治療しない勇気―偶然見つかったM蛋白とMGUSの向き合い方
第99回医師国家試験 A問題 第34問
国試問題にチャレンジ
71歳の男性。感冒症状のため近医を受診した際に赤沈の亢進を指摘され,精査のため来院した。3年前に大腸ポリープの内視鏡切除術を受けた。自覚症状はなく,全身状態も良好である。尿所見:蛋白(-),糖(-)。血液所見:赤沈45mm/1時間,赤血球435万,Hb 14.7g/dL,Ht 43%,白血球7,100,血小板19万。血液生化学所見:総蛋白8.2g/dL,アルブミン4.3g/dL,IgG 2,235mg/dL(基準960~1,960),IgA 356mg/dL(基準110~410),IgM 150mg/dL(基準65~350),尿素窒素12mg/dL,クレアチニン1.0mg/dL,総ビリルビン0.9mg/dL,AST 20U/L,ALT 18U/L,LD 243U/L(基準176~353)。CRP 0.1mg/dL。血清免疫電気泳動写真を別に示す。 対応として適切なのはどれか。

- a.経過観察
- b.化学療法
- c.ステロイドパルス療法
- d.血漿交換
- e.自家造血幹細胞移植
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
CRPが正常なのに赤沈だけが亢進している場合は、炎症以外に高グロブリン血症を考え、免疫電気泳動でM-bowを認めればM蛋白血症と判断します。M蛋白が3g/dL未満で正常免疫グロブリンの抑制がなく、高カルシウム血症・腎障害・貧血・骨病変といったCRAB症状がなければ、意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)と考えます。MGUSは治療による予後改善の根拠がないため経過観察が適切ですが、年約1%で多発性骨髄腫などへ進展するため、M蛋白量や血算、腎機能、カルシウムの定期的な確認が欠かせません。化学療法や自家造血幹細胞移植は症候性骨髄腫に、血漿交換は過粘稠度症候群に用いる治療であり、治療適応は「M蛋白の有無」ではなく「臓器障害の有無」で決まります。この考え方は、検査異常を見つけたときに過剰診療を避けつつ見逃しも防ぐという、臨床判断の基本を教えてくれます。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・71歳男性。感冒で受診した際に赤沈亢進を偶然指摘された。自覚症状はなく、全身状態は良好。 ・赤沈45mm/1時間と亢進しているが、CRP 0.1mg/dLと炎症反応はない → 赤沈亢進の原因は炎症ではなく、血漿中の免疫グロブリン(γグロブリン)の増加と考えられる。 ・総蛋白8.2g/dLとやや高値、アルブミンは正常 → グロブリン分画の増加。 ・IgG 2,235mg/dLと軽度上昇し、IgA・IgMは基準範囲内で低下していない。 ・血清免疫電気泳動でIgGの沈降線が局所的に弓状に張り出す像(M-bow)を認める → 単一の形質細胞クローンが産生する均一な免疫グロブリン(M蛋白)の存在を示す。 ・一方で、貧血なし(Hb 14.7g/dL)、腎機能正常(クレアチニン1.0mg/dL)、尿蛋白陰性、白血球・血小板正常、LD正常、骨痛などの症状なし。
診断へのプロセス
M蛋白血症をみたら、多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症、ALアミロイドーシスなどの腫瘍性疾患と、意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(monoclonal gammopathy of undetermined significance:MGUS)とを鑑別する。 多発性骨髄腫では、高カルシウム血症(C)、腎障害(R)、貧血(A)、骨病変(B)の「CRAB症状」などの臓器障害を伴い、M蛋白量が多く、正常な免疫グロブリン(本例ではIgA・IgM)が抑制されて低下することが多い。本例はIgGの上昇が軽度(M蛋白量は3g/dL未満と推定される)で、正常免疫グロブリンの抑制がなく、貧血・腎障害などの臓器障害もない。IgGのM蛋白であるためマクログロブリン血症(IgM型)も否定的である。以上からMGUSと考えられる。
設問の考え方
MGUSは腫瘍による臓器障害のない前がん状態であり、治療介入によって予後が改善するという根拠はない。したがって治療は行わず、多発性骨髄腫などへの進展を早期に捉えるための定期的な経過観察を行う。
選択肢考察
- ○a. 経過観察
