StudyMed医師国家試験

夕方に増える二重視―waningとwaxingで分ける神経筋接合部の病気

第99回医師国家試験 G問題 第44問

国試問題にチャレンジ

第99回 G問題 第44問

24歳の女性。1週前から夕方になると時々ものが二重に見えるようになり来院した。3年前からBasedow病で内服薬で治療中である。意識は清明。身長158cm,体重54kg。体温36.6℃。呼吸数18/分。脈拍104/分,整。血圧120/78mmHg。皮膚色は正常。貧血と黄疸とはない。胸部でラ音を聴取しない。腹部は平坦で,肝・脾を触知しない。下肢に浮腫を認めない。四肢筋萎縮はないが徒手筋力テストは眼輪筋4,頸部屈筋3および三角筋3である。深部(腱)反射は正常。感覚障害,小脳症状および自律神経障害は認めない。 この患者でみられないのはどれか。

  1. a.筋の易疲労性
  2. b.末梢神経伝導速度正常
  3. c.テンシロンテスト陽性
  4. d.誘発筋電図でのwaxing現象
  5. e.抗アセチルコリンレセプター抗体陽性

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、夕方に出てくる複視と筋力低下から病態を絞り込み、その病気で「みられない」検査所見を選ぶ問題だ。ポイントは症状の日内変動と、筋力低下の分布、そして感覚・反射・自律神経が保たれていること。障害部位がどこかをまず考えてみよう。
医学生医学生
夕方に悪くなるというのは、使うほど疲れる感じですよね。眼と首と肩の筋力が落ちているので、重症筋無力症でしょうか。
ドクタードクター
いい読みだね。ただ、すぐ飛びつかずに部位診断から確認しよう。感覚障害がなく腱反射が正常なら、末梢神経障害は考えにくい。筋萎縮も上位運動ニューロン徴候もないから、運動ニューロン疾患も合わない。小脳症状もない。残るのは神経筋接合部か筋そのものだ。
医学生医学生
Basedow病があるので、甲状腺眼症の複視や甲状腺中毒性ミオパチーも考えてしまいました。
ドクタードクター
鋭い指摘だ。どちらも実際に起こりうる。でも、夕方に増悪して休むと回復するという日内変動は、重症筋無力症を強く示唆する所見なんだ。しかも重症筋無力症は、Basedow病や橋本病などほかの自己免疫疾患を合併しやすい。Basedow病の既往は、むしろ診断を後押ししていると考えられる。
医学生医学生
内分泌の講義で、自己免疫疾患は重なりやすいと習いました。ここでつながるんですね。
ドクタードクター
そう。では病態を整理しよう。重症筋無力症は、神経筋接合部のシナプス後膜にあるアセチルコリン受容体が自己抗体で減少・破壊される病気だ。神経からアセチルコリンが出ても、受け止める受容体が少ないから筋が興奮しにくい。運動をくり返すと1回あたりの放出量が減っていくので、閾値に届かない筋線維が増え、使うほど力が落ちる。これが易疲労性の正体だ。
医学生医学生
だから筋の易疲労性はこの患者でみられる所見ですね。末梢神経伝導速度はどうでしょう。
ドクタードクター
障害されているのはシナプス後膜で、末梢神経の軸索や髄鞘は正常だから、伝導速度は正常に保たれる。感覚障害がなく腱反射が正常なこととも一致するね。テンシロンテストはどうかな。
医学生医学生
短時間作用型のコリンエステラーゼ阻害薬を静注して、症状が良くなるか見る検査ですよね。アセチルコリンが分解されにくくなって、残った受容体に効きやすくなるから陽性になるはずです。
ドクタードクター
その通り。眼瞼下垂や複視が一時的に改善すれば陽性だ。徐脈などのムスカリン様の副作用に備えてアトロピンを準備しておく点も覚えておこう。抗アセチルコリン受容体抗体は、全身型の約80〜85%、眼筋型では約50%で陽性になる。この人は眼筋に加えて頸部や四肢近位筋も障害された全身型だから、陽性の可能性が高い。
医学生医学生
そうなると、残るのは誘発筋電図でのwaxing現象ですね。神経内科の実習で反復刺激試験を見学したとき、振幅がだんだん小さくなっていくのを見ました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。重症筋無力症では、3Hz前後の低頻度反復刺激で複合筋活動電位の振幅が次第に小さくなるwaning、つまり漸減現象がみられる。一方、waxing、漸増現象はLambert-Eaton筋無力症候群の特徴だ。だから、この患者でみられないのはwaxing現象になる。
医学生医学生
Lambert-Eatonでは、なぜ逆に大きくなるんですか。
ドクタードクター
障害部位が違うからだ。Lambert-Eatonはシナプス前膜の電位依存性カルシウムチャネルに対する抗体が原因で、神経終末からのアセチルコリン放出そのものが減る。安静時の振幅はもともと低いけれど、高頻度刺激や最大随意収縮をすると神経終末にカルシウムが蓄積して放出が増え、振幅が著明に大きくなるんだ。
医学生医学生
MGは受け手の問題、Lambert-Eatonは出し手の問題ということですね。だから運動直後に一時的に力が出るのもLambert-Eatonなんだ。
ドクタードクター
きれいにまとまったね。Lambert-Eatonは腱反射の低下や口渇・便秘などの自律神経症状を伴いやすく、肺小細胞癌の合併が有名だ。今回は腱反射正常で自律神経障害もないから、臨床的にも重症筋無力症に合う。発展として、重症筋無力症では胸腺腫や胸腺過形成の合併が多いから、診断したら胸部CTやMRIで胸腺を検索する。
医学生医学生
胸腺腫があれば胸腺摘除ですね。抗体陰性のときはどうするんでしょう。
ドクタードクター
陰性例の一部は抗MuSK抗体が陽性になる。ほかに単線維筋電図でのジッター増大や、眼瞼を冷やして下垂が改善するかを見るアイスパックテストも診断の助けになる。治療はピリドスチグミンなどのコリンエステラーゼ阻害薬に加え、ステロイドや免疫抑制薬、血漿交換や免疫グロブリン大量静注、最近では補体阻害薬やFcRn阻害薬も使われる。臨床で特に注意したいのは、呼吸筋が侵されるクリーゼだ。嚥下や呼吸の様子が悪くなったら、すぐに呼吸管理を考える必要がある。
医学生医学生
夕方の複視というささいな訴えでも、全身型なら呼吸まで気をつけないといけないんですね。
ドクタードクター
そう。「夕方に悪化する」「使うと疲れる」という病歴を丁寧に聞き取ることが、神経筋接合部疾患を見逃さない第一歩だよ。

