「また起きたら…」が人生を縛る―パニック障害の本当のつらさは発作の後にある
第99回医師国家試験 A問題 第5問
国試問題にチャレンジ
25歳の女性。突発する動悸,めまいおよび呼吸困難を主訴に来院した。症状は1か月前の運転中に起こり,その後同様の症状をたびたび経験するようになった。同時に「このまま死んでしまうかもしれない」という恐怖感に襲われるという。尿,血液および血液生化学所見に異常を認めない。心電図,胸部エックス線写真,頭部MRIおよび脳波に異常を認めない。 この疾患でよくみられるのはどれか。2つ選べ。
- a.強迫観念
- b.広場恐怖
- c.予期不安
- d.心気妄想
- e.けいれん発作
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
突然の動悸・呼吸困難・めまいに死の恐怖を伴う発作を繰り返し、心電図・血液検査・頭部MRI・脳波などで身体疾患が否定されればパニック障害を考えます。パニック障害では発作そのものに加え、「また起きるのでは」という予期不安と、発作時に逃げられない・助けが得られない場所や状況を避ける広場恐怖がよくみられ、予期不安が回避を生む悪循環が生活上の支障を大きくします。強迫観念は強迫性障害、心気妄想は重症うつ病の微小妄想、けいれん発作はてんかんなどに特徴的であり、パニック発作ではけいれんや意識消失は通常起こりません。治療はSSRIと認知行動療法が中心で、発作で死ぬことはないと伝える心理教育も重要です。身体疾患をきちんと除外したうえで精神疾患を見逃さない姿勢は、救急や一般外来でも求められる大切な臨床判断です。
解答・解説
正解はb, cです
所見の整理
・25歳女性。動悸・めまい・呼吸困難が突然起こる。 ・初回は1か月前の運転中で、その後も同様の発作を繰り返している。 ・発作時には「このまま死んでしまうかもしれない」という強い恐怖感を伴う。 ・尿・血液・血液生化学、心電図、胸部エックス線、頭部MRI、脳波のいずれにも異常がない。
診断へのプロセス
突然始まり数分でピークに達する激しい不安発作で、動悸・呼吸困難・めまいなどの自律神経症状と「死ぬのではないか」という恐怖を伴うものをパニック発作という。まず除外すべきなのは、同様の症状を起こす身体疾患である。不整脈・虚血性心疾患(心電図、胸部エックス線)、甲状腺機能亢進症や低血糖などの代謝・内分泌疾患(血液・生化学検査)、てんかん発作や脳血管障害(脳波、頭部MRI)などが挙げられるが、本例ではいずれも異常がない。さらに、発作は予期せず繰り返し起きている。以上から、パニック障害(パニック症)と診断される。
設問の考え方
パニック障害では、発作そのものに加えて、「また発作が起きたらどうしよう」という予期不安と、発作が起きたときに逃げられない・助けを得られない場所や状況を恐れて避ける広場恐怖が生じ、これらが生活上の支障を大きくする。本例も運転中に初回発作が起きており、今後は運転や乗り物を避けるようになる可能性が高い。強迫観念、心気妄想、けいれん発作は、それぞれ別の疾患に特徴的な症状である。
選択肢考察
- ×a. 強迫観念
強迫観念とは、不合理だと本人も分かっていながら、意思に反して繰り返し浮かんで払いのけられない考えやイメージ(例:手が汚れているのではないか、鍵をかけ忘れたのではないか)である。それを打ち消すために行う繰り返しの行為が強迫行為であり、両者は強迫性障害(強迫症)の中心症状である。パニック障害に特徴的な症状ではない。
- ○b. 広場恐怖
広場恐怖は、パニック発作のような症状が起きたときに逃げ出すことが難しい、あるいは助けが得られない場所や状況(電車・バスなどの公共交通機関、車の運転、人混み、行列、映画館、エレベーター、一人での外出など)を恐れ、避けるようになる状態である。「広場」という名称だが、広い場所そのものへの恐怖ではない。パニック障害に高率に合併し、重症例では外出できなくなり社会生活が大きく制限される。本例でも初回発作が運転中に起きており、運転を避けるようになりうる。なお、DSM-5以降は広場恐怖症はパニック症と独立した診断として扱われ、両者が併存する場合は双方を診断する。
