StudyMed医師国家試験

誤嚥性肺炎の犯人は口の中にいる―常在菌と日和見病原体を見分ける

第99回医師国家試験 E問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第99回 E問題 第18問

嚥下性肺炎〈誤嚥性肺炎〉の原因となるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.大腸菌
  2. b.嫌気性菌
  3. c.アスペルギルス
  4. d.サイトメガロウイルス
  5. e.ニューモシスチス・ジロベチ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は誤嚥性肺炎の原因微生物を問う問題だ。考え方のコツはシンプルで、「誤嚥されるものの中にどんな菌がいるか」を思い浮かべること。口腔・咽頭の細菌叢に由来するものなのか、それとも免疫不全の人に起こる日和見感染の病原体なのか、この2つに分けて選択肢を眺めてみよう。
医学生医学生
誤嚥性肺炎なら口の中の菌ですよね。嫌気性菌はすぐ浮かびましたが、大腸菌は腸の菌なので違う気がします。
ドクタードクター
そこが引っかかりやすいポイントだね。まず嫌気性菌から確認しよう。口腔内、とくに歯周ポケットや歯垢にはPeptostreptococcus、Prevotella、Fusobacteriumといった嫌気性菌が大量に棲んでいる。歯周病や口腔衛生不良があれば菌量はさらに増える。だから誤嚥性肺炎の代表的な原因菌として古くから知られているんだ。
医学生医学生
微生物学の講義で、嫌気性菌が関わると悪臭のある痰が出ると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。嫌気性菌が関与すると組織を壊しやすく、肺膿瘍や膿胸に進展しやすいのも特徴だ。では大腸菌。本来は腸内細菌だけど、高齢者や寝たきりの人、経管栄養中の人、入院・施設入所中の人では、唾液分泌の低下や口腔衛生の悪化で咽頭に定着しやすくなるんだ。
医学生医学生
つまり、口の中の細菌叢そのものが変わってしまうということですか。
ドクタードクター
その通り。そうした患者では大腸菌や肺炎桿菌などのグラム陰性桿菌、さらに緑膿菌や黄色ブドウ球菌も咽頭に定着して、それが誤嚥で下気道に入る。とくに院内や施設で発症した誤嚥性肺炎ではグラム陰性桿菌の関与が大きいから、抗菌薬もそれをカバーする必要がある。だから大腸菌も正解になるんだ。
医学生医学生
なるほど、「もともと口にいる菌」だけでなく「口に定着した菌」も含めて考えるんですね。では残りの3つは日和見感染のグループでしょうか。
ドクタードクター
そう。アスペルギルスは環境中の糸状真菌で、胞子を吸い込んで感染する。好中球減少や免疫抑制状態での侵襲性肺アスペルギルス症、陳旧性結核の空洞にできるアスペルギローマ、喘息患者のアレルギー性気管支肺アスペルギルス症など、病型は多彩だけど誤嚥とは関係ない。
医学生医学生
サイトメガロウイルスは、臨床実習の血液内科で造血幹細胞移植後の患者さんにアンチゲネミア検査を出しているのを見ました。
ドクタードクター
まさにそれが典型的な場面だね。多くの成人は既感染で潜伏していて、移植後や進行したHIV感染症など細胞性免疫が大きく落ちたときに再活性化し、間質性肺炎を起こす。ニューモシスチス・ジロベチも同様で、CD4陽性T細胞が200/μL未満のHIV感染者や、ステロイド・免疫抑制薬を長期使用中の患者に起こる。
医学生医学生
ニューモシスチス肺炎は両側のすりガラス影とβ-Dグルカン上昇、治療と予防はST合剤、とCBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
完璧だ。どれも宿主の免疫不全が発症の鍵で、誤嚥が機序の中心ではない。ここからは発展知識。高齢者の誤嚥性肺炎の多くは、食事中にむせる顕性誤嚥ではなく、夜間睡眠中に咳反射を伴わず唾液を少しずつ吸い込む不顕性誤嚥によるものなんだ。
医学生医学生
むせがないから気づかれにくいんですね。陰影はどこに出やすいですか。
ドクタードクター
誤嚥物は重力に従って流れるから、臥位なら下葉の背側、つまりS6やS10に出やすい。右主気管支は左より太く短く、垂直に近い角度で分岐するので右側に多いのも覚えておこう。それから、酸性の胃内容物を大量に誤嚥して起こるメンデルソン症候群は化学性肺臓炎で、感染とは区別して考える。
医学生医学生
治療はアンピシリン・スルバクタムが代表的と聞いたことがあります。
ドクタードクター
そうだね。口腔内の嫌気性菌やレンサ球菌をカバーできるβ-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンがよく使われ、耐性菌リスクがあれば緑膿菌などもカバーする薬を選ぶ。なお近年は軽症の市中発症例では嫌気性菌の関与は以前ほど大きくないという指摘もある。そして何より大事なのは予防で、口腔ケア、嚥下リハビリ、食形態の工夫、食後の座位保持が基本になる。脳血管障害やパーキンソン病で嚥下反射・咳反射が落ちた患者では、咳反射を高めるサブスタンスPの分解を抑えるACE阻害薬が選択肢に挙がることもあるよ。
医学生医学生
薬だけでなく、口腔ケアや姿勢といったチーム医療が予防の中心なんですね。
ドクタードクター
その通り。歯科医師や歯科衛生士、言語聴覚士、看護師と一緒に取り組むことで、再発を減らせる。病原体を「どこから来たか」で考える習慣は、肺炎に限らずすべての感染症診療の基本になるよ。

