日齢20の発熱と大泉門膨隆―新生児髄膜炎は「年齢」で原因菌を読む
第119回医師国家試験 A問題 第25問
国試問題にチャレンジ
日齢20の男児。哺乳量の低下と発熱とを主訴に母親に連れられて来院した。在胎39週3日,体重3,120gで出生した。昨日から哺乳量の低下があり,本日38.6℃の発熱を認めた。顔色不良で大泉門は膨隆し,易刺激性があった。血液所見:赤血球412万,Hb 12.1g/dL,Ht 36%,白血球25,000(桿状核好中球15%,分葉核好中球65%,単球10%,リンパ球10%),血小板15万。血液生化学所見:血糖98mg/dL,Na 136mEq/L,K 4.5mEq/L,Cl 100mEq/L。CRP 13.8mg/dL。脳脊髄液所見:細胞数4,200/mm3(基準0~2)(単核球22%,多形核球78%),蛋白80mg/dL(基準15~45),糖5mg/dL(基準50~75)。 原因菌で考えられるのはどれか。
- a.Haemophilus influenzae
- b.Neisseria meningitidis
- c.Pseudomonas aeruginosa
- d.Streptococcus pneumoniae
- e.Streptococcus agalactiae〈GBS〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
新生児の重症細菌感染症は哺乳不良や顔色不良といった非特異的症状で始まり、大泉門膨隆や易刺激性は髄膜炎を示唆するサインです。髄液で多形核球優位の細胞増多・蛋白上昇・著明な糖低下を認めれば細菌性髄膜炎と診断でき、原因菌は年齢によって大きく異なります。新生児〜生後3か月はGBSと大腸菌が二大原因菌(ほかにリステリア)、生後3〜4か月以降は肺炎球菌とHib、脳外科術後やシャント例では緑膿菌などの院内感染菌が問題となります。GBS感染症は日齢0〜6の早発型(敗血症・肺炎中心)と日齢7〜89の遅発型(髄膜炎が多い)に分かれ、妊娠後期のスクリーニングと分娩時予防投与で防げるのは主に早発型です。年齢から原因菌を想定し、アンピシリンと第3世代セフェムによる初期治療を速やかに始める考え方は、小児救急の現場で直結する重要な知識です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・年齢:日齢20。生後28日未満であり新生児期にあたる。 ・出生歴:在胎39週3日、出生体重3,120gで、早産児・低出生体重児ではない正期産の成熟児である。 ・経過:前日までは問題なく哺乳できていたが、昨日から哺乳量が減り、本日38.6℃の発熱が出現した。急性に発症した病態と考えられる。新生児は症状を言葉で訴えられないため、「哺乳不良」「元気がない」「顔色が悪い」といった非特異的な変化が重症感染症の初発症状となりやすい。 ・身体所見:顔色不良は全身状態の悪さを、大泉門膨隆は頭蓋内圧亢進を示す。易刺激性(少しの刺激で激しく泣く、ぐったりする状態を繰り返す)は中枢神経が刺激されているサインである。 ・血液検査:白血球25,000/μLと増加し、好中球が80%を占める。未熟な桿状核好中球が15%と増えており(いわゆる左方移動)、CRP 13.8mg/dLと強い炎症反応を伴う。新生児敗血症の指標であるI/T比(未熟好中球数÷総好中球数)は15÷(15+65)≒0.19で、感染を疑う目安の0.2に近い値である。血糖・電解質には大きな異常はない。 ・脳脊髄液:細胞数4,200/mm3と著明に増加し、多形核球(好中球)が78%と優位である。蛋白は80mg/dLに上昇し、糖は5mg/dLと著しく低い。
診断へのプロセス
新生児の哺乳不良・発熱・顔色不良では、まず敗血症や髄膜炎などの重症細菌感染症を考える(ほかに先天代謝異常症、先天性心疾患によるショックなども鑑別に挙がる)。本例では大泉門膨隆と易刺激性という中枢神経症状があり、髄液で「多形核球優位の細胞増多・蛋白上昇・著明な糖低下」という典型的な細菌性パターンを示すことから、細菌性髄膜炎と診断できる。ウイルス性(無菌性)髄膜炎では通常、単核球優位で糖は正常に保たれる点が鑑別のポイントである。
設問の考え方
