骨を溶かす「白い袋」―真珠腫性中耳炎の症状は“壊した場所”で読み解く
第99回医師国家試験 E問題 第13問
国試問題にチャレンジ
真珠腫性中耳炎でみられないのはどれか。
- a.鼓膜穿孔
- b.耳漏
- c.めまい
- d.舌咽神経痛
- e.混合性難聴
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
真珠腫性中耳炎は、中耳に入り込んだ角化重層扁平上皮が角化物をため込みながら周囲の骨を破壊して進展する病変で、症状は「どこを壊したか」で整理すると理解しやすくなります。鼓膜弛緩部の陥凹・穿孔、悪臭を伴う難治性耳漏、耳小骨破壊による伝音難聴、迷路瘻孔によるめまいと内耳障害による混合性難聴、顔面神経管の破壊による顔面神経麻痺が代表的な所見です。一方、舌咽神経は頸静脈孔を通る神経で真珠腫の通常の進展範囲外にあり、舌咽神経痛は真珠腫の所見とはいえません。髄膜炎や脳膿瘍などの頭蓋内合併症を起こし得るため手術が原則で、再発・遺残に備えた長期の経過観察も欠かせません。側頭骨周囲の解剖と症状を結びつける考え方は、中耳疾患の合併症を理解する土台になります。
解答・解説
正解はdです
真珠腫性中耳炎の症状・所見と、その合併症の範囲を問う問題である。 真珠腫とは、中耳腔内に角化重層扁平上皮が入り込み、角化物(デブリ)を堆積しながら袋状に増大する病変である。腫瘍ではないが、周囲に炎症を伴い、蛋白分解酵素や破骨細胞の活性化によって周囲の骨を破壊しながら進展するのが最大の特徴である。 したがって症状は「真珠腫がどの構造を壊したか」で考えるとよい。 ・鼓膜:弛緩部(上鼓室側)の陥凹・穿孔 ・感染:悪臭を伴う難治性・反復性の耳漏 ・耳小骨:連鎖の破壊による伝音難聴 ・内耳(とくに外側半規管、蝸牛):迷路瘻孔によるめまい、感音難聴 → 伝音難聴と合わせて混合性難聴 ・顔面神経管:顔面神経麻痺 ・中頭蓋窩・後頭蓋窩の骨板、S状静脈洞:髄膜炎、脳膿瘍、硬膜外膿瘍、S状静脈洞血栓症などの頭蓋内合併症 中耳に隣接し、真珠腫の骨破壊によって障害されうる脳神経は主に顔面神経(第VII脳神経)と内耳神経(第VIII脳神経)の領域である。舌咽神経(第IX脳神経)は頸静脈孔を通って頭蓋外に出る神経であり、真珠腫の典型的な進展経路からは外れるため、舌咽神経痛は真珠腫性中耳炎でみられる所見とはいえない。
選択肢考察
- ×a. 鼓膜穿孔
みられる。後天性真珠腫の多くは鼓膜弛緩部(上方のシュラプネル膜)の陥凹から生じる弛緩部型であり、弛緩部の陥凹・穿孔と、その奥に白色の角化物(デブリ)が観察される。緊張部の穿孔縁から上皮が侵入する緊張部型もある。なお先天性真珠腫では鼓膜は正常で、鼓膜の奥に白色塊が透見されるのが特徴である。
- ×b. 耳漏
みられる。堆積した角化物に細菌(緑膿菌や嫌気性菌など)が感染し、悪臭を伴う耳漏を反復する。保存的治療に抵抗性の難治性耳漏は真珠腫を疑うきっかけとなる。
- ×c. めまい
みられる。真珠腫が骨迷路を侵食すると、とくに中耳に面した外側半規管に瘻孔(迷路瘻孔)が形成され、めまいが生じる。外耳道に陽圧・陰圧をかけると眼振が誘発される瘻孔症状(瘻孔検査陽性)が特徴的である。
- ○d. 舌咽神経痛
みられない(正解)。舌咽神経痛は、嚥下や会話などを誘因として咽頭・扁桃・舌根部から耳の奥にかけて発作性の激痛が生じる疾患で、多くは頭蓋内での血管による神経の圧迫が原因とされる。舌咽神経は延髄から出て頸静脈孔を通る神経で、中耳腔を主座とする真珠腫の通常の進展範囲には含まれない。真珠腫で合併しやすい神経障害は、骨の薄い顔面神経管が破壊されて起こる顔面神経麻痺である。
- ×e. 混合性難聴
みられる。耳小骨の破壊や鼓膜穿孔により伝音難聴が生じ、さらに内耳障害(迷路瘻孔、炎症の内耳波及)が加わると感音難聴も生じて混合性難聴となる。一方、真珠腫が耳小骨の間を埋めて音を伝えてしまう場合は聴力が比較的保たれることもあり、聴力像は正常から伝音・感音・混合性難聴まで進展度によって様々である。
真珠腫性中耳炎の分類
・先天性真珠腫:胎生期の上皮の遺残による。小児に多く、鼓膜は正常で、前上象限などの鼓膜の奥に白色塊が透見される。 ・後天性一次性真珠腫:耳管機能不全などによる中耳の陰圧で鼓膜が陥凹し、そこに角化物がたまって形成される。弛緩部型が最多で、ほかに緊張部型がある。 ・後天性二次性真珠腫:鼓膜穿孔の辺縁から外耳道の上皮が中耳腔内に侵入して生じる。
検査
耳鏡・内視鏡による鼓膜所見、純音聴力検査、瘻孔検査、側頭骨CT(骨破壊、耳小骨・半規管・顔面神経管の状態の評価)、MRI拡散強調像(真珠腫が高信号となり、術後の再発・遺残の評価に有用)を行う。
治療
骨破壊が進行性であるため、根本治療は手術(鼓室形成術、必要に応じて乳突削開術)である。再発・遺残が起こりやすく、段階的手術(二期的手術)や長期の経過観察が必要となる。
合併症の整理
頭蓋外合併症:迷路瘻孔、顔面神経麻痺、耳後部膿瘍、錐体尖炎など 頭蓋内合併症:髄膜炎、硬膜外膿瘍、脳膿瘍(側頭葉・小脳)、S状静脈洞血栓症など
参考:錐体尖炎
中耳炎の炎症が側頭骨錐体尖部に及ぶと、外転神経麻痺と三叉神経痛(第1枝領域の眼窩深部痛)を伴う Gradenigo 症候群を生じうる。耳の炎症と関連して痛みを生じるのはこの三叉神経であり、舌咽神経ではない。
POINT
・真珠腫性中耳炎は周囲の骨を破壊しながら進展する。 ・症状:弛緩部の陥凹・穿孔、悪臭を伴う耳漏、伝音〜混合性難聴、迷路瘻孔によるめまい(瘻孔症状)。 ・神経合併症は顔面神経麻痺が代表的。舌咽神経は障害されない。 ・頭蓋内合併症(髄膜炎・脳膿瘍・S状静脈洞血栓症)を起こしうるため手術が原則。
