StudyMed医師国家試験

しこりを見つけたら次の一手は?―乳癌診断の「順番」を超音波から組み立てる

第118回医師国家試験 A問題 第53問

国試問題にチャレンジ

第118回 A問題 第53問

48歳の女性。乳がん検診のマンモグラフィで腫瘤を指摘され,精査目的に来院した。右乳房の上外側区域に径25mmの腫瘤を触知する。  次に行う検査はどれか。

  1. a.頭部MRI
  2. b.乳房MRI
  3. c.胸部造影CT
  4. d.乳房超音波検査
  5. e.骨シンチグラフィ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、検診のマンモグラフィで腫瘤を指摘された人に、次に何の検査をするかという問題だ。選択肢はどれも乳癌診療で使われる検査だけど、大事なのは「今どの段階にいるか」と「検査の順番」だよ。
医学生医学生
しこりがあって検診でも引っかかっているなら、もう乳癌と考えて全身の転移を調べたくなります。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。現時点でわかっているのは「乳腺に腫瘤がある」ことだけで、良性か悪性かはまだ決まっていない。線維腺腫や嚢胞、葉状腫瘍の可能性も残っている。上外側は乳癌の好発部位だから乳癌を十分に疑う状況ではあるけれど、診断はついていないんだ。
医学生医学生
上外側、つまりC領域が一番多いんですよね。乳腺組織が多いからだと講義で習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。では、要精査になった乳腺病変の診断の流れを整理しよう。まず視触診、次にマンモグラフィと超音波による画像評価、そして針生検で病理診断、乳癌と確定してから広がり診断と転移検索、という順番だ。
医学生医学生
そうすると、触診で腫瘤を確認した今の段階では、画像評価をもう一段階進めるということですね。乳房超音波検査でしょうか。
ドクタードクター
正解。超音波では腫瘤の形状、境界が不整かどうか、境界部高エコー像の有無、内部エコー、後方エコー、縦横比などから良悪性を推定できる。嚢胞か充実性かの区別も簡単だし、腋窩リンパ節の評価もできる。
医学生医学生
臨床実習で乳腺外科を回ったとき、外来でそのまま超音波を当てて、続けて針生検をしていました。
ドクタードクター
そう、それも超音波の大きな利点なんだ。超音波ガイド下のコア針生検や吸引式組織生検の標的をそのまま定められる。被曝がなく簡便で、乳腺の濃い閉経前の女性でも病変を描出しやすい。マンモグラフィは微細石灰化の検出が得意だけど、高濃度乳房では病変が隠れやすいから、両者は補い合う関係だね。
医学生医学生
乳房MRIも精度が高いと聞きますが、最初に行わないのはなぜですか。
ドクタードクター
造影乳房MRIは乳管内進展や多発病変、対側乳房の病変といった「広がり」の評価に優れている。だから主に乳癌の診断が確定した後、乳房温存手術ができるか、どこまで切除するかを決めるために使う。高リスク女性のスクリーニングにも使われるけれど、要精査の腫瘤に対してまず行う検査ではないんだ。
医学生医学生
胸部造影CTや骨シンチグラフィ、頭部MRIは、肺や骨、脳への転移を調べる検査なので、乳癌と診断がついてからということですね。
ドクタードクター
その通り。どれも病期診断のための遠隔転移検索だ。乳癌は骨転移を起こしやすいけれど、骨シンチも診断確定後に病期や骨痛、ALP上昇などに応じて行う。頭部MRIも神経症状がある場合や進行例で考える検査だよ。
医学生医学生
全部の検査を一度にやればいい、という発想ではだめなんですね。
ドクタードクター
不要な検査は被曝や費用、偽陽性による不安につながる。実際、症状のない早期乳癌では全身の転移検索をルーチンで行うことは推奨されていない。必要な検査を必要な順に行うのが基本だ。
医学生医学生
治療は病理診断がついてから始めるんですよね。
ドクタードクター
そう、治療は必ず病理診断を得てから。針生検では組織型に加えて、ER・PgRのホルモン受容体、HER2、Ki-67も評価する。これがサブタイプ分類になって、内分泌療法や抗HER2療法など治療方針を左右するんだ。
医学生医学生
超音波で良悪性を推定して、針生検で確定して、それから広がりと転移を調べる、という流れで覚えます。CBTでも順番を問う問題が多かった気がします。
ドクタードクター
いいまとめだ。最後に超音波で悪性を示唆する所見も押さえておこう。形状不整、境界不明瞭・粗ぞう、後方エコーの減弱、縦長の腫瘤、乳腺前方境界線の断裂だ。逆に、無エコーで後方エコーが増強していれば嚢胞を考える。

