶすとき……血腫や腫瘍ですか。
ドクタードクター
正解。頭蓋内に占拠性病変ができると脳が押され、脳室は圧排されて狭くなる。片側なら同側の脳室が潰れ、正中構造が反対側に偏位する。この3つの枠組みで選択肢を見ていこう。まずAlzheimer病は?
医学生医学生
海馬から萎縮が始まる病気なので、萎縮による脳室拡大ですね。
ドクタードクター
そうだね。アミロイドβやタウの蓄積で神経細胞が脱落し、側頭葉内側から始まってびまん性の萎縮に進む。特に側脳室下角の拡大が目立つ。次はくも膜下出血。これは少し迷うかもしれない。
医学生医学生
出血なら占拠性病変として脳室を押すのかと思ったんですが、違いますか。
ドクタードクター
いい疑問だ。でもくも膜下出血は脳を外から塊で押すのではなく、髄液の通り道に血液が広がる病態なんだ。急性期には脳室内穿破や髄液路の閉塞で急性水頭症を起こし、数週〜数か月後には血液成分がくも膜顆粒での吸収を妨げて続発性正常圧水頭症を来すことがある。どちらの時期でも脳室は拡大しうる。
医学生医学生
正常圧水頭症は、歩行障害・認知障害・尿失禁の三徴でしたね。
ドクタードクター
そう。髄液圧は正常範囲なのに脳室系全体が拡大し、Evans indexが0.3を超える。特発性ではSylvius裂が開く一方で高位円蓋部の脳溝が狭くなるDESHという所見が特徴的だ。中脳水道閉塞症はどうだろう。
医学生医学生
中脳水道より上流がたまるので、両側側脳室と第3脳室が拡大して、第4脳室は拡大しないはずです。
ドクタードクター
完璧。どこまでの脳室が拡大しているかで閉塞部位を推定できるんだ。ということで残るのが慢性硬膜下血腫だ。
医学生医学生
硬膜とくも膜の間に血腫がたまって脳を外から押すので、脳室はむしろ潰れる側ですね。
ドクタードクター
その通り、これが正解だ。軽い頭部外傷から3週間〜数か月かけて被膜に包まれた血腫がゆっくり増大する。CTでは脳表に沿った三日月形の血腫に加え、同側側脳室の狭小化、脳溝の消失、正中偏位がみられる。両側性だと正中偏位が目立たず、見落としやすいので注意だ。
医学生医学生
脳神経外科の実習で、穿頭して血腫を洗い流したら翌日には麻痺が良くなった高齢の方がいて驚きました。
ドクタードクター
まさに慢性硬膜下血腫の醍醐味だね。高齢者、飲酒歴のある男性、抗凝固薬や抗血小板薬の内服者に多く、頭痛や片麻痺のほか、認知機能低下や歩行障害で受診することもある。認知症と誤認されやすいけれど、手術で改善が期待できる「治療可能な認知症」の一つなんだ。
医学生医学生
正常圧水頭症も治療可能な認知症でしたよね。症状が似ていても、CTで脳室が広がっているか押されているかで見分けられる、ということですか。
ドクタードクター
その通り。正常圧水頭症はシャント術、慢性硬膜下血腫は穿頭血腫洗浄術と治療も違うから、CTで脳室の変化の方向を確認することが大切だ。外傷のエピソードは本人や家族が覚えていないことも多いから、物忘れや歩きにくさで来た高齢者では一度は頭部CTを考えておきたいね。

まとめ

頭部CTで脳室が拡大する機序は、髄液の通過障害や吸収障害による水頭症と、脳実質が減る脳萎縮の二つに大別されます。Alzheimer病は萎縮による拡大、くも膜下出血は急性水頭症や続発性正常圧水頭症による拡大、正常圧水頭症は脳室系全体の拡大、中脳水道閉塞症は両側側脳室と第3脳室の拡大を示します。一方、慢性硬膜下血腫は脳を外から圧迫する占拠性病変であり、脳室は拡大せず圧排されて狭小化し、片側性なら正中偏位を伴います。慢性硬膜下血腫と正常圧水頭症はいずれも治療可能な認知症であり、脳室の「拡大か圧排か」というCT所見で鑑別できることは、高齢者の認知機能低下や歩行障害を診る際に役立つ視点です。

解答・解説

正解はdです

頭部CTで両側の側脳室が大きく見える状態は、大きく二つの機序に分けて考えると整理しやすい。

1. 水頭症(髄液が過剰にたまる)

脳脊髄液(髄液)は主に脳室内の脈絡叢で産生され、側脳室→Monro孔→第3脳室→中脳水道→第4脳室→Luschka孔・Magendie孔→くも膜下腔と流れ、最終的にくも膜顆粒などから静脈系へ吸収される。この経路のどこかが塞がる(閉塞性水頭症)か、吸収が障害される(交通性水頭症)と、上流の脳室に髄液がたまり拡大する。

2. 脳萎縮(脳実質が減る)

脳の実質が減ると、その分だけ脳室や脳溝が相対的に広がる。これを「ex vacuo(空いた分を埋める)」性の拡大と呼ぶことがある。Alzheimer病などの変性疾患や加齢がこれにあたる。

3. 逆に脳室が狭くなる病態

頭蓋内に占拠性病変(血腫・腫瘍・脳浮腫など)ができると、脳が押されて脳室は圧排され小さくなる。片側性病変なら同側の側脳室が潰れ、正中構造が反対側へ偏位(midline shift)する。 本問では、選択肢の各疾患が上記のどれに当てはまるかを考える。Alzheimer病は脳萎縮、くも膜下出血・正常圧水頭症・中脳水道閉塞症は水頭症の機序で脳室が拡大しうる。一方、慢性硬膜下血腫は脳表と硬膜の間にたまった血腫が脳を外側から圧迫する占拠性病変であり、脳室はむしろ圧排されて狭小化する。したがって「両側側脳室拡大がみられない」のは慢性硬膜下血腫である。

