骨頭壊死の陰にステロイドあり―大腿骨頭壊死症とSLEをつなぐ線
第119回医師国家試験 D問題 第6問
国試問題にチャレンジ
大腿骨頭壊死症と関連が深い疾患はどれか。
- a.胃潰瘍
- b.狭心症
- c.全身性エリテマトーデス〈SLE〉
- d.糖尿病
- e.肺結核
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
特発性大腿骨頭壊死症の二大危険因子は副腎皮質ステロイドの全身投与とアルコール多飲であり、ステロイド関連例の基礎疾患として最も多いのが高用量ステロイドを用いるSLEです。SLEでは抗リン脂質抗体による血栓傾向や血管炎も骨頭の血流障害に関与しえます。胃潰瘍や結核、糖尿病はむしろステロイドの副作用や投与時の注意点として関わる疾患で、骨頭壊死の確立した背景疾患ではありません。骨頭壊死は圧潰するまで無症状のことが多く、早期診断にはT1強調像で帯状低信号を示すMRIが有用です。「疾患→治療薬→副作用」という連想で考える習慣は、薬剤性の合併症を見逃さない臨床判断に直結します。
解答・解説
正解はcです
問われていること
大腿骨頭壊死症は、大腿骨頭への血流が途絶えて骨組織が阻血性に壊死する疾患である。壊死部が荷重に耐えられなくなると骨頭が圧潰(つぶれること)し、股関節痛や歩行障害、進行すると変形性股関節症をきたす。本問では、その発症と関係の深い基礎疾患を問うている。
考え方
大腿骨頭壊死症は、原因が明らかな「症候性」と、明らかでない「特発性」に分けられる。特発性大腿骨頭壊死症は指定難病であり、その発生には副腎皮質ステロイドの全身投与とアルコール多飲が強く関連することが疫学的に示されている(両者で大半を占め、ステロイド関連が最も多い)。 したがって「関連の深い疾患」を考えるには、「高用量のステロイドを長期間使用する疾患はどれか」と読み替えればよい。選択肢のうち、ステロイドが治療の中心となり、高用量投与が行われるのは全身性エリテマトーデス(SLE)である。実際、ステロイド関連大腿骨頭壊死症の基礎疾患として最も多いのがSLEである。さらにSLEでは、疾患そのものに伴う血管炎や抗リン脂質抗体による血栓傾向も骨頭の血流障害に関与しうる。
選択肢考察
- ×a. 胃潰瘍
誤り。胃潰瘍と大腿骨頭壊死症との関連は知られていない。むしろ胃潰瘍はステロイドや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の副作用として生じうる側の疾患であり、胃潰瘍の治療でステロイドを用いることはない。
- ×b. 狭心症
誤り。狭心症は冠動脈の動脈硬化による心筋虚血であり、大腿骨頭壊死症の危険因子としては確立していない。大腿骨頭壊死症は骨頭内の微小循環の障害によるもので、動脈硬化性疾患とは発症機序が異なる。また狭心症の治療薬(硝酸薬、β遮断薬、抗血小板薬など)にも骨頭壊死との関連はない。
- ○c. 全身性エリテマトーデス〈SLE〉
正しい。SLEは自己抗体による多臓器障害をきたす膠原病で、腎炎(ループス腎炎)や中枢神経病変などの重要臓器病変に対し、高用量の副腎皮質ステロイド(ステロイドパルス療法を含む)が投与されることが多い。ステロイドは脂質代謝異常による骨髄内脂肪の増大・脂肪塞栓、血液凝固能亢進、血管内皮障害などを介して骨頭内の血流を障害すると考えられている。ステロイド関連大腿骨頭壊死症の基礎疾患としてSLEは最多である。さらにSLEでは抗リン脂質抗体症候群の合併による血栓傾向や血管炎も虚血の一因となりうる。高用量ステロイド開始後、比較的早期(数か月から1年程度)に骨頭壊死が発生することが多く、無症状のうちにMRIで発見されることもある。
- ×d. 糖尿病
誤り。糖尿病と大腿骨頭壊死症との関連を示唆する報告は一部にあるが、確立した危険因子とはいえず、関連の深さはステロイドを多用するSLEに及ばない。糖尿病は高用量ステロイド投与の結果として生じる(ステロイド糖尿病)ことはあるが、糖尿病自体がステロイドを必要とする疾患ではない。糖尿病で注意すべき骨関節合併症としては、Charcot関節(神経障害性関節症)や骨粗鬆症による骨折リスクの上昇などがある。
- ×e. 肺結核
誤り。肺結核と大腿骨頭壊死症との関連は知られていない。結核では骨関節結核(脊椎カリエス、結核性股関節炎など)を生じることがあるが、これは結核菌の感染による病変であり、阻血性の骨頭壊死とは別の病態である。むしろステロイド投与は結核の再燃リスクを高めるため、SLEなどでステロイドを使う際に注意すべき疾患という位置づけである。
大腿骨頭壊死症の分類
・特発性: 明らかな原因がないもの(指定難病)。ステロイド関連、アルコール関連、いずれにも該当しないものに分けられる。好発年齢は30〜50歳代で、両側性が多い。 ・症候性: 原因が明らかなもの。外傷(大腿骨頸部骨折、股関節脱臼)、減圧症(潜函病)、放射線照射、Gaucher病、鎌状赤血球症など。
ステロイド関連大腿骨頭壊死症の基礎疾患
SLEが最多で、そのほか多発性筋炎・皮膚筋炎などの膠原病、ネフローゼ症候群、腎移植などの臓器移植、血液疾患などが挙げられる。
症状
骨頭壊死が生じただけでは無症状であり、壊死部が圧潰した時点で股関節痛が出現する(「壊死の発生」と「症状の発現」には時間差がある)。進行すると跛行、可動域制限、変形性股関節症に至る。
画像診断
・MRI: 最も鋭敏で、早期診断に有用である。T1強調像で壊死域と健常域の境界に低信号の帯状像(バンド像)がみられるのが特徴的である。 ・単純X線: 早期には異常がない。進行すると骨頭軟骨下の骨折線(crescent sign)、帯状硬化像、骨頭の圧潰がみられる。 ・骨シンチグラフィ: 骨頭内の取り込み欠損(cold in hot像)。
病型・病期と治療
壊死域の位置と大きさ(病型分類)と、圧潰の有無・関節症変化(病期分類)で評価する。壊死域が小さく荷重部にかからない場合は経過観察や免荷を行う。圧潰の危険が高い若年者では大腿骨頭回転骨切り術や内反骨切り術などの関節温存手術、圧潰が進行し関節症に至った例では人工骨頭置換術や人工股関節全置換術を行う。
POINT
・特発性大腿骨頭壊死症の二大危険因子は、副腎皮質ステロイドの全身投与とアルコール多飲である。 ・ステロイド関連大腿骨頭壊死症の基礎疾患として最も多いのはSLEである。 ・症候性の原因: 大腿骨頸部骨折、股関節脱臼、減圧症、放射線照射、Gaucher病など。 ・早期診断にはMRI(T1強調像の帯状低信号域)が最も有用である。
