健診で見つかる高カルシウム血症―PTHが「下がらない」ことが語る原発性副甲状腺機能亢進症
第119回医師国家試験 A問題 第54問
国試問題にチャレンジ
46歳の女性。人間ドックで血液検査の異常を指摘され,精査のため来院した。自覚症状はない。身長166cm,体重59kg。脈拍72/分,整。血圧126/82mmHg。血液生化学所見:アルブミン4.4g/dL,尿素窒素11mg/dL,クレアチニン0.5mg/dL,Na 142mEq/L,K 4.2mEq/L,Cl 104mEq/L,Ca 11.2mg/dL,P 3.4mg/dL,副甲状腺ホルモン102pg/mL(基準10~60)。頸部超音波像を下に示す。 この疾患で正しいのはどれか。

- a.白内障を合併しやすい。
- b.全身性の骨軟化症がみられる。
- c.異所性ホルモン産生腫瘍である。
- d.尿中カルシウム排泄率は増加する。
- e.甲状腺癌に関連するカルシウム異常である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
高カルシウム血症にもかかわらずPTHが抑制されず高値であれば、副甲状腺の自律的なPTH分泌、すなわち原発性副甲状腺機能亢進症を考え、その多くは単発の腺腫で、現在は健診で無症候性に発見されることが多い疾患です。PTHは尿細管でカルシウム再吸収を促しますが、骨吸収と腸管吸収の亢進で濾過カルシウム量が増えるため尿中カルシウム排泄は増加し、尿路結石の原因となります。一方、尿中カルシウム排泄が低ければ家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症を疑い、手術適応の判断に直結します。骨病変は骨軟化症ではなく骨粗鬆症や線維性骨炎であり、白内障は副甲状腺機能低下症の合併症、甲状腺髄様癌との合併はMEN2Aで考えます。PTHの4つの作用から症状と検査所見を組み立てる考え方は、カルシウム代謝異常全般を理解する土台になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・46歳女性。人間ドックの血液検査で異常を指摘されたが、自覚症状はない。 ・Ca 11.2mg/dL:アルブミン4.4g/dLと正常なので補正の必要はなく、高カルシウム血症である(血清Caの基準はおおむね8.5〜10.2mg/dL程度)。 ・副甲状腺ホルモン(PTH)102pg/mL:基準上限を超えて上昇している。 ・P 3.4mg/dL:基準範囲内(低下傾向まではない)。 ・腎機能(尿素窒素、クレアチニン)は正常。 ・頸部超音波像では、甲状腺の背側に接して低エコーの結節(腫大した副甲状腺)がみられる。
診断へのプロセス
高カルシウム血症をみたら、まずPTHが抑制されているかどうかで分ける。 ・PTHが抑制される(低値):悪性腫瘍に伴う高Ca血症(PTHrP産生腫瘍、骨転移)、ビタミンD過剰(肉芽腫性疾患を含む)、ビタミンA過剰、甲状腺機能亢進症、不動など。 ・PTHが正常〜高値(不適切に抑制されていない):原発性副甲状腺機能亢進症、家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)、リチウム製剤の影響など。 本例は高Ca血症にもかかわらずPTHが高く、頸部超音波で副甲状腺の腫大を認めることから、副甲状腺腺腫による原発性副甲状腺機能亢進症と診断できる。健診の血液検査で無症候性に見つかる経過も、本症の現在の典型的な発見のされ方である。 設問は本症の特徴を問うており、PTH過剰がカルシウム・リン代謝や骨・腎にどう影響するかを理解していれば解ける。
選択肢考察
- ×a. 白内障を合併しやすい。
白内障は慢性的な低カルシウム血症で生じやすく、副甲状腺機能低下症(特発性・術後など)の合併症として知られる。ほかに大脳基底核の石灰化、テタニーなども低Ca血症側の特徴である。高Ca血症をきたす原発性副甲状腺機能亢進症では白内障は典型的な合併症ではない。
- ×b. 全身性の骨軟化症がみられる。
骨軟化症は骨基質(類骨)の石灰化障害で、ビタミンD欠乏や低リン血症(腫瘍性骨軟化症など)が原因となり、通常は血清Ca・Pの低下やALP上昇を伴う。本症ではPTHによって破骨細胞性骨吸収が亢進し、骨密度低下(骨粗鬆症、特に橈骨遠位端など皮質骨優位)や、重症例では線維性骨炎(嚢胞性線維性骨炎)、骨膜下骨吸収、頭蓋骨のごま塩状陰影などをきたす。本例も高Ca血症で血清Pは正常範囲であり、骨軟化症の検査像とは異なる。