まとめ

乳がん検診のマンモグラフィで腫瘤を指摘され要精査となった場合、次に行うのは乳房超音波検査です。超音波では腫瘤の形状・境界・内部エコー・後方エコー・縦横比から良悪性を推定でき、嚢胞と充実性腫瘤の鑑別や腋窩リンパ節の評価、さらに超音波ガイド下針生検の標的設定にも直結します。乳癌の診断は視触診→マンモグラフィ・超音波→針生検による病理診断の順で進め、乳房MRIによる広がり診断や、CT・骨シンチグラフィ・頭部MRIによる遠隔転移検索は診断確定後に必要に応じて行います。早期乳癌でのルーチンの全身検索は推奨されておらず、治療は必ず病理診断を得てから開始します。「今どの段階にいるか」を意識して検査の順番を組み立てる考え方は、乳癌に限らず腫瘍診療全般で役立ちます。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・48歳の女性。乳がん検診のマンモグラフィ(乳房エックス線撮影)で腫瘤を指摘され、精密検査(精査)のために受診した。 ・右乳房の上外側区域(C領域:乳癌が最も多く発生する部位)に径25mmの腫瘤を触知する。

考え方

この時点では「乳腺に腫瘤がある」ことがわかっただけで、良性(線維腺腫、嚢胞、葉状腫瘍など)か悪性(乳癌)かはまだ決まっていない。乳癌の可能性を十分に考えるべき状況ではあるが、診断はまだついていない。 乳がん検診で要精査となった病変の診断は、次の順に進めるのが基本である。 1)視診・触診(問診を含む) 2)画像検査による病変の評価:マンモグラフィ(追加撮影を含む)と乳房超音波検査 3)病理診断:超音波ガイド下の針生検(コア針生検、吸引式組織生検)や穿刺吸引細胞診で良悪性を確定する 4)乳癌と確定した後に、広がり診断(乳房MRIによる乳房内の進展範囲評価)と、病期に応じた遠隔転移検索(CT、骨シンチグラフィなど) したがって、マンモグラフィで腫瘤を指摘され触診でも腫瘤を確認した本例で次に行うのは、腫瘤の形状・境界・内部エコー・後方エコー・縦横比などを評価して良悪性を推定し、さらに生検の標的を定める乳房超音波検査である。 問題は「次に」行う検査を問うている。各選択肢はいずれも乳癌診療で用いられうる検査だが、診断の流れの中での順番を考えることが正解の鍵となる。

選択肢考察

  1. ×a.  頭部MRI

    頭部MRIは乳癌の脳転移を検索する検査である。頭痛・神経症状などで脳転移が疑われる場合や、進行・再発乳癌で必要に応じて行うもので、乳癌の診断すらついていない段階で行う検査ではない。

  2. ×b.  乳房MRI

    造影乳房MRIは病変の広がり(乳管内進展、多発病変、対側乳房病変)の評価に優れ、主に乳癌の診断確定後、乳房温存手術の適応や切除範囲を決めるために行う。高リスク女性のスクリーニングなどにも用いられるが、要精査の腫瘤に対してまず行う検査ではない。超音波検査で病変を評価し、病理診断がついた後に行うのが一般的な順序である。