- ○c. 予期不安
予期不安は、発作を一度経験した後に「また発作が起きるのではないか」「次は本当に死ぬのではないか」と、まだ起きていない発作を恐れて持続的に不安を抱く状態である。パニック障害の中核的な症状の一つであり、DSM-5の診断基準でも、発作後1か月以上にわたる「さらなる発作やその結果についての持続的な懸念」または「発作に関連した不適応的な行動変化(回避など)」が求められている。予期不安が回避行動を生み、広場恐怖へと発展していく。
- ×d. 心気妄想
心気妄想は、「自分は不治の病にかかっている」「内臓が腐っている」などと、根拠なく重い病気にかかっていると確信し、訂正ができない妄想である。重症のうつ病(精神病性の特徴を伴ううつ病)で罪業妄想・貧困妄想とともにみられる微小妄想の一つとして知られ、統合失調症などでもみられる。一方、身体の病気ではないかという心配にとらわれる心気症(病気不安症)の心配は、訂正の余地がある点で妄想とは区別される。パニック障害の患者も発作中は死の恐怖を抱くが、これは発作に伴う恐怖であり、発作が治まれば訂正可能であるため妄想ではない。
- ×e. けいれん発作
けいれん発作は、てんかんや、低血糖・電解質異常・脳炎など脳の器質的・代謝的異常によって生じる。パニック発作ではけいれんや意識消失は通常起こらない(過換気による手足のしびれやテタニー様の手指の硬直を感じることはあるが、てんかん性のけいれんとは異なる)。本例は脳波・頭部MRIとも正常であり、てんかんは否定的である。
パニック障害(パニック症)の概要
・好発:20〜30歳代に発症することが多く、女性に多い(男性の約2倍)。 ・パニック発作:突然強い恐怖や不快感が起こり、数分以内にピークに達する。症状として、動悸・心拍数増加、発汗、身震い、息切れ・息苦しさ、窒息感、胸痛・胸部不快感、嘔気・腹部不快感、めまい・ふらつき、寒気・熱感、しびれ・うずき、現実感消失・離人感、「コントロールを失う」「気が狂う」ことへの恐怖、死ぬことへの恐怖があり、DSM-5では13項目中4項目以上で発作とみなす。 ・診断:予期しないパニック発作が繰り返し起こり、少なくとも1回の発作の後、1か月以上にわたって予期不安(さらなる発作への懸念)や回避などの行動変化が続く。身体疾患や薬物(カフェイン、覚醒剤など)による症状を除外する。
除外すべき身体疾患
不整脈、狭心症、甲状腺機能亢進症、低血糖、褐色細胞腫、気管支喘息、てんかんなど。
治療
・薬物療法:選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が第一選択。即効性を期待してベンゾジアゼピン系抗不安薬を短期間併用することがあるが、依存形成に注意する。 ・精神療法:認知行動療法(発作症状についての誤った解釈の修正、恐れている状況へ段階的に身をさらす曝露療法など)が有効。 ・疾患についての説明(心理教育):発作で死ぬことはないことを伝え、安心させる。
関連用語の整理
・強迫観念・強迫行為 → 強迫性障害 ・心気妄想(微小妄想の一つ) → 重症うつ病など ・予期不安・広場恐怖 → パニック障害
POINT
・突然の動悸・呼吸困難・めまい+死の恐怖、身体的検査は異常なし → パニック障害。 ・パニック障害でよくみられるのは予期不安(また起きるのではという不安)と広場恐怖(逃げられない場所・状況の回避)。 ・パニック発作ではけいれん・意識消失は起こらない。 ・強迫観念は強迫性障害、心気妄想はうつ病(微小妄想)で出題されやすい。 ・治療は SSRI と認知行動療法が中心。