- ×c. 異所性ホルモン産生腫瘍である。
異所性ホルモン産生腫瘍とは、本来そのホルモンを分泌しない臓器の腫瘍がホルモンを産生するものである(例:肺癌など悪性腫瘍によるPTH関連蛋白〈PTHrP〉産生)。PTHrP産生による高Ca血症ではPTH自体はむしろ抑制される。本例はPTHが高値で、超音波で副甲状腺自体の腫大を認めるため、本来PTHを分泌する副甲状腺の病変(腺腫)による原発性の疾患である。
- ○d. 尿中カルシウム排泄率は増加する。
PTHは遠位尿細管でのCa再吸収を促進するが、本症では骨吸収亢進と活性型ビタミンD(1,25(OH)2D)産生増加による腸管Ca吸収増加で血清Caが上昇し、糸球体で濾過されるCa量が大きく増える。その結果、再吸収の増加を上回ってCaが尿中に出て、尿中Ca排泄量・排泄率は増加する(高カルシウム尿症)。これが尿路結石(Ca含有結石)や腎石灰化の原因となる。同じくPTH正常〜高値の高Ca血症を示すFHH(家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症)では尿中Ca排泄率が低い(Ca/Crクリアランス比がおおむね0.01未満)ことが特徴であり、両者の鑑別点としても重要である。
- ×e. 甲状腺癌に関連するカルシウム異常である。
本症は副甲状腺そのものの病変(大部分は単発の腺腫)によるPTH過剰が原因で、甲状腺癌によって生じるものではない。甲状腺髄様癌はカルシトニンを産生するが、カルシトニン過剰によって臨床的に問題となる低Ca血症をきたすことはほとんどない。なお、多発性内分泌腫瘍症2A型(MEN2A)では甲状腺髄様癌と原発性副甲状腺機能亢進症(過形成)が同一患者に合併しうるが、これは共通の遺伝子異常(RET遺伝子変異)によるもので、甲状腺癌がCa異常を引き起こしているわけではない。
原発性副甲状腺機能亢進症
・副甲状腺からPTHが自律的に過剰分泌される疾患。中高年女性に多い。 ・原因:腺腫(多くは単発)が約80〜90%、過形成(通常4腺すべてが腫大)が約10〜15%、副甲状腺癌は1〜2%程度とまれ。過形成ではMEN1型・MEN2A型などの遺伝性疾患を考える。 ・病態:PTHは①骨吸収の促進、②腎遠位尿細管でのCa再吸収促進、③近位尿細管でのリン再吸収抑制(リン利尿)、④腎での1α水酸化促進による活性型ビタミンD産生増加(→腸管Ca吸収増加)に働く。結果として高Ca血症、低〜正常下限のリン血症、高Ca尿症をきたす。 ・症状:現在は健診で無症候性に発見される例が多い。症候性では、尿路結石・腎石灰化、骨粗鬆症・線維性骨炎、消化性潰瘍・膵炎、多尿・口渇(腎性尿崩症様)、筋力低下、精神症状(抑うつ、意識障害)などがみられる。「stones, bones, abdominal groans, psychic moans」と覚えられる。 ・検査:高Ca血症、PTH高値(intact PTH)、血清P低下傾向、尿中Ca排泄増加、骨型ALP上昇。局在診断には頸部超音波、99mTc-MIBIシンチグラフィ、CTなどを用いる。 ・治療:腺腫の外科的摘出が根治療法。手術適応外では経過観察や、シナカルセト(カルシウム受容体作動薬)、骨吸収抑制薬などを用いる。術後に骨へのCa取り込みが急激に進むと低Ca血症(hungry bone症候群)をきたすことがある。
PTH非抑制性の高Ca血症の鑑別:FHH
・カルシウム感知受容体(CaSR)遺伝子の機能低下型変異による常染色体顕性(優性)遺伝疾患。 ・軽度の高Ca血症とPTH正常〜軽度高値を示すが、尿中Ca排泄が少ない(Ca/Crクリアランス比が低い)。 ・一般に治療を要さず、副甲状腺摘出術の適応にならないため、原発性副甲状腺機能亢進症との鑑別が重要である。
副甲状腺機能低下症の特徴(対比)
低Ca血症、高P血症、テタニー(Trousseau徴候、Chvostek徴候)、白内障、大脳基底核石灰化、QT延長など。
POINT
・高Ca血症+PTH高値(不適切に抑制されていない)→原発性副甲状腺機能亢進症をまず考える。原因の大部分は単発の腺腫。 ・本症では尿中Ca排泄が増加し、尿路結石の原因となる。尿中Ca排泄が低ければFHHを疑う。 ・骨病変は骨粗鬆症・線維性骨炎であり、骨軟化症(ビタミンD欠乏)ではない。 ・白内障は副甲状腺機能低下症(低Ca血症)の合併症。 ・悪性腫瘍のPTHrP産生による高Ca血症ではPTHは抑制される。 ・甲状腺髄様癌と副甲状腺機能亢進症の合併はMEN2Aで考える。
