StudyMed医師国家試験

血マメは破裂のサイン―red color sign陽性の食道静脈瘤に「先手」を打つ

第120回医師国家試験 F問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第15問

上部消化管内視鏡検査で数珠状の食道静脈瘤を認め,血マメ様のred color signを認めた。  この病変への対応で適切なのはどれか。

  1. a.生検
  2. b.ステント留置術
  3. c.トロンビン末の散布
  4. d.内視鏡的静脈瘤硬化療法
  5. e.プロトンポンプ阻害薬の経口投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、まだ出血していない食道静脈瘤に対して、どう対応するかを問う問題だ。注目してほしいのは「数珠状」という形態と「血マメ様のred color sign」という2つの内視鏡所見。これが破裂リスクについて何を語っているかを考えよう。
医学生医学生
食道静脈瘤は肝硬変などの門脈圧亢進症で起こるんでしたよね。消化器内科の講義で側副血行路の図を何度も描かされました。
ドクタードクター
そう、門脈の流れが滞ると、血液が左胃静脈から食道の粘膜下の静脈へ逃げ込み、そこが拡張・蛇行して静脈瘤になる。形態は門脈圧亢進症取扱い規約で、直線的で細いF1、数珠状(連珠状)のF2、結節状・腫瘤状のF3に分けられる。今回はF2に相当するね。
医学生医学生
red color signはどういう意味なんですか。単に赤く見えるだけ、という気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこが大事なポイント。RC signは、静脈瘤の壁が薄くなって、ごく薄い上皮越しに血管が透けて見えている状態を反映している。つまり「破れやすさ」の徴候で、出血を予測する最も重要な内視鏡所見なんだ。ミミズ腫れ様、チェリーレッドスポット様、血マメ様の3種類があって、血マメ様、つまりhematocystic spotは特に破裂の危険が高いとされる。
医学生医学生
ということは、今は出血していなくても、放っておけない静脈瘤ということですね。
ドクタードクター
その通り。静脈瘤破裂は致命的な大量出血になりうるから、出血リスクの高い静脈瘤は出血する前に治療しておく。これが予防的な内視鏡治療だ。選択肢の中でそれに当たるのが内視鏡的静脈瘤硬化療法、EISだね。
医学生医学生
EISは静脈瘤に硬化剤を注射する治療ですよね。
ドクタードクター
そう。内視鏡下に穿刺針で静脈瘤内やその周囲にオレイン酸エタノールアミンなどの硬化剤を注入して、静脈瘤とそこにつながる供血路を血栓化・閉塞させる。供血路まで潰せるので再発が少ないのが利点だ。では、ほかの選択肢を見ていこう。まず生検はどうかな。
医学生医学生
病変があったらまず組織を、と考えがちですが……静脈瘤を鉗子でつまんだら破れそうです。
ドクタードクター
まさにそう。静脈瘤の壁は薄く、RC signのある部位はなおさら菲薄化している。生検は大量出血を招くので禁忌だ。そもそも静脈瘤は内視鏡所見で診断できるから、病理診断は必要ない。
医学生医学生
ステント留置術は、臨床実習で食道癌の狭窄に入れているのを見ました。
ドクタードクター
そう、消化管ステントは狭窄した内腔を広げて保つための治療で、静脈瘤の出血予防にはならない。内視鏡で止血できない静脈瘤大出血に、圧迫目的の特殊なステントが使われることはあるけれど、未出血の静脈瘤への対応ではないね。
医学生医学生
トロンビン末の散布も止血薬だから、出血予防に効きそうな気がしました。
ドクタードクター
間違えやすいところだね。トロンビン末は局所でフィブリノゲンをフィブリンに変えて凝固を促す薬で、すでに出血している部位に補助的に使うもの。出血していない静脈瘤にかけても破裂は防げない。プロトンポンプ阻害薬も同様で、胃酸分泌を抑える薬だから門脈圧は下がらず、静脈瘤そのものへの対応にはならない。ただ、内視鏡治療後にできる潰瘍の治療や出血予防として併用されることはあるよ。
医学生医学生
「出血リスクの高い未出血の静脈瘤」には予防的な内視鏡治療、と整理すればいいんですね。でも、結紮術のEVLが選択肢にないのはなぜでしょう。
ドクタードクター
いい疑問だ。実際の予防的治療ではEISとEVLのどちらも選択肢になる。EISは再発が少ない一方、硬化剤による腎障害や溶血、肝機能悪化などの合併症があり、肝予備能が低い人では慎重さが必要。EVLはゴムバンドで縛る手技で簡便かつ全身への影響が少ないが、再発が多い。今回はEVLが選択肢にないので、EISが正解になるわけだ。
医学生医学生
実際に破裂して出血してしまった場合はどうするんですか。
ドクタードクター
まず輸液・輸血で循環動態を安定させ、緊急内視鏡で止血する。短時間でできるEVLが第一選択とされることが多い。内視鏡で止血困難なら、Sengstaken-Blakemoreチューブでバルーン圧迫して一時的に止血する。さらに肝硬変患者の消化管出血では、細菌感染予防の抗菌薬や肝性脳症の予防も忘れずにね。薬物療法としては、非選択的β遮断薬が門脈圧を下げて出血予防に働くことも押さえておこう。
医学生医学生
胃静脈瘤だとまた違う治療になるんでしたっけ。
ドクタードクター
孤立性胃静脈瘤にはバルーン下逆行性経静脈的塞栓術、B-RTOが用いられるし、難治例では経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術、TIPSも選択肢になる。静脈瘤の場所と状況で治療を使い分ける、と覚えておくといいよ。