選択肢考察

  1. ×a.  Alzheimer病

    Alzheimer病ではアミロイドβの沈着やタウ蛋白の蓄積(神経原線維変化)により神経細胞が脱落し、脳が萎縮する。萎縮は側頭葉内側(海馬・海馬傍回)から始まり、進行すると頭頂葉などを含むびまん性の萎縮となる。脳実質の減少に伴って側脳室(特に下角)や脳溝が二次的に拡大するため、CTで両側側脳室の拡大がみられる。したがって本問の「拡大がみられない」には当てはまらない。

  2. ×b.  くも膜下出血

    くも膜下出血では、急性期に血液が脳室内へ穿破したり、血腫が髄液の通り道を塞いだりすることで急性水頭症を起こし、脳室が拡大する。さらに発症から数週〜数か月後には、くも膜下腔に広がった血液成分によってくも膜顆粒での髄液吸収が障害され、続発性の正常圧水頭症(交通性水頭症)を来すことがある。このように急性期・慢性期のいずれにも両側側脳室の拡大が起こりうるため、本問の正解ではない。

  3. ×c.  正常圧水頭症

    正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus:NPH)は、腰椎穿刺で測る髄液圧が正常範囲(おおむね200 mmH2O以下)であるにもかかわらず、脳室が拡大し、歩行障害・認知障害・尿失禁の三徴を呈する病態である。CTやMRIでは側脳室・第3脳室を含む脳室系全体の拡大がみられ、Evans index(両側側脳室前角の最大幅÷同じ断面の頭蓋内腔最大幅)が0.3を超える。特発性NPHでは、Sylvius裂や脳底槽は拡大する一方で高位円蓋部の脳溝が狭小化する所見(DESH)が特徴的である。脳室拡大を示す代表的疾患であり、正解ではない。

  4. ○d.  慢性硬膜下血腫

    慢性硬膜下血腫は、軽微な頭部外傷後おおむね3週間〜数か月の経過で硬膜とくも膜の間に被膜に包まれた血腫がゆっくり増大する疾患で、高齢者や飲酒歴のある男性、抗凝固薬・抗血小板薬の服用者に多い。血腫は脳の外側から脳実質を押す占拠性病変として働くため、CTでは脳表に沿った三日月形の血腫(低〜等〜高吸収と時期により変化)とともに、同側の側脳室の圧排・狭小化、脳溝の消失、正中構造の反対側への偏位がみられる。両側性の場合は両側の脳室が圧排されて小さくなり、正中偏位が目立たないこともある。いずれにしても脳室は拡大ではなく縮小する方向に変化するので、本問の正解である。

  5. ×e.  中脳水道閉塞症

    中脳水道は第3脳室と第4脳室をつなぐ細い管で、髄液循環路の中で最も狭い部位の一つである。先天性の中脳水道狭窄症や、松果体部腫瘍などによる圧迫で閉塞すると、閉塞部より上流にある両側側脳室と第3脳室に髄液がたまって拡大する(閉塞性水頭症)。下流の第4脳室は拡大しないのが特徴で、閉塞部位の推定に役立つ。両側側脳室が拡大する疾患であり、正解ではない。

脳室の大きさを変化させる主な病態

・脳室拡大(水頭症)  閉塞性(非交通性):中脳水道狭窄症、脳腫瘍(松果体部腫瘍、後頭蓋窩腫瘍など)、Chiari奇形、Dandy-Walker症候群など。閉塞部位より上流の脳室のみが拡大する。  交通性:くも膜下出血後、髄膜炎後、特発性正常圧水頭症など。髄液吸収障害により脳室系全体が拡大する。 ・脳室拡大(脳萎縮)  Alzheimer病、前頭側頭型認知症、Huntington病(尾状核萎縮により側脳室前角が拡大)、多発性脳梗塞、加齢など。脳溝の開大も伴うことが多い。 ・脳室狭小化(占拠性病変・脳腫脹)  硬膜下血腫、硬膜外血腫、脳内出血、脳腫瘍、広範な脳梗塞後の浮腫、びまん性脳腫脹など。片側性なら正中偏位を伴う。

閉塞部位と拡大する脳室

・Monro孔の閉塞:閉塞側の側脳室のみ拡大 ・中脳水道の閉塞:両側側脳室+第3脳室が拡大、第4脳室は正常 ・第4脳室出口(Luschka孔・Magendie孔)の閉塞:第4脳室を含む全脳室が拡大

慢性硬膜下血腫の要点

高齢者の軽微な頭部外傷後、数週〜数か月して頭痛、片麻痺、認知機能の低下、歩行障害などが緩徐に出現する。認知症と誤認されやすいが、穿頭血腫洗浄(ドレナージ)術で改善が期待できる「治療可能な認知症」の一つである。正常圧水頭症も同じく治療可能な認知症(シャント術)であり、両者はCT所見(脳室拡大か圧排か)で鑑別できる。

POINT

・脳室拡大の二大機序は「水頭症(髄液貯留)」と「脳萎縮」である。 ・占拠性病変(慢性硬膜下血腫など)では脳室は拡大せず、圧排されて狭小化し、正中偏位を伴う。 ・中脳水道閉塞では両側側脳室と第3脳室が拡大し、第4脳室は拡大しない。 ・くも膜下出血は急性水頭症と続発性正常圧水頭症の両方の原因となる。 ・慢性硬膜下血腫と正常圧水頭症はともに治療可能な認知症であり、CTで鑑別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。