「弱い菌」が牙をむくとき―日和見感染の顔ぶれとマイコプラズマの立ち位置
第99回医師国家試験 D問題 第68問
国試問題にチャレンジ
日和見感染の原因微生物でないのはどれか。
- a.クレブシエラ
- b.表皮ブドウ球菌
- c.マイコプラズマ
- d.クリプトコックス
- e.サイトメガロウイルス
対話形式の解説
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ドクターまとめ
日和見感染とは、健常者には病原性の低い微生物が、防御能の低下した宿主に起こす感染症です。好中球減少ではクレブシエラや緑膿菌などのグラム陰性桿菌と真菌、細胞性免疫低下ではサイトメガロウイルス、クリプトコックス、ニューモシスチス、皮膚・粘膜バリアの破綻ではカテーテルなどにバイオフィルムを作る表皮ブドウ球菌が代表です。一方、マイコプラズマは細胞壁をもたない細菌で、主に免疫正常の学童〜若年成人に非定型肺炎を起こすため、日和見感染の原因微生物には含まれません。HIV感染症ではCD4数に応じて起こりやすい日和見感染が変わる点も重要です。障害された防御機構から原因微生物を予測する考え方は、免疫不全患者の感染症診療の基礎になります。
解答・解説
正解はcです
日和見感染(opportunistic infection)とは、健康な人にはほとんど病気を起こさない弱毒の微生物が、宿主の防御能が落ちたときに感染症を起こすことをいう。本問は、選択肢の中から「主として健常者に病気を起こす微生物」を見分ける問題である。
宿主の防御能の低下と起こりやすい感染
日和見感染を考えるときは、どの防御機構が障害されているかと病原体を対応させて整理するとよい。 ・好中球の減少・機能低下(抗がん薬治療後など):グラム陰性桿菌(緑膿菌、クレブシエラ、大腸菌など)、ブドウ球菌、カンジダ、アスペルギルス ・細胞性免疫(T 細胞)の低下(HIV 感染症、臓器移植後、副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬の使用など):サイトメガロウイルスなどのヘルペスウイルス、ニューモシスチス、クリプトコックス、結核菌・非結核性抗酸菌、トキソプラズマ ・体液性免疫・補体の低下、脾臓摘出後:肺炎球菌などの莢膜をもつ細菌 ・皮膚・粘膜バリアの破綻(血管内カテーテル、人工物の留置など):表皮ブドウ球菌などの皮膚常在菌、カンジダ マイコプラズマは、むしろ免疫が正常な小児や若年成人に市中肺炎を起こす代表的な病原体で、日和見感染の原因微生物としては扱われない。よって正解は c である。
選択肢考察
- ×a. クレブシエラ
日和見感染の原因となる。クレブシエラ(主に肺炎桿菌 Klebsiella pneumoniae)は腸管などに常在するグラム陰性桿菌で、健常者に病気を起こすことは少ない。アルコール多飲者、糖尿病、高齢者、好中球減少患者、長期入院患者など、防御能の落ちた宿主に肺炎・尿路感染症・敗血症を起こす。肺炎では厚い莢膜のため粘稠な赤褐色(いわゆるレンガ色・ゼリー状)の痰が特徴とされる。院内感染の原因菌としても重要で、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生株やカルバペネム耐性株が問題となっている。
- ×b. 表皮ブドウ球菌
日和見感染の原因となる。表皮ブドウ球菌はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)の代表で、皮膚の常在菌である。黄色ブドウ球菌より毒力は弱く健常者に病気を起こすことはまれだが、血管内カテーテル、人工弁、人工関節、脳室シャントなどの人工物の表面にバイオフィルム(菌が産生する粘液状の膜)を作って付着し、カテーテル関連血流感染症や人工弁心内膜炎の原因となる。好中球が減少した患者でも問題となる。メチシリン耐性株が多い。
