吐き切っても残る空気―スパイロメトリが「見えない」肺気量の正体
第99回医師国家試験 D問題 第98問
国試問題にチャレンジ
スパイロメトリで計測できないのはどれか。
- a.1秒量
- b.肺活量
- c.1回換気量
- d.予備吸気量
- e.機能的残気量
対話形式の解説
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ドクターまとめ
スパイロメトリは口元で出入りする空気の量と速さを記録する検査であり、最大呼気後も肺内に残る残気量は原理的に測定できません。そのため、残気量を構成要素に含む機能的残気量(予備呼気量+残気量)と全肺気量もスパイロメトリ単独では求められず、1秒量・肺活量・1回換気量・予備吸気量などは測定可能です。残気量を含む指標はヘリウム閉鎖回路法や窒素洗い出し法などのガス希釈法、あるいは体プレチスモグラフ法で測定し、交通の乏しい気腔がある場合は両者で値に差が出ます。COPDでは残気量・機能的残気量が増加し、拘束性障害では肺気量が全体に低下するため、肺気量分画の構成と測定原理を理解しておくことが呼吸機能検査を正しく読む土台になります。
解答・解説
正解はeです
スパイロメトリの原理
スパイロメトリは、口から出入りする空気の量(と流速)を時間経過とともに記録する検査である。記録される曲線をスパイログラムという。測れるのはあくまで「口を通って出入りした気量の変化」であり、どれだけ息を吐き切っても肺内に残る空気(残気量:residual volume, RV)は口から出てこないため測定できない。
肺気量分画の構成
4つの基本的な気量(volume)と、それらを組み合わせた4つの気量(capacity)に分けられる。 ・1回換気量(TV/VT):安静呼吸1回で出入りする量 ・予備吸気量(IRV):安静吸気位からさらに最大まで吸い込める量 ・予備呼気量(ERV):安静呼気位からさらに最大まで吐き出せる量 ・残気量(RV):最大呼気後も肺に残る量 ・最大吸気量(IC)=TV+IRV ・肺活量(VC)=IRV+TV+ERV ・機能的残気量(FRC)=ERV+RV ・全肺気量(TLC)=VC+RV
本問の考え方
残気量(RV)を構成要素として含む指標、すなわち残気量・機能的残気量・全肺気量の3つはスパイロメトリ単独では求められない。選択肢のうちこれに該当するのは機能的残気量である。これらの測定には、ガス希釈法(ヘリウム閉鎖回路法、窒素洗い出し法)や体プレチスモグラフ法を用いる。
選択肢考察
- ×a. 1秒量
1秒量(FEV1:forced expiratory volume in 1 second)は、最大吸気位から一気に最大努力で吐き出したとき(努力呼気)の最初の1秒間の呼出量である。口から出た空気の量を時間に対して記録すれば得られるので、スパイロメトリで測定できる。努力肺活量(FVC)に対する比である1秒率(FEV1/FVC、70%未満で閉塞性換気障害)とともに、COPDや気管支喘息の評価に不可欠な指標である。
- ×b. 肺活量
肺活量(VC)は最大吸気位から最大呼気位までに出し入れできる気量で、予備吸気量+1回換気量+予備呼気量に相当する。すべて口を通って出入りする空気なので、スパイロメトリで直接測定できる。予測値に対する割合である%肺活量(%VC)が80%未満であれば拘束性換気障害と判定する。
- ×c. 1回換気量
1回換気量(TV)は安静時の1回の呼吸で出入りする気量で、健常成人ではおよそ500 mL程度である。スパイログラム上の安静呼吸の振幅そのものであり、スパイロメトリで測定できる。
- ×d. 予備吸気量
予備吸気量(IRV)は安静吸気位からさらに最大まで吸い込める気量である。安静吸気位と最大吸気位の差としてスパイログラム上で読み取れるため、スパイロメトリで測定できる。1回換気量と合わせた最大吸気量(IC)も同様に測定できる。
- ○e. 機能的残気量
機能的残気量(FRC)は安静呼気位で肺内に残っている気量で、予備呼気量(ERV)と残気量(RV)の和である。予備呼気量はスパイロメトリで測れるが、残気量は最大呼気後も肺から出てこない空気であり、口元の気量変化を記録するスパイロメトリでは捉えられない。したがって残気量を含むFRCもスパイロメトリ単独では測定できず、ヘリウム閉鎖回路法・窒素洗い出し法といったガス希釈法や体プレチスモグラフ法で求める。FRCが得られれば、RV=FRC−ERV、TLC=FRC+ICとして残気量や全肺気量も算出できる。
残気量を含む指標の測定法
・ガス希釈法 ヘリウム閉鎖回路法:既知濃度のヘリウムを含む回路を安静呼気位で再呼吸させ、平衡後の濃度低下からFRCを計算する(C1×V1=C2×(V1+FRC))。 窒素洗い出し法:100%酸素を吸入させ、肺内の窒素を洗い出して呼出された窒素量からFRCを求める。 いずれも換気されている肺だけを測るため、ブラ(気腫性嚢胞)など交通の乏しい空間がある場合は過小評価しやすい。 ・体プレチスモグラフ法:密閉した箱の中で呼吸努力を行い、ボイルの法則(圧×容積=一定)を用いて胸郭内の全気量(胸郭内ガス量)を測る。交通のない気腔も含めて測定できるため、COPDではガス希釈法より大きな値となる。
疾患と肺気量
・閉塞性換気障害(COPD、喘息):空気のとらえ込み(エアトラッピング)によりRV・FRCが増加し、RV/TLCが上昇する。 ・拘束性換気障害(間質性肺炎、肺線維症など):VC・TLC・FRC・RVがいずれも低下する。
スパイロメトリで得られる主な指標
肺活量、努力肺活量、1秒量、1秒率、1回換気量、予備吸気量、予備呼気量、最大吸気量、フローボリューム曲線(ピークフロー、V50、V25など)。
POINT
・スパイロメトリは口元で出入りする気量しか測れない。 ・残気量(RV)を含む3指標=残気量・機能的残気量・全肺気量は測定できない。 ・FRC=ERV+RV、TLC=VC+RV。 ・これらの測定にはガス希釈法(ヘリウム閉鎖回路法、窒素洗い出し法)または体プレチスモグラフ法を用いる。
