StudyMed医師国家試験

咳と線毛が肺を守る―防御機構の破綻から読み解く肺疾患

第99回医師国家試験 D問題 第41問

国試問題にチャレンジ

第99回 D問題 第41問

肺疾患と防御機能の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.肺癌 ―― 肺胞マクロファージ
  2. b.胸膜炎 ―― 好塩基球
  3. c.肺化膿症 ―― 好酸球
  4. d.高齢者肺炎 ―― 咳反射
  5. e.Kartagener症候群 ―― 線毛運動

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肺疾患とそれに関わる防御機構の組合せを問う問題だ。呼吸器は外界と直接つながっているから、微生物や粉塵、誤嚥物から身を守る仕組みを何重にも備えている。各疾患が「どの防御機構が破綻して起こるのか」を考えるのが着眼点だよ。まず防御機構にはどんなものがあるかな。
医学生医学生
免疫学の講義では、物理的防御、液性防御、細胞性防御の3つに分けて習いました。
ドクタードクター
いい整理だね。物理的・機械的防御には咳反射や嚥下反射、そして気道上皮の線毛が粘液ごと異物を咽頭側へ運び出す粘液線毛輸送系がある。液性防御は分泌型IgAやリゾチーム、サーファクタント蛋白など。細胞性防御は肺胞マクロファージ、好中球、リンパ球が中心だ。では高齢者肺炎から考えよう。
医学生医学生
高齢者の肺炎は誤嚥が多いと呼吸器内科の実習で聞きました。咳反射が落ちているから、ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。特に脳血管障害の既往がある人では、大脳基底核のドパミン代謝が低下してサブスタンスPが減り、咳反射と嚥下反射がともに鈍くなる。その結果、気づかないうちに口腔内容物を少しずつ吸い込む不顕性誤嚥が起き、誤嚥性肺炎を繰り返すんだ。高齢者肺炎と咳反射の組合せは正しい。
医学生医学生
予防にACE阻害薬が使われることがあるのも、サブスタンスPの分解を抑えるからでしたよね。
ドクタードクター
よく知っているね。口腔ケアと並んでよく知られた対策だ。次にKartagener症候群はどうかな。
医学生医学生
内臓逆位、慢性副鼻腔炎、気管支拡張症の3徴ですよね。線毛の病気だったと思います。
ドクタードクター
正解。原発性線毛機能不全症の一型で、ダイニン腕など線毛の軸糸構造が先天的に異常なため線毛運動が障害され、粘液線毛輸送系が働かない。だから副鼻腔炎や気道感染を反復して気管支拡張症に至る。胎生期の左右決定にも線毛運動が関わるので、約半数に内臓逆位を伴うんだ。
医学生医学生
男性不妊が多いのも、精子の鞭毛が同じ構造だからですね。
ドクタードクター
その通り。線毛運動の障害が病態の本質だから、この組合せも正しい。では残りを見ていこう。肺化膿症と好酸球はどう思う?
医学生医学生
肺膿瘍は細菌感染なので、主役は好中球のはずです。好酸球は寄生虫やアレルギーですよね。
ドクタードクター
そうだね。嫌気性菌や黄色ブドウ球菌、クレブシエラなどによる化膿性炎症で、貪食・殺菌を担うのは好中球だ。胸膜炎と好塩基球はどうだろう。
医学生医学生
好塩基球はIgE受容体をもっていてヒスタミンを出すI型アレルギーの細胞なので、胸膜炎とは結びつかないと思います。
ドクタードクター
正しい判断だ。細菌性胸膜炎や膿胸では好中球、結核性胸膜炎ではリンパ球優位の胸水でADAが高値になるのが特徴だね。最後に肺癌と肺胞マクロファージは?
医学生医学生
マクロファージにも抗腫瘍作用がありそうなので、少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。全く抗腫瘍活性がないわけではないけれど、肺胞マクロファージの役割の中心は吸入された細菌や粉塵の貪食・処理といった感染防御と異物除去だ。腫瘍に対する免疫監視を主に担うのはNK細胞や細胞傷害性T細胞なので、肺癌に対応する防御機能として組み合わせるのは適切ではない。
医学生医学生
疾患ごとに、どの防御が壊れているかで整理すると覚えやすいですね。
ドクタードクター
その発想が大事だ。発展として、粘液の性状異常なら嚢胞性線維症、液性免疫の低下なら低ガンマグロブリン血症やIgA欠損症、好中球機能低下なら慢性肉芽腫症、肺胞マクロファージのサーファクタント処理障害なら肺胞蛋白症、と対応づけておくといい。臨床では、高齢者の発熱や食欲低下だけでも誤嚥性肺炎を疑い、嚥下機能評価や口腔ケアまで含めて再発予防を考えることが重要だよ。

