尿道から肝臓、そして新生児の眼へ―クラミジアの「通り道」で見抜く仲間外れ
第99回医師国家試験 E問題 第72問
国試問題にチャレンジ
クラミジア感染が原因とならないのはどれか。
- a.肝周囲炎
- b.虫垂炎
- c.卵管炎
- d.非淋菌性尿道炎
- e.新生児膿漏眼
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
クラミジア・トラコマティスは円柱上皮に感染する偏性細胞内寄生菌で、男性では非淋菌性尿道炎の最多原因となり、女性では無症状のまま子宮頸管から卵管炎(骨盤内炎症性疾患)、さらに肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)へと上行します。産道感染では新生児の封入体結膜炎や乳児肺炎を起こし、淋菌性の新生児膿漏眼とは用語上区別されることがある点にも注意が必要です。一方、急性虫垂炎は虫垂内腔の閉塞に腸内細菌や嫌気性菌が加わって起こる病態で、クラミジアは原因になりません。若い女性の右下腹部痛では骨盤内炎症性疾患と虫垂炎の鑑別が重要ですが、症状が似ていることと原因菌が同じことは別問題です。感染経路に沿って病変を整理する考え方は、不妊や異所性妊娠の予防、パートナー治療、妊婦健診での検査の意義まで理解する助けになります。
解答・解説
正解はbです
本問の「クラミジア」は、性感染症の原因となるクラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)を想定している。クラミジアは細胞の中でしか増殖できない偏性細胞内寄生性の細菌で、主に尿道・子宮頸管・結膜などの円柱上皮に感染する。細胞壁にペプチドグリカンをほとんど持たないためβ-ラクタム系抗菌薬が効きにくく、治療にはマクロライド系(アジスロマイシン)、テトラサイクリン系(ドキシサイクリン、ミノサイクリン)、ニューキノロン系を用いる。 C. trachomatisによる病変は、感染経路に沿って整理すると覚えやすい。 ・性行為による感染: 男性では非淋菌性尿道炎・精巣上体炎、女性では子宮頸管炎。女性では症状が乏しいまま子宮内膜→卵管→骨盤腹膜へ上行し、骨盤内炎症性疾患(PID)を起こす。さらに腹腔内を上行すると肝臓の表面の被膜に炎症が及び、肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)となる。卵管炎の後遺症として卵管閉塞による不妊や異所性妊娠の原因にもなる。 ・産道感染: 新生児の結膜炎(封入体結膜炎)や肺炎。 一方、急性虫垂炎は虫垂内腔の閉塞(糞石、リンパ濾胞の過形成など)により内圧が上がり、腸内細菌が増殖して起こる病態である。起炎菌は大腸菌やバクテロイデスなどの腸内細菌・嫌気性菌であり、性感染症のクラミジアは原因とならない。したがって「原因とならない」ものとして虫垂炎を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 肝周囲炎
肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)は、クラミジアや淋菌による骨盤内の炎症が腹腔内(右傍結腸溝など)を経て上行し、肝臓の被膜(Glisson鞘)や周囲の腹膜に炎症を起こす病態である。性的活動期の女性に急性の右上腹部痛として発症し、胆嚢炎などと紛らわしい。肝臓の酵素(AST・ALT)は正常か軽度上昇にとどまることが多く、造影CTの動脈相で肝被膜の濃染がみられる。慢性期には肝表面と腹壁の間に「バイオリンの弦」状の癒着がみられる。現在ではクラミジアが主な原因とされ、子宮頸管炎の症状が乏しいため、上腹部痛をきっかけにクラミジア感染が見つかることも多い。
- ○b. 虫垂炎
急性虫垂炎は、糞石やリンパ濾胞の過形成などで虫垂の内腔が閉塞し、内圧上昇と血流障害が起こったところに腸内細菌が増殖して生じる。検出される菌は大腸菌などのグラム陰性桿菌やバクテロイデス・フラジリスなどの嫌気性菌が中心で、C. trachomatisは原因とならない。なお、若い女性の右下腹部痛ではクラミジアによるPIDが虫垂炎の重要な鑑別となるが、これは症状が似ているということであり、クラミジアが虫垂炎を起こすわけではない。
- ×c. 卵管炎
