駅名を唱えて椅子を回す5歳児―「三つ組」で読み解く小児自閉症
第99回医師国家試験 A問題 第6問
国試問題にチャレンジ
5歳の男児。会話が成立しないことを心配した母親に連れられて来院した。乳児期から喃語が少なく,視線が合わなかった。3歳児健康診査では運動発達に問題はないが,言葉の遅れを指摘された。母親によると,着衣,道順および物の並び方がいつもと違うと興奮して暴れ,水に触って奇声をあげるという。診察中,問いかけには答えず,鉄道の駅名を次々に言いながら回転椅子を回し続けている。 最も考えられるのはどれか。
- a.小児自閉症
- b.知的発達障害
- c.パニック障害
- d.Asperger症候群
- e.注意欠陥多動性障害
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
乳児期からの視線の合わなさや問いかけへの無反応(社会性の障害)、喃語の少なさや会話の不成立(言語・コミュニケーションの障害)、道順や配置へのこだわり・駅名の羅列・回転椅子を回し続ける行動(限定された興味と常同行動)がそろえば、自閉症を考えます。出題当時の分類では、言語発達の遅れを伴うものが小児自閉症、伴わず知的水準が保たれるものがAsperger症候群とされ、現在はDSM-5・ICD-11でともに自閉スペクトラム症に統合されています。知的発達障害は運動を含む全般的な遅れが基本で、ADHDは不注意・多動・衝動性、パニック障害は青年期以降の予期しない不安発作であり、病像が異なります。支援は早期発見と療育、構造化された環境づくり、家族支援が中心で、易刺激性が強い場合に薬物療法を併用することがあります。「どの領域が遅れているか」と「質的な異常があるか」の2軸で発達を評価する視点は、乳幼児健診や小児科診療の基本となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
患児は5歳の男児で、主訴は「会話が成立しない」ことである。病歴と診察所見を、自閉症の診断で重視される3つの領域(いわゆるWingの三つ組)に沿って整理する。 (1) 対人的相互反応(社会性)の障害 ・乳児期から視線が合わない(アイコンタクトの乏しさ) ・診察中、問いかけに応じない (2) 言語・コミュニケーションの障害 ・乳児期から喃語が少ない ・3歳児健康診査で言葉の遅れを指摘されている ・5歳になっても会話が成立しない。一方で駅名を次々に口にしており、発語そのものはあるが、相手とのやりとりに使われていない(一方的・常同的な言語使用) (3) 限定された興味と反復的・常同的な行動(こだわり) ・着衣、道順、物の並び方がいつもと違うと興奮して暴れる(同一性保持へのこだわり) ・鉄道の駅名を羅列する(興味の著しい限局) ・回転椅子を回し続ける(常同的な反復行動) さらに、水に触れると奇声をあげるという感覚刺激への過敏または特異な反応もみられる。一方、運動発達には問題がないとされている。
診断へのプロセス
社会性の障害、コミュニケーションの障害、こだわり・常同行動の3領域すべてがそろい、しかも乳児期という早期から症状が現れている。これは広汎性発達障害(現在の自閉スペクトラム症)の特徴である。広汎性発達障害の中で、言語発達の遅れを伴うものが小児自閉症(自閉性障害)、言語発達の遅れを伴わず知的水準も保たれるものがAsperger症候群と区別されていた。本例は喃語の少なさや3歳時の言葉の遅れなど、言語発達の遅れが明らかであるため、小児自閉症と判断する。
考え方
発達の問題を訴える小児では、「どの領域の発達が遅れているか(言語のみか、運動も含めた全般か)」と「質的な異常(社会性の障害、こだわり)があるか」の2点で鑑別を進める。運動発達が正常で言語の遅れがあり、さらに対人関係の質的異常とこだわりがあれば、自閉症を第一に考える。
選択肢考察
- ○a. 小児自閉症
乳児期からの視線の合いにくさと問いかけへの無反応(対人的相互反応の障害)、喃語の少なさと言葉の遅れ(言語・コミュニケーションの障害)、道順や物の配置へのこだわり・駅名の羅列・回転椅子を回し続ける行動(限定された興味と常同行動)がそろっている。3歳以前からの発症、運動発達は正常、感覚刺激への過敏な反応という点も典型的であり、言語発達の遅れを伴う点からAsperger症候群ではなく小児自閉症と診断できる。
- ×b. 知的発達障害
