StudyMed医師国家試験

筋力低下は軽いのに肺は急速に悪化―皮膚筋炎の「危ない抗体」抗MDA5抗体を見抜く

第120回医師国家試験 D問題 第57問

国試問題にチャレンジ

第120回 D問題 第57問

67歳の男性。労作時呼吸困難を主訴に来院した。2週間前から労作時呼吸困難が出現し,急速に悪化したため受診した。手の皮膚所見を下に示す。両側の肘と膝の伸側に落屑を伴う紅斑を認める。両側下肺野にfine cracklesを聴取する。徒手筋力テストで,両側三角筋および大腿四頭筋は4。胸部単純CTで下葉にすりガラス陰影および牽引性気管支拡張を認める。  診断に最も有用な自己抗体はどれか。

第120回 D問題 第57問の問題画像
  1. a.抗Scl-70抗体
  2. b.抗MDA5抗体
  3. c.抗ADAMTS-13抗体
  4. d.抗RNAポリメラーゼⅢ抗体
  5. e.抗筋特異的チロシンキナーゼ抗体〈抗MuSK抗体〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、特徴的な皮疹と間質性肺炎の組み合わせから皮膚筋炎を診断し、さらに「どの自己抗体が陽性の病型か」まで踏み込む問題だ。着眼点は、皮疹の種類、筋症状の強さ、そして肺病変の進行スピードの3つ。まず皮膚所見から考えてみよう。
医学生医学生
肘と膝の伸側の落屑を伴う紅斑は、乾癬のようにも見えますが…。
ドクタードクター
分布だけ見ると乾癬も浮かぶよね。でも関節の伸側に出る角化性の紅斑は、皮膚筋炎のGottron徴候として知られている。手の写真では、指の側面、特に母指や示指の縁に角化や落屑、亀裂があって、機械工の手と呼ばれる所見だ。さらに手のひら側の指関節にも角化性の紅斑がある。
医学生医学生
手のひら側だから、逆Gottron徴候ですね。皮膚科の実習で、ヘリオトロープ疹と一緒に写真で見せてもらいました。
ドクタードクター
その通り。そこに近位筋である三角筋と大腿四頭筋の軽度筋力低下、下肺野のfine crackles、CTでのすりガラス陰影と牽引性気管支拡張が加わる。全体として何と診断する?
医学生医学生
間質性肺炎を合併した皮膚筋炎です。ただ、筋力は4なので筋炎としてはかなり軽いですね。
ドクタードクター
そこが大事なポイントなんだ。筋症状は軽いのに皮疹は目立ち、肺病変はわずか2週間で急速に悪化している。皮膚筋炎は、陽性になる筋炎特異自己抗体によって臨床像が大きく違うことを知っているかな。
医学生医学生
免疫学の講義で抗Jo-1抗体は習いました。間質性肺炎といえば抗ARS抗体だと思っていたんですが。
ドクタードクター
抗ARS抗体も間質性肺炎や機械工の手を伴うけれど、肺病変は比較的慢性に経過し、治療によく反応するのが典型だ。一方、筋症状が乏しく、急速進行性の間質性肺炎を高率に合併するのが抗MDA5抗体陽性の皮膚筋炎。臨床的無筋症性皮膚筋炎、CADMに多く、逆Gottron徴候や皮膚潰瘍も特徴的とされる。だから正解は抗MDA5抗体だ。
医学生医学生
MDA5って何の蛋白なんですか。
ドクタードクター
ウイルスのRNAを感知する細胞内のセンサー蛋白だよ。それに対する自己抗体ができる仕組みはまだ完全にはわかっていないけれど、東アジアで頻度が高いことが知られている。では、ほかの選択肢を見ていこう。抗Scl-70抗体はどうかな。
医学生医学生
全身性強皮症のびまん皮膚硬化型ですね。間質性肺炎を合併しやすいので少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だね。ただ強皮症なら手指から始まる皮膚硬化やRaynaud現象、指尖潰瘍が中心で、Gottron徴候や近位筋力低下は説明できない。抗RNAポリメラーゼⅢ抗体も強皮症の抗体で、急速に広がる皮膚硬化や強皮症腎クリーゼと関係が深い。
医学生医学生
抗ADAMTS-13抗体は血栓性血小板減少性紫斑病、抗MuSK抗体は重症筋無力症で、どちらも今回の皮疹や肺病変とは結びつきませんね。
ドクタードクター
その通り。後天性TTPはvon Willebrand因子を切る酵素への自己抗体で血小板減少と溶血性貧血が主体、抗MuSK抗体陽性の重症筋無力症は日内変動のある易疲労性の筋力低下で、球症状が目立ちやすい。どちらも皮疹や間質性肺炎は伴わない。
医学生医学生
筋力低下があるから神経筋疾患の抗体も並んでいたんですね。皮疹と肺の組み合わせで考えれば絞り込めました。
ドクタードクター
いい整理だ。ここで他の筋炎特異自己抗体もまとめておこう。抗TIF1-γ抗体は成人で悪性腫瘍の合併が多く、間質性肺炎は少ない。抗Mi-2抗体は古典的な皮疹と筋炎を示し、治療反応性が良い。抗SRP抗体は皮疹を伴わない重症の壊死性ミオパチーだ。
医学生医学生
抗TIF1-γ抗体なら悪性腫瘍の検索、抗MDA5抗体なら肺の評価、と抗体ごとに次にやることが変わるんですね。
ドクタードクター
まさにそこが「診断に有用」と言われる理由だ。抗MDA5抗体陽性の急速進行性間質性肺炎は、発症から数か月以内に呼吸不全で亡くなることもある。だから陽性とわかれば、ステロイド大量療法にタクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬、静注シクロホスファミドを組み合わせた強力な治療を早期から考慮する。血清フェリチン高値は病勢や予後の目安になるよ。
医学生医学生
筋力低下が軽いからと様子を見ていると、手遅れになりかねないということですね。
ドクタードクター
その通り。呼吸器内科や膠原病内科では、筋症状に乏しい皮膚筋炎ほど肺に注意せよ、とよく言われる。特徴的な皮疹を見たら筋力だけで重症度を判断せず、肺の評価と抗体検査を急ぐことが大切だ。

