光は見えなくても瞳は縮む―対光反射が外側膝状体を素通りする理由
第99回医師国家試験 D問題 第40問
国試問題にチャレンジ
対光反射に関与しないのはどれか。
- a.視神経
- b.視交叉
- c.外側膝状体
- d.Edinger-Westphal核
- e.毛様体神経節
対話形式の解説
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ドクターまとめ
対光反射は、網膜から視神経・視交叉・視索を経て中脳の視蓋前核に至り、両側のEdinger-Westphal核から動眼神経、毛様体神経節、短毛様体神経を経て瞳孔括約筋を収縮させる反射です。視索までは視覚路と共通ですが、反射の線維は外側膝状体の手前で分かれるため、外側膝状体は対光反射に関与しません。そのため視放線や後頭葉の病変では皮質盲でも対光反射が保たれ、病変部位推定の手がかりになります。視神経障害ではRAPD、視蓋前域ではArgyll Robertson瞳孔、毛様体神経節ではAdie瞳孔と、部位ごとの瞳孔異常も対応づけて覚えておきましょう。反射弓を正確に理解することは、瞳孔所見から神経障害の局在を読み解く臨床力の土台になります。
解答・解説
正解はcです
対光反射(pupillary light reflex)は、片眼に光を入れると両眼の瞳孔が縮む反射である。光を当てた側の縮瞳を直接反射、反対側の縮瞳を間接反射(共感性反射)とよぶ。本問は、この反射の経路に含まれない構造を一つ選ぶ問題である。
反射弓の全体像
・受容器:網膜の視細胞と、メラノプシンを含む網膜神経節細胞(ipRGC:内因性光感受性網膜神経節細胞) ・求心路:視神経 → 視交叉(鼻側半の線維が交叉)→ 視索 ・中枢:視索の線維の一部が外側膝状体へ入らずに分かれ、上丘腕を通って中脳の視蓋前域にある視蓋前核(pretectal nucleus)でシナプスを作る。視蓋前核のニューロンは同側と、後交連を通って反対側の Edinger-Westphal 核(E-W核)の両方に投射する。 ・遠心路:E-W核(動眼神経副核、副交感性の節前ニューロン)→ 動眼神経 → 毛様体神経節(ここで節後ニューロンに乗り換え)→ 短毛様体神経 → 瞳孔括約筋
解き方の考え方
視覚(ものを見る感覚)の経路は「視神経 → 視交叉 → 視索 → 外側膝状体 → 視放線 → 後頭葉の一次視覚野」である。対光反射の経路は、視索までは視覚路と共通だが、外側膝状体の手前で枝分かれして中脳へ向かう。したがって、視覚路にのみ属し、対光反射の経路には入らない外側膝状体が正解となる。 なお、視交叉で線維が左右に分かれること、さらに視蓋前核が両側のE-W核に投射することの二段階で入力が両側に分配されるため、片眼の刺激で両眼が縮瞳する(直接反射と間接反射がそろう)。
選択肢考察
- ×a. 視神経
視神経は網膜神経節細胞の軸索の束で、光の情報を中枢へ伝える対光反射の求心路そのものである。したがって対光反射に関与する。視神経が障害されると、障害側の眼に光を入れても両眼とも縮瞳が弱く(あるいは起こらず)、健側に光を入れると両眼とも正常に縮瞳する。この左右差を交互対光反射試験(swinging flashlight test)で調べたものが相対的求心性瞳孔障害(RAPD、Marcus Gunn瞳孔)であり、視神経炎などの診断に用いられる。
- ×b. 視交叉
視交叉は左右の視神経が合流し、網膜の鼻側半に由来する線維が反対側へ交叉する部位である。対光反射の求心性線維もここを通って視索へ入るため、対光反射に関与する。視交叉で片眼からの入力が左右両側の視索に分配されることは、間接反射が成立する理由の一つである(もう一つは視蓋前核から両側のE-W核への投射)。
- ○c. 外側膝状体
