数と流れで選ぶ治療―多発肝細胞癌にTACEが選ばれる理由
第114回医師国家試験 A問題 第7問
国試問題にチャレンジ
疾患と治療の組合せで正しいのはどれか。
- a.多発肝細胞癌 ―― 経カテーテル的動脈化学塞栓術〈TACE〉
- b.胆石合併胆嚢癌 ―― 腹腔鏡下胆嚢摘出術
- c.特発性門脈圧亢進症 ―― 門脈内ステント留置
- d.膵管内乳頭粘液性腫瘍 ―― 膵管ステント留置
- e.急性化膿性閉塞性胆管炎 ―― 胆管切除術
対話形式の解説
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ドクターまとめ
多発肝細胞癌(肝予備能が保たれ、脈管侵襲・肝外転移がなく腫瘍数4個以上が目安)では、腫瘍が主に肝動脈から栄養される性質を利用し、肝内の多数病変をまとめて治療できる経カテーテル的動脈化学塞栓術〈TACE〉が代表的治療となります。1〜3個なら肝切除やラジオ波焼灼療法、肝外転移やTACE不応では薬物療法へと、腫瘍の進行度と肝予備能から治療を選びます。胆嚢癌が疑われる場合は播種の危険から腹腔鏡手術を避けて開腹手術を選び、急性化膿性閉塞性胆管炎では切除ではなく緊急の胆道ドレナージが優先されます。IPMNは悪性所見の有無で手術か経過観察かを決め、特発性門脈圧亢進症では静脈瘤や脾機能亢進への対処が治療の中心です。治療の「目的」と病態を結びつけて理解することが、組合せ問題だけでなく実臨床の治療選択の土台になります。
解答・解説
正解はaです
肝・胆・膵の代表的な疾患について、標準的な治療法を正しく対応させられるかを問う一般問題である。 考え方の軸は「その疾患の病態に対して、その治療が理にかなっているか」である。 ・腫瘍性疾患では、腫瘍の数・大きさ・広がりと臓器の予備能から、根治手術・局所療法・カテーテル治療・薬物療法のどれを選ぶかが決まる。 ・感染や閉塞が主体の急性疾患では、まず閉塞の解除(ドレナージ)が優先され、切除のような侵襲の大きい手術は急性期の第一選択にならない。 ・悪性腫瘍が疑われる病変では、腫瘍をこぼさず確実に取り切れる術式を選ぶ必要がある。 ・ステントは「狭窄を広げて流れを保つ」ための器具であり、狭窄がない病態や、狭窄が主な問題でない病態には使わない。 この視点で各組合せを見ると、肝内に多数の病変がある肝細胞癌に対しては、切除や焼灼のように一つずつ処理する治療よりも、肝動脈を介して肝内の腫瘍にまとめて抗癌薬と塞栓物質を届ける経カテーテル的動脈化学塞栓術〈TACE〉が適しており、これが正しい組合せとなる。
選択肢考察
- ○a. 多発肝細胞癌 ―― 経カテーテル的動脈化学塞栓術〈TACE〉
正しい組合せである。肝細胞癌は主に肝動脈から血流を受けるのに対し、正常肝組織は主に門脈から栄養される。この血流の違いを利用し、カテーテルを腫瘍の栄養動脈まで進めて抗癌薬(リピオドールと混ぜることが多い)を注入し、続いて塞栓物質で動脈を詰めて腫瘍を虚血に陥らせるのがTACEである。 肝細胞癌診療ガイドラインの治療アルゴリズムでは、肝予備能が保たれ(Child-Pugh分類A〜B)、脈管侵襲も肝外転移もない場合、腫瘍数1〜3個なら肝切除やラジオ波焼灼療法〈RFA〉などの局所療法が中心となり、4個以上ではTACEが主な選択肢となる(肝動注化学療法や薬物療法も選択肢)。多発例では病変が肝内に広く散らばるため、切除では肝臓を取りすぎてしまい、焼灼療法では全病変を処理しきれない。また陽子線・重粒子線などの放射線治療も、照射範囲が広がりすぎるため多発例には向かない。したがって多発肝細胞癌にはTACEが代表的な治療となる。なお、TACEで効果が得られなくなった場合(TACE不応)や肝外転移を伴う場合は、分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬による薬物療法へ移行する。
- ×b. 胆石合併胆嚢癌 ―― 腹腔鏡下胆嚢摘出術
誤りである。胆石の合併の有無にかかわらず、術前に胆嚢癌と診断されている、あるいは強く疑われる場合は、腹腔鏡下胆嚢摘出術は避け、開腹手術を選ぶのが原則である。腹腔鏡手術では術中に胆嚢壁が破れて胆汁が漏れたり、鉗子操作やポート孔から腫瘍細胞が散らばったりすることがあり、腹膜播種やポートサイト再発の原因となるためである。さらに、胆嚢癌は壁深達度が漿膜下層以深に及ぶと、単純な胆嚢摘出では不十分で、胆嚢床の肝切除やリンパ節郭清を加えた拡大手術が必要になる。
- ×c. 特発性門脈圧亢進症 ―― 門脈内ステント留置
