StudyMed医師国家試験

行って、戻って―エコーが映す大動脈弁閉鎖不全症と「to and fro雑音」

第99回医師国家試験 E問題 第26問

国試問題にチャレンジ

第99回 E問題 第26問

心エコー図(A,B)を別に示す。 この疾患でみられるのはどれか。

第99回 E問題 第26問の問題画像
  1. a.連続性雑音
  2. b.心膜摩擦音
  3. c.opening snap
  4. d.to and fro雑音
  5. e.Ⅱ音の奇異性分裂

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は心エコー図から弁膜症を診断して、その病気で聴こえる聴診所見を選ぶ問題だ。カギは「拡張期に何が起きているか」。Mモードで僧帽弁前尖がどう動いているか、カラードプラで血液がどちら向きに流れているかに注目しよう。
医学生医学生
Mモードで僧帽弁前尖が拡張期に細かく震えていますね。僧帽弁そのものの病気でしょうか。
ドクタードクター
そう考えたくなるよね。でも、前尖を揺らしている犯人は別の場所にいる。カラードプラでは拡張期に大動脈から左室へ向かう逆流ジェットが見えているね。これが何を意味するかな。
医学生医学生
拡張期には大動脈弁は閉じているはずなので、逆流があるということは大動脈弁閉鎖不全症ですか。
ドクタードクター
その通り。大動脈弁がしっかり閉じないと、拡張期に大動脈から左室へ血液が逆流する。そのジェットが左室流出路を通って僧帽弁前尖に当たると、前尖が拡張期に細かく振動する。これが拡張期fluttering で、大動脈弁閉鎖不全症に特徴的なMモード所見なんだ。
医学生医学生
なるほど、僧帽弁は「被害者」だったんですね。CBTの勉強でflutteringという言葉は見たのですが、仕組みまでは理解していませんでした。
ドクタードクター
仕組みがわかると忘れにくいよ。では聴診所見を考えよう。逆流そのものではどんな雑音が出るかな。
医学生医学生
拡張期に逆流するので、拡張期雑音ですよね。高調で漸減性だと習いました。
ドクタードクター
正解。胸骨左縁第3肋間付近、いわゆるErb領域で最強で、座位前傾・呼気止めで聴き取りやすい。ただ、それだけでは終わらない。逆流した分の血液は次の収縮期にどうなると思う?
医学生医学生
左室には肺静脈からの血液に逆流分が上乗せされるから、1回拍出量が増えます。あ、それが大動脈弁を通るときに雑音になるんですか。
ドクタードクター
その通り。弁口の大きさは正常なのに大量の血液が通るから、相対的な大動脈弁狭窄の状態になって駆出性収縮期雑音が生じる。収縮期に駆出し、拡張期に逆流する――行って戻るように聴こえるこの組み合わせがto and fro雑音で、これが正解だ。
医学生医学生
連続性雑音と紛らわしい気がします。収縮期と拡張期の両方で聴こえるのは同じですよね。
ドクタードクター
いい疑問だね。連続性雑音はII音をまたいで途切れずに続く雑音で、動脈管開存症の機械様雑音が代表だ。心周期を通じて常に圧較差がある部位どうしがつながっているときに生じる。to and fro雑音は収縮期雑音と拡張期雑音の間がII音のところで途切れるから、区別できるんだ。
医学生医学生
opening snapは僧帽弁狭窄症ですよね。でも大動脈弁閉鎖不全症でも心尖部でランブルが聴こえることがあると聞いた気がします。
ドクタードクター
よく知っているね。それがAustin Flint雑音で、高度の逆流ジェットが僧帽弁前尖の開放を妨げて、機能的な僧帽弁狭窄を起こすことで生じる。ただし弁尖そのものは正常だから、opening snapやI音の亢進は伴わない。ここがひっかけポイントだ。
医学生医学生
心膜摩擦音は急性心膜炎、II音の奇異性分裂は左脚ブロックや大動脈弁狭窄症でしたっけ。
ドクタードクター
その整理で合っている。心膜摩擦音は炎症を起こした心膜同士がこすれるひっかくような音で、体位で変化しやすい。II音の奇異性分裂は左室の駆出時間が延びて大動脈弁成分が肺動脈弁成分より遅れ、呼気で分裂が広がる現象だ。どちらも大動脈弁閉鎖不全症に特徴的な所見ではないね。
医学生医学生
臨床実習で循環器内科を回ったとき、脈圧が大きい患者さんで指導医の先生に「首が揺れているのに気づいた?」と聞かれました。
ドクタードクター
de Musset徴候だね。大動脈弁閉鎖不全症では拡張期に血液が逆流するから拡張期血圧が下がり、脈圧が大きくなる。立ち上がりが急で急速に消える速脈(Corrigan脈)、爪床の毛細血管拍動であるQuincke徴候、大腿動脈を圧迫したときの往復性雑音であるDuroziez徴候なども、すべて大きな脈圧の表れだ。原因としては二尖弁や感染性心内膜炎などの弁自体の異常に加えて、Marfan症候群や大動脈解離、高安動脈炎のような大動脈基部の拡大も忘れないでほしい。
医学生医学生
身体所見から大動脈弁閉鎖不全症を疑ったら、大動脈そのものも評価する必要があるということですね。
ドクタードクター
その通り。慢性の容量負荷で左室は徐々に拡大していくから、エコーで左室径や逆流の程度を経時的に追うことも大切だ。所見の一つ一つを「拡張期の逆流」という病態から説明できるようにしておこう。