まとめ

関節伸側の角化性紅斑(Gottron徴候)、機械工の手、逆Gottron徴候に近位筋の軽度筋力低下と間質性肺炎が加われば、間質性肺炎を合併した皮膚筋炎と診断できます。筋症状が乏しい一方で皮疹が目立ち、間質性肺炎が数週単位で急速に進行する病型は抗MDA5抗体陽性例に典型的で、臨床的無筋症性皮膚筋炎に多く、予後不良のため早期から多剤併用の強力な免疫抑制療法を検討します。抗ARS抗体は慢性経過の間質性肺炎、抗TIF1-γ抗体は悪性腫瘍合併、抗Mi-2抗体は古典的で治療反応良好、と抗体ごとの臨床像を整理しておくことが重要です。抗Scl-70抗体・抗RNAポリメラーゼⅢ抗体は全身性強皮症、抗MuSK抗体は重症筋無力症、抗ADAMTS-13抗体は後天性TTPに関連します。自己抗体を「診断名のラベル」ではなく「病型と予後、次の一手を教えてくれる情報」として理解することが、膠原病診療の土台になります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・67歳男性。2週間前から労作時呼吸困難が出現し、急速に悪化している(亜急性・急速進行性の経過)。 ・手の写真:手指の側面(特に母指・示指の橈側)に角化・落屑・亀裂を伴う皮疹があり、機械工の手(mechanic's hand)と読める。手掌側の指関節屈側にも角化性の紅斑・丘疹がみられ、逆Gottron徴候に相当する。 ・両側の肘と膝の伸側に落屑を伴う紅斑:関節伸側の紅斑はGottron徴候(関節伸側の角化性紅斑)であり、皮膚筋炎に特徴的な分布である。 ・両側下肺野でfine crackles(捻髪音)を聴取:間質性肺炎を示唆する。 ・徒手筋力テスト(MMT、正常5〜0の6段階)で三角筋・大腿四頭筋が4:近位筋に対称性の軽度筋力低下がある。 ・胸部CT:下葉のすりガラス陰影と牽引性気管支拡張。間質性肺炎の所見である。

