歯科治療から6週間、続く発熱―感染性心内膜炎を疑ったら「抗菌薬の前に血液培養」
第120回医師国家試験 B問題 第35問
国試問題にチャレンジ
78歳の女性。発熱を主訴に来院した。3週間前から発熱が続いているため受診した。発熱以外に症状は認めない。6週間前に歯科治療を受けている。体温38.5℃。脈拍72/分,整。血圧120/82mmHg。呼吸数18/分。SpO2 98%(room air)。眼瞼結膜に点状出血を認める。心尖部に心雑音を聴取する。呼吸音に異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。両下腿に浮腫を認める。左示指に有痛性の結節を認める。髄膜刺激症候はない。尿所見:蛋白(±),糖(-),潜血(-),沈渣に赤血球1~2/HPF,白血球1~2/HPFを認める。血液所見:赤血球370万,Hb 11.0g/dL,Ht 33%,白血球11,000,血小板16万。血液生化学所見:総蛋白6.2g/dL,アルブミン3.3g/dL,ALT 26U/L,クレアチニン0.6mg/dL。CRP 5.8mg/dL。 最も優先して行うべき培養検査はどれか。
- a.尿
- b.便
- c.喀痰
- d.血液
- e.脳脊髄液
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
歯科治療後に続く発熱、新たな心雑音、Osler結節や結膜点状出血がそろえば、感染性心内膜炎を強く疑います。診断の柱は血液培養と心エコーで、典型的起炎菌の複数回検出と疣贅の証明は修正Duke基準の大基準です。血液培養は抗菌薬投与前に、異なる部位から通常3セット採取し、持続的菌血症のため発熱時に合わせる必要はありません。尿・便・喀痰・脳脊髄液の培養は、それぞれの臓器の感染を示す所見があるときに行うもので、本例では優先されません。起炎菌と感受性の同定は数週間に及ぶ抗菌薬治療の方針を決めるため、「抗菌薬の前に血液培養」は不明熱診療全般に通じる重要な原則です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・78歳女性。3週間続く発熱で、発熱以外の自覚症状はない → 亜急性に経過する発熱。38℃以上の発熱が3週間続いており、不明熱に近い経過である。 ・6週間前に歯科治療 → 口腔内の常在菌(緑色連鎖球菌などのレンサ球菌)が血流に入り、菌血症を起こす契機となりうる。 ・眼瞼結膜の点状出血 → 微小塞栓や血管炎による血管現象。 ・左示指の有痛性結節 → Osler結節(指先の腹にできる痛みを伴う紅色の小結節。免疫複合体による小血管炎が関与する免疫学的現象)。 ・心尖部の心雑音 → 僧帽弁の病変(弁破壊による僧帽弁逆流など)を示唆する。 ・両下腿浮腫 → 弁逆流に伴う心不全の徴候、あるいは低アルブミン血症の関与が考えられる。 ・白血球11,000/μL、CRP 5.8mg/dL → 炎症反応の上昇。Hb 11.0g/dLの軽度貧血、アルブミン3.3g/dLの軽度低下は、慢性の炎症・感染症に伴う変化として矛盾しない。 ・呼吸器症状がなく呼吸音・SpO2正常、腹部所見なし、尿所見はほぼ正常、髄膜刺激症候なし → 肺・消化管・尿路・中枢神経に明らかな感染巣を示す所見はない。
診断のプロセス
3週間以上の発熱の鑑別には、感染症(感染性心内膜炎、結核、腹腔内・脊椎などの深部膿瘍、慢性の尿路感染症など)、悪性腫瘍(悪性リンパ腫、腎細胞癌など)、膠原病・血管炎(巨細胞性動脈炎、全身性血管炎など)が挙がる。本例では、歯科治療歴、新たな心雑音、Osler結節、結膜点状出血がそろっており、感染性心内膜炎〈IE:心臓の弁や心内膜に細菌が付着・増殖し、疣贅(いわゆる菌の塊)を形成する感染症〉が最も強く疑われる。
設問の考え方
IEの診断は、修正Duke基準(およびその改訂版)に基づき、血液培養と心エコー(疣贅・弁破壊の検出)を二本柱として行う。疣贅からは持続的に菌が血中に放出されるため、血液培養で起炎菌を検出することが診断確定と、適切な抗菌薬選択(感受性に基づく長期治療)に不可欠である。抗菌薬を先に投与すると血液培養が陰性化し、診断も治療薬の選択も困難になるため、抗菌薬投与前に、異なる穿刺部位から複数セット(通常3セット)の血液培養を採取することが最優先となる。他の部位の培養は、その臓器の感染を示す所見があるときに行うものであり、本例では優先度が低い。
選択肢考察
- ×a. 尿
