「来週から歩きます」は何期?―行動変容ステージを時間の物差しで読み解く
第119回医師国家試験 B問題 第42問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,41,42の問いに答えよ。 48歳の男性。健康診断で脂質異常を指摘され来院した。研修医が診察を行った。 現病歴:2年前から脂質異常を指摘されていたが自覚症状はなくそのままにしていた。①この1年間で体重が5kg増加したこともあり受診した。 既往歴:5年前から高血圧症に対して治療中。 生活歴:②妻(アレルギー性鼻炎で治療中),長男と3人暮らし。喫煙歴はない。③飲酒は機会飲酒。 家族歴:④父が45歳時に心筋梗塞で死亡。 現症:意識は清明。身長173cm,体重81kg。体温36.2℃。脈拍80/分,整。血圧144/98mmHg。呼吸数16/分。SpO2 98%(room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。⑤アキレス腱の肥厚を認める。 検査所見:血液所見:赤血球489万,Hb 14.9g/dL,Ht 43%,白血球8,900,血小板23万。血液生化学所見:総蛋白7.1g/dL,アルブミン3.8g/dL,総ビリルビン1.1mg/dL,AST 37U/L,ALT 39U/L,LD 155U/L(基準124~222),CK 88U/L(基準59~248),尿素窒素14mg/dL,クレアチニン1.0mg/dL,尿酸7.8mg/dL,血糖90mg/dL,HbA1c 5.6%(基準4.9~6.0),トリグリセリド185mg/dL,HDLコレステロール30mg/dL,LDLコレステロール172mg/dL。CRP 0.3 mg/dL。
生活習慣改善の必要性を説明したところ,患者から「来週から通勤時に歩こうと思います」と発言があった。 この言動の行動変容ステージはどれか。
- a.無関心期
- b.関心期
- c.準備期
- d.実行期
- e.維持期
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクター
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ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
行動変容ステージモデルでは、行動をすでに始めているかどうかと、6か月・1か月という時間の区切りで5つの段階を判定します。まだ行動していない人のうち、6か月以内に変える気がなければ無関心期、6か月以内に変える気があれば関心期、1か月以内に始める予定で具体的な計画があれば準備期です。行動を始めて6か月未満が実行期、6か月以上続いていれば維持期であり、「来週から通勤時に歩こうと思う」という発言は、まだ行動していないが1か月以内に具体的な計画がある典型的な準備期にあたります。ステージごとに有効な支援は異なり、準備期では具体的で実行可能な目標づくりや宣言の後押しが役立ちます。患者の段階を見極めて関わり方を変える視点は、生活習慣病の診療や保健指導全般で求められる基本的な技術です。
解答・解説
正解はcです
症例の背景
48歳男性。健診で指摘された脂質異常(LDL-C 172mg/dL、HDL-C 30mg/dL、TG 185mg/dL)を2年間放置していた。BMI約27.1の肥満、治療中なのに目標に届かない高血圧(144/98mmHg)、高尿酸血症(7.8mg/dL)を合併する。さらにアキレス腱肥厚(腱黄色腫)と、父親の45歳での心筋梗塞死(第一度近親者の早発性冠動脈疾患)から、家族性高コレステロール血症(FH)が強く疑われる。FHは薬物療法が治療の中心になるが、肥満・高血圧・高TG血症・低HDL-C血症・高尿酸血症が重なる本例では、減量や運動習慣などの生活習慣の改善も動脈硬化リスクを下げるために欠かせない。
設問の考え方
