StudyMed医師国家試験

消えては現れる赤いふくらみ―「浮腫」で読み解く膨疹と発疹の基本

第99回医師国家試験 D問題 第76問

国試問題にチャレンジ

第99回 D問題 第76問

真皮の浮腫が主体の皮疹はどれか。

  1. a.紅斑
  2. b.紫斑
  3. c.膨疹
  4. d.丘疹
  5. e.結節

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は皮膚科の出発点、発疹の見た目とその裏にある組織の変化を結びつける問題だ。注目してほしいのは「真皮の浮腫」という言葉。皮膚の中に何がたまって盛り上がっているのか、という視点で考えてみよう。
医学生医学生
浮腫なら水っぽい盛り上がりですよね。水疱かと思ったんですが、選択肢にはありません。
ドクタードクター
いいところに目をつけたね。実は水疱と浮腫は別物なんだ。水疱は表皮内や表皮下に空洞ができて液体がたまったもの。浮腫は真皮の間質に液体がしみ込むように広がった状態で、空洞はない。だから破れて液体が出ることもないんだ。
医学生医学生
なるほど、同じ液体でもたまり方が違うんですね。
ドクタードクター
そう。まず発疹全体の整理からいこう。発疹は皮膚面から盛り上がらない「斑」と、盛り上がる「隆起性病変」に大きく分かれる。斑は色が変わるだけで厚みは変わらない。隆起性病変は皮膚の中に何かが加わって体積が増えた状態だ。
医学生医学生
紅斑と紫斑は盛り上がらない斑のほうですね。皮膚科の講義で硝子圧法の話を聞きました。
ドクタードクター
その通り。紅斑は真皮浅層の毛細血管が拡張・充血したもので、赤血球は血管の中にとどまっている。だからガラス板で押すと血液が押し出されて赤みが消える。一方の紫斑は赤血球が血管の外、真皮内に漏れ出た出血だから、押しても色が消えない。どちらも浮腫が本体ではないね。
医学生医学生
紫斑は時間が経つと色が変わるんでしたっけ。
ドクタードクター
そう、ヘモグロビンの分解に伴って紫から褐色、黄色へと変わりながら吸収される。打撲のあざと同じだね。では隆起性病変のほうに移ろう。盛り上げている「何か」が液体なのか細胞なのかで分かれる。真皮の浮腫、つまり液体が主体なのはどれだろう。
医学生医学生
蕁麻疹のときに出る膨疹でしょうか。
ドクタードクター
正解。膨疹は真皮上層の血管の透過性が一過性に高まり、血漿成分が血管周囲に漏れ出して生じる限局性の浮腫だ。肥満細胞から放出されるヒスタミンなどが主な役者で、境界明瞭で扁平に盛り上がり、周りに紅暈を伴うことが多い。強いかゆみもある。
医学生医学生
臨床実習で皮膚科を回ったとき、蕁麻疹の患者さんの皮疹が診察中に場所を変えていて驚きました。
ドクタードクター
それが膨疹の最大の特徴だよ。液体は速やかに再吸収されるから、個々の膨疹は通常24時間以内、多くは数時間で跡を残さず消える。細胞成分が主体の病変ではこうはいかない。
医学生医学生
丘疹も小さく盛り上がるので、浮腫が関わっていそうに思ってしまいました。
ドクタードクター
丘疹はおおむね1cm以下の充実性の隆起で、原因は表皮の肥厚、真皮への炎症細胞浸潤、代謝産物の沈着など多彩だ。尋常性疣贅や湿疹の丘疹、扁平苔癬がその例だね。数時間で消えることはないから、浮腫主体とはいえない。
医学生医学生
結節は丘疹より大きいもの、という理解でいいですか。
ドクタードクター
そう、おおむね1cm以上の充実性隆起で、境界を5mmとする定義もある。本体は真皮から皮下の細胞浸潤や肉芽腫、腫瘍細胞の増殖などで、結節性紅斑やサルコイドーシス、皮膚腫瘍などでみられる。さらに大きく腫瘍性のものは腫瘤とよぶことが多いね。
医学生医学生
整理すると、斑は血管の変化、膨疹は液体、丘疹と結節は細胞や表皮の増加、ということですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。発展として押さえておきたいのが浮腫の深さ。同じ機序で真皮深層から皮下組織に浮腫が起こると血管性浮腫、いわゆるクインケ浮腫になる。口唇や眼瞼に好発し、かゆみは乏しく、数日かけて引いていく。
医学生医学生
遺伝性血管性浮腫は抗ヒスタミン薬が効かないと聞いたことがあります。
ドクタードクター
よく知っているね。C1インヒビターの欠損や機能異常が原因で、ヒスタミンではなくブラジキニンが関与するからだ。喉頭浮腫で窒息の危険もあるので、蕁麻疹を伴わない反復性の腫脹では必ず思い浮かべてほしい。もう一つ、蕁麻疹の患者さんの皮膚を先の鈍いもので擦ると線状の膨疹が出る皮膚描記症も、診察で確認できる所見として覚えておこう。