外側膝状体は視床にある中継核で、視索の線維を受けて視放線を介して後頭葉の一次視覚野へ送る。つまり、ものを見るための視覚路の中継点である。対光反射の求心性線維は外側膝状体に入る手前で視索から分かれ、上丘腕を経て中脳の視蓋前核へ向かうので、外側膝状体を通らない。このため外側膝状体より後方(視放線や後頭葉)の病変では視野欠損や皮質盲が起きても、対光反射は保たれる。以上から、対光反射に関与しないのは外側膝状体である。
- ×d. Edinger-Westphal核
Edinger-Westphal核(E-W核、動眼神経副核)は中脳にある副交感性の節前ニューロンの核で、対光反射の遠心路の出発点である。両側の視蓋前核から入力を受け、その軸索は動眼神経に含まれて眼窩内の毛様体神経節へ向かう。求心性の視神経線維が直接E-W核にシナプスを作るのではなく、間に視蓋前核が入る点に注意する。E-W核は対光反射に関与する。
- ×e. 毛様体神経節
毛様体神経節は眼窩内にある副交感神経節で、E-W核から動眼神経を通って来た節前線維がここで節後ニューロンにシナプスを作る。節後線維は短毛様体神経として眼球に入り、瞳孔括約筋を収縮させて縮瞳を起こす(毛様体筋にも分布し、調節にも関わる)。したがって対光反射の遠心路の一部であり、関与する。毛様体神経節やその節後線維の障害では、対光反射が消失あるいは極めて緩徐になり、近見反応での縮瞳は比較的保たれる瞳孔緊張症(Adie瞳孔)を呈する。
対光反射の経路のまとめ
網膜 → 視神経 → 視交叉 → 視索 → (上丘腕)→ 視蓋前核 → 両側のE-W核 → 動眼神経(副交感性節前線維)→ 毛様体神経節 → 短毛様体神経(節後線維)→ 瞳孔括約筋 → 縮瞳
視覚路との比較
視覚路:網膜 → 視神経 → 視交叉 → 視索 → 外側膝状体 → 視放線 → 後頭葉一次視覚野(鳥距溝周囲) 両者は視索までを共有し、その先で分岐する。このため、 ・視神経〜視索の障害:視覚障害とともに対光反射も障害されうる ・外側膝状体・視放線・後頭葉の障害:視野障害や皮質盲があっても対光反射は正常 という違いが生じる。皮質盲の患者で対光反射が保たれることは、病変部位を推定する手がかりになる。
瞳孔を支配する自律神経
・縮瞳:副交感神経(E-W核 → 動眼神経 → 毛様体神経節 → 瞳孔括約筋) ・散瞳:交感神経(視床下部 → 脳幹・頸髄を下行 → 毛様脊髄中枢(C8〜T2)→ 上頸神経節 → 内頸動脈に沿って上行 → 瞳孔散大筋)。この経路の障害でHorner症候群(縮瞳、眼瞼下垂、同側顔面の発汗低下)が生じる。
部位別の代表的な瞳孔異常
・視神経:相対的求心性瞳孔障害(RAPD、Marcus Gunn瞳孔) ・視蓋前域(中脳背側):Argyll Robertson瞳孔。縮瞳した瞳孔で、対光反射は消失するが輻湊(近見)反応は保たれる(light-near dissociation)。神経梅毒で有名で、糖尿病などでもみられる。 ・動眼神経:散瞳と対光反射消失に、眼瞼下垂や眼球運動障害を伴う。瞳孔線維は動眼神経の表層を走るため、内頸動脈-後交通動脈分岐部の動脈瘤などによる圧迫では早期から散瞳が出やすい。 ・毛様体神経節:Adie瞳孔(瞳孔緊張症)。散瞳、対光反射の消失または緩徐化、近見反応はゆっくり保たれる。深部腱反射消失を伴うものはHolmes-Adie症候群とよぶ。
近見反応との違い
近見反応(輻湊・調節・縮瞳)は後頭葉など大脳皮質を経由する経路が関与するとされ、視蓋前核を経由する対光反射とは経路が一部異なる。これがArgyll Robertson瞳孔で対光反射と近見反応が解離する理由である。
POINT
・対光反射の求心路:視神経 → 視交叉 → 視索 → 視蓋前核 ・対光反射の遠心路:E-W核 → 動眼神経 → 毛様体神経節 → 短毛様体神経 → 瞳孔括約筋 ・外側膝状体・視放線・後頭葉は視覚路であり、対光反射の経路には含まれない(皮質盲でも対光反射は保たれる) ・視交叉での交叉と、視蓋前核から両側E-W核への投射により、片眼への光刺激で両眼が縮瞳する ・部位と瞳孔異常の対応:視神経=RAPD、視蓋前域=Argyll Robertson瞳孔、毛様体神経節=Adie瞳孔
