熱でも脈でもなく「SpO2」―A-DROPで読み解く市中肺炎の入院判断
第119回医師国家試験 E問題 第35問
国試問題にチャレンジ
①57歳の男性。呼吸困難を主訴に来院した。3日前から咳嗽があり,昨日から発熱,本日から呼吸困難が出現した。②同居家族にも発熱と咳嗽を認める。既往歴に特記すべきことはない。意識レベルはJCSⅠ-3。③体温38.2℃。脈拍104/分,整。血圧110/68mmHg。呼吸数28/分。④SpO2 90%(room air)。口腔内と皮膚は乾燥している。⑤右胸部にcoarse cracklesを聴取する。胸部エックス線写真で右中肺野に浸潤影を認めた。 下線部のうち,意識レベルと口腔内・皮膚所見に加えて入院が必要と判断する要素はどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
市中肺炎の入院判断には、A-DROP(男性70歳以上・女性75歳以上、BUN 21mg/dL以上または脱水、SpO2 90%以下、意識変容、収縮期血圧90mmHg以下)が用いられ、3点以上で入院、4点以上やショックではICU管理を考慮します。本例は意識障害と脱水に加え、室内気でSpO2 90%という低酸素血症が該当し、3点で入院治療が必要です。体温や脈拍、家族内発症、聴診所見や画像所見は診断や原因推定には重要ですが、スコアの項目ではありません。呼吸を呼吸数で評価し年齢基準が65歳以上であるCURB-65との違いも整理しておくと混乱しにくくなります。スコアを目安としつつ、基礎疾患や生活背景も含めて総合的に判断する姿勢が、肺炎診療の土台になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・57歳男性。3日前から咳嗽、前日から発熱、当日から呼吸困難が出現した急性経過。 ・同居家族にも発熱・咳嗽がある(ウイルス性気道感染やマイコプラズマなど、人から人へうつる感染症を想起させる)。 ・既往歴なし。病院・施設とは無関係に地域で発症しているので、市中肺炎(CAP:community-acquired pneumonia)として扱う。 ・意識レベルJCS I-3(目は開いているが自分の名前・生年月日が言えない)=意識障害あり。 ・体温38.2℃、脈拍104/分、血圧110/68mmHg、呼吸数28/分、SpO2 90%(室内気)。 ・口腔内・皮膚の乾燥=脱水を示唆。 ・右胸部でcoarse crackles(水泡音:気道内の分泌物による粗い断続性副雑音)を聴取し、胸部エックス線で右中肺野に浸潤影を認める。 以上から市中肺炎と診断される。
重症度判定と入院の判断
市中肺炎では、外来で治療できるか、入院が必要か、集中治療室(ICU)管理が必要かを、重症度スコアを用いて判断する。わが国の成人肺炎診療ガイドラインではA-DROPシステムが用いられる。 ・A(Age):男性70歳以上、女性75歳以上 ・D(Dehydration):BUN 21mg/dL以上、または脱水あり ・R(Respiration):SpO2 90%以下(PaO2 60Torr以下) ・O(Orientation):意識変容あり ・P(blood Pressure):収縮期血圧90mmHg以下 各1点とし、0点は軽症(外来治療)、1〜2点は中等症(外来または入院)、3点は重症(入院治療)、4〜5点は超重症(ICU入院を考慮。ショックがあれば1項目でも超重症)と判定する。
設問の考え方
本例では、意識障害(O)と口腔内・皮膚の乾燥による脱水(D)がすでに設問中で入院判断の要素として示されている。下線部①〜⑤のうち、これに加えてA-DROPの項目に該当するのは④のSpO2 90%(R)である。したがってD・R・Oの3項目が陽性で、A-DROP 3点=重症であり、入院治療が必要と判断される。他の下線部は年齢基準を満たさない、あるいはスコアの項目ではない所見である。
選択肢考察
- ×a. ①