まとめ

夕方に増悪する複視や眼瞼下垂、頸部筋・四肢近位筋の筋力低下があり、感覚・腱反射・自律神経が保たれていれば、神経筋接合部のシナプス後膜が障害される重症筋無力症を考えます。易疲労性、末梢神経伝導速度正常、テンシロンテスト陽性、抗アセチルコリン受容体抗体陽性はいずれも本症でみられ、反復神経刺激試験では低頻度刺激で振幅が漸減するwaningを示します。高頻度刺激で振幅が漸増するwaxingは、シナプス前膜のカルシウムチャネルが障害されるLambert-Eaton筋無力症候群の特徴で、腱反射低下や自律神経症状、肺小細胞癌の合併を伴いやすい点で区別されます。重症筋無力症は甲状腺疾患や胸腺腫を合併しやすく、胸腺の検索やクリーゼへの備えが臨床上重要です。シナプス前か後かという障害部位から検査所見を導く考え方は、神経筋疾患全体の理解に役立ちます。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

24歳女性。1週前から、夕方になると時々ものが二重に見える(複視)。Basedow病で治療中である。脈拍104/分とやや頻脈である。 ・筋力低下の分布:徒手筋力テスト(MMT、0〜5の6段階で筋力を評価する)で眼輪筋4、頸部屈筋3、三角筋3と、眼の周囲の筋、頸部の筋、四肢近位筋に筋力低下がある。筋萎縮はない。 ・日内変動:症状は夕方に出現し、使うほど悪化して休むと回復する「易疲労性」を示唆する。 ・深部腱反射は正常で、感覚障害・小脳症状・自律神経障害はない。

鑑別のプロセス

・感覚障害がなく腱反射が正常であることから、末梢神経障害(ニューロパチー)は考えにくい。 ・筋萎縮がなく、腱反射亢進などの上位運動ニューロン徴候もないため、運動ニューロン疾患も考えにくい。 ・小脳症状がなく、脳幹・大脳の病変を示す所見もない。 ・自律神経障害がなく腱反射も保たれている点は、Lambert-Eaton筋無力症候群(LEMS:腱反射の低下と口渇などの自律神経症状を伴うことが多い)とも合わない。 ・複視(外眼筋障害)を初発とし、日内変動・易疲労性を伴う眼筋・頸部筋・近位筋の筋力低下は、神経筋接合部の自己免疫疾患である重症筋無力症(MG)の典型像である。MGは甲状腺疾患(Basedow病、橋本病)など他の自己免疫疾患を合併しやすく、Basedow病の既往もこれに合致する。なお、Basedow病でも甲状腺眼症による複視や甲状腺中毒性ミオパチーによる近位筋力低下は起こりうるが、症状の日内変動(夕方の増悪)はMGを強く示唆する。

設問の考え方

「みられないのはどれか」を問う問題である。MGの症状・検査所見を順に確認し、MGにあてはまらないものを選ぶ。要点は、反復刺激試験(誘発筋電図)での反応がMGでは漸減(waning)、LEMSでは高頻度刺激で漸増(waxing)であるという対比である。

選択肢考察

  1. ×a.  筋の易疲労性

    本例でみられる所見である。MGでは神経筋接合部のアセチルコリン受容体(AChR)が自己抗体によって減少・破壊されるため、神経からアセチルコリン(ACh)が放出されても筋の興奮が起こりにくい。運動をくり返すと1回あたりのACh放出量が減っていき、終板電位が閾値に届かない筋線維が増えるため、使うほど力が落ちる。これが易疲労性であり、夕方の症状悪化(日内変動)もこれで説明される。

