弱毒の真菌が命を脅かす―日和見感染の肺炎といえばニューモシスチス
第99回医師国家試験 E問題 第75問
国試問題にチャレンジ
致死的な肺炎を起こす日和見感染の原因はどれか。
- a.ニューモシスチス・ジロベチ
- b.トキソプラズマ
- c.アデノウイルス
- d.レプトスピラ
- e.クラミジア
対話形式の解説
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ドクターまとめ
日和見感染とは、健常者にはほとんど病気を起こさない弱毒の微生物が、AIDSや移植後、ステロイド・免疫抑制薬使用中など免疫の低下した宿主に感染症を起こすことです。その中で致死的な肺炎の代表がニューモシスチス・ジロベチ(現在は真菌に分類、旧称カリニ)で、CD4陽性T細胞数200/μL未満などで乾性咳嗽と高度の低酸素血症、両側すりガラス陰影、β-Dグルカン上昇をきたし、治療はST合剤(重症HIV例ではステロイド併用)です。トキソプラズマは日和見感染の原因ですが典型は脳症であり、アデノウイルス、レプトスピラ、クラミジアは主に健常者に病気を起こす病原体です。免疫不全のタイプやCD4値と起こりやすい感染症を対応づけておくと、鑑別だけでなくST合剤による予防の判断にも役立ちます。
解答・解説
正解はaです
日和見感染とは、健常者には病気をほとんど起こさない弱毒の微生物が、免疫力の低下した宿主(AIDS、臓器移植・造血幹細胞移植後、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬・抗癌薬の使用中など)に感染症を起こすことをいう。本問では「日和見感染」であることと「致死的な肺炎」を起こすことの二つの条件を満たす病原体を選ぶ。 各選択肢を二つの条件で整理すると次のようになる。 ・ニューモシスチス・ジロベチ:健常者には病原性がほぼなく、細胞性免疫が低下した患者に重篤な肺炎を起こす。二つの条件を典型的に満たす。 ・トキソプラズマ:日和見感染の原因にはなるが、主な病変は脳(トキソプラズマ脳症)であり、肺炎は典型ではない。 ・アデノウイルス、レプトスピラ、クラミジア:いずれも主として健常者にも病気を起こす病原体であり、代表的な日和見感染の原因とはいえない。 したがって、致死的な肺炎を起こす日和見感染の代表的な原因はニューモシスチス・ジロベチである。
選択肢考察
- ○a. ニューモシスチス・ジロベチ
日和見感染として致死的な肺炎を起こす代表的な病原体である。Pneumocystis jirovecii は以前は原虫と考えられ「カリニ」の名で呼ばれていたが、現在は真菌に分類され、ヒトに感染するものはジロベチと呼ばれる(ニューモシスチス・カリニはラットに感染する別種)。多くの人が幼少期に不顕性感染しているが、CD4陽性T細胞数が200/μL未満に低下したAIDS患者や、ステロイド・免疫抑制薬の使用者で肺炎(ニューモシスチス肺炎、PCP)を発症する。肺胞腔内に菌体と泡沫状の滲出物がたまり、間質にも炎症が及ぶため、ガス交換(拡散)が障害され、乾性咳嗽、発熱、労作時呼吸困難とともに高度の低酸素血症をきたす。胸部X線・CTでは両側びまん性のすりガラス陰影を示し、血清β-Dグルカンや LDH の上昇が診断の手がかりとなる。わが国ではAIDS指標疾患の中で最も頻度が高い。非HIV患者のPCPは進行が速く、死亡率が高い。治療はST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)が第一選択で、重症の低酸素血症を伴うHIV患者では副腎皮質ステロイドを併用する。
- ×b. トキソプラズマ