まとめ

食道静脈瘤は門脈圧亢進症により食道粘膜下の静脈が拡張したもので、壁の菲薄化を反映するred color sign、特に血マメ様のhematocystic spotは破裂出血を予測する最重要所見です。RC sign陽性やF2(連珠状)以上の静脈瘤は出血前に治療する予防的内視鏡治療の適応で、硬化剤で静脈瘤と供血路を閉塞させる内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS)や結紮術(EVL)が行われます。生検は大量出血を招くため禁忌であり、ステント、トロンビン末、プロトンポンプ阻害薬は未出血静脈瘤の破裂予防にはなりません。出血例ではEVLによる緊急止血が第一選択とされることが多く、止血困難時はS-Bチューブで一時止血し、抗菌薬投与や肝性脳症対策も併せて行います。内視鏡所見から出血リスクを読み取り「先手」で治療する考え方は、肝硬変患者を診るうえでの基本です。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・数珠状(連珠状)の食道静脈瘤:門脈圧亢進症取扱い規約の形態分類(F因子)で F2(連珠状の中等度の静脈瘤)に相当する。 ・血マメ様の red color sign(RC sign、発赤所見):静脈瘤表面に血豆のような半球状の赤い隆起がみられる所見で、hematocystic spot(HCS)と呼ばれる。RC sign の中でも最も破裂の危険が高い所見とされる。

考え方

食道静脈瘤は、肝硬変などによる門脈圧亢進症で門脈血が側副血行路(左胃静脈→食道粘膜下の静脈)へ流れ込み、静脈が拡張・蛇行してできる。RC sign は、拡張した静脈の壁が薄くなり、ごく薄い上皮だけを隔てて血管が透見されている状態を反映しており、破裂出血を予測する最も重要な内視鏡所見である。 本問の病変は「まだ出血していないが、出血の危険が高い静脈瘤」である。このような静脈瘤は、破裂すると致命的な大量出血となりうるため、出血前に治療しておく予防的(待機的)内視鏡治療の適応となる。わが国では、静脈瘤とその供血路を硬化剤で閉塞させる内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS)や、ゴムバンドで結紮する内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)が行われる。選択肢の中で該当するのは EIS である。 一方、静脈瘤を傷つける処置(生検)や、狭窄・潰瘍・出血後の止血に用いる処置は、未出血の静脈瘤への対応としては適切でない。

選択肢考察

  1. ×a.  生検

    誤り(禁忌)。食道静脈瘤の壁は薄く、特に RC sign のある部位は極めて菲薄化しているため、鉗子で組織を採取すると静脈瘤が破れて大量出血をきたす。静脈瘤は内視鏡所見で診断でき、病理診断のための生検は不要である。

  2. ×b.  ステント留置術

    誤り。消化管ステント留置術は、食道癌などによる狭窄で狭くなった内腔を広げて保つための治療であり、静脈瘤の出血予防効果はない。なお、内視鏡的止血が困難な静脈瘤大量出血に対し、圧迫止血目的の特殊な自己拡張型食道ステントが用いられることはあるが、未出血の静脈瘤に対する対応ではない。

