術後5日目の脳塞栓―t-PAが使えないとき、カテーテルが脳を救う
第120回医師国家試験 D問題 第33問
国試問題にチャレンジ
70歳の男性。65歳時に発作性心房細動を指摘されていた。農作業中に吐血し,胃潰瘍穿孔のため,入院した。開腹手術を受け,経過良好のため,退院を予定していた。手術から5日後の午後1時に突然,言葉がしゃべれなくなった。その後,右半身の脱力が出現したため,午後1時25分に病棟看護師から研修医へ連絡があった。意識レベルはJCSⅠ-2。身長171cm,体重65kg。体温36.2℃。脈拍76/分,不整。血圧170/102mmHg。左共同偏視,運動失語,右片麻痺を認めている。NIHSS〈NIH stroke scale〉は16/42点であった。血液所見:赤血球368万,Hb 9.2g/dL,Ht 35%,白血球11,600,血小板16万。12誘導心電図で心房細動を認める。午後2時の頭部単純MRIの拡散強調像(A)と頭部MRA(B)とを下に示す。 急性期治療で適切なのはどれか。

- a.高気圧酸素療法
- b.脳内血腫除去術
- c.機械的血栓回収療法
- d.頸動脈ステント留置術
- e.tissue plasminogen activator〈t-PA〉静注療法
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
心房細動を背景に、突然の失語・左共同偏視・右片麻痺が出現した場合は、左中大脳動脈領域の心原性脳塞栓症を考えます。MRAでM1閉塞を認め、症状に比べて拡散強調像の梗塞巣が小さいときは救済可能なペナンブラが広く残っており、早期再開通の意義が大きい状態です。アルテプラーゼ静注療法は発症4.5時間以内が適応ですが、14日以内の大手術や21日以内の消化管出血などは禁忌であり、本例のような術後患者では使用できません。機械的血栓回収療法は主幹動脈閉塞に対してカテーテルで塞栓子を物理的に除去する治療で、静注療法が禁忌でも単独で施行でき、発症6時間以内(条件により24時間以内)に行います。「閉塞部位・発症時刻・禁忌」を順に確認する思考は、院内外を問わず脳卒中の初期対応で即座に求められる力です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・70歳男性。5年前から発作性心房細動を指摘されている。発作性であっても持続性・永続性心房細動と同程度に脳塞栓症のリスクがある。 ・吐血を伴う胃潰瘍穿孔で開腹手術を受け、術後5日目である。出血と手術直後という状況から、抗凝固療法は行われていなかったと推測される。 ・午後1時に突然、言葉が出なくなり、続いて右半身の脱力が出現した。発症時刻が明確な突発発症であり、脳血管障害を最も考える。 ・左共同偏視(病巣側をにらむ)、運動失語(優位半球の前頭葉・Broca野周辺の障害)、右片麻痺は、左大脳半球の広い範囲の障害、特に左中大脳動脈(MCA)領域の障害を示す皮質症状を含む組み合わせである。 ・NIHSS(脳卒中の神経学的重症度を0~42点で評価する尺度)16点は重症である。 ・脈拍不整、心電図で心房細動を確認。血圧170/102mmHgは急性期脳卒中でよくみられる反応性の上昇である。 ・Hb 9.2g/dLの貧血は術前の吐血による。血小板は16万と保たれている。
画像所見
・拡散強調像(A):左基底核(被殻~放線冠付近)に限局した小さな高信号域を認める。急性期の梗塞巣(細胞性浮腫)を示す。 ・MRA(B):左中大脳動脈が起始部(M1近位部)で途絶し、その末梢が描出されない。左内頸動脈から先の主幹動脈閉塞である。 ・つまり、症状(失語・共同偏視・片麻痺、NIHSS 16点)からは左MCA領域全体が虚血に陥っているのに、拡散強調像で既に梗塞となった範囲はまだ小さい。この差(臨床症状-拡散強調像ミスマッチ)は、救済可能な虚血領域(ペナンブラ)が広く残っていることを意味し、早期の再開通で症状改善が期待できる状態である。
診断
発作性心房細動を背景とした、突発完成型の皮質症状を伴う発症であり、左中大脳動脈M1閉塞による心原性脳塞栓症と診断される。
治療選択の考え方
発症(午後1時)からMRI撮像(午後2時)まで約1時間で、超急性期である。再開通療法には、①アルテプラーゼ(rt-PA)静注療法(発症4.5時間以内)と、②機械的血栓回収療法(主幹動脈閉塞が対象。発症6時間以内が標準、画像条件を満たせば24時間以内まで)がある。本例は時間的には両者の適応内だが、5日前に開腹手術(14日以内の大手術)を受け、吐血(21日以内の消化管出血)があるため、全身の出血リスクを高める静注血栓溶解療法は禁忌となる。血栓回収療法は薬剤で血栓を溶かすのではなく、カテーテルで物理的に塞栓子を取り除く治療であり、静注血栓溶解療法が使えない症例でも単独で施行できる。したがって本例の急性期治療としては機械的血栓回収療法が適切である。
選択肢考察
- ×a. 高気圧酸素療法