細菌性髄膜炎の原因菌は年齢によって大きく異なる。新生児期〜生後3か月ころまでは、出産時に母体の産道から感染する菌、すなわちB群溶血性レンサ球菌(Streptococcus agalactiae、GBS)と大腸菌が二大原因菌であり、リステリア(Listeria monocytogenes)なども加わる。本例は日齢20で、出生後しばらく元気だったのちに発症していることから、GBS感染症のうち遅発型(日齢7〜89に発症)に相当すると考えられる。したがって選択肢中ではGBSが最も考えられる原因菌である。
選択肢考察
- ×a. Haemophilus influenzae
インフルエンザ菌(特にb型、Hib)は、母体からの移行抗体が減ってくる生後3〜4か月以降の乳幼児で、肺炎球菌と並ぶ細菌性髄膜炎の主要な原因菌である。新生児期の原因菌としては典型的でない。なお、2013年にHibワクチンが定期接種化されてからは、Hib髄膜炎は国内でほとんどみられなくなった。
- ×b. Neisseria meningitidis
髄膜炎菌はグラム陰性双球菌で、海外では乳幼児から青年期の流行性髄膜炎の主要な原因菌であり、学生寮などの集団生活での集団発生が知られる。日本での発生はまれであり、新生児期の髄膜炎の原因菌として考える菌ではない。電撃型では副腎出血を伴うWaterhouse-Friderichsen症候群をきたしうる。
- ×c. Pseudomonas aeruginosa
緑膿菌は院内感染の代表的な原因菌で、好中球減少などの免疫不全状態、脳外科手術後やシャント留置後、頭部外傷後などで髄膜炎の原因となる。本例のような基礎疾患のない正期産児が、自宅で生活していた日齢20に発症した髄膜炎の原因としては考えにくい。
- ×d. Streptococcus pneumoniae
肺炎球菌は生後3〜4か月以降の乳幼児から成人・高齢者まで、幅広い年齢で細菌性髄膜炎の主要な原因菌となる。新生児期の原因菌としては頻度が低い。小児用肺炎球菌結合型ワクチンの定期接種化により、乳幼児の肺炎球菌髄膜炎も減少している。
- ○e. Streptococcus agalactiae〈GBS〉
B群溶血性レンサ球菌(GBS)は妊婦の腟・直腸に常在することがあり(保菌率はおよそ10〜30%)、分娩時に児へ伝播して新生児の敗血症・髄膜炎を起こす。大腸菌と並ぶ新生児髄膜炎の二大原因菌である。日齢0〜6に発症する早発型は敗血症や肺炎が中心であるのに対し、日齢7〜89に発症する遅発型では髄膜炎が多い。日齢20で発症した本例は遅発型GBS髄膜炎として矛盾しない。
年齢別にみた細菌性髄膜炎の主な原因菌
・新生児〜生後3か月:GBS、大腸菌(そのほかリステリア、黄色ブドウ球菌など) ・生後3〜4か月以降の乳幼児:肺炎球菌、インフルエンザ菌b型(Hib)(ワクチン定期接種化後は大きく減少) ・学童〜成人:肺炎球菌が最多。海外では髄膜炎菌も重要 ・高齢者・免疫不全者:肺炎球菌、リステリア、グラム陰性桿菌 ・脳外科術後・シャント・頭部外傷:ブドウ球菌(MRSAを含む)、緑膿菌などのグラム陰性桿菌
GBS感染症の早発型と遅発型
・早発型(日齢0〜6、多くは生後24時間以内):分娩時の垂直感染。敗血症・肺炎が主体。妊娠35〜37週のGBSスクリーニング(腟・肛門周囲の培養)と、陽性妊婦への分娩時ペニシリン系抗菌薬投与で予防できる。 ・遅発型(日齢7〜89):垂直感染に加え、家族や環境からの水平感染も関与する。髄膜炎の頻度が高い。分娩時の抗菌薬予防では十分に防げない。
髄液所見の読み方
・細菌性:多形核球優位の著明な細胞増多、蛋白上昇、糖低下(髄液糖/血糖比が0.4未満が目安) ・ウイルス性:単核球優位の細胞増多、蛋白は軽度上昇、糖は正常 ・結核性・真菌性:単核球優位、蛋白上昇、糖低下
新生児細菌性髄膜炎の初期治療
GBS・大腸菌・リステリアを想定し、アンピシリンと第3世代セフェム系(セフォタキシムなど)の併用が一般的である。
POINT
・新生児(日齢28未満)の細菌性髄膜炎の二大原因菌はGBSと大腸菌。リステリアも重要。 ・生後3〜4か月以降は肺炎球菌とHibが主体(ワクチン普及で減少)。 ・GBS感染症は早発型(日齢0〜6、敗血症・肺炎が中心)と遅発型(日齢7〜89、髄膜炎が多い)に分かれる。 ・新生児の重症感染症は哺乳不良・顔色不良など非特異的な症状で始まる。大泉門膨隆は頭蓋内圧亢進のサイン。 ・髄液の多形核球優位の細胞増多+蛋白上昇+糖低下は細菌性髄膜炎を示す。
