低カリウムなのに血圧は低い―尿のカルシウムが見分けるGitelman症候群
第99回医師国家試験 A問題 第36問
国試問題にチャレンジ
22歳の女性。脱力感と手のしびれとを主訴に来院した。意識は清明。身長160cm,体重38kg。体温36.5℃。脈拍76/分,整。血圧94/50mmHg。浮腫を認めない。尿所見:蛋白(-),糖(-),潜血(-),沈渣に異常を認めない。血液所見:赤血球390万,Hb 13.2g/dL,Ht 36%,白血球7,000,血小板30万。血液生化学所見:総蛋白7.0g/dL,アルブミン4.5g/dL,尿素窒素16mg/dL,クレアチニン0.8mg/dL,総コレステロール160mg/dL,トリグリセリド90mg/dL,AST 21U/L,ALT 18U/L,γ-GTP 30U/L(基準8~50),Na 147mEq/L,K 2.5mEq/L,Cl 101mEq/L,Ca 9.0mg/dL,P 3.0mg/dL,Mg 1.2mg/dL(基準1.6~2.6)。動脈血ガス分析(自発呼吸,room air):pH 7.48,PaO2 96Torr,PaCO2 47Torr,HCO3- 34mEq/L。血漿レニン活性7ng/mL/時間(基準1.2~2.5),アルドステロン50ng/dL(基準5~10),尿中カルシウム・クレアチニン排泄比0.1以下(基準0.1~0.2)。 最も考えられるのはどれか。
- a.原発性アルドステロン症
- b.Fanconi症候群
- c.Bartter症候群
- d.Gitelman症候群
- e.Liddle症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
低カリウム血症と代謝性アルカローシスの鑑別では、まず血圧とレニン・アルドステロンの組み合わせで分類し、高血圧・低レニンなら原発性アルドステロン症やLiddle症候群、正常〜低血圧・高レニン・高アルドステロンなら嘔吐、利尿薬、Bartter症候群、Gitelman症候群を考えます。Gitelman症候群は遠位曲尿細管のサイアザイド感受性Na-Cl共輸送体の機能喪失による常染色体潜性遺伝疾患で、低カルシウム尿症と低マグネシウム血症、思春期以降の発症が特徴です。これに対しBartter症候群はHenleループ太い上行脚の障害でループ利尿薬様の病態となり、高カルシウム尿症や乳幼児期発症・成長障害を伴い、Fanconi症候群は代謝性アシドーシスを示す点で区別されます。やせ型の若年女性では嘔吐や利尿薬・下剤の乱用を必ず除外する必要があり、輸送体と利尿薬の作用部位を結びつけて理解することが、電解質異常の鑑別を確実にする近道です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
若年女性が脱力感と手のしびれで受診している。身長160cm・体重38kgとやせ型で、血圧94/50mmHgと低めであり、浮腫はない。検査の要点は次のとおりである。 ・低カリウム(K)血症:K 2.5mEq/L(基準3.5〜5.0程度)。脱力感は低K血症による筋力低下で説明できる。 ・低マグネシウム(Mg)血症:Mg 1.2mg/dL(基準1.6〜2.6)。 ・代謝性アルカローシス:pH 7.48と上昇し、HCO3− 34mEq/Lと増加している。PaCO2 47Torrの上昇は、アルカローシスを打ち消そうとして換気を抑える呼吸性代償である。 ・高レニン・高アルドステロン:血漿レニン活性(PRA)7ng/mL/時間、アルドステロン50ng/dLといずれも高値である。 ・低カルシウム(Ca)尿症:尿中Ca/クレアチニン比が0.1以下と低下している。血清Caは9.0mg/dLで正常である。 ・尿蛋白陰性、血清アルブミン正常、肝機能正常で、腎機能(クレアチニン0.8mg/dL)も保たれている。
診断へのプロセス
1. 低K血症+代謝性アルカローシスがあり、レニンとアルドステロンがともに高い。つまりレニンに引っ張られてアルドステロンが増えている「続発性アルドステロン症」の型である。レニンが抑制される原発性アルドステロン症や、レニン・アルドステロンがともに低いLiddle症候群などとはここで分かれる。 2. 続発性アルドステロン症なのに血圧は低い。高血圧を伴う続発性アルドステロン症(腎血管性高血圧、レニン産生腫瘍など)ではなく、有効循環血液量が減っている状態を考える。候補はネフローゼ症候群・肝硬変・心不全、嘔吐や利尿薬の使用、そして塩類喪失性尿細管疾患であるBartter症候群とGitelman症候群である。 3. 尿蛋白陰性・アルブミン正常からネフローゼ症候群は否定的であり、肝機能・アルブミン正常から肝硬変も考えにくい。浮腫もなく心不全を思わせる所見もない。嘔吐や利尿薬の記載もないため、尿細管からの塩類喪失が最も考えやすい。 4. Bartter症候群とGitelman症候群を分けるポイントは、尿中Ca排泄、血清Mg、発症年齢である。本例は低Ca尿症と低Mg血症があり、22歳という思春期以降の発症で、身長も正常で成長障害を示唆しない。これらはGitelman症候群に典型的である。手のしびれは、低Mg血症やアルカローシスに伴う神経筋の興奮性亢進(テタニー様症状)と考えられる。 以上から、最も考えられる診断はGitelman症候群である。
設問の考え方
低K血症・代謝性アルカローシスの鑑別では、まず「血圧」と「レニン・アルドステロン」の組み合わせで大きく分類し、次に尿中Ca・血清Mgなどの補助所見で絞り込むのが定石である。
選択肢考察
- ×a. 原発性アルドステロン症
