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心膜腔に「何が」貯まるのか―心タンポナーデの原因を機序で見抜く

第99回医師国家試験 E問題 第28問

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第99回 E問題 第28問

心タンポナーデの原因とならないのはどれか。

  1. a.心臓外傷
  2. b.大動脈解離
  3. c.不安定狭心症
  4. d.心筋梗塞
  5. e.心膜炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は心タンポナーデの原因にならないものを選ぶ問題だ。暗記で解くこともできるけれど、「心膜腔に液体が貯まる機序があるかどうか」という一本の軸で考えると、迷わずに解けるよ。まず、心タンポナーデとはどんな状態か説明できるかな。
医学生医学生
心膜腔に液体が貯まって心臓が圧迫され、血圧が下がる状態です。
ドクタードクター
いいね。もう少し踏み込むと、心膜腔内圧が上がって、特に壁の薄い右心系が拡張できなくなる。心室に血液が流れ込めないから1回拍出量が落ち、ショックに至るんだ。ここで大事なのは、貯まる「量」より「速さ」だということ。
医学生医学生
ゆっくり貯まる場合は、大量でも意外と耐えられるということですか。
ドクタードクター
その通り。心膜は伸びにくい膜だけど、慢性に貯まれば徐々に伸びて1L近くまで耐えることもある。一方で出血のように急速に貯まると、100〜200mL程度でもタンポナーデになりうる。では原因を考えよう。液体が貯まる機序は大きく分けて何があると思う?
医学生医学生
出血と、炎症による滲出液でしょうか。
ドクタードクター
まさにその2本柱だ。まず出血系から見ていこう。心臓外傷はどうかな。
医学生医学生
救急科の実習でFASTを見学したとき、最初に心嚢液をチェックしていました。刺創などで心臓から出血すれば、すぐに心膜腔に血が貯まりますよね。
ドクタードクター
そう。外傷による出血は短時間で貯留するから、少量でも急激に心膜腔内圧が上がる。タンポナーデがあれば心嚢穿刺や開胸による減圧と止血が必要だ。次は大動脈解離。
医学生医学生
大動脈は心臓の外なので、心膜腔とは関係ないように思えるのですが……。
ドクタードクター
そこが盲点。上行大動脈の基部は心膜腔の中にあるんだ。だから上行大動脈に解離が及ぶStanford A型では、偽腔の血液が心膜腔へ漏れたり破裂したりしてタンポナーデを起こす。これがA型解離の主要な死因の一つで、原則として緊急手術になる理由の一つでもある。
医学生医学生
解剖実習で心膜を開いたとき、大血管の根元まで心膜に包まれていたのを思い出しました。では心筋梗塞は心破裂ですね。
ドクタードクター
その通り。壊死して脆くなった心筋が破れる左室自由壁破裂は、発症から1週間以内、特に数日以内に多い機械的合併症だ。血液が一気に心膜腔へ流れ込むので、無脈性電気活動を呈して急死することも多い。梗塞後の心膜炎やDressler症候群で心嚢液が貯まることもあるね。
医学生医学生
炎症系は心膜炎ですね。ウイルス性のほかに結核性やがん性もあると習いました。
ドクタードクター
そう。心膜の炎症で血管透過性が上がって滲出液が貯まる。結核性やがん性、尿毒症性ではタンポナーデに至りやすい。では残った不安定狭心症はどうだろう。
医学生医学生
急性冠症候群なので心筋梗塞と同じグループですよね。心筋梗塞で起こるなら、不安定狭心症でも起こりそうな気がして迷いました。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だ。不安定狭心症と非ST上昇型心筋梗塞を分けるのは心筋壊死の有無、つまり心筋トロポニンが上がるかどうかだった。不安定狭心症は一過性で可逆的な虚血で、心筋は壊死していない。心筋が破れることも、心膜に炎症が及ぶこともないから、液体が貯まる機序がないんだ。だから不安定狭心症が正解になる。
医学生医学生
心破裂は「壊死した心筋」が前提だから、壊死のない不安定狭心症では起こらないということですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床で押さえておきたい点をまとめよう。所見としては血圧低下・頸静脈怒張・心音減弱のBeckの三徴、吸気時に収縮期血圧が10mmHgを超えて下がる奇脈、心電図の低電位と電気的交互脈が重要だ。診断には心エコーで心膜腔のエコーフリースペースと拡張期の右房・右室の虚脱を確認する。
医学生医学生
治療は心嚢穿刺ですよね。ショックだから利尿薬で…というのは逆効果でしょうか。
ドクタードクター
鋭いね。タンポナーデでは前負荷を保つことが命綱だから、利尿薬や血管拡張薬は病態を悪化させる。輸液で前負荷を維持しつつ心嚢穿刺で排液するのが基本で、心破裂や解離、外傷のように出血が続く場合は外科的修復が必要になる。なお、吸気時の頸静脈怒張の増強であるKussmaul徴候は収縮性心膜炎で典型的な所見だから、混同しないようにね。