まとめ

大動脈弁閉鎖不全症では、拡張期に大動脈から左室へ血液が逆流し、心エコーではカラードプラの拡張期逆流ジェットと、ジェットが当たることによる僧帽弁前尖の拡張期fluttering(Mモード)がみられます。聴診では高調・漸減性の拡張期逆流性雑音に加え、1回拍出量増大による相対的大動脈弁狭窄で駆出性収縮期雑音が生じ、両者が往復するように聴こえるto and fro雑音が特徴です。高度例では心尖部にAustin Flint雑音を聴取しえますが、opening snapやI音亢進は伴わない点で僧帽弁狭窄症と区別します。連続性雑音は動脈管開存症、心膜摩擦音は急性心膜炎、II音の奇異性分裂は左脚ブロックや大動脈弁狭窄症と、雑音と疾患の対応を病態から理解しておくことが聴診とエコーを結びつける力になります。脈圧増大に伴う多彩な末梢徴候や、大動脈基部疾患という原因にも目を向けることが臨床では重要です。

解答・解説

正解はdです

画像所見の整理

心エコー図 A(M モード)では、拡張期に僧帽弁前尖が細かく振動する所見(拡張期 fluttering)を認める。心エコー図 B(カラードプラ法)では、拡張期に大動脈から左室内へ向かう逆流ジェットを認める。

診断へのプロセス

拡張期に大動脈弁が十分に閉じないと、大動脈から左室へ血液が逆流する。この逆流ジェットが左室流出路を通って僧帽弁前尖に当たると、前尖が拡張期に細かく震える。これが拡張期 fluttering であり、大動脈弁閉鎖不全症(aortic regurgitation: AR)に特徴的な M モード所見である。カラードプラで直接確認される拡張期の大動脈→左室逆流と合わせ、診断は AR である。

設問の考え方

AR の聴診所見を問う問題である。AR では拡張期に大動脈弁逆流による高調・漸減性の拡張期雑音(胸骨左縁第 3 肋間付近で最強)が生じる。さらに、逆流した分だけ左室の 1 回拍出量が増えるため、収縮期には大動脈弁口を通過する血流量が過剰となって駆出性収縮期雑音(相対的大動脈弁狭窄による雑音)も生じる。収縮期と拡張期に往復するように聞こえるこの雑音の組み合わせを to and fro 雑音と呼ぶ。他の選択肢はそれぞれ別の疾患に特徴的な所見であり、各疾患と聴診所見の対応を押さえておけば解答できる。

選択肢考察

  1. ×a.  連続性雑音

    連続性雑音は、収縮期から II 音をまたいで拡張期まで途切れずに続く雑音である。心周期を通じて常に圧較差のある部位の間に短絡がある場合に生じ、代表は動脈管開存症(PDA、胸骨左縁第 2 肋間付近で最強の機械様雑音)であり、Valsalva 洞動脈瘤破裂、冠動静脈瘻、動静脈瘻などでも聴取される。AR の to and fro 雑音は収縮期雑音と拡張期雑音が II 音の部分で途切れるため、連続性雑音とは区別される。本症例の所見ではないため誤りである。

  2. ×b.  心膜摩擦音

    心膜摩擦音は、炎症を起こした臓側・壁側心膜が心拍動に伴ってこすれ合うことで生じる、ひっかくような高調の音である。急性心膜炎に特徴的で、心房収縮期・心室収縮期・拡張早期の 3 成分からなることが多く、体位や時間によって変化しやすい。心嚢液が増えて心膜同士が離れると消失することがある。AR の所見ではないため誤りである。