- ○c. マイコプラズマ
日和見感染の原因微生物ではない。肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)は細胞壁をもたない小型の細菌で、飛沫感染により主に免疫が正常な学童〜若年成人に市中肺炎を起こす。いわゆる非定型肺炎の代表で、頑固な乾性咳嗽、聴診所見に乏しいこと、白血球数があまり増えないことなどが特徴である。細胞壁がないためβラクタム系抗菌薬は無効で、マクロライド系(耐性株ではテトラサイクリン系やニューキノロン系)を用いる。免疫不全によって感染リスクが特に高まる病原体ではないため、本問の正解となる。
- ×d. クリプトコックス
日和見感染の原因となる。クリプトコックス(主に Cryptococcus neoformans)はハトなどの鳥の糞で汚染された土壌に存在する莢膜をもつ酵母様真菌で、吸入により肺に感染する。健常者にも肺クリプトコックス症を起こすことはあるが、HIV 感染症や副腎皮質ステロイド使用などで細胞性免疫が低下した患者では血行性に全身へ広がり、特に髄膜炎を起こしやすい。AIDS 指標疾患の一つであり、髄液の墨汁染色で莢膜をもつ菌体を確認したり、莢膜抗原を検出したりして診断する。
- ×e. サイトメガロウイルス
日和見感染の原因となる。サイトメガロウイルス(CMV)はヘルペスウイルス科に属し、日本人成人の多くが既に感染して体内に潜伏している。健常者では症状を起こさないか軽い伝染性単核症様の症状で済むが、AIDS 患者や臓器・造血幹細胞移植後など細胞性免疫が低下した状態では再活性化し、網膜炎、間質性肺炎、腸炎(消化管潰瘍)などを起こす。代表的な日和見感染の病原体であり、抗原血症検査(アンチゲネミア法)や PCR で診断し、ガンシクロビルなどで治療する。
日和見感染の主な宿主要因
・好中球減少:化学療法後、再生不良性貧血、急性白血病など。好中球数 500/μL 未満では重症細菌・真菌感染の危険が高く、発熱した場合は発熱性好中球減少症として速やかに広域抗菌薬を開始する。 ・細胞性免疫低下:HIV 感染症(CD4 陽性 T 細胞数の低下)、臓器移植後の免疫抑制薬、副腎皮質ステロイドの長期使用、悪性リンパ腫など。 ・液性免疫低下:無γグロブリン血症、多発性骨髄腫、脾臓摘出後など。 ・物理的バリアの破綻:熱傷、中心静脈カテーテル、尿道カテーテル、人工呼吸器管理など。
HIV 感染症と CD4 数の目安
CD4 数が低下するにつれて起こりやすい日和見感染が変わる。200/μL 未満でニューモシスチス肺炎、100/μL 未満でトキソプラズマ脳症やクリプトコックス髄膜炎、50/μL 未満でサイトメガロウイルス網膜炎や播種性非結核性抗酸菌症が増える。
非定型肺炎の病原体
マイコプラズマ、クラミジア(クラミドフィラ)・ニューモニエ、レジオネラなどが含まれる。このうちマイコプラズマとクラミジア・ニューモニエは若く基礎疾患のない人の市中肺炎の原因として重要である。レジオネラは循環式浴槽や冷却塔の水から感染し、高齢者、喫煙者、免疫抑制状態の人で重症化しやすい。
POINT
・日和見感染とは、健常者には病原性の低い微生物が、防御能の低下した宿主に起こす感染症である。 ・代表例は緑膿菌、クレブシエラ、表皮ブドウ球菌、MRSA、カンジダ、アスペルギルス、クリプトコックス、ニューモシスチス、サイトメガロウイルスなど。 ・マイコプラズマは健康な若年者に市中肺炎を起こす病原体であり、日和見感染の原因菌ではない。 ・障害されている防御機構(好中球、細胞性免疫、液性免疫、皮膚・粘膜バリア)ごとに原因微生物を整理して覚える。