高気圧酸素療法は一酸化炭素中毒、減圧症、空気塞栓症などに用いられる治療である。脳梗塞にも保険上の適応があり一部施設で行われてきたが、急性期脳梗塞の転帰を改善するという十分な根拠はなく、脳卒中治療ガイドラインでも勧められていない。閉塞した主幹動脈を再開通させる効果はなく、本例のような主幹動脈閉塞に対して時間を費やすべき治療ではない。
- ×b. 脳内血腫除去術
脳内血腫除去術は、被殻出血や皮質下出血などの脳出血で、血腫量が多く意識障害の進行や脳ヘルニアの危険がある場合に考慮する手術である。左共同偏視と右片麻痺は大きな左被殻出血でも生じうるが、本例は拡散強調像で急性期梗塞巣を、MRAで左中大脳動脈閉塞を認め、脳梗塞と確定している。除去すべき血腫は存在しない。
- ○c. 機械的血栓回収療法
機械的血栓回収療法は、大腿動脈などからカテーテルを閉塞部まで進め、ステント型回収デバイスや吸引カテーテルで塞栓子を取り除く治療である。内頸動脈または中大脳動脈M1部の閉塞で、発症前の日常生活が自立し、NIHSS 6点以上、画像上の早期虚血変化が限られる(ASPECTS 6点以上)症例では、発症6時間以内の施行が強く推奨されている。発症6~24時間でも、症状に比べて梗塞巣が小さいなどの画像条件を満たせば有効性が示されている。本例は左M1閉塞、NIHSS 16点、発症約1時間で、拡散強調像の梗塞巣はまだ小さく、良い適応である。心房細動由来の塞栓子は大きく、太い血管に詰まると静注の血栓溶解薬では溶けにくいため、物理的に回収する本治療の効果が高い。さらに、静注血栓溶解療法が術後・消化管出血のため禁忌となる本例でも、単独で施行できる点が重要である。
- ×d. 頸動脈ステント留置術
頸動脈ステント留置術(CAS)は、頸部内頸動脈のアテローム硬化性高度狭窄に対し、脳梗塞の再発・発症予防を目的に行う治療である。通常は病状が安定してから待機的に行い、手術リスクが高い症例では頸動脈内膜剥離術(CEA)の代替となる。本例は心房細動由来の塞栓子による頭蓋内の中大脳動脈閉塞であり、頸動脈狭窄が原因ではないため適応がない。
- ×e. tissue plasminogen activator〈t-PA〉静注療法
アルテプラーゼ(t-PA)静注療法は発症4.5時間以内の虚血性脳血管障害に適応があり、時間的には本例も範囲内である。しかし血栓溶解薬は全身の出血を助長するため、静注血栓溶解療法の適正治療指針では「14日以内の大手術あるいは頭部以外の重篤な外傷」「21日以内の消化管あるいは尿路出血」が禁忌項目とされている。本例は5日前に開腹手術を受け、入院時に吐血しているので両方に該当し、術創や潰瘍部からの大出血を招くおそれがある。なお、血圧170/102mmHg(禁忌は収縮期185mmHg以上または拡張期110mmHg以上が降圧しても続く場合)や血小板16万(禁忌は10万未満)は禁忌には当たらない。
脳梗塞の臨床病型
・心原性脳塞栓症:心房細動などで心内に生じた血栓が流れて脳動脈を閉塞する。突然発症し、発症時に症状が完成していることが多い。主幹動脈が閉塞しやすく梗塞巣が大きい。自然再開通後に出血性梗塞を起こしやすく、3病型の中で最も予後が悪い。 ・アテローム血栓性脳梗塞:主幹動脈のアテローム硬化性狭窄を基盤とし、段階的・階段状に進行することがある。 ・ラクナ梗塞:穿通枝の閉塞による直径15mm未満の小梗塞。純粋運動性片麻痺、純粋感覚性脳卒中などのラクナ症候群を呈し、失語や共同偏視などの皮質症状は通常みられない。
急性期再開通療法の要点
・静注血栓溶解療法(アルテプラーゼ0.6mg/kg、10%を急速静注し残りを1時間で点滴):発症4.5時間以内。主な禁忌として頭蓋内出血の既往、3か月以内の脳梗塞や重篤な頭部外傷、21日以内の消化管・尿路出血、14日以内の大手術・重篤な外傷、適切な降圧でも収縮期185mmHg以上または拡張期110mmHg以上、血小板10万/μL未満、血糖50mg/dL未満または400mg/dL超、CT/MRIでの広範な早期虚血変化などがある。 ・機械的血栓回収療法:内頸動脈・中大脳動脈M1部などの主幹動脈閉塞が対象。静注血栓溶解療法の適応がある場合は併用(静注を先行し、すみやかに血栓回収へ)し、禁忌の場合は血栓回収単独で行う。 ・いずれも「time is brain」であり、発症から再開通までの時間が短いほど転帰が良い。
心房細動と脳塞栓予防
発作性・持続性を問わず塞栓リスクは同等と考え、CHADS2スコア(心不全、高血圧、75歳以上、糖尿病、脳卒中/TIA既往〈2点〉)などで評価して抗凝固療法(DOACまたはワルファリン)を行う。本例のように出血や手術で抗凝固薬を中止・未導入の期間は塞栓症が起こりやすい。
POINT
・心房細動+突然発症の失語・共同偏視・片麻痺=中大脳動脈領域の心原性脳塞栓症を考える。 ・主幹動脈(内頸動脈、M1)閉塞では機械的血栓回収療法が第一選択級の治療(発症6時間以内が標準、条件により24時間以内)。 ・静注血栓溶解療法は発症4.5時間以内だが、14日以内の大手術、21日以内の消化管出血などは禁忌。 ・静注血栓溶解療法が禁忌でも、血栓回収療法は単独で行える。 ・症状に比べ拡散強調像の梗塞巣が小さい=救済可能な領域が残っており、早期再開通の意義が大きい。