知的発達障害(精神遅滞、知的能力障害)は知的機能と適応機能が全般的に遅れる状態で、言葉だけでなく運動発達などの遅れも伴いやすく、周産期異常(仮死や低出生体重)や染色体異常などが背景となることがある。本例は運動発達が正常で、遅れが言語に偏っている。また、知的発達障害単独では、本例のような視線の合わなさを中心とする対人関係の質的な障害や、同一性保持への強いこだわりは中心的な症状とならない。なお自閉症には知的障害を合併することが多いが、本例の病像全体を説明するのは自閉症である。
- ×c. パニック障害
パニック障害は、予期しないパニック発作(突然起こる激しい不安とともに動悸、息苦しさ、発汗、死の恐怖などが出現し、通常数分〜数十分でピークに達する)を繰り返し、「また起こるのではないか」という予期不安や回避行動を伴う不安障害である。かつては不安神経症に含まれていた。発症は青年期から成人早期に多く、乳児期からの発達の偏りや言語の遅れとは無関係である。本例の「いつもと違うと興奮して暴れる」のは、こだわりが崩れたことに対する混乱(いわゆるパニック状態)であり、パニック障害とは別物である。
- ×d. Asperger症候群
Asperger症候群も広汎性発達障害の一型で、対人的相互反応の障害と限定された興味・こだわりをもつ点は自閉症と共通する。しかし、臨床的に明らかな言語発達の遅れがなく(2歳までに単語、3歳までに2語文が出る程度の発達)、知的水準も正常〜正常以上であることが定義上の区別点であった。本例は喃語が少なく3歳時点で言葉の遅れを指摘され、5歳でも会話が成立しないため、Asperger症候群には当てはまらない。
- ×e. 注意欠陥多動性障害
注意欠陥多動性障害(ADHD:attention-deficit/hyperactivity disorder、現在は注意欠如・多動症)は、不注意、多動性、衝動性を中核症状とし、落ち着きのなさや忘れ物・順番を待てないなどが複数の場面でみられる。学習障害の合併が多い。本例のような乳児期からの視線の合わなさ、言語発達の遅れ、同一性保持へのこだわりや常同行動はADHDの特徴ではなく、病像が異なる。
広汎性発達障害と自閉スペクトラム症
本問が出題された当時の診断体系(ICD-10、DSM-IV)では、社会性・コミュニケーション・想像力(こだわり)の3領域の障害を示す一群を広汎性発達障害とよび、そのなかに小児自閉症(自閉性障害)、Asperger症候群、Rett症候群、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害などが含まれていた。 2013年のDSM-5では、これらのうち自閉症、Asperger症候群、特定不能の広汎性発達障害などが「自閉スペクトラム症(ASD:autism spectrum disorder)」に統合された。診断基準は、(A) 社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応の持続的な欠陥、(B) 限定された反復的な行動・興味・活動(常同行動、同一性へのこだわり、限局した興味、感覚刺激への過敏または鈍麻を含む)の2領域に整理され、症状が発達早期から存在することが求められる。言語の遅れや知的障害の有無は、診断名ではなく「伴う/伴わない」という特定用語で記載される。ICD-11でも同様に自閉スペクトラム症に一本化されている。
自閉症の臨床像
・男児に多い(男女比はおよそ4:1とされる)。 ・乳児期:視線が合わない、あやしても笑わない、抱かれるのを嫌がる、人見知りをしない、指さしをしない(共同注意の欠如)。 ・言語:始語の遅れ、オウム返し(エコラリア)、代名詞の逆転、抑揚の乏しい話し方、一方的な話し方。 ・行動:手をひらひらさせる、くるくる回る、物を一列に並べる、日課や道順の変更を嫌う。 ・感覚:特定の音や触覚への過敏、痛みへの鈍感など。 ・知的障害やてんかんを合併することがある。
治療・支援の考え方
根本的な治療薬はなく、早期発見と療育(行動療法的アプローチ、構造化された環境での指導:TEACCHなど)、家族への支援が中心である。易刺激性(かんしゃく、自傷、攻撃性)が強い場合にはリスペリドンやアリピプラゾールなどの薬物療法が用いられることがある。
POINT
・自閉症の中核:対人的相互反応の障害、コミュニケーション(言語)の障害、限定された興味と常同・反復行動(こだわり)。症状は乳幼児期から現れる。 ・視線が合わない、喃語が少ない、道順・配置へのこだわり、常同行動、感覚過敏がそろえば自閉症を考える。 ・言語発達の遅れあり → 小児自閉症、遅れなし・知能正常 → Asperger症候群(現在はともに自閉スペクトラム症)。 ・知的発達障害は運動を含む全般的な遅れが基本、ADHDは不注意・多動・衝動性、パニック障害は青年期以降の予期しない不安発作。