行動変容ステージモデル(トランスセオレティカルモデル:Prochaskaらが提唱)では、人が健康行動を身につけるまでを、無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期の5段階に分ける。段階の判定は、「まだ行動を始めていないか、すでに始めているか」と、「始めていない場合、いつ始めるつもりか(6か月以内か、1か月以内か)」、「始めている場合、どれくらい続いているか(6か月未満か、以上か)」で行う。 本例の「来週から通勤時に歩こうと思います」という発言は、まだ行動は始めていないものの、1か月以内(来週)に始める意思があり、「通勤時に歩く」という具体的な計画まで立てている。したがって準備期に当たる。
選択肢考察
- ×a. 無関心期
無関心期(前熟考期)は、今後6か月以内に行動を変えるつもりがない段階である。問題に気づいていない、あるいは変える必要性を感じていない状態で、2年間脂質異常を放置していた受診前の本患者はこの段階に近かったと考えられる。しかし、今回は来週から歩くと述べており、行動を変える意思が明確なので該当しない。
- ×b. 関心期
関心期(熟考期)は、問題を自覚して6か月以内に行動を変えようと考えているが、1か月以内に始める予定はなく、具体的な計画にまでは至っていない段階である。「そのうち運動しないといけないとは思う」といった発言が典型的である。本例は開始時期が来週と差し迫り、方法も具体的なので、関心期より一段階進んでいる。
- ○c. 準備期
準備期は、1か月以内に行動を変えようと考えており、情報を集めたり具体的な行動計画を立てたりしている段階である。「来週から」という1か月以内の開始時期と、「通勤時に歩く」という具体的な方法の両方がそろっており、まだ実際には始めていないことから準備期に当たる。この段階では、目標を具体的・現実的にし、実行を宣言してもらう(自己決定を支える)ことなどが有効な支援となる。
- ×d. 実行期
実行期は、すでに行動を変えて実践しているが、始めてから6か月未満の段階である。本例はまだ歩き始めておらず、「来週から」と予定を述べている段階なので該当しない。来週から歩き始めれば、その時点で実行期に移る。
- ×e. 維持期
維持期は、行動の変化を6か月以上続けている段階である。この時期は、行動を習慣として定着させ、元の生活に戻ってしまうこと(逆戻り)を防ぐことが課題となる。本例はまだ行動を始めていないので該当しない。
行動変容ステージモデルの5段階
・無関心期:6か月以内に行動を変えるつもりがない。 ・関心期:6か月以内に行動を変えるつもりがある。 ・準備期:1か月以内に行動を変えるつもりがあり、具体的な準備・計画をしている。 ・実行期:行動を変えて6か月未満。 ・維持期:行動を変えて6か月以上継続している。
ステージに応じた支援の例
・無関心期:行動を変えないことのリスクや、変えることの利益を、本人の価値観に沿って伝え、関心を引き出す(意識の高揚)。 ・関心期:変えることのメリットとデメリットを整理し、迷い(両価性)を解消する手助けをする。動機づけ面接の技法が役立つ。 ・準備期:実行可能で具体的な目標を一緒に立て、周囲に宣言してもらうなど、自分で決めた行動を後押しする。 ・実行期:実践をほめて強化し、妨げになる状況への対処法を一緒に考える。 ・維持期:再び元に戻ることを防ぐ工夫をし、戻ってしまっても責めずに再開を支援する。 ステージは一方向に進むとは限らず、前の段階へ戻ることもある。支援者は、その時点のステージを見極めて働きかけを変えることが重要である。
本症例との関連
本患者はFHが疑われ、LDL-C低下のための薬物療法が必要になる可能性が高い。それに加えて、肥満・高血圧・高TG血症・低HDL-C血症・高尿酸血症を伴うため、減量、食事の見直し(飽和脂肪酸やコレステロールの摂取を控える等)、有酸素運動(ウォーキングなど)の継続も重要である。準備期にある本人の意欲を実行・維持につなげる支援が求められる。
POINT
・行動変容ステージは、行動を始めているか否かと、6か月・1か月という時間の区切りで判定する。 ・6か月以内に変える気なし=無関心期、6か月以内に変える気あり=関心期、1か月以内に始める予定で具体的な計画あり=準備期。 ・行動開始後6か月未満=実行期、6か月以上継続=維持期。 ・「来週から〜しようと思う」は典型的な準備期の発言である。 ・ステージに合わせて支援の方法を変える。