まとめ

呼吸器は咳反射・嚥下反射、粘液線毛輸送系といった物理的防御、分泌型IgAなどの液性防御、肺胞マクロファージや好中球などの細胞性防御によって守られています。高齢者肺炎の多くはサブスタンスP減少に伴う咳反射・嚥下反射の低下による不顕性誤嚥が原因であり、Kartagener症候群は線毛の構造異常による線毛運動障害で、内臓逆位・慢性副鼻腔炎・気管支拡張症を3徴とします。細菌感染である肺化膿症や細菌性胸膜炎の防御の主役は好中球で、好酸球は寄生虫・アレルギー、好塩基球はI型アレルギーに関わり、腫瘍の免疫監視は主にNK細胞や細胞傷害性T細胞が担います。疾患を「どの防御機構の破綻か」という視点で整理すると、感染を繰り返す患者の原因検索や予防策の立案に役立ちます。

解答・解説

正解はd, eです

問われているテーマ

呼吸器は外界と直接つながる臓器であり、吸入される微生物・粒子・誤嚥物から身を守る防御機構を何重にも備えている。本問は、各肺疾患が「どの防御機構の破綻・低下と結びついて発症するか」を問うものである。

気道・肺の主な防御機構

1. 物理的・機械的防御: 鼻腔での粒子捕捉、咳反射・くしゃみ反射、嚥下反射(誤嚥の防止)、粘液線毛輸送系(気道上皮の線毛運動で粘液とともに異物を咽頭側へ運び出す仕組み、mucociliary clearance)。 2. 液性防御: 分泌型IgA、リゾチーム、ラクトフェリン、サーファクタント蛋白(SP-A、SP-D)など。 3. 細胞性防御: 肺胞マクロファージ(肺胞腔内の貪食細胞で、末梢気腔に到達した微生物・粒子を処理する)、好中球(細菌感染時に動員される主役)、リンパ球(獲得免疫)。

考え方

各選択肢について、「その疾患の発症や病態を左右する防御機構として妥当か」を検討する。高齢者肺炎は咳反射・嚥下反射の低下による誤嚥が大きな要因であり、Kartagener症候群は線毛の構造異常による線毛運動障害そのものが本態である。これに対し、好塩基球や好酸球は細菌感染に対する防御の主役ではなく、肺胞マクロファージは主として感染防御・異物処理を担う細胞で、肺癌に対する防御機構として対応づけるのは適切ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  肺癌 ―― 肺胞マクロファージ

    肺胞マクロファージは肺胞腔内で吸入された細菌や粉塵などを貪食・処理し、サイトカイン産生や抗原提示を通じて自然免疫と獲得免疫の橋渡しをする細胞である。役割の中心は感染防御と異物除去であり、肺癌の発生を防ぐ防御機能として対応づけられるものではない。腫瘍に対する免疫監視を主に担うのは、ナチュラルキラー(NK)細胞や細胞傷害性T細胞である。むしろ喫煙などで肺胞マクロファージの機能が低下すると、感染に対する防御が弱くなるという関係で理解するとよい。

  2. ×b.  胸膜炎 ―― 好塩基球

    好塩基球は表面にIgE受容体をもち、ヒスタミンなどを放出してI型(即時型)アレルギー反応に関与する細胞であり、胸膜炎の防御には関与しない。胸膜炎のうち細菌性胸膜炎・膿胸では好中球が主体となり、結核性胸膜炎ではリンパ球優位の胸水(アデノシンデアミナーゼ〈ADA〉高値)が特徴となる。いずれにしても好塩基球との組合せは誤りである。