副腎からアルドステロンが自律的に過剰分泌される疾患で、低K血症と代謝性アルカローシスをきたす点は本例と共通する。しかし、アルドステロン過剰によりNaと水が貯留して高血圧となり、循環血液量が増えるためレニンは強く抑制される(低レニン)。本例は血圧94/50mmHgと低く、レニン活性が高値であり、合致しない。
- ×b. Fanconi症候群
近位尿細管の再吸収機能が全般的に障害される疾患で、ブドウ糖・アミノ酸・リン酸・尿酸・HCO3−などが尿中に失われる。HCO3−の喪失により近位尿細管性アシドーシス(2型RTA)を伴う代謝性アシドーシスとなり、腎性糖尿(血糖正常での尿糖陽性)や低リン血症を示す。本例は代謝性アルカローシスで、尿糖陰性、血清Pも3.0mg/dLと正常であり、合致しない。
- ×c. Bartter症候群
Henleループの太い上行脚でのNaCl再吸収(NKCC2などを介する)が障害される疾患で、低K血症・代謝性アルカローシス・高レニン・高アルドステロン・正常〜低血圧を示す点は本例と共通する。しかし太い上行脚はCaの傍細胞性再吸収の場でもあるため、Bartter症候群では尿中Ca排泄が増加(高Ca尿症)し、腎石灰化を伴うこともある。また多くは出生前〜乳幼児期に発症し、羊水過多や成長障害を伴う。本例は低Ca尿症を示し、成人発症で成長障害もないため、Gitelman症候群の方が考えやすい。低Mg血症はBartter症候群でもみられることはあるが、頻度・程度はGitelman症候群の方が目立つ。
- ○d. Gitelman症候群
遠位曲尿細管のサイアザイド感受性Na-Cl共輸送体(NCC、遺伝子SLC12A3)の機能喪失による常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。NaCl喪失で循環血液量が減少し、レニン・アルドステロンが上昇するため、低K血症・代謝性アルカローシスをきたすが血圧は正常〜低めとなる。特徴的なのは低Ca尿症と低Mg血症で、サイアザイド系利尿薬を持続的に服用したのと同様の病態である。思春期以降から成人に、脱力・テタニー・しびれなどで見つかることが多い。本例の低血圧、低K血症、代謝性アルカローシス、高レニン・高アルドステロン、低Mg血症、低Ca尿症、22歳での発症はすべてこれに合致する。
- ×e. Liddle症候群
集合管の上皮型Naチャネル(ENaC、アミロライド感受性Naチャネル)の機能獲得型変異による常染色体顕性(優性)遺伝疾患である。Na再吸収が過剰となり、低K血症・代謝性アルカローシスを伴う若年性高血圧をきたす。体液量が増えるため、レニン・アルドステロンはともに低下する(偽性アルドステロン症)。本例は低血圧で、レニン・アルドステロンが高値であり、合致しない。治療にはアミロライドやトリアムテレンが有効で、スピロノラクトンは効かない。
低K血症+代謝性アルカローシスの鑑別の枠組み
1. 高血圧+低レニン+高アルドステロン:原発性アルドステロン症 2. 高血圧+低レニン+低アルドステロン:Liddle症候群、偽アルドステロン症(甘草・グリチルリチン)、Cushing症候群、先天性副腎過形成の一部(11β-水酸化酵素欠損症、17α-水酸化酵素欠損症)、見かけの鉱質コルチコイド過剰症候群(AME)など 3. 高血圧+高レニン+高アルドステロン:腎血管性高血圧、レニン産生腫瘍、悪性高血圧 4. 正常〜低血圧+高レニン+高アルドステロン:嘔吐、利尿薬、Bartter症候群、Gitelman症候群
Bartter症候群とGitelman症候群の比較
・障害部位:Bartter症候群はHenleループの太い上行脚(NKCC2、ROMK、ClC-Kb、barttinなど)。Gitelman症候群は遠位曲尿細管のNCC。 ・類似する利尿薬:Bartter症候群はループ利尿薬(フロセミド)、Gitelman症候群はサイアザイド系利尿薬。 ・尿中Ca排泄:Bartter症候群は増加(腎石灰化を伴うことあり)、Gitelman症候群は低下。 ・血清Mg:Bartter症候群は正常のことが多い、Gitelman症候群は低下が目立つ。 ・発症時期:Bartter症候群は胎児期〜乳幼児期が多い(羊水過多、早産、成長障害)、Gitelman症候群は学童〜成人期。 ・重症度:Bartter症候群の方が一般に重く、Gitelman症候群は軽症で無症状のこともある。 ・尿の濃縮力:Bartter症候群では障害される(多尿)。
鑑別上の注意
嘔吐(尿中Clが低い)や利尿薬の隠れた使用(尿中Cl高値となり、薬物中止で改善する)は、Bartter/Gitelman症候群との鑑別で必ず除外する。やせ型の若年女性では摂食障害や自己誘発性嘔吐、利尿薬・下剤の乱用も鑑別に挙がる。
Gitelman症候群の治療
K製剤とMg製剤の補充が基本で、必要に応じてカリウム保持性利尿薬(スピロノラクトン、アミロライドなど)や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を併用する。
POINT
・低K血症+代謝性アルカローシス+高レニン・高アルドステロン+正常〜低血圧 → Bartter症候群またはGitelman症候群を考える。 ・低Ca尿症+低Mg血症+思春期以降の発症 → Gitelman症候群(遠位曲尿細管NCC障害、サイアザイド様)。 ・高Ca尿症+乳幼児期発症・成長障害 → Bartter症候群(Henle上行脚障害、ループ利尿薬様)。 ・原発性アルドステロン症とLiddle症候群は高血圧+低レニン。 ・Fanconi症候群は代謝性アシドーシス(近位尿細管性アシドーシス)。