  3. ×c.  胸部造影CT

    胸部造影CTは肺転移、胸膜・縦隔などのリンパ節転移、胸壁への進展などを評価する検査であり、乳癌と診断された後の病期診断(遠隔転移検索)で用いる。良悪性も確定していない現段階で次に行う検査ではない。

  4. ○d.  乳房超音波検査

    乳房超音波検査は、マンモグラフィで指摘された病変や触知される腫瘤に対し、精査として最初に行う画像検査である。腫瘤の形状、境界の性状(不整・粗ぞう、境界部高エコー像〈halo〉の有無)、内部エコー、後方エコー、縦横比などから良悪性を推定でき、嚢胞と充実性腫瘤の区別も容易である。さらに腋窩リンパ節の評価や、超音波ガイド下の針生検にもそのまま用いることができる。被曝がなく簡便で、乳腺の濃い(高濃度乳房の)閉経前女性でも病変を描出しやすい。本例の次に行う検査として最も適切である。

  5. ×e.  骨シンチグラフィ

    乳癌は骨転移を起こしやすく、骨シンチグラフィは骨転移の検索に用いられる。しかしこれも乳癌の診断確定後、病期や症状(骨痛、ALP上昇など)に応じて行う検査であり、診断がついていない段階で次に行うものではない。

乳癌の診断の流れ

1)検診・自覚症状(しこり、乳頭分泌、皮膚のくぼみなど) 2)視診・触診:腫瘤の大きさ、硬さ、可動性、皮膚の陥凹(えくぼ徴候)、乳頭の変化、腋窩・鎖骨上リンパ節の腫大を確認する。 3)画像検査 ・マンモグラフィ:腫瘤、構築の乱れ、微細石灰化(特に区域性・線状に分布する多形性の石灰化)の検出に優れる。乳腺組織が濃い若年者や閉経前女性(高濃度乳房)では病変が隠れやすい。 ・乳房超音波検査:腫瘤性病変の性状評価に優れる。悪性を示唆する所見として、形状不整、境界不明瞭・粗ぞう、境界部高エコー像、後方エコーの減弱、縦横比が大きい(縦長の腫瘤)、乳腺前方境界線の断裂などがある。 4)病理診断:超音波ガイド下のコア針生検(CNB)や吸引式組織生検(VAB)で組織型、ホルモン受容体(ER・PgR)、HER2、Ki-67などを評価する。穿刺吸引細胞診(FNA)が用いられることもある。治療は必ず病理診断を得てから開始する。 5)広がり診断・病期診断 ・乳房MRI:乳房内の進展範囲、多発病変の有無を評価し、術式決定に役立てる。 ・CT(胸腹部)、骨シンチグラフィ、PET-CT、頭部MRI:遠隔転移の検索。症状のない早期乳癌(病期I〜II程度)では全身検索のルーチン実施は推奨されておらず、進行例や症状・検査異常がある場合に行う。

乳癌の好発部位

乳房を内上(A)、内下(B)、外上(C)、外下(D)、乳輪下(E)に分けると、外上(C領域)が最も多い。乳腺組織の量が多い領域であるためと考えられている。

乳腺腫瘤の主な鑑別

・線維腺腫:若年女性に多い、境界明瞭で可動性のよい弾性硬の腫瘤。 ・嚢胞:超音波で無エコー、後方エコー増強。 ・葉状腫瘍:急速に増大する大きな腫瘤。 ・乳腺症:境界不明瞭な硬結で、月経周期により症状が変動する。 ・乳癌:硬く、境界不明瞭で可動性に乏しいことが多い。

POINT

・検診マンモグラフィで要精査となった乳腺腫瘤には、まず乳房超音波検査を行う。 ・診断の順番:視触診→マンモグラフィ・超音波→針生検で病理診断→(乳癌確定後)乳房MRIで広がり診断→必要に応じて遠隔転移検索。 ・乳房MRIは確定後の進展範囲評価、CT・骨シンチ・頭部MRIは転移検索であり、診断前に行う検査ではない。 ・乳癌の好発部位は外上(C)領域。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。