  3. ×c.  肺化膿症 ―― 好酸球

    肺化膿症(肺膿瘍)は、嫌気性菌や黄色ブドウ球菌、クレブシエラなどの細菌感染によって肺実質が壊死し、膿瘍腔を形成する疾患である。細菌に対する急性炎症で動員され、貪食・殺菌を担うのは好中球である。好酸球は寄生虫感染やアレルギー反応(気管支喘息、好酸球性肺炎など)で主役となる細胞であり、肺化膿症の防御機構とは対応しない。

  4. ○d.  高齢者肺炎 ―― 咳反射

    咳反射は、気道に入り込んだ異物や分泌物を強い呼気流で喀出する防御反射である。高齢者、特に脳血管障害の既往がある人では、大脳基底核でのドパミン代謝低下によりサブスタンスPが減少し、咳反射と嚥下反射がともに低下する。その結果、口腔内容物や胃内容物を気づかないうちに少しずつ吸い込む不顕性誤嚥が起こりやすくなり、誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)を繰り返す。高齢者肺炎の多くに誤嚥が関与しており、咳反射の低下は発症に直結する防御機能の破綻である。このため予防として口腔ケアや、咳反射を改善するACE阻害薬(サブスタンスPの分解を抑える)の使用などが知られる。

  5. ○e.  Kartagener症候群 ―― 線毛運動

    Kartagener症候群は、内臓逆位・慢性副鼻腔炎・気管支拡張症を3徴とする常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患で、原発性線毛機能不全症(primary ciliary dyskinesia〈PCD〉、かつてimmotile cilia症候群とも呼ばれた)の一型である。線毛の軸糸構造(ダイニン腕など)の先天的な異常により線毛運動が障害され、粘液線毛輸送系による異物・細菌の排除が働かなくなる。その結果、副鼻腔炎や気道感染を反復し、気管支拡張症に至る。胎生期の臓器の左右決定にも線毛運動が関わるため、約半数に内臓逆位を伴う。男性では精子鞭毛の運動障害により不妊となることが多い。まさに線毛運動という防御機能の障害が病態の本質である。

呼吸器の防御機構と関連疾患の整理

・咳反射・嚥下反射の低下 → 誤嚥性肺炎(高齢者、脳血管障害、意識障害、鎮静薬使用など) ・線毛運動の障害 → 原発性線毛機能不全症・Kartagener症候群(先天性)、喫煙・慢性気管支炎・ウイルス感染(後天性) ・粘液の性状異常 → 嚢胞性線維症(CFTR遺伝子異常で粘稠な粘液となり排出障害) ・液性免疫の低下 → 低ガンマグロブリン血症、IgA欠損症で細菌性気道感染を反復 ・好中球機能・数の低下 → 慢性肉芽腫症、化学療法後の好中球減少で細菌・真菌感染 ・肺胞マクロファージ機能の低下 → 喫煙、ステロイド使用、肺胞蛋白症(GM-CSFシグナル障害によりサーファクタント処理が障害される)

白血球の主な役割

・好中球: 細菌の貪食・殺菌(急性化膿性炎症の主役) ・好酸球: 寄生虫防御、アレルギー性炎症 ・好塩基球・肥満細胞: I型アレルギー(ヒスタミン放出) ・リンパ球: 獲得免疫、結核など慢性肉芽腫性炎症 ・単球/マクロファージ: 貪食、抗原提示、サイトカイン産生 ・NK細胞・細胞傷害性T細胞: ウイルス感染細胞・腫瘍細胞の排除

Kartagener症候群の3徴

内臓逆位、慢性副鼻腔炎、気管支拡張症。男性不妊を伴うことが多い。

POINT

・高齢者肺炎の多くは咳反射・嚥下反射の低下による誤嚥性肺炎である。 ・Kartagener症候群は線毛の構造異常による線毛運動障害で、内臓逆位・慢性副鼻腔炎・気管支拡張症を3徴とする。 ・細菌感染(肺化膿症、細菌性胸膜炎)の防御の主役は好中球。好酸球は寄生虫・アレルギー、好塩基球はI型アレルギー。 ・腫瘍に対する免疫監視を主に担うのはNK細胞や細胞傷害性T細胞であり、肺胞マクロファージの主な役割は感染防御・異物処理である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。