誤りである。特発性門脈圧亢進症〈IPH〉は、肝硬変や肝外門脈閉塞などの明らかな原因がないのに門脈圧が上昇する疾患で、中年女性に多い。肝内の末梢門脈枝の閉塞・狭小化が背景にあるとされ、門脈本幹に狭窄があるわけではないため、門脈本幹にステントを入れて内腔を広げるという発想は病態に合わない。治療の対象は門脈圧亢進に伴う合併症であり、食道・胃静脈瘤には内視鏡的静脈瘤結紮術〈EVL〉・内視鏡的硬化療法〈EIS〉、胃静脈瘤にはバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術〈B-RTO〉、脾機能亢進による汎血球減少(特に血小板減少)には部分的脾動脈塞栓術〈PSE〉や摘脾、外科的には胃上部血行郭清と摘脾を組み合わせたHassab手術や、選択的シャント手術などが行われる。
- ×d. 膵管内乳頭粘液性腫瘍 ―― 膵管ステント留置
誤りである。膵管内乳頭粘液性腫瘍〈IPMN〉は、膵管上皮が乳頭状に増殖して粘液を大量に産生し、膵管が嚢胞状に拡張する腫瘍である。腺腫から浸潤癌まで連続した経過をたどりうる前癌性病変であり、治療方針は悪性化の可能性で決まる。主膵管型・混合型は悪性の頻度が高いため原則として膵切除の対象となり、分枝型は壁在結節の出現、主膵管径の拡大、嚢胞径の増大、閉塞性黄疸などの悪性を疑う所見があれば手術、なければ画像による定期的な経過観察となる。膵管ステントは膵管狭窄による膵液うっ滞を解除するための処置であり、IPMNそのものの治療にはならない。
- ×e. 急性化膿性閉塞性胆管炎 ―― 胆管切除術
誤りである。急性化膿性閉塞性胆管炎〈AOSC〉は、総胆管結石などで胆管が閉塞し、胆管内圧が上がって感染胆汁が血中へ逆流することで、敗血症性ショックや意識障害を伴う重篤な胆管炎である(Charcot三徴の発熱・黄疸・右上腹部痛にショック・意識障害を加えたReynolds五徴を呈しうる)。治療の要点は、絶食・輸液・抗菌薬に加えて、速やかに胆道ドレナージを行い胆管内圧を下げることである。第一選択は内視鏡的胆道ドレナージ(内視鏡的経鼻胆管ドレナージ〈ENBD〉や胆管ステント留置〈EBS〉)で、困難な場合に経皮経肝胆道ドレナージ〈PTBD〉を行う。全身状態の悪い急性期に胆管切除のような大手術を行うことはなく、胆管切除は胆管癌や先天性胆道拡張症などで行う術式である。原因となった結石は、状態が落ち着いてから内視鏡的に除去する。
肝細胞癌の治療選択の考え方
肝細胞癌は慢性肝炎・肝硬変を背景に発生することが多く、治療は「腫瘍の進行度」と「肝予備能」の両面から選ぶ。肝予備能はChild-Pugh分類(血清ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間、腹水、肝性脳症の5項目)や肝障害度で評価する。 ・Child-Pugh A〜B、肝外転移・脈管侵襲なし 腫瘍数1〜3個:肝切除、またはラジオ波焼灼療法などの穿刺局所療法(腫瘍径3cm以下が目安)。2〜3個で3cmを超える場合はTACEも選択肢 腫瘍数4個以上:TACE、肝動注化学療法、薬物療法 ・脈管侵襲あり:肝切除、TACE、肝動注化学療法、薬物療法などから選択 ・肝外転移あり:薬物療法(分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬) ・Child-Pugh Cで一定の条件(ミラノ基準など)を満たす場合:肝移植
胆嚢癌と腹腔鏡手術
胆嚢結石は胆嚢癌の危険因子の一つで、胆嚢癌の多くに胆石が合併する。良性の胆石症には腹腔鏡下胆嚢摘出術が標準だが、術前に癌が疑われれば開腹手術を選ぶ。胆石症として腹腔鏡下に摘出した胆嚢から偶然癌が見つかることもあり(偶発胆嚢癌)、深達度によっては追加切除を検討する。
IPMNの型
主膵管型:主膵管がびまん性・区域性に拡張。悪性頻度が高い。 分枝型:分枝膵管がぶどうの房状に拡張。多くは経過観察可能だが、悪性化の所見に注意。 混合型:両者の特徴をもつ。 ERCPでは十二指腸乳頭の開大と粘液の排出(いわゆる「魚の目」状の乳頭)がみられることがある。
特発性門脈圧亢進症
肝硬変と異なり肝機能は比較的保たれ、肝癌の発生もまれである。巨脾と脾機能亢進による汎血球減少、食道静脈瘤が目立つのが特徴で、治療は合併症(静脈瘤・脾機能亢進)の対処が中心となる。
POINT
・多発肝細胞癌(4個以上が目安)の代表的治療はTACEである。1〜3個なら肝切除や焼灼療法、肝外転移があれば薬物療法。 ・胆嚢癌が疑われるときは腹腔鏡下手術を避け、開腹手術を選ぶ(胆汁漏出による播種の危険)。 ・急性閉塞性胆管炎は緊急胆道ドレナージ(第一選択は内視鏡的)であり、切除術ではない。 ・IPMNは悪性所見の有無で手術か経過観察かを決める。膵管ステントは治療にならない。 ・特発性門脈圧亢進症の治療は静脈瘤と脾機能亢進への対処(内視鏡治療、PSE、摘脾、Hassab手術など)が中心である。