  2. ×b.  末梢神経伝導速度正常

    本例でみられる所見である。MGの障害部位は神経筋接合部のシナプス後膜であり、末梢神経そのもの(軸索や髄鞘)には異常がない。したがって末梢神経伝導速度は正常である。本例で感覚障害がなく腱反射が正常であることも、末梢神経が保たれていることと一致する。

  3. ×c.  テンシロンテスト陽性

    本例でみられる所見である。テンシロンテスト(エドロホニウム試験)は、作用時間の短いコリンエステラーゼ阻害薬であるエドロホニウムを静注し、症状が改善するかを確認する検査である。AChの分解が抑えられてシナプス間隙のACh濃度が上がり、残存するAChRへの作用が強まるため、MGでは眼瞼下垂や複視、筋力低下が一時的に改善する(陽性)。徐脈などのムスカリン様副作用に備えてアトロピンを準備して行う。

  4. ○d.  誘発筋電図でのwaxing現象

    本例ではみられない所見であり、これが正解である。反復神経刺激試験(誘発筋電図)で、MGでは低頻度(2〜5Hz、通常3Hz程度)の連続刺激により複合筋活動電位(CMAP)の振幅が次第に小さくなる漸減現象(waning、減衰率10%以上で有意)がみられる。一方、waxing(漸増)現象は、神経終末からのACh放出が低下するLambert-Eaton筋無力症候群(LEMS)の特徴である。LEMSでは安静時のCMAP振幅が低く、高頻度(20〜50Hz)刺激や最大随意収縮の後に振幅が著明に増大する。

  5. ×e.  抗アセチルコリンレセプター抗体陽性

    本例でみられる所見である。抗AChR抗体はMGの病因となる自己抗体で、全身型MGの約80〜85%、眼筋型MGの約50%で陽性となる。MGに特異性の高い検査であり、陽性であれば診断的価値が高い。陰性例の一部では抗MuSK(筋特異的受容体型チロシンキナーゼ)抗体が陽性となる。本例は眼筋に加えて頸部・四肢近位筋も障害された全身型であり、抗AChR抗体陽性の可能性が高い。

重症筋無力症(MG)の概要

・神経筋接合部のシナプス後膜の自己免疫疾患。抗AChR抗体(約80〜85%)、抗MuSK抗体(数%)などが原因となる。 ・20〜40歳代の女性と、50歳以降の男女に発症のピークがある。 ・症状:眼瞼下垂・複視(初発症状として最多)、構音障害・嚥下障害、頸部筋・四肢近位筋の筋力低下。易疲労性と日内変動(夕方に増悪)が特徴。重症例では呼吸筋が侵され、クリーゼ(急性増悪による呼吸不全)をきたす。 ・合併症:胸腺腫(約20〜30%)、胸腺過形成、甲状腺疾患(Basedow病、橋本病)、関節リウマチなど他の自己免疫疾患。

診断に用いる検査

・自己抗体(抗AChR抗体、抗MuSK抗体) ・反復神経刺激試験:低頻度刺激でwaning ・単線維筋電図:ジッターの増大(感度が高い) ・エドロホニウム(テンシロン)試験、アイスパックテスト(眼瞼を冷やすと眼瞼下垂が改善) ・胸部CT・MRIで胸腺腫の検索

治療

・コリンエステラーゼ阻害薬(ピリドスチグミンなど)による対症療法 ・免疫療法:副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬(タクロリムスなど)、血漿交換、免疫グロブリン大量静注療法、補体阻害薬や胎児性Fc受容体(FcRn)阻害薬などの分子標的薬 ・胸腺腫合併例は胸腺摘除術。胸腺腫がなくても抗AChR抗体陽性の全身型では胸腺摘除が考慮される。

MGとLambert-Eaton筋無力症候群(LEMS)の比較

・障害部位:MGはシナプス後膜(AChR)、LEMSはシナプス前膜の電位依存性カルシウムチャネル(VGCC) ・自己抗体:MGは抗AChR抗体、LEMSは抗P/Q型VGCC抗体 ・合併腫瘍:MGは胸腺腫、LEMSは肺小細胞癌 ・反復刺激:MGは低頻度でwaning、LEMSは高頻度でwaxing ・筋力:MGは運動のくり返しで低下、LEMSは運動直後に一時的に改善 ・腱反射:MGは正常、LEMSは低下〜消失 ・自律神経症状:MGはなし、LEMSは口渇・便秘・起立性低血圧などを伴う

POINT

・日内変動(夕方増悪)と易疲労性を伴う複視・眼瞼下垂・近位筋力低下→重症筋無力症。 ・MGは甲状腺疾患や胸腺腫を合併しやすい。 ・MGの反復刺激試験は低頻度刺激でwaning、waxingはLambert-Eaton筋無力症候群。 ・MGでは末梢神経伝導速度・腱反射・感覚は正常。 ・MGの診断:抗AChR抗体、反復刺激試験、テンシロン試験、アイスパックテスト、単線維筋電図。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。