日和見感染の原因にはなるが、主な病変は肺ではない。トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)はネコを終宿主とする原虫で、ネコの糞便中のオーシストや加熱不十分な肉の中のシストを経口摂取して感染する。健常者では不顕性またはリンパ節腫脹程度で終わることが多い。AIDS患者(特にCD4陽性T細胞数100/μL未満)では潜伏感染が再活性化し、脳に多発性の膿瘍様病変を作るトキソプラズマ脳症を起こすのが典型で、画像でリング状増強効果を示す。妊婦の初感染では胎児に先天性トキソプラズマ症(水頭症、脳内石灰化、網脈絡膜炎)を起こす。肺炎を起こすことはまれである。
- ×c. アデノウイルス
代表的な日和見感染の原因ではない。アデノウイルスは主に健常者、特に小児に、咽頭結膜熱(プール熱)、流行性角結膜炎、急性咽頭炎・扁桃炎、胃腸炎、出血性膀胱炎などを起こす。一部の型では健常者にも肺炎を起こすことがある。造血幹細胞移植後などの高度免疫不全者では重症化して肺炎や播種性感染を起こすことがあるが、本問の選択肢の中で「日和見感染による致死的肺炎」の代表として挙げられる病原体ではない。
- ×d. レプトスピラ
日和見感染の原因ではない。レプトスピラはスピロヘータの一種で、ネズミなどの保菌動物の尿で汚染された水や土壌に皮膚・粘膜が触れることで感染する人獣共通感染症(レプトスピラ症)である。重症型のワイル病では黄疸、出血傾向、腎障害(急性腎障害)を三主徴とし、肺出血を伴って致死的となることもある。しかし健常者に発症する感染症であり、免疫低下を背景とする日和見感染ではない。
- ×e. クラミジア
日和見感染の原因ではない。ヒトに病原性をもつ主なクラミジアは3種類(分類上は Chlamydia 属と Chlamydophila 属に分けられることもある)で、いずれも健常者に病気を起こす。Chlamydia trachomatis は性感染症(尿道炎、子宮頸管炎)やトラコーマの原因となり、産道感染により新生児肺炎を起こす。C. pneumoniae は健常者の市中肺炎(非定型肺炎)の原因となる。C. psittaci はトリ(オウム、インコなど)から感染してオウム病を起こし、重症肺炎となることがある。いずれも免疫低下を前提とした日和見感染ではない。
免疫不全の種類と代表的な日和見病原体
・細胞性免疫低下(AIDS、ステロイド・免疫抑制薬、臓器移植後):ニューモシスチス、サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、クリプトコックス、結核菌・非結核性抗酸菌、帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルスなど ・好中球減少(抗癌薬治療後、造血器腫瘍):緑膿菌などのグラム陰性桿菌、黄色ブドウ球菌、アスペルギルス、カンジダなど ・液性免疫低下・脾摘後:肺炎球菌、インフルエンザ菌などの莢膜をもつ細菌
AIDSにおけるCD4陽性T細胞数と日和見感染の目安
・200/μL未満:ニューモシスチス肺炎 ・100/μL未満:トキソプラズマ脳症、クリプトコックス髄膜炎 ・50/μL未満:サイトメガロウイルス網膜炎、播種性MAC(Mycobacterium avium complex)症
ニューモシスチス肺炎の予防
CD4陽性T細胞数200/μL未満のHIV感染者や、高用量・長期のステロイド投与を受ける患者などでは、ST合剤の予防内服が行われる。ST合剤が使えない場合はペンタミジン吸入やアトバコンなどを用いる。
POINT
・日和見感染+致死的肺炎=ニューモシスチス肺炎(PCP) ・ニューモシスチス・ジロベチは現在は真菌に分類(旧称カリニ) ・PCP:CD4<200/μL、乾性咳嗽・呼吸困難、高度の低酸素血症、両側すりガラス陰影、β-Dグルカン上昇、治療はST合剤(重症HIV例ではステロイド併用) ・トキソプラズマの日和見感染は脳症(リング状増強病変)が典型 ・アデノウイルス、レプトスピラ(ワイル病)、クラミジアは主に健常者に病気を起こす