卵管炎は、腟・子宮頸管から子宮内腔を経て病原体が上行し、卵管に感染して起こる。PIDの中心をなす病態で、主な起炎菌はクラミジアと淋菌であり、腸内細菌や嫌気性菌が混合感染することもある。クラミジアによる卵管炎は症状が軽く気づかれにくいが、慢性化すると卵管閉塞・卵管周囲癒着を起こし、卵管性不妊や異所性妊娠(子宮外妊娠)の原因となる。
- ×d. 非淋菌性尿道炎
非淋菌性尿道炎は淋菌以外の病原体による尿道炎の総称で、その原因として最も多いのがクラミジアである(ほかにマイコプラズマ・ジェニタリウムなど)。淋菌性尿道炎の潜伏期が2〜7日程度で急性に発症し、黄白色の膿性分泌物と強い排尿痛を呈するのに比べ、クラミジア性尿道炎は潜伏期が1〜3週と長く、症状は緩やかで、分泌物は漿液性で少量、排尿時の違和感程度にとどまるか無症状のこともある。淋菌とクラミジアの混合感染も少なくないため、両者を検査(核酸増幅法)することが推奨される。
- ×e. 新生児膿漏眼
新生児膿漏眼は、分娩時に母体の産道で病原体に感染して起こる新生児の化膿性結膜炎である。「膿漏眼」という語は本来、淋菌性結膜炎を指す用語であり、淋菌による新生児膿漏眼は生後2〜5日頃に強い膿性眼脂と著しい眼瞼腫脹で急激に発症し、角膜潰瘍・穿孔から失明に至りうる。かつて分娩直後の点眼予防(クレーデ法)が行われたのはこれを防ぐためである。 一方、クラミジアの産道感染による新生児結膜炎は、用語上は「封入体結膜炎(新生児封入体結膜炎)」として別に呼ばれるのが一般的である。生後5〜14日頃と淋菌性より遅れて発症し、膿性の眼脂を伴うこともあるため、広い意味で「新生児の膿性結膜炎」の原因に含めて扱われることがある。先進国ではむしろクラミジアの方が新生児結膜炎の原因として多い。また、クラミジアの産道感染は生後数週〜数か月の乳児肺炎の原因にもなる。 このように、「新生児膿漏眼」を狭義(淋菌性結膜炎)に解釈すればクラミジアは原因とならず、国試でもクラミジアと新生児膿漏眼の組み合わせを誤りとして扱った設問がある。クラミジアを原因に含めるかは用語の解釈と出題の文脈によって判断が分かれる点に注意が必要である。ただし本問では、クラミジアが明確に原因とならない選択肢として虫垂炎があるため、正解(b)には影響しない。
クラミジア属の主な菌種と疾患
・Chlamydia trachomatis: 血清型A〜Cでトラコーマ(慢性角結膜炎、発展途上国の失明原因)、D〜Kで性器クラミジア感染症(尿道炎、子宮頸管炎、PID、肝周囲炎、精巣上体炎)・封入体結膜炎・新生児肺炎、L1〜L3で鼠径リンパ肉芽腫(性病性リンパ肉芽腫)。 ・Chlamydia pneumoniae(現在はChlamydophila属とされることもある): 市中肺炎・気管支炎などの呼吸器感染症。 ・Chlamydia psittaci: オウム病(鳥類からの吸入感染による肺炎)。
性器クラミジア感染症の要点
・日本で最も多い性感染症であり、若年女性に多い。 ・女性の多くは無症状で、気づかれないまま上行感染し、不妊や異所性妊娠の原因となる。妊婦健診ではクラミジア検査が行われ、陽性なら治療して産道感染を防ぐ。 ・診断は核酸増幅法(PCRなど)が主流。 ・治療はアジスロマイシン単回投与、またはドキシサイクリン7日間投与など。パートナーの同時治療が必要である。
新生児結膜炎の原因と用語
・淋菌: 新生児膿漏眼(狭義)。生後2〜5日、激しい膿性眼脂・眼瞼腫脹、角膜穿孔の危険。 ・クラミジア: 新生児封入体結膜炎。生後5〜14日、眼脂は粘液膿性で比較的軽症、乳児肺炎を合併しうる。 ・トラコーマはC. trachomatis血清型A〜Cによる慢性角結膜炎で、新生児の産道感染による結膜炎とは区別される。
虫垂炎の起炎菌
腸内細菌叢由来の混合感染で、大腸菌などのグラム陰性桿菌とバクテロイデスなどの嫌気性菌が中心である。
POINT
・C. trachomatis(血清型D〜K)は非淋菌性尿道炎の最多原因で、女性では子宮頸管炎→卵管炎(PID)→肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)と上行する。 ・産道感染で新生児結膜炎(封入体結膜炎)・新生児肺炎を起こす。 ・「新生児膿漏眼」は狭義には淋菌性結膜炎を指す用語であり、クラミジア性は封入体結膜炎と区別して問われることがある(出題の文脈で判断する)。 ・虫垂炎は虫垂内腔閉塞+腸内細菌(大腸菌・嫌気性菌)によるもので、クラミジアは原因とならない。 ・若年女性の右下腹部痛ではクラミジアによるPIDと虫垂炎の鑑別が重要。