まとめ

発疹は、盛り上がらない「斑」と盛り上がる「隆起性病変」に分けて、その背後にある組織変化と対応させて理解することが大切です。真皮の浮腫が主体なのは膨疹で、肥満細胞由来のヒスタミンなどにより真皮上層の血管透過性が一過性に亢進して生じ、通常24時間以内に跡を残さず消えるのが特徴です。紅斑は血管拡張で硝子圧法により退色し、紫斑は赤血球の血管外漏出で退色せず、丘疹・結節は表皮肥厚や細胞浸潤などによる充実性隆起で大きさによって区別します。浮腫が真皮深層から皮下に及ぶと血管性浮腫となり、遺伝性血管性浮腫ではブラジキニンが関与するため抗ヒスタミン薬が無効です。発疹の見た目から組織像を推定する力は、皮膚疾患の診断を組み立てる土台になります。

解答・解説

正解はcです

皮膚病変を記述するための基本単位を「発疹(皮疹)」とよび、見た目の特徴と、その背後にある組織学的変化とを対応させて理解することが皮膚科学の出発点である。本問は、代表的な発疹が組織のどの層でどんな変化を起こしているかを問う問題である。 発疹はまず、皮膚面から盛り上がらない「斑」(紅斑・紫斑・色素斑・白斑など)と、盛り上がる「隆起性病変」(膨疹・丘疹・結節・腫瘤・水疱・膿疱など)に大きく分けられる。斑は色調の変化だけで厚みは変わらないため、原因は血管の拡張、血液成分の漏出、色素の増減などである。一方、隆起性病変は皮膚の中に「何か」が加わって体積が増えた状態であり、その「何か」が液体(浮腫)なのか、細胞(炎症細胞浸潤や腫瘍細胞)なのか、表皮の肥厚なのかによって種類が分かれる。 設問の「真皮の浮腫が主体」という条件に合うのは、真皮の血管から血漿成分が一過性に漏れ出して生じる隆起、すなわち膨疹である。膨疹は液体の貯留が本体であるため、数十分から数時間で跡を残さず消えるという時間経過上の特徴をもち、これが細胞成分が主体の丘疹・結節との大きな違いとなる。

選択肢考察

  1. ×a.  紅斑

    紅斑は皮膚面から隆起しない赤い斑で、主な組織学的変化は真皮乳頭層~真皮浅層の毛細血管の拡張と充血である。血管内に赤血球がとどまっているため、ガラス板などで圧迫(硝子圧法)すると血液が押し出されて赤みが消える(退色する)。浮腫が主体の病変ではない。なお、炎症の強い紅斑では浮腫や細胞浸潤を伴って軽く盛り上がることがあるが(浸潤性紅斑)、紅斑の定義上の本質は血管拡張である。

  2. ×b.  紫斑

    紫斑は紫紅色~暗赤色の斑で、赤血球が血管外の真皮内に漏出(出血)した状態である。血管炎、血管壁の脆弱性(老人性紫斑、ステロイド紫斑など)、血小板減少や凝固異常などが原因となる。赤血球が血管の外にあるため、硝子圧法でも色が消えない点で紅斑と区別できる。漏出した赤血球はヘモグロビンの分解に伴い紫→褐色→黄色と色調が変化しながら吸収される。浮腫が主体ではない。