  3. ×c.  トロンビン末の散布

    誤り。トロンビン末はフィブリノゲンをフィブリンに変えて局所で凝固を促進する止血薬であり、上部消化管の出血部位に経口投与や内視鏡下で散布して用いる。出血している病変に対する補助的な止血手段であり、出血していない静脈瘤に散布しても破裂を予防する効果はない。

  4. ○d.  内視鏡的静脈瘤硬化療法

    正しい。内視鏡的静脈瘤硬化療法(endoscopic injection sclerotherapy:EIS)は、内視鏡下に穿刺針で静脈瘤内(または周囲)に硬化剤(オレイン酸エタノールアミンなど)を注入し、静脈瘤とそれにつながる供血路を血栓化・閉塞させる治療である。供血路まで閉塞できるため再発が少ないのが利点である。RC sign 陽性(特に血マメ様)や F2 以上の静脈瘤は出血リスクが高く、予防的な内視鏡治療の適応となる。

  5. ×e.  プロトンポンプ阻害薬の経口投与

    誤り。プロトンポンプ阻害薬(PPI)は胃壁細胞のプロトンポンプ(H+/K+-ATPase)を阻害して胃酸分泌を強く抑える薬であり、消化性潰瘍や逆流性食道炎の治療に用いる。門脈圧を下げる作用はなく、静脈瘤の破裂予防効果は示されていない。内視鏡治療後にできる潰瘍の治療・出血予防目的に併用されることはあるが、静脈瘤そのものへの対応にはならない。

食道・胃静脈瘤の内視鏡所見の記載(門脈圧亢進症取扱い規約)

・占居部位(L):Ls(上部食道まで)、Lm(中部食道まで)、Li(下部食道に限局)など ・形態(F):F0(治療後に静脈瘤が消失)、F1(直線的で比較的細い)、F2(連珠状の中等度)、F3(結節状または腫瘤状の高度) ・基本色調(C):Cw(白色)、Cb(青色) ・発赤所見(RC sign):ミミズ腫れ様(red wale marking:RWM)、チェリーレッドスポット様(cherry red spot:CRS)、血マメ様(hematocystic spot:HCS)の3種。程度は RC0〜RC3 で表す。 ・出血所見:出血中の所見(噴出性・湧出性)や、出血後のフィブリン栓・赤色栓の有無 ・粘膜所見:びらん、潰瘍、瘢痕

治療の適応と選択

・予防的治療:RC sign 陽性や F2 以上など出血リスクの高い静脈瘤が対象。EIS または EVL を行う。 ・緊急治療(出血例):まず輸液・輸血などで循環動態を安定させ、緊急内視鏡で止血する。手技が簡便で短時間に行える EVL が第一選択とされることが多い。内視鏡で止血困難な場合は Sengstaken-Blakemore(S-B)チューブによるバルーン圧迫止血を一時的に行う。 ・EIS と EVL の比較:EIS は供血路まで閉塞できるため再発が少ないが、硬化剤による合併症(腎障害・溶血、肝機能悪化など)があり、肝予備能が高度に低下した例では慎重を要する。EVL は手技が容易で全身への影響が少ないが、再発が多い。 ・薬物療法:非選択的β遮断薬(プロプラノロールなど)は門脈圧を下げ、出血予防効果がある(欧米では一次予防の選択肢として EVL と並んで用いられる)。 ・その他:孤立性胃静脈瘤にはバルーン下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)、難治例には経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術(TIPS)なども用いられる。

静脈瘤出血の管理で併せて押さえること

肝硬変患者の消化管出血では、細菌感染の予防として抗菌薬投与、肝性脳症予防なども重要である。

POINT

・RC sign(発赤所見)は食道静脈瘤の出血を予測する最重要所見で、血マメ様(hematocystic spot)は特に出血リスクが高い。 ・RC sign 陽性や F2(連珠状)以上の静脈瘤は予防的内視鏡治療(EIS・EVL)の適応。 ・食道静脈瘤の生検は大量出血の危険があり禁忌。 ・出血例の緊急止血では EVL が第一選択、止血困難時は S-B チューブで一時止血。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。