診断へのプロセス

関節伸側の紅斑(Gottron徴候)、機械工の手・逆Gottron徴候という皮膚筋炎に特徴的な皮疹に、軽度の近位筋力低下と間質性肺炎が加わっている。皮疹の分布は乾癬など他の落屑性紅斑とは異なり、筋症状と肺病変をあわせると、間質性肺炎を合併した皮膚筋炎と診断できる。筋症状が軽いわりに皮膚症状と肺病変が目立ち、しかも肺病変が数週の単位で急速に悪化している。

設問の考え方

皮膚筋炎は、陽性となる筋炎特異自己抗体の種類によって臨床像(間質性肺炎、悪性腫瘍、筋症状の強さ)が大きく異なる。筋症状が乏しい(臨床的無筋症性皮膚筋炎に近い)病型で、急速進行性の間質性肺炎を合併しやすいのは抗MDA5抗体陽性例である。本例の特徴(軽い筋力低下、目立つ皮疹、急速進行する間質性肺炎)はこれに一致し、診断と予後評価・治療方針の決定に最も有用な自己抗体は抗MDA5抗体である。

選択肢考察

  1. ×a.  抗Scl-70抗体

    抗トポイソメラーゼⅠ抗体ともいい、全身性強皮症(特にびまん皮膚硬化型)に特異的な自己抗体である。間質性肺炎の合併が多い点は共通するが、強皮症では手指から始まる皮膚硬化、Raynaud現象、指尖潰瘍などが中心で、本例のようなGottron徴候や機械工の手、近位筋力低下は説明できない。

  2. ○b.  抗MDA5抗体

    MDA5(melanoma differentiation-associated gene 5)はウイルスRNAを感知する細胞内蛋白で、これに対する自己抗体は皮膚筋炎の筋炎特異自己抗体の一つである。抗MDA5抗体陽性例は筋症状が軽いかほとんどない(臨床的無筋症性皮膚筋炎:CADMに多い)一方、Gottron徴候、逆Gottron徴候、機械工の手、皮膚潰瘍などの皮膚症状が目立ち、急速進行性間質性肺炎を高率に合併する。本例の、軽度の近位筋力低下、特徴的な皮疹、数週で悪化する間質性肺炎という組み合わせに最もよく合う。陽性であれば早期から副腎皮質ステロイド、カルシニューリン阻害薬、シクロホスファミド静注を組み合わせた強力な免疫抑制療法を考慮する根拠となるため、診断上きわめて有用である。

  3. ×c.  抗ADAMTS-13抗体

    ADAMTS-13はvon Willebrand因子の巨大多量体を切断する酵素で、これに対する自己抗体(インヒビター)が生じると後天性の血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)を起こす。TTPは血小板減少、微小血管症性溶血性貧血、腎障害、精神神経症状、発熱などを呈する疾患であり、本例の皮疹・筋力低下・間質性肺炎とは関係しない。

  4. ×d.  抗RNAポリメラーゼⅢ抗体

    全身性強皮症(びまん皮膚硬化型)で陽性となる自己抗体で、急速に広がる皮膚硬化や強皮症腎クリーゼ(急激な高血圧と腎不全)との関連が強く、悪性腫瘍の合併も報告されている。間質性肺炎の合併は抗Scl-70抗体陽性例ほど多くない。皮膚筋炎の診断には用いない。

