「食べられる」と「作れる」は別物―基本的ADLと手段的ADLを聞き分ける問診術
第118回医師国家試験 F問題 第60問
国試問題にチャレンジ
78歳の男性。歩行のふらつきを主訴に娘に付き添われて来院した。20年前から高血圧症と変形性膝関節症で通院していた。徐々に足の力が弱くなり歩行が不安定になったため受診した。自宅で立ち上がり,手すりを利用して伝い歩きはできる。月1回の通院以外はほとんど外出することはない。妻は5年前に肺癌で死亡。現在は近隣に住む娘が週に3回程度訪問し様子を確認している。 基本的日常生活動作〈ADL〉評価のために行う質問はどれか。3つ選べ。
- a.「掃除はお一人でできますか」
- b.「着替えはご自身でできますか」
- c.「手助けなしで食事ができますか」
- d.「ご自身で食事の用意をされていますか」
- e.「トイレを使うのに手助けは必要ですか」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
日常生活動作は、食事(摂取)、更衣、整容、トイレ動作、入浴、移乗、歩行、排尿・排便の管理などの身の回り動作である基本的ADLと、買い物、食事の準備、掃除などの家事、洗濯、電話、服薬・金銭管理などの複雑な動作である手段的ADL(IADL)に分けられます。本問では、着替え、手助けなしでの食事、トイレの使用が基本的ADLの質問で、掃除と食事の用意はIADLにあたり、「食べる」と「作る」の区別が最大のポイントです。基本的ADLはBarthel indexやKatz index、IADLはLawtonの尺度で評価し、機能低下は一般にIADLから先に現れます。外出が減り歩行が不安定になった独居高齢者では、フレイルを念頭に高齢者総合機能評価(CGA)を行い、介護保険サービスや住宅改修、リハビリテーションにつなげることが大切です。ADLとIADLを聞き分ける力は、高齢者の生活を支える診療の基本となります。
解答・解説
正解はb, c, eです
所見の整理
・78歳の男性。高血圧症と変形性膝関節症で20年来通院している。 ・徐々に下肢筋力が低下し、歩行が不安定になった。自宅では立ち上がりと手すりを使った伝い歩きはできるが、移動能力は明らかに低下している。 ・月1回の通院以外はほとんど外出せず、活動量が少ない(閉じこもりがち)。 ・妻とは5年前に死別しており独居で、近隣に住む娘が週3回程度訪問している。
病態の捉え方
変形性膝関節症による痛みや運動制限に加え、外出の少ない不活発な生活が続いたことで、加齢に伴う筋量・筋力の低下(サルコペニア)や廃用が進み、歩行障害を生じていると考えられる。高齢者でこのように身体機能の予備力が落ち、ストレスに弱く要介護状態に移行しやすい状態をフレイルという。もちろん、歩行障害の原因として神経疾患(パーキンソン病、脳血管障害、脊柱管狭窄症など)や薬剤の影響の検索も必要である。 独居高齢者で歩行が不安定になっている場合、転倒リスクや、どの程度の支援・介護が必要かを判断するために、生活機能を具体的に評価することが重要になる。これは高齢者総合機能評価(CGA)の一部にあたる。
設問の考え方
日常生活動作の評価は、次の2段階に分けて考える。 ・基本的日常生活動作(BADL、単にADLともいう):食事、更衣、整容、トイレ動作(排泄)、入浴、移乗、歩行・移動、排尿・排便の管理など、誰もが毎日行う身の回りの基本的な動作。 ・手段的日常生活動作(IADL):買い物、食事の準備(調理)、掃除などの家事、洗濯、電話の使用、交通機関を使った外出、服薬管理、金銭管理など、自立した社会生活を営むのに必要な、より複雑で高次の動作。 設問は基本的ADLを問うているので、身の回り動作についての質問を選ぶ。一般に、機能低下はIADLから先に現れ、進行すると基本的ADLにも及ぶ。
選択肢考察
- ×a. 「掃除はお一人でできますか」
