骨が「窒息」するとき―骨壊死の危険因子を「阻血」で見抜く
第116回医師国家試験 A問題 第9問
国試問題にチャレンジ
骨壊死のリスクファクターでないのはどれか。
- a.飲酒
- b.減圧症
- c.放射線照射
- d.有機リン剤
- e.副腎皮質ステロイド
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
骨壊死は、感染ではなく骨への血流途絶(阻血)によって骨細胞が死に至る病態で、荷重を受ける大腿骨頭に最も多く、進行すると骨頭の圧潰から関節の変形をきたします。特発性骨壊死では副腎皮質ステロイドの全身投与とアルコール多飲が二大関連因子であり、続発性骨壊死では外傷、減圧症(潜函病)の窒素気泡による血管閉塞、放射線照射による血管障害などが原因となります。一方、有機リン剤はアセチルコリンエステラーゼ阻害による中毒を起こす物質で、骨壊死との関連は知られていません。早期診断にはMRIのT1強調像でみられるband像が有用で、高用量ステロイド投与中の関節痛には骨壊死を念頭に置くことが大切です。「血流を途絶えさせるか」という病態の軸で危険因子を整理すると、暗記に頼らず応用の利く理解につながります。
解答・解説
正解はdです
骨壊死(無腐性骨壊死、阻血性骨壊死)は、骨への血流が途絶えることで骨細胞や骨髄細胞が死に至る病態である。感染による骨髄炎とは異なり、細菌の関与しない「阻血」が本態である。壊死した骨は力学的に弱くなり、荷重を受けると軟骨下骨が圧潰(陥没)して関節の変形・変形性関節症へ進行する。大腿骨頭が最も代表的な好発部位で、ほかに上腕骨頭、大腿骨顆部(膝)、距骨などにも生じる。 骨壊死は原因によって大きく2つに分けて考える。 【続発性(症候性)骨壊死】血流障害の原因が明らかなもの。大腿骨頸部骨折や股関節脱臼などの外傷による血管損傷、潜函病(減圧症)での窒素ガス塞栓、放射線照射による血管障害、鎌状赤血球症での血管閉塞、Gaucher病での骨髄内への細胞浸潤などが挙げられる。 【特発性骨壊死】明らかな原因が特定できないもの。原因そのものは不明だが、副腎皮質ステロイドの全身投与とアルコールの多飲が強い関連因子(危険因子)として知られている。日本の特発性大腿骨頭壊死症は指定難病であり、ステロイド関連とアルコール関連が大半を占める。 この枠組みで選択肢を見ると、飲酒・副腎皮質ステロイドは特発性骨壊死の、減圧症・放射線照射は続発性骨壊死の原因・危険因子にあたる。有機リン剤は、アセチルコリンエステラーゼ阻害による中毒(ムスカリン様・ニコチン様症状)を起こす物質であり、骨壊死との関連は知られていない。
選択肢考察
- ×a. 飲酒
リスクファクターである。アルコールの多量・長期摂取は特発性大腿骨頭壊死症の主要な関連因子で、ステロイドと並ぶ二大要因とされる。脂質代謝異常による骨髄内の脂肪増加や脂肪塞栓、血管内皮障害、凝固能亢進などにより骨内の血流が障害されると考えられている。摂取量が多いほどリスクが高まる(用量依存性)ことが知られており、男性に多い要因である。
- ×b. 減圧症
リスクファクターである。減圧症(潜函病、ケーソン病)は、潜水作業や高気圧下の作業から急に減圧した際に、血液や組織に溶けていた窒素が気泡となって血管を閉塞する病態である。骨内の血管が気泡で塞がれると阻血性の骨壊死(潜函病性骨壊死、dysbaric osteonecrosis)を生じ、続発性骨壊死の代表的な原因となる。大腿骨頭や上腕骨頭などに好発する。
- ×c. 放射線照射
リスクファクターである。放射線照射は骨の微小血管を障害し(血管内皮障害・閉塞性血管炎)、骨芽細胞などの骨細胞も直接傷害するため、照射野内の骨に壊死を起こす(放射線骨壊死)。続発性骨壊死の原因であり、骨盤部腫瘍への照射後の大腿骨頭壊死や、頭頸部癌照射後の顎骨壊死(放射線性顎骨壊死)などが知られている。
- ○d. 有機リン剤
リスクファクターではないため、これが正解である。有機リン剤は農薬や殺虫剤に含まれ、アセチルコリンエステラーゼを阻害してアセチルコリンを蓄積させる。中毒ではムスカリン様症状(縮瞳、流涎、気道分泌亢進、徐脈、下痢など)とニコチン様症状(筋線維束攣縮、筋力低下・呼吸筋麻痺など)、中枢神経症状を呈し、アトロピンとプラリドキシム(PAM)で治療する。骨の血流障害を起こす作用はなく、骨壊死の原因とはされていない。
- ×e. 副腎皮質ステロイド
リスクファクターである。副腎皮質ステロイドの全身投与は特発性大腿骨頭壊死症の最も重要な関連因子であり、全身性エリテマトーデス(SLE)、ネフローゼ症候群、臓器移植後などで大量投与を受けた患者に多い。脂質代謝異常や骨髄内脂肪細胞の肥大による骨内圧上昇、血管内皮障害、凝固能亢進などが血流障害に関わると考えられている。高用量投与の開始から1年以内に発生することが多く、MRIによる早期発見が重視される。
骨壊死の原因の整理
・特発性:副腎皮質ステロイド全身投与、アルコール多飲(ほかに喫煙との関連も指摘されている) ・続発性(症候性):外傷(大腿骨頸部骨折、股関節脱臼)、減圧症(潜函病)、放射線照射、鎌状赤血球症などの異常ヘモグロビン症、Gaucher病、膵炎など ・薬剤関連の顎骨壊死:ビスホスホネート製剤やデノスマブなどの骨吸収抑制薬による顎骨壊死(抜歯などの歯科処置が契機)も重要である
小児の骨壊死
Perthes病(Legg-Calvé-Perthes病)は小児(主に4〜8歳前後の男児)の大腿骨頭に生じる阻血性壊死であり、成人の特発性大腿骨頭壊死症とは別の疾患として扱う。そのほか、手の月状骨(Kienböck病)、足の第2中足骨頭(Freiberg病)、舟状骨(Köhler病)などにも骨端症としての阻血性壊死がみられる。
特発性大腿骨頭壊死症の診断と治療
早期は単純X線で異常がなくても、MRIのT1強調像で壊死域を境界する帯状低信号域(band像)がみられ、早期診断に最も鋭敏である。進行するとX線で骨頭の帯状硬化像、軟骨下骨折線(crescent sign)、骨頭の圧潰が現れる。治療は壊死範囲・部位と病期により、経過観察・免荷、骨切り術(大腿骨頭回転骨切り術、内反骨切り術など)、人工骨頭置換術・人工股関節全置換術が選択される。
POINT
・骨壊死は阻血による骨の壊死で、大腿骨頭が最多。 ・特発性骨壊死の二大危険因子:副腎皮質ステロイド(全身投与)とアルコール多飲。 ・続発性骨壊死の原因:外傷(大腿骨頸部骨折)、減圧症(潜函病)、放射線照射、鎌状赤血球症、Gaucher病。 ・有機リン剤はアセチルコリンエステラーゼ阻害による中毒を起こすが、骨壊死とは無関係。 ・早期診断にはMRI(T1強調像のband像)が有用。