まとめ

誤嚥性肺炎は口腔・咽頭の分泌物や胃内容物が気道に入って起こるため、原因菌は口腔内の細菌叢に由来し、歯周ポケットに多い嫌気性菌や口腔レンサ球菌が代表的です。高齢者や長期臥床、経管栄養、入院・施設入所の患者では大腸菌や肺炎桿菌などのグラム陰性桿菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌も咽頭に定着し、原因菌となります。一方、アスペルギルス、サイトメガロウイルス、ニューモシスチスは細胞性免疫や好中球機能が低下した宿主に起こる日和見感染の病原体であり、誤嚥とは関係しません。高齢者では不顕性誤嚥が多く、右下葉背側に好発し、嫌気性菌が関与すると肺膿瘍や膿胸に進展しやすい点も重要です。病原体の「由来」と「宿主の状態」から原因微生物を絞り込む考え方は、抗菌薬選択や予防策の立案にも直結します。

解答・解説

正解はa, bです

嚥下性肺炎(誤嚥性肺炎)の原因微生物を問う問題である。 誤嚥性肺炎は、口腔・咽頭の分泌物や胃内容物が気道に流れ込むことで起こる肺炎である。したがって原因菌は「誤嚥されるものの中にいる菌」、すなわち口腔・咽頭に常在または定着している細菌が中心となる。 口腔内には、歯周ポケットなどを中心に嫌気性菌(Peptostreptococcus、Prevotella、Fusobacterium など)や口腔レンサ球菌が多数存在する。さらに、高齢者、長期臥床者、経管栄養患者、入院・施設入所者、抗菌薬使用歴のある患者などでは、口腔内の衛生状態の悪化や唾液分泌の低下により、大腸菌・肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)などの腸内細菌科細菌(グラム陰性桿菌)、緑膿菌、黄色ブドウ球菌が咽頭に定着しやすくなり、誤嚥性肺炎の原因となる。 一方、選択肢にあるアスペルギルス、サイトメガロウイルス、ニューモシスチスは、いずれも主に細胞性免疫の低下した宿主(臓器移植後、造血幹細胞移植後、HIV感染症、ステロイド・免疫抑制薬使用中など)に肺感染症を起こす日和見感染の病原体であり、誤嚥が発症機序の中心となるものではない。 つまり「口腔内の細菌叢に由来する細菌」か「免疫不全に伴う日和見病原体」かを区別できれば正解にたどりつける。

選択肢考察

  1. ○a.  大腸菌

    正しい。大腸菌は本来は腸内細菌であるが、高齢者、寝たきり、経管栄養、入院中などの患者では口腔・咽頭に定着しやすくなる。これが誤嚥によって下気道に入り込むと誤嚥性肺炎の原因菌となる。とくに院内発症や施設入所者の誤嚥性肺炎では、大腸菌や肺炎桿菌などのグラム陰性桿菌の関与が大きくなるため、抗菌薬の選択でもこれらをカバーする必要がある。