まとめ

心タンポナーデは心膜腔に液体が貯留して心膜腔内圧が上昇し、心室の拡張が妨げられて心拍出量が低下する病態で、貯留量よりも貯留速度が重要です。原因は、心臓外傷・心筋梗塞後の心破裂・Stanford A型大動脈解離などによる心膜腔への出血と、ウイルス性・結核性・がん性・尿毒症性心膜炎などによる滲出液の貯留に大別できます。不安定狭心症は心筋壊死を伴わない可逆的な虚血であり、心破裂や心膜の炎症を起こさないため、心タンポナーデの原因とはなりません。臨床ではBeckの三徴、奇脈、電気的交互脈、心エコーでの右心系の拡張期虚脱が診断の手がかりで、治療は輸液で前負荷を保ちつつ心嚢穿刺を行い、利尿薬や血管拡張薬は避けます。「心膜腔に液体が貯まる機序があるか」という視点で考えることは、急性冠症候群の病型理解や救急での鑑別にも直結します。

解答・解説

正解はcです

心タンポナーデとは、心膜腔(臓側心膜と壁側心膜の間の空間)に液体(心嚢液、血液、膿など)が貯留して心膜腔内圧が上昇し、心臓、特に壁の薄い右心系の拡張が妨げられる状態である。心室へ血液が十分に流入できなくなるため、1 回拍出量が低下し、血圧低下からショックに至る。 心膜は伸展性に乏しいため、貯留する液体の「量」だけでなく「貯まる速さ」が重要である。慢性に貯留する場合は心膜が徐々に伸びて 1 L 近くまで耐えうることがあるが、出血などで急速に貯留すると、100〜200 mL 程度でもタンポナーデを起こしうる。

本問の考え方

心タンポナーデの原因となるには、何らかの機序で心膜腔に液体が貯まる必要がある。主な機序は次の 2 つに整理できる。 ・心膜腔への出血: 心臓外傷、心筋梗塞後の心破裂(自由壁破裂)、上行大動脈に及ぶ大動脈解離(Stanford A 型)、心臓カテーテル手技や心臓手術の合併症、抗凝固療法中の出血など ・心膜の炎症・病変による滲出液の貯留: 急性心膜炎(ウイルス性、特発性)、結核性心膜炎、悪性腫瘍の心膜転移(がん性心膜炎)、尿毒症性心膜炎、膠原病、甲状腺機能低下症など 不安定狭心症は、冠動脈のプラーク破綻と血栓形成によって心筋虚血が生じる急性冠症候群(ACS)の一病型であるが、心筋壊死には至っていない段階であり、心筋が破れたり心膜に炎症が及んだりすることはない。したがって心膜腔に液体が貯まる機序がなく、心タンポナーデの原因とはならない。

選択肢考察

  1. ×a.  心臓外傷

    刃物などによる穿通性外傷や、交通外傷などの鈍的外傷で心筋や冠動脈が損傷されると、心膜腔内に血液が急速に貯留する(血性心膜液、hemopericardium)。短時間で貯留するため少量の出血でも心膜腔内圧が急上昇し、急性の心タンポナーデをきたしやすい。外傷初期診療では FAST(focused assessment with sonography for trauma)で心嚢液の有無を確認し、タンポナーデがあれば心嚢穿刺や開胸による減圧・止血を行う。心タンポナーデの原因となるため、本問の正解(原因とならないもの)ではない。

  2. ×b.  大動脈解離

    大動脈解離のうち、上行大動脈に解離が及ぶ Stanford A 型では、大動脈基部は心膜腔内にあるため、偽腔の血液が心膜腔へ漏れ出したり破裂したりすると心タンポナーデを生じる。これは Stanford A 型解離の主要な死因の一つであり、A 型が原則として緊急手術の適応とされる理由の一つでもある。A 型解離ではそのほか、大動脈弁閉鎖不全や冠動脈閉塞(心筋梗塞)も合併しうる。心タンポナーデの原因となるため、本問の正解ではない。