適切。MGUSは臓器障害を伴わないため治療適応はない。ただし多発性骨髄腫、ALアミロイドーシス、原発性マクログロブリン血症などへ年におよそ1%の割合で進展し、この危険は生涯続く。そのため、定期的に血清M蛋白量、血算(貧血)、腎機能、血清カルシウム、尿蛋白(Bence Jones蛋白)などを確認し、M蛋白の増加やCRAB症状の出現がないかを監視する。進展の危険度はM蛋白量(1.5g/dL以上)、IgG以外の型、血清遊離軽鎖(FLC)比の異常の有無で層別化され、本例のようなIgG型でM蛋白量が少ないものは低リスクである。
- ×b. 化学療法
不適切。化学療法(プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38抗体などを含む抗骨髄腫療法)は、CRAB症状などの臓器障害や骨髄腫診断事象を満たす症候性多発性骨髄腫に対して行う。無症状のMGUSに行っても予後改善の根拠はなく、骨髄抑制や感染症などの副作用による不利益のほうが大きい。
- ×c. ステロイドパルス療法
不適切。ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン大量点滴静注)は、急速進行性糸球体腎炎、全身性エリテマトーデスの重症臓器病変、多発性硬化症の急性増悪など、急速に進行する炎症性・免疫性疾患に用いる。副腎皮質ステロイド(デキサメタゾンなど)は多発性骨髄腫の治療薬の一つとして併用されるが、治療適応のないMGUSには用いない。
- ×d. 血漿交換
不適切。M蛋白血症で血漿交換を行うのは、大量のM蛋白により血液の粘稠度が上がり、視力障害・頭痛・意識障害・出血傾向などを来す過粘稠度症候群のときである。原発性マクログロブリン血症(IgMは五量体で分子量が大きく粘稠度を上げやすい)や、M蛋白量の多い多発性骨髄腫で問題となる。本例はM蛋白量が少なく症状もないため、適応はない。
- ×e. 自家造血幹細胞移植
不適切。自家造血幹細胞移植は、症候性多発性骨髄腫のうち移植に耐えられる比較的若年(おおむね65〜70歳未満)で臓器機能の保たれた患者に対し、大量メルファラン療法と組み合わせて行う治療である。治療適応のないMGUSに行うことはなく、71歳という年齢からも一般的には適応外となる。
形質細胞腫瘍のスペクトラム(国際骨髄腫ワーキンググループ IMWG の基準による)
・MGUS:血清M蛋白3g/dL未満、骨髄のクローン性形質細胞10%未満、かつ臓器障害(CRAB)やアミロイドーシスがない。50歳以上の数%にみられ、高齢になるほど頻度が高い。 ・くすぶり型(無症候性)骨髄腫:血清M蛋白3g/dL以上(または尿中M蛋白500mg/24時間以上)、あるいは骨髄のクローン性形質細胞10〜60%未満で、臓器障害や骨髄腫診断事象がない。原則として経過観察だが、高リスク例では治療を検討することがある。 ・多発性骨髄腫(症候性):骨髄のクローン性形質細胞10%以上(または形質細胞腫)に加え、CRAB症状または骨髄腫診断事象(骨髄形質細胞60%以上、血清遊離軽鎖比100以上、MRIで5mm以上の局所病変が2か所以上)を1つ以上満たす。治療適応となる。
CRAB症状
・C:高カルシウム血症(血清Ca 11mg/dL超など) ・R:腎障害(クレアチニン2mg/dL超など) ・A:貧血(Hb 10g/dL未満、または基準下限より2g/dL以上低下) ・B:骨病変(画像での溶骨性病変)
M蛋白の検出法
・血清蛋白電気泳動:γ分画などに鋭いピーク(M peak) ・免疫電気泳動:特定の重鎖・軽鎖の沈降線が弓状に突出する(M-bow) ・免疫固定法:M蛋白の型(重鎖と軽鎖)をより感度よく同定できる ・血清遊離軽鎖(FLC)測定:κ/λ比の異常でクローン性を評価
赤沈亢進の考え方
赤沈はフィブリノゲンや免疫グロブリンなどの血漿蛋白の増加で亢進する。CRPが正常なのに赤沈だけが亢進している場合は、炎症以外にM蛋白血症などの高グロブリン血症を考える。
POINT
・CRP正常で赤沈だけが亢進 → 高グロブリン血症(M蛋白血症)を疑う ・免疫電気泳動のM-bow → M蛋白(単クローン性免疫グロブリン)の存在 ・M蛋白3g/dL未満、骨髄形質細胞10%未満、CRAB症状なし → MGUS ・MGUSは治療不要で経過観察。年約1%で多発性骨髄腫などへ進展するため定期的な追跡が必要 ・多発性骨髄腫の治療適応はCRAB症状などの臓器障害(または骨髄腫診断事象)の有無で決まる ・血漿交換は過粘稠度症候群(特にマクログロブリン血症)が適応