  2. ○b.  嫌気性菌

    正しい。嫌気性菌は口腔内、とくに歯周ポケットや歯垢に大量に存在する常在菌であり、誤嚥性肺炎の代表的な原因菌として古くから知られている。歯周病や口腔衛生不良があると菌量が増える。嫌気性菌が関与すると肺化膿症(肺膿瘍)や膿胸に進展しやすく、悪臭のある喀痰が特徴となる。なお近年は、軽症の市中発症例では嫌気性菌の関与は以前考えられていたほど大きくないとの指摘もあるが、口腔内細菌叢に由来する重要な原因菌であることに変わりはない。

  3. ×c.  アスペルギルス

    誤り。アスペルギルスは環境中に広く存在する糸状真菌で、胞子(分生子)を吸入することで感染する。好中球減少や免疫抑制状態では侵襲性肺アスペルギルス症、陳旧性結核などの既存の空洞では肺アスペルギローマ(菌球)、気管支喘息患者ではアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)を起こす。口腔内常在菌ではなく、誤嚥性肺炎の原因とはならない。

  4. ×d.  サイトメガロウイルス

    誤り。サイトメガロウイルス(CMV)はヘルペスウイルス科のウイルスで、多くの成人は既感染で潜伏感染している。臓器移植後、造血幹細胞移植後、進行したHIV感染症など細胞性免疫が高度に低下した状態で再活性化し、間質性肺炎の像を呈するCMV肺炎を起こす。診断には末梢血のCMV抗原血症(アンチゲネミア)検査などが用いられる。誤嚥とは関係しない日和見感染症である。

  5. ×e.  ニューモシスチス・ジロベチ

    誤り。ニューモシスチス・ジロベチ(Pneumocystis jirovecii)は真菌に分類される病原体で、HIV感染症(とくにCD4陽性T細胞数が200/μL未満)やステロイド・免疫抑制薬の長期使用中の患者にニューモシスチス肺炎(PCP)を起こす。両側びまん性のすりガラス影、著明な低酸素血症、血清β-Dグルカン高値が特徴で、治療・予防にはST合剤が用いられる。日和見感染症であり、誤嚥性肺炎の原因ではない。かつては原虫と考えられ、ヒトに感染する種はカリニ(P. carinii)と呼ばれていた。

誤嚥の分類

・顕性誤嚥:食事中のむせなど、明らかな誤嚥のエピソードがあるもの。 ・不顕性誤嚥:主に夜間睡眠中に、咳反射を伴わずに唾液などの口腔内容物を少量ずつ誤嚥するもの。高齢者の誤嚥性肺炎の多くはこれによる。 ・メンデルソン症候群(化学性肺臓炎):酸性の胃内容物を大量に誤嚥して起こる化学的な肺障害。感染ではないため、初期から抗菌薬が必須というわけではない。

危険因子

脳血管障害(とくに大脳基底核病変ではドパミン・サブスタンスPが減少し、嚥下反射・咳反射が低下する)、パーキンソン病などの神経疾患、認知症、意識障害、鎮静薬の使用、長期臥床、経管栄養、胃食道逆流、口腔衛生不良、高齢など。

画像の特徴

誤嚥物は重力に従って流れるため、臥位では下葉の背側(S6、S10)、立位・座位では下葉の底部に陰影が出やすい。右主気管支は左より太く短く、垂直に近い角度で分岐するため、右側に多い。

治療と予防

抗菌薬は口腔内の嫌気性菌やレンサ球菌をカバーするβ-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系(アンピシリン・スルバクタムなど)が代表的で、耐性菌リスクがある場合は緑膿菌などもカバーする薬剤を選ぶ。予防として口腔ケア、摂食嚥下リハビリテーション、食形態の工夫、食後の座位保持、ACE阻害薬(咳反射を高めるサブスタンスPの分解を抑える)の活用などがある。

POINT

・誤嚥性肺炎の原因菌は口腔・咽頭の細菌叢に由来する:嫌気性菌、口腔レンサ球菌、大腸菌・肺炎桿菌などのグラム陰性桿菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌。 ・アスペルギルス、サイトメガロウイルス、ニューモシスチスは免疫不全宿主の日和見感染症の病原体であり、誤嚥とは無関係。 ・高齢者では不顕性誤嚥が多く、好発部位は右下葉の背側(S6、S10)。 ・嫌気性菌が関与すると肺膿瘍・膿胸に進展しやすい。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。