掃除は家事(housekeeping)に含まれ、手段的日常生活動作(IADL)の項目である。LawtonのIADL尺度では「家事」として評価される。身の回り動作である基本的ADLには含まれない。
- ○b. 「着替えはご自身でできますか」
着替え(更衣)は、衣服の着脱やボタン・ファスナーの操作などを含む身の回り動作であり、基本的ADLの代表的な項目である。Barthel index、Katz indexのいずれにも含まれる。
- ○c. 「手助けなしで食事ができますか」
ここでの「食事」は、用意された食事を自分で口に運んで食べる動作(食事摂取)を指し、基本的ADLの項目である。Barthel indexでは、自立か、刻む・取り分けるなどの部分介助が必要か、全介助かで評価する。Katz indexにも含まれる。
- ×d. 「ご自身で食事の用意をされていますか」
食事の用意(献立を考え、材料をそろえ、調理して配膳する)は、手段的日常生活動作(IADL)の項目である。LawtonのIADL尺度では「食事の準備」として評価される。選択肢cの「食事をとる動作」(基本的ADL)とは区別する必要がある。
- ○e. 「トイレを使うのに手助けは必要ですか」
トイレ動作(トイレへの移動、衣服の上げ下ろし、便座への着座・立ち上がり、後始末など)は排泄に関する基本的ADLの項目である。Barthel index、Katz indexのいずれにも含まれる。
基本的ADLの代表的な評価法
・Barthel index(バーセルインデックス):食事、車いすからベッドへの移乗、整容、トイレ動作、入浴、歩行(平地移動)、階段昇降、着替え、排便コントロール、排尿コントロールの10項目を評価し、0〜100点で採点する。点数が高いほど自立度が高い。リハビリテーション領域で広く用いられる。 ・Katz index:入浴、更衣、トイレの使用、移乗、排尿・排便の自制(失禁の有無)、食事の6項目の自立・依存を評価する。 ・FIM(機能的自立度評価法):運動項目13項目と認知項目5項目の計18項目を、それぞれ1〜7点で評価する(18〜126点)。「している」ADLを評価する点が特徴である。
IADLの代表的な評価法
・LawtonのIADL尺度:電話の使用、買い物、食事の準備、家事、洗濯、移動・外出(交通手段の利用)、服薬の管理、金銭の管理の8項目からなる。原法では、男性は食事の準備・家事・洗濯を除いた5項目で評価していた(性別による役割分担を前提としていたため)。 ・老研式活動能力指標:IADL(手段的自立)に加え、知的能動性、社会的役割まで含めて評価する13項目の指標。
高齢者総合機能評価(CGA)
高齢者の身体機能(基本的ADL・IADL)、認知機能(MMSE、改訂長谷川式簡易知能評価スケールなど)、精神・心理状態(老年期うつ病評価尺度GDSなど)、社会的状況(家族構成、介護者、経済状況、住環境)を多面的に評価し、医療・介護・生活支援の計画に役立てる方法である。本例のような独居でフレイルが疑われる高齢者では、ADLやIADLの評価結果をもとに、介護保険サービスの利用や住宅改修(手すりの設置など)、リハビリテーションを検討する。
フレイルの診断(Friedの基準の考え方)
体重減少、疲労感(易疲労)、活動量の低下、歩行速度の低下、握力の低下の5項目のうち、3項目以上が該当すればフレイル、1〜2項目が該当すればプレフレイルとする。
POINT
・基本的ADL(BADL):食事(摂取)、更衣、整容、トイレ動作、入浴、移乗、歩行、階段昇降、排尿・排便の管理など、身の回り動作。評価法はBarthel index、Katz indexなど。 ・IADL:買い物、食事の準備(調理)、家事(掃除)、洗濯、電話、交通機関の利用、服薬管理、金銭管理など、より複雑な生活動作。評価法はLawtonのIADL尺度など。 ・「食事をとる」はADL、「食事を用意する」はIADLと区別する。 ・高齢者の機能低下はIADLから先に現れることが多い。