  5. ×e.  抗筋特異的チロシンキナーゼ抗体〈抗MuSK抗体〉

    重症筋無力症で、抗アセチルコリン受容体抗体陰性例の一部に陽性となる自己抗体である。抗MuSK抗体陽性例は球症状(構音・嚥下障害)や顔面・頸部の筋力低下が目立ちやすい。重症筋無力症は易疲労性と日内変動のある筋力低下を特徴とし、皮疹や間質性肺炎は伴わないため、本例には当てはまらない。

皮膚筋炎の皮膚所見

・ヘリオトロープ疹:上眼瞼の紫紅色の浮腫性紅斑。 ・Gottron丘疹/Gottron徴候:手指関節(MCP・PIP関節)背側の角化性丘疹、および肘・膝など関節伸側の角化性紅斑。 ・機械工の手(mechanic's hand):母指尺側・示指橈側などの手指側面の角化、落屑、亀裂。抗ARS抗体陽性例や抗MDA5抗体陽性例でみられ、間質性肺炎の存在を示唆する。 ・逆Gottron徴候:手掌側の指関節屈側に生じる角化性紅斑・丘疹。抗MDA5抗体陽性例に特徴的とされる。 ・そのほか、Vネック徴候・ショール徴候(前胸部・肩背部の紅斑)、爪囲紅斑、爪上皮出血点など。

筋炎特異自己抗体と臨床像

・抗ARS抗体(抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体。抗Jo-1抗体など):抗合成酵素症候群。筋炎、慢性経過の間質性肺炎、多関節炎、発熱、機械工の手、Raynaud現象。治療反応性は良いが再燃しやすい。 ・抗MDA5抗体:臨床的無筋症性皮膚筋炎(CADM)に多い。急速進行性間質性肺炎を合併しやすく、予後不良の病型。血清フェリチン高値は病勢・予後の指標となる。東アジアで頻度が高い。 ・抗TIF1-γ抗体:成人では悪性腫瘍合併が多い。典型的な皮疹が強く、間質性肺炎は少ない。 ・抗Mi-2抗体:古典的な皮膚筋炎の皮疹と筋炎を示し、間質性肺炎や悪性腫瘍は少なく、治療反応性が良好。 ・抗SRP抗体:重症の筋炎(壊死性ミオパチー)。皮疹は伴わない。

抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の治療

急速進行性間質性肺炎は発症から数か月以内に呼吸不全で死亡することがあり、診断後ただちに副腎皮質ステロイド大量療法、カルシニューリン阻害薬(タクロリムスまたはシクロスポリン)、静注シクロホスファミドを併用する3剤併用療法などの強力な免疫抑制療法が行われる。難治例では血漿交換などが試みられる。

膠原病関連の主な自己抗体(混同しやすいもの)

・全身性強皮症:抗Scl-70抗体(びまん型・間質性肺炎)、抗セントロメア抗体(限局型・肺高血圧症)、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体(びまん型・腎クリーゼ)。 ・重症筋無力症:抗アセチルコリン受容体抗体、抗MuSK抗体。 ・後天性TTP:抗ADAMTS-13抗体(インヒビター)。

POINT

・関節伸側の角化性紅斑(Gottron徴候)、機械工の手、逆Gottron徴候 → 皮膚筋炎。 ・筋症状が軽いのに皮疹が目立ち、急速進行性間質性肺炎を伴う皮膚筋炎 → 抗MDA5抗体。 ・抗MDA5抗体陽性例はCADMに多く予後不良。早期から強力な免疫抑制療法を行う。 ・抗ARS抗体は慢性の間質性肺炎、抗TIF1-γ抗体は悪性腫瘍合併、抗Mi-2抗体は古典的皮膚筋炎で予後良好、と整理する。 ・抗Scl-70抗体・抗RNAポリメラーゼⅢ抗体は全身性強皮症、抗MuSK抗体は重症筋無力症、抗ADAMTS-13抗体はTTP。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。