余裕はわずか2mm―骨盤と児頭の「差」で決まる分娩方針
第120回医師国家試験 F問題 第57問
国試問題にチャレンジ
33歳の初妊婦(1妊0産)。妊娠38週4日,妊婦健康診査のために来院した。既往歴と家族歴とに特記すべきことはない。身長148cm,体重58kg。血圧128/64mmHg。尿所見:蛋白(-)。腹部超音波検査で児頭大横径98mm,推定胎児体重3,300g,羊水指数〈AFI〉9cm(基準5~24)である。子宮口は閉鎖。児頭は浮動している。骨盤エックス線写真を下に示す。産科的真結合線(矢印)は10.0cmである。 患者への説明で正しいのはどれか。

- a.「陣痛を待ちましょう」
- b.「帝王切開が必要です」
- c.「分娩誘発しましょう」
- d.「破水させてみましょう」
- e.「もっと運動してください」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
児頭骨盤不均衡(CPD)は、児頭と母体骨盤の大きさの不釣り合いのために経腟分娩が困難となる状態で、母体の低身長や初産婦の妊娠末期における児頭浮動、Seitz法陽性が疑うきっかけになります。産科的真結合線は恥骨結合後面と岬角を結ぶ骨盤入口の最短前後径で、9.5〜10.5cmは比較的狭骨盤ですが、判断の要は児頭大横径との差です。差が1.5cm以上なら経腟分娩、1.0〜1.5cmなら試験分娩、1.0cm未満ならCPDとして予定帝王切開を選択します。CPDでは陣痛待機や運動の勧めは意味がなく、分娩誘発は子宮破裂の危険があり、児頭浮動時の人工破膜は臍帯脱出を招くため行いません。骨盤の数値を単独で見ず「通る側」との関係で評価する視点は、安全な分娩方針を立てるうえでの基本です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・33歳の初妊婦(1妊0産)、妊娠38週4日の妊婦健診。既往歴・家族歴に特記事項なし。 ・身長148cmと低身長である。母体の低身長は骨盤が小さい可能性を示し、児頭骨盤不均衡(cephalopelvic disproportion:CPD)の代表的なリスク因子である(身長150cm未満は要注意、145cm以下ではとくに注意)。 ・血圧128/64mmHg、尿蛋白陰性であり、妊娠高血圧症候群を示唆する所見はない。 ・超音波検査:児頭大横径(biparietal diameter:BPD)98mm、推定胎児体重3,300g。妊娠38週としてはやや大きめの児である。羊水指数(amniotic fluid index:AFI)9cmは基準範囲内で、羊水量に異常はない。 ・内診:子宮口は閉鎖しており、頸管の熟化は進んでいない。 ・児頭は浮動している。初産婦では妊娠末期(概ね37~38週以降)に児頭が骨盤入口部へ下降・固定することが多く、この時期に児頭が浮動していることは、児頭が骨盤入口を通過しにくい状態、すなわちCPDを疑う手がかりとなる。 ・骨盤エックス線写真(側面像、いわゆるGuthmann法)で、産科的真結合線は10.0cmである。
診断へのプロセス
産科的真結合線とは、恥骨結合後面の最も突出した点と岬角(仙骨岬)を結ぶ線で、骨盤入口部の最短前後径にあたる。児頭が骨盤入口を通過できるかどうかを判断する最重要の計測値であり、正常値はおよそ11cm台である。9.5cm未満を狭骨盤、9.5~10.5cmを比較的狭骨盤とよぶ。本例は10.0cmで比較的狭骨盤に該当する。 さらに重要なのは児頭の大きさとの関係である。臨床では「産科的真結合線 − BPD」の差でCPDの可能性を評価し、一般に次のように判断する。 ・差が1.5cm以上:CPDの可能性は低く、経腟分娩を目指す。 ・差が1.0~1.5cm:CPDの疑い(境界域)。陣痛発来後に試験分娩(trial of labor)を行い、分娩の進行を見て判断する。 ・差が1.0cm未満:CPDと判断し、帝王切開を選択する。 本例では100mm − 98mm = 2mmしか余裕がなく、明らかに1cmを下回る。低身長・児頭浮動という臨床所見とも矛盾せず、CPDと診断できる。
設問の考え方
CPDと診断した以上、経腟分娩は不可能(あるいは非常に危険)と考え、陣痛発来を待たずに予定(選択的)帝王切開を計画するのが原則である。陣痛を待つ・運動を勧めるといった「自然な陣痛発来を期待する対応」も、分娩誘発・人工破膜といった「積極的に経腟分娩を進める対応」も、いずれも経腟分娩を前提としているため本例では不適切である。CPDのまま陣痛が強まると、分娩停止、遷延分娩による胎児機能不全、子宮破裂などの重大な合併症につながりうる。