  3. ○c.  膨疹

    膨疹は、真皮上層の血管の透過性が一過性に亢進し、血漿成分が血管周囲に漏れ出して生じる限局性の浮腫である。臨床的には、周囲に紅斑(紅暈)を伴うことの多い、境界明瞭で扁平にやや隆起した淡紅色~白色調の皮疹として見え、強いかゆみを伴う。肥満細胞から放出されるヒスタミンなどが血管透過性を高めることが主な機序で、蕁麻疹の基本となる発疹である。浮腫液は速やかに再吸収されるため、個々の膨疹は通常24時間以内(多くは数時間以内)に跡を残さず消退する。組織学的には真皮の血管周囲性の浮腫が病変の本質であり、設問の条件に合致する。なお、同じ機序で真皮深層~皮下組織に浮腫が起こったものが血管性浮腫(クインケ浮腫)である。

  4. ×d.  丘疹

    丘疹は皮膚面から隆起する小型の充実性病変で、直径はおおむね1cm以下(教科書によっては5mm程度以下)とされる。隆起の原因は表皮の肥厚(例: 尋常性疣贅)、真皮への炎症細胞浸潤(例: 湿疹の丘疹、扁平苔癬)、代謝産物の沈着など多彩で、組織像は疾患によってさまざまである。浮腫だけで生じる一過性の病変ではなく、膨疹のように数時間で消えることはない。

  5. ×e.  結節

    結節は丘疹より大きい充実性の隆起で、直径はおおむね1cm以上(丘疹との境界を5mmとする定義もある)とされ、さらに大きく(おおむね3cm以上)腫瘍性のものは腫瘤とよぶことが多い。真皮~皮下組織への細胞浸潤、肉芽腫、腫瘍細胞の増殖などが本体で、組織像は多様である(例: 結節性紅斑、サルコイドーシス、皮膚腫瘍)。浮腫が主体の病変ではない。

主な原発疹と組織学的変化の対応

・紅斑: 真皮浅層の毛細血管拡張・充血。硝子圧法で退色する。 ・紫斑: 真皮内への赤血球の漏出(出血)。硝子圧法で退色しない。大きさにより点状出血(数mm以下)と斑状出血に分けられる。 ・色素斑: メラニンなどの色素の増加(例: 肝斑、扁平母斑)。 ・白斑: メラニンの減少・消失(例: 尋常性白斑)。 ・膨疹: 真皮上層の一過性限局性浮腫。24時間以内に跡を残さず消える。 ・丘疹: 小型(おおむね1cm以下)の充実性隆起。表皮肥厚・細胞浸潤などが原因。 ・結節: 丘疹より大きい充実性隆起。真皮~皮下の細胞浸潤・肉芽腫・腫瘍など。 ・水疱: 表皮内または表皮下に液体が貯留したもの(小さいものは小水疱)。 ・膿疱: 水疱の内容が好中球などを含む膿となったもの。

浮腫の深さと病名

・真皮浅層の浮腫 → 膨疹(蕁麻疹) ・真皮深層~皮下組織の浮腫 → 血管性浮腫。口唇や眼瞼に好発し、数日かけて消退する。かゆみは乏しいことが多い。遺伝性血管性浮腫(C1インヒビター欠損・機能異常)はヒスタミンではなくブラジキニンが関与し、抗ヒスタミン薬が無効である。

液体貯留による病変の区別

同じ「液体」による隆起でも、真皮の間質に浮腫液が広がるものが膨疹、表皮内・表皮下に腔(空洞)を形成して液体がたまるものが水疱である。膨疹は腔をもたないため、破れて液体が出ることはない。

皮膚描記症

皮膚を先の鈍いもので擦ると、その部位に一致して線状の膨疹が生じる現象で、機械的刺激により肥満細胞からヒスタミンが放出されることによる。蕁麻疹患者でしばしばみられる。

POINT

・膨疹=真皮上層の一過性・限局性の浮腫。蕁麻疹の基本発疹で、24時間以内に跡を残さず消える。 ・紅斑は血管拡張(圧迫で退色)、紫斑は赤血球の血管外漏出(圧迫で退色しない)。 ・丘疹・結節は充実性の隆起で、大きさ(おおむね1cmが境界)で区別し、組織像は表皮肥厚・細胞浸潤・腫瘍などさまざま。 ・浮腫が真皮深層~皮下に及ぶと血管性浮腫となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。