尿所見は蛋白(±)、潜血(-)、沈渣の白血球・赤血球も1〜2/HPFと正常範囲であり、膿尿や細菌尿を示唆する所見はない。排尿時痛や腰背部痛など尿路感染の症状もなく、尿培養を最優先する根拠はない。なおIEでは免疫複合体性の糸球体腎炎や腎梗塞により血尿・蛋白尿を伴うことがあるが、その場合でも起炎菌の同定には血液培養が必要である。
- ×b. 便
便培養は、下痢・血便・腹痛など細菌性腸炎を疑う症状がある場合に行う検査である。本例では消化器症状がなく腹部所見も正常であり、適応がない。
- ×c. 喀痰
喀痰培養は肺炎や肺結核などの下気道感染を疑う場合に行う。本例では咳・痰などの呼吸器症状がなく、呼吸音は正常、呼吸数18/分、SpO2 98%(室内気)と呼吸器感染を示唆する所見はないため、優先されない。
- ○d. 血液
IEが強く疑われる場合、血液培養は診断と治療の両面で最も重要な検査である。IEに典型的な起炎菌(緑色連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、腸球菌など)が別々に採取した複数の血液培養から検出されることは、Duke基準の大基準を構成する。また、同定された菌と薬剤感受性に基づいて、数週間に及ぶ静注抗菌薬治療の薬剤を決定する。菌血症は持続的であるため採血のタイミングを発熱時に合わせる必要はなく、抗菌薬投与前に、皮膚を十分消毒したうえで異なる部位から複数セット(通常3セット)採取する。
- ×e. 脳脊髄液
脳脊髄液培養は髄膜炎や脳炎を疑う場合に腰椎穿刺で採取する。本例では頭痛や意識障害などの神経症状がなく、髄膜刺激症候も認めないため、侵襲的な腰椎穿刺の適応はない。
感染性心内膜炎〈IE〉の概要
・弁膜や心内膜、大血管内膜に微生物が付着・増殖して疣贅を形成し、菌血症、弁破壊、塞栓症など多彩な症状を起こす全身性感染症である。 ・危険因子:弁膜症(僧帽弁逆流、大動脈弁疾患など)、人工弁・心臓内デバイス、先天性心疾患、IEの既往、高齢、血液透析、静注薬物使用、歯科処置などの侵襲的処置。 ・起炎菌:亜急性の経過では緑色連鎖球菌(口腔内常在菌、歯科処置後)、急性の経過では黄色ブドウ球菌が代表的。腸球菌(泌尿器・消化管処置後)、Streptococcus gallolyticus(旧名S. bovis、大腸癌との関連)、HACEK群なども原因となる。
臨床所見
・発熱(最も多い)、心雑音(新たな弁逆流)、全身倦怠感、体重減少。 ・血管現象:点状出血(眼瞼結膜・口腔粘膜)、爪下線状出血、Janeway病変(手掌・足底の無痛性出血斑)、脳・脾・腎などの塞栓症、感染性動脈瘤。 ・免疫学的現象:Osler結節(指趾の有痛性結節)、Roth斑(眼底の中心部が白い出血斑)、糸球体腎炎、リウマトイド因子陽性。 ・心不全(弁破壊による急性弁逆流)は外科治療を考慮すべき重要な合併症。
診断
・修正Duke基準(2023年に改訂版も提唱):大基準は「血液培養陽性(典型的起炎菌の複数回検出など)」と「画像による心内膜病変の証明(心エコーでの疣贅、弁周囲膿瘍、人工弁の新たな離開など)」。小基準は素因、発熱(38.0℃以上)、血管現象、免疫学的現象、大基準を満たさない微生物学的所見など。大基準2つ、大基準1つ+小基準3つ、または小基準5つで確診とする。 ・心エコー:まず経胸壁心エコー〈TTE〉を行い、疑いが強いのに所見がない場合や人工弁・合併症評価には経食道心エコー〈TEE〉を追加する。
血液培養の採取のポイント
・抗菌薬開始前に採取する。すでに抗菌薬が投与され、病状が安定している亜急性例では、休薬してから再採取を検討することもある。 ・1セットは好気ボトルと嫌気ボトルの2本。異なる部位の静脈から、時間をあけて計3セット程度採取する(病状が切迫している場合は短時間で採取して速やかに治療を開始)。 ・複数セット採取することで検出感度が上がり、皮膚常在菌の混入(コンタミネーション)との区別がしやすくなる。
治療
・感受性に基づく殺菌的な抗菌薬の長期(4〜6週間程度)静注投与。 ・心不全、抗菌薬で制御できない感染(弁輪部膿瘍など)、大きな疣贅による塞栓リスクなどでは外科手術(弁置換・弁形成)を検討する。
POINT
・長引く発熱+歯科治療歴+心雑音+Osler結節・結膜点状出血 → 感染性心内膜炎を疑う。 ・IEの診断の柱は血液培養と心エコー(修正Duke基準の大基準)。 ・血液培養は抗菌薬投与前に、異なる部位から複数セット(通常3セット)採取する。発熱時に合わせる必要はない。 ・亜急性IEの代表的起炎菌は緑色連鎖球菌、急性IEは黄色ブドウ球菌。 ・血管現象(点状出血、Janeway病変、塞栓)と免疫学的現象(Osler結節、Roth斑、糸球体腎炎)を区別して覚える。
