「オウム返し」が教えてくれること―小児自閉症の三つ組を裏返しで見抜く
第99回医師国家試験 E問題 第9問
国試問題にチャレンジ
小児自閉症でみられるのはどれか。
- a.新しい環境を好む。
- b.オウム返しに話す。
- c.想像上の遊びをする。
- d.身振りで意思を伝える。
- e.同年代の子供に関心がある。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
小児自閉症(現在の自閉スペクトラム症)の中核症状は、対人的相互反応の障害、コミュニケーションの障害、限定された反復的な行動・興味の「三つ組」として整理されます。言語面では、相手の言葉をそのまま繰り返す反響言語(オウム返し)が特徴的で、代名詞の逆転や抑揚の乏しい話し方もみられます。一方、新しい環境を好む、ごっこ遊びをする、身振りで意思を伝える、同年代に関心を持つといった行動は定型発達の特徴であり、自閉症では同一性保持へのこだわり、想像遊びの乏しさ、指さしの欠如やクレーン現象、他者への関心の乏しさとして裏返しの形で現れます。共同注意の欠如は乳幼児健診での早期発見の手がかりとなり、聴覚障害などとの鑑別を経て、構造化や応用行動分析などの療育・環境調整につなげます。各症状を三つ組のどこに属するかで整理しておくことは、試験だけでなく健診や小児診療で発達の偏りに気づく力の基礎になります。
解答・解説
正解はbです
小児自閉症(現在の DSM-5 では自閉スペクトラム症 autism spectrum disorder: ASD に包含される)の中核症状を問う問題である。 自閉症の特徴は古典的に「三つ組」として整理される。 1. 対人的相互反応の質的障害(視線が合わない、他者への関心が乏しい、同年代の友人関係をつくれない) 2. コミュニケーションの質的障害(言葉の遅れ、反響言語=オウム返し、身振り・表情など非言語的手段の乏しさ、ごっこ遊びの欠如) 3. 限定された反復的・常同的な行動・興味(同一性保持へのこだわり、変化への抵抗、常同運動、狭く強い興味) DSM-5 では 1 と 2 がまとめられ「社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応の持続的な欠陥」と「限定された反復的な行動・興味・活動」の 2 領域になったが、個々の症状の内容は変わらない。 選択肢を読む際は、それぞれがどの領域の症状の「裏返し」になっているかを考えるとよい。定型発達の子どもでみられる行動(新しいものへの好奇心、ごっこ遊び、身振りでの意思伝達、同年代への関心)は自閉症では乏しくなる。一方、反響言語は自閉症に特徴的な言語の異常であり、これが本問の正解となる。
選択肢考察
- ×a. 新しい環境を好む。
誤り。自閉症では「同一性保持」への強いこだわりがあり、日課・道順・物の配置などが変わることを極端に嫌う。環境の変化に直面するとパニックやかんしゃくを起こすことも多い。新しい環境を好むのとは正反対である。これは限定された反復的な行動・興味の領域に属する症状である。
- ○b. オウム返しに話す。
正解。相手の言った言葉をそのまま繰り返す反響言語(エコラリア echolalia)は、自閉症に特徴的な言語の異常である。聞いた直後に繰り返す即時性反響言語と、以前に聞いたCMやフレーズを時間が経ってから繰り返す遅延性反響言語がある。ほかに、代名詞の逆転(「あなた」と「わたし」の取り違え)、抑揚の乏しい独特の話し方、常同的・反復的な言葉の使用などもみられる。なお反響言語は言語発達の一時期に定型発達児でも短期間みられるが、年齢に不相応に持続する点が問題となる。
- ×c. 想像上の遊びをする。
誤り。自閉症では象徴機能や想像力の障害があり、ままごとやヒーローごっこのような見立て遊び・ごっこ遊び、他者の動作をまねる社会的な模倣遊びが乏しい。代わりに、ミニカーを一列に並べる、車輪を回し続けるなど、物の一部分に注目した単調で反復的な遊び方をすることが多い。
- ×d. 身振りで意思を伝える。
誤り。自閉症では言語だけでなく、視線・表情・指さし・うなずきなどの非言語的コミュニケーションにも障害がある。欲しい物を指さして示す代わりに、大人の手をつかんで対象物に持っていく「クレーン現象」がみられるのが典型的である。興味のある物を指さして他者と共有しようとする共同注意(joint attention)の欠如は、乳幼児健診での早期発見の手がかりとなる。
- ×e. 同年代の子供に関心がある。
誤り。自閉症では対人的相互反応の障害により、他者への関心そのものが乏しい。とくに同年代の子どもと一緒に遊ぶ、会話を始めて続ける、友人関係を築くといったことが難しく、一人遊びを好む傾向がある。呼んでも振り向かない、視線が合わないといった所見もよくみられる。
自閉症の概念の変遷
Kanner(1943年)が早期幼児自閉症として報告し、その後 Asperger 症候群などを含めて広汎性発達障害(PDD)として分類された。DSM-5(2013年)ではこれらが自閉スペクトラム症(ASD)に統合され、ICD-11 でも同様の枠組みとなっている。
疫学・経過
有病率は1〜2%程度と報告され、男児に多い(おおよそ4:1)。症状は発達早期(多くは3歳まで)に現れる。知的能力障害を伴う例が少なくなく、てんかんの合併も一般人口より多い。感覚過敏・感覚鈍麻(音や触覚に対する極端な反応)もDSM-5で診断項目に加えられた。
診断と支援
1歳6か月児健診などで、指さしの欠如、視線が合わない、言葉の遅れなどから疑われる。スクリーニングには M-CHAT(乳幼児期自閉症チェックリスト修正版)が用いられる。根本的な薬物療法はなく、構造化(TEACCH)や応用行動分析(ABA)などの療育・環境調整が中心である。易刺激性(かんしゃく、自傷など)に対してはリスペリドンやアリピプラゾールが用いられることがある。
鑑別
聴覚障害(呼んでも反応しない点で類似)、知的能力障害単独、言語発達障害、反応性アタッチメント障害などとの鑑別が必要である。
POINT
・自閉症(ASD)の中核症状は「対人的相互反応の障害」「コミュニケーションの障害」「限定された反復的な行動・興味(こだわり)」。 ・言語の特徴:反響言語(オウム返し)、代名詞の逆転、抑揚の乏しい独特な話し方。 ・非言語的コミュニケーションの障害:指さし・身振りの乏しさ、クレーン現象、共同注意の欠如。 ・ごっこ遊び(想像上の遊び)が乏しく、同一性保持へのこだわりが強い(変化を嫌う)。