①は57歳の男性で、呼吸困難を主訴とし、咳嗽→発熱→呼吸困難と急性に進行した病歴である。A-DROPの年齢項目は男性70歳以上(女性75歳以上)であり、57歳は該当しない。CURB-65でも年齢項目は65歳以上なので該当しない。病歴そのものは肺炎を疑う根拠だが、入院の要否を判定する重症度項目ではない。
- ×b. ②
同居家族に発熱・咳嗽があることは、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症、マイコプラズマなど伝播しやすい病原体を考え、感染対策や病原体検索を行ううえで重要な情報である。しかし患者自身の重症度を示す所見ではなく、A-DROPにもCURB-65にも含まれない。
- ×c. ③
③は体温38.2℃、脈拍104/分、血圧110/68mmHg、呼吸数28/分である。体温と脈拍はA-DROPの項目ではない。血圧の項目は収縮期血圧90mmHg以下であり、110mmHgは該当しない。参考までにCURB-65でも呼吸数は30/分以上、血圧は収縮期90mmHg未満または拡張期60mmHg以下が基準であり、本例の値はいずれも満たさない。
- ○d. ④
室内気でSpO2 90%は、A-DROPのR(Respiration)の基準「SpO2 90%以下(PaO2 60Torr以下)」に該当する。呼吸数28/分と頻呼吸であるにもかかわらず酸素化が保てておらず、呼吸不全に近い状態であり、酸素投与が必要である。意識障害(O)、脱水(D)と合わせてA-DROP 3点(重症)となり、入院治療が必要である。
- ×e. ⑤
右胸部のcoarse cracklesと胸部エックス線の浸潤影は、肺炎の存在と病変部位を示す診断の根拠である。しかし、聴診所見や陰影の存在そのものはA-DROPやCURB-65の項目ではなく、それだけで入院の要否は決まらない。
CURB-65との比較
英国胸部疾患学会(BTS)が提唱したCURB-65も広く用いられる。 ・C(Confusion):意識障害 ・U(Urea):BUN 20mg/dL超(尿素窒素7mmol/L超) ・R(Respiratory rate):呼吸数30/分以上 ・B(Blood pressure):収縮期血圧90mmHg未満、または拡張期血圧60mmHg以下 ・65:年齢65歳以上 0〜1点は外来治療、2点は入院を考慮、3点以上は重症として入院(ICUも考慮)が目安である。A-DROPはCURB-65を日本の実情に合わせて改変したもので、呼吸の項目を呼吸数ではなくSpO2で評価し、年齢を男女別に設定している点が異なる。
JCS(Japan Coma Scale)
I桁は刺激しなくても覚醒している状態で、I-1:だいたい清明だが今ひとつはっきりしない、I-2:見当識障害がある、I-3:自分の名前・生年月日が言えない。II桁は刺激で覚醒する状態、III桁は刺激しても覚醒しない状態である。
実臨床での注意点
・スコアは入院判断の目安であり、基礎疾患(心不全、糖尿病、慢性腎臓病、免疫抑制状態など)、社会的背景(独居、内服が困難など)、経口摂取の可否も考慮して総合的に判断する。 ・高齢者では、認知症などもともとの意識状態と、肺炎による急性の意識変容とを区別する必要がある。 ・本例のように同居家族にも同様の症状がある場合は、インフルエンザ・新型コロナウイルスの抗原検査、マイコプラズマ検査、尿中抗原(肺炎球菌・レジオネラ)などの病原体検索と、必要な感染対策を行う。
POINT
・市中肺炎の重症度判定はA-DROP:A 男性70歳以上・女性75歳以上、D BUN 21mg/dL以上または脱水、R SpO2 90%以下(PaO2 60Torr以下)、O 意識変容、P 収縮期血圧90mmHg以下。 ・0点 外来、1〜2点 外来または入院、3点 入院、4〜5点(またはショック)ICUを考慮。 ・体温、脈拍、聴診所見、画像所見、家族歴はA-DROPの項目ではない。 ・CURB-65(意識障害、BUN、呼吸数30/分以上、血圧、65歳以上)との違いも整理しておく。