  3. ○c.  不安定狭心症

    不安定狭心症は、新規発症や増悪型、安静時に生じる狭心症など、心筋梗塞へ移行する危険の高い狭心症であり、急性冠症候群に含まれる。病態の本質は冠動脈の狭窄・血栓による一過性の心筋虚血であり、心筋壊死は生じていない(心筋トロポニンなどの心筋逸脱マーカーの上昇を伴わない点で非 ST 上昇型心筋梗塞と区別される)。虚血は血流が回復すれば可逆的であり、心筋が破裂することも心膜に炎症が及ぶこともないため、心膜腔に液体が貯留する機序がない。したがって心タンポナーデの原因とはならず、これが正解である。

  4. ×d.  心筋梗塞

    急性心筋梗塞では、壊死して脆弱になった心筋が破綻する心破裂(左室自由壁破裂)が機械的合併症の一つとして起こりうる。発症から 1 週間以内、特に数日以内に多く、高齢者、女性、初回梗塞、高血圧を伴う例などで起こりやすいとされる。自由壁破裂では心膜腔に血液が一気に流れ込むため、急激に重篤な心タンポナーデとなり、無脈性電気活動(PEA)を呈して急死することが多い。また、梗塞後の心膜炎や Dressler 症候群(心筋梗塞後症候群)で心嚢液が貯留することもある。心タンポナーデの原因となるため、本問の正解ではない。

  5. ×e.  心膜炎

    心膜炎では心膜の炎症によって血管透過性が亢進し、心膜腔に滲出液が貯留する。貯留量が多い場合や短期間で増加した場合には心タンポナーデをきたす。ウイルス性・特発性の急性心膜炎のほか、結核性心膜炎、がん性心膜炎(肺癌・乳癌などの心膜転移)、尿毒症性心膜炎などが原因となり、特に結核性・がん性ではタンポナーデに至りやすい。心タンポナーデの原因となるため、本問の正解ではない。

心タンポナーデの臨床所見

・Beck の三徴: 血圧低下、頸静脈怒張(静脈圧上昇)、心音減弱 ・奇脈: 吸気時に収縮期血圧が 10 mmHg を超えて低下する。吸気で右室への静脈還流が増えると、拡張できない心膜腔内で心室中隔が左室側へ押され、左室の充満が減るために生じる。 ・頻脈、呼吸困難、ショック ・Kussmaul 徴候(吸気時の頸静脈怒張の増強)は収縮性心膜炎で典型的であり、心タンポナーデでは通常目立たない。

検査所見

・心エコー: 心膜腔のエコーフリースペース、拡張期の右房・右室の虚脱(collapse)、下大静脈の拡張と呼吸性変動の消失。診断に最も有用である。 ・心電図: 低電位、電気的交互脈(QRS の振幅が 1 拍ごとに変化する。心臓が心嚢液中で振り子様に揺れるため) ・胸部エックス線写真: 慢性に大量貯留した場合は心陰影の拡大(水瓶型)。急性の少量貯留では拡大が目立たないことがある。

治療

・心嚢穿刺(心膜穿刺)による排液が第一の治療であり、速やかに血行動態が改善する。 ・心破裂や大動脈解離、外傷など持続する出血が原因の場合は、外科的修復が必要となる。 ・前負荷を保つための輸液を行う。利尿薬や血管拡張薬は前負荷をさらに下げて病態を悪化させるため避ける。

急性冠症候群(ACS)の整理

ACS は不安定狭心症、非 ST 上昇型心筋梗塞(NSTEMI)、ST 上昇型心筋梗塞(STEMI)を含む。不安定狭心症と NSTEMI の違いは心筋壊死の有無(心筋トロポニンの上昇の有無)である。心破裂は心筋壊死を前提とする合併症であり、心筋梗塞では起こりうるが不安定狭心症では起こらない。

POINT

・心タンポナーデ = 心膜腔への液体貯留による心室拡張障害。量より貯留速度が重要で、急速な出血では少量でも起こる。 ・原因: 心膜腔への出血(心臓外傷、心筋梗塞後の心破裂、Stanford A 型大動脈解離、カテーテル手技合併症)と、心膜炎による滲出液(ウイルス性、結核性、がん性、尿毒症性)。 ・不安定狭心症は可逆的な心筋虚血で心筋壊死を伴わず、心タンポナーデの原因とならない。 ・Beck の三徴(血圧低下・頸静脈怒張・心音減弱)、奇脈、電気的交互脈。治療は心嚢穿刺。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。