  3. ×c.  opening snap

    opening snap(僧帽弁開放音)は、僧帽弁狭窄症(MS)で、硬くなった僧帽弁が拡張早期に開放される際に生じる高調の短い音で、II 音の後に聴取される。MS ではこれに続いて拡張期ランブル、I 音の亢進がみられる。なお、高度の AR では逆流ジェットが僧帽弁前尖の開放を妨げるため、機能的な僧帽弁狭窄による拡張中期〜後期のランブル(Austin Flint 雑音)を聴取することがある。しかしこの場合、僧帽弁そのものの弁尖は正常であるため、opening snap や I 音の亢進は伴わない。したがって誤りである。

  4. ○d.  to and fro雑音

    AR では拡張期に大動脈から左室へ血液が逆流し、高調で漸減性の拡張期逆流性雑音が生じる。左室には通常の肺静脈からの流入に加えて逆流血が貯まるため、1 回拍出量が増大する。この大量の血液が収縮期に正常径の大動脈弁口を通過するため、弁に器質的な狭窄がなくても相対的な大動脈弁狭窄の状態となり、駆出性収縮期雑音が生じる。収縮期(駆出、to)と拡張期(逆流、fro)に血流が行き来するように聞こえる雑音が to and fro 雑音であり、AR に特徴的な聴診所見である。したがって正しい。

  5. ×e.  Ⅱ音の奇異性分裂

    II 音は大動脈弁成分(IIA)と肺動脈弁成分(IIP)からなり、通常は IIA が先に生じ、吸気時に IIP が遅れて分裂が広がる。II 音の奇異性分裂(逆分裂)は、左室の駆出時間が延長して IIA が IIP より遅れる状態で、呼気時に分裂が広がり、吸気時に狭くなる(または消失する)。左脚ブロック、高度の大動脈弁狭窄症(AS)、重症高血圧、右室ペーシングなどでみられる。AR で特徴的な所見ではないため誤りである。

大動脈弁閉鎖不全症(AR)の概要

原因: 大動脈弁側の異常(リウマチ性、二尖弁、感染性心内膜炎、加齢変性など)と、大動脈基部の拡大(大動脈弁輪拡張症、Marfan 症候群、大動脈解離、大動脈炎症候群〈高安動脈炎〉、梅毒性大動脈炎など)に大別される。 病態: 左室に慢性の容量負荷がかかり、左室が拡大(遠心性肥大)する。拡張期に大動脈から血液が逆流するため拡張期血圧が低下し、脈圧が増大する。

AR の身体所見

・脈圧の増大(収縮期血圧上昇・拡張期血圧低下) ・速脈(Corrigan 脈、水槌脈): 立ち上がりが急峻で急速に消退する脈 ・de Musset 徴候(心拍に一致した頭部の揺れ)、Quincke 徴候(爪床の毛細血管拍動)、Duroziez 徴候(大腿動脈を圧迫した際の往復性雑音)、Hill 徴候(下肢の収縮期血圧が上肢より著明に高い) ・心尖拍動の左下方への偏位

AR の聴診所見

・拡張期逆流性雑音: 高調・漸減性、胸骨左縁第 3〜4 肋間(Erb 領域)で最強。座位前傾・呼気止めで聴取しやすい。 ・駆出性収縮期雑音: 1 回拍出量増大による相対的な大動脈弁狭窄。上記と合わせて to and fro 雑音となる。 ・Austin Flint 雑音: 逆流ジェットによる僧帽弁前尖の開放制限(機能的 MS)で生じる心尖部の拡張期ランブル。

AR の心エコー所見

・M モード: 拡張期の僧帽弁前尖の fluttering(逆流ジェットによる振動) ・カラードプラ: 拡張期に大動脈弁から左室へ向かう逆流ジェット ・左室の拡大

主な心雑音・心音と疾患の対応

連続性雑音: PDA、Valsalva 洞動脈瘤破裂、冠動静脈瘻 心膜摩擦音: 急性心膜炎 opening snap: 僧帽弁狭窄症 II 音の奇異性分裂: 左脚ブロック、大動脈弁狭窄症 II 音の固定性分裂: 心房中隔欠損症 to and fro 雑音: 大動脈弁閉鎖不全症(大動脈弁狭窄兼閉鎖不全でも同様の組み合わせとなる)

POINT

・AR の心エコー: 拡張期の僧帽弁前尖 fluttering(M モード)、拡張期の大動脈→左室逆流ジェット(カラードプラ)。 ・AR の聴診: 胸骨左縁第 3 肋間付近の高調・漸減性拡張期雑音+1 回拍出量増大による駆出性収縮期雑音 = to and fro 雑音。 ・高度 AR では Austin Flint 雑音(機能的 MS)を聴取しうるが、opening snap や I 音亢進は伴わない。 ・連続性雑音は PDA、心膜摩擦音は急性心膜炎、opening snap は MS、II 音奇異性分裂は左脚ブロック・AS。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。