選択肢考察
- ×a. 「陣痛を待ちましょう」
陣痛発来を待つ対応は、経腟分娩が可能であることを前提にしている。産科的真結合線とBPDの差が1.0~1.5cmの境界域であれば、陣痛発来後に試験分娩を行う余地があるが、本例の差は2mmにすぎずCPDと判断されるため、試験分娩の適応にもならない。陣痛を待っても児頭は骨盤入口を通過できず、分娩停止や子宮破裂の危険を招くだけである。待機して経過を見たいと考えがちな選択肢だが、本例では誤りである。
- ○b. 「帝王切開が必要です」
産科的真結合線10.0cm(比較的狭骨盤)に対して児頭大横径が98mmで、その差は1cmを大きく下回る2mmである。さらに低身長(148cm)、妊娠38週での児頭浮動もあり、CPDと診断できる。CPDでは経腟分娩は困難であり、試験分娩も行わず、陣痛発来前に予定帝王切開を計画するのが適切である。したがってこの説明が正しい。
- ×c. 「分娩誘発しましょう」
分娩誘発(オキシトシンやプロスタグランジン製剤などの子宮収縮薬投与)は、経腟分娩が可能な場合に限って行う処置である。CPDでは児頭が産道を通過できないため、子宮収縮を強めても分娩は進まず、過強陣痛や子宮破裂、胎児機能不全を引き起こす危険がある。CPDは子宮収縮薬の使用が禁忌とされる状態であり、誤りである。また本例は子宮口閉鎖で頸管も未熟である。
- ×d. 「破水させてみましょう」
人工破膜は陣痛の誘発・促進を目的に行われることがあるが、これも経腟分娩を前提とした処置であり、CPDでは適応がない。本例は子宮口が閉鎖しており、技術的にも破膜は難しい。さらに児頭が浮動した状態で破膜すると、児頭と骨盤の間の隙間から臍帯が脱出する(臍帯脱出)危険が高く、胎児の生命に関わる。したがって誤りである。
- ×e. 「もっと運動してください」
妊娠末期の運動は子宮収縮を促し、陣痛発来を期待して勧められることがあるが、それは経腟分娩を予定している場合の話である。本例はCPDであり、陣痛が来ても経腟分娩はできないため、運動を勧める意味はない。母体の体重管理を意図した説明と捉えても、本例の体重増加に問題はなく、現時点での説明として不適切である。
児頭骨盤不均衡(CPD)とは
児頭と母体骨盤の大きさの間に不均衡があり、分娩が停止する、あるいは母児に障害を残すことが予想される状態をいう。児が大きい場合(巨大児など)、骨盤が小さい場合(狭骨盤)、その両方がある場合に起こる。なお、分娩が進まない原因には陣痛の弱さ(微弱陣痛)、軟産道の硬さ、児頭の回旋異常・進入異常などもあり、難産=CPDではない。CPDはこれらを考慮したうえで判断される。
CPDを疑う所見
・母体の低身長(150cm未満で注意、145cm以下で特に注意) ・推定胎児体重が大きい、BPDが大きい ・初産婦で妊娠末期(37週以降)になっても児頭が浮動している ・Seitz法陽性:恥骨結合上で児頭を触れ、児頭の前面が恥骨結合より高く(前方に)突出していればCPDを疑う。 ・既往分娩での分娩停止
骨盤の評価
・骨盤エックス線計測:側面像(Guthmann法)で産科的真結合線などの前後径を、入口面像(Martius法)で入口部の形態や横径を評価する。近年は被曝低減の観点からCTやMRIによる骨盤計測を行う施設もある。 ・産科的真結合線:恥骨結合後面の最突出点と岬角を結ぶ距離。骨盤入口の最短前後径で、正常はおよそ11cm台。9.5cm未満を狭骨盤、9.5~10.5cmを比較的狭骨盤とする。
産科的真結合線 − BPD による判定の目安
・1.5cm以上:CPDの可能性は低い → 経腟分娩 ・1.0~1.5cm:CPD疑い → 試験分娩 ・1.0cm未満:CPD → 帝王切開
試験分娩
CPDが疑われるものの確定できない場合に、陣痛発来後に慎重に分娩経過を観察し、児頭の下降・子宮口の開大が順調なら経腟分娩を続け、進行が止まれば帝王切開へ切り替える方法である。帝王切開後の経腟分娩の試み(TOLAC)とは別の概念である。
POINT
・低身長妊婦、妊娠末期の児頭浮動、Seitz法陽性はCPDを疑う手がかり。 ・産科的真結合線は骨盤入口の最短前後径。9.5cm未満が狭骨盤、9.5~10.5cmが比較的狭骨盤。 ・産科的真結合線 − BPD が1.0cm未満ならCPDとして予定帝王切開、1.0~1.5cmなら試験分娩、1.5cm以上なら経腟分娩。 ・CPDでは分娩誘発(子宮収縮薬)・人工破膜は行わない。児頭浮動時の破膜は臍帯脱出の危険がある。
