つかまり立ちから「自宅へ」―大腿骨頸部骨折術後の次の居場所はどこか
第118回医師国家試験 E問題 第38問
国試問題にチャレンジ
75歳の男性。自転車で転倒したため救急車で搬入された。右大腿骨頸部骨折の診断で人工骨頭置換術を受けた。2週間のリハビリテーションでつかまり立ちができる程度に回復した。本人はリハビリテーションに意欲的で自宅での生活を希望している。認知症はなく妻と2人暮らしである。 患者の退院先で適切なものはどれか。
- a.介護医療院
- b.特定機能病院
- c.グループホーム
- d.特別養護老人ホーム
- e.回復期リハビリテーション病院
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
大腿骨頸部骨折で人工骨頭置換術を受け、急性期治療を終えたもののまだつかまり立ちの段階にある患者さんが、意欲的で認知症もなく自宅復帰を望んでいる場合、次の行き先は在宅復帰を目標に集中的なリハビリを行う回復期リハビリテーション病院(病棟)が最も適切です。特別養護老人ホームは原則要介護3以上で常時介護を要する人の生活の場、グループホームは認知症高齢者の共同生活の場、介護医療院は長期療養の場、特定機能病院は高度医療を担う病院で、いずれも本例の目的に合いません。リハビリは急性期・回復期・生活期と病期に応じて場所と役割が変わり、大腿骨頸部骨折の術後は回復期リハビリテーション病棟の対象疾患に含まれます。施設を「誰のための」「何をする場所か」で整理し、病期・回復の見込み・本人の意向・家族状況を総合して退院先を考えることは、地域包括ケアの中で患者さんを支える医師にとって欠かせない視点です。
解答・解説
正解はeです
状況の整理
・75歳の男性。自転車に乗っていたことから、受傷前は自力で移動できる活動的な生活を送っていたと考えられる。 ・右大腿骨頸部骨折に対して人工骨頭置換術を受けた。人工骨頭置換術は術後早期から荷重・歩行訓練を始められる術式である。 ・術後2週間のリハビリテーションで「つかまり立ち」ができる段階まで回復したが、歩行の自立にはまだ至っていない。 ・本人はリハビリテーションに意欲的で、自宅での生活を希望している。 ・認知症はなく、妻と2人暮らし。
退院先を考えるプロセス
急性期病院での手術と初期治療は終わり、全身状態は安定して回復期に入っている。一方、つかまり立ちの段階では自宅で安全に生活するのは難しく、歩行や日常生活動作(ADL:activities of daily living)の回復を目指した集中的なリハビリテーションをさらに続ける必要がある。本人の意欲が高く認知機能も保たれていること、受傷前は自立していたこと、同居する妻がいることから、十分な機能回復と自宅復帰が期待できる。 したがって、急性期を脱した患者に集中的なリハビリテーションを行い、在宅復帰を目標とする医療機関(回復期リハビリテーション病棟をもつ病院)への転院が最も適切である。長期療養や生活の場としての介護施設は、本人の希望と回復の見込みにそぐわない。
設問の考え方
各施設が「誰を対象に」「何を目的として」いるかを整理し、本例の病期(回復期)、目標(自宅復帰)、本人の状態(認知症なし・リハビリに意欲的)に合致するものを選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 介護医療院
介護医療院は、2018年に創設された介護保険施設で、日常的な医学管理や看取り・ターミナルケアを必要とする要介護者に、医療と介護、生活の場を一体的に提供する長期療養施設である(介護療養型医療施設の移行先として位置づけられた)。本例は長期療養を必要とする状態ではなく、集中的なリハビリテーションで自宅復帰を目指す段階であり、本人の希望にも合わない。
- ×b. 特定機能病院
特定機能病院は、高度な医療の提供・高度医療技術の開発・高度医療に関する研修を担う病院として、医療法に基づき厚生労働大臣が承認する病院である(大学病院本院などが該当し、400床以上などの要件がある)。本例に必要なのは高度先端医療ではなく回復期のリハビリテーションであり、退院先として適切ではない。
- ×c. グループホーム
ここでいうグループホーム(認知症対応型共同生活介護)は、認知症の高齢者が少人数(1ユニット5〜9人)で共同生活を送りながら介護を受ける、介護保険の地域密着型サービスである。本例は認知症がなく対象外であり、自宅に戻りたいという本人の希望にも反する。
- ×d. 特別養護老人ホーム
特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)は、常時介護を必要とし在宅生活が困難な高齢者のための生活施設で、新規入所は原則として要介護3以上が対象である。本例は回復途中にあり、リハビリテーションによって自宅生活への復帰が見込まれ、本人も自宅生活を希望しているため適さない。
- ○e. 回復期リハビリテーション病院
回復期リハビリテーション病棟(またはそれを中心とする病院)は、脳血管疾患や大腿骨頸部骨折などの急性期治療を終えた患者に対し、ADLの向上と在宅復帰を目的として、多職種で集中的なリハビリテーションを提供する医療機関である。大腿骨頸部骨折の術後は回復期リハビリテーション病棟の対象疾患に含まれる。術後2週でつかまり立ちの段階にあり、意欲が高く認知症もない本例は、ここで歩行やADLの訓練を進めることで自宅復帰を十分に目指せるため、最も適切な退院先である。
病期に応じたリハビリテーションの流れ
・急性期:発症・受傷・手術直後。急性期病院で治療と並行して早期離床・早期リハビリテーションを行う。 ・回復期:全身状態が安定した後、回復期リハビリテーション病棟で集中的な機能回復訓練を行い、在宅復帰を目指す。 ・生活期(維持期):自宅や施設で、通所・訪問リハビリテーションなどにより獲得した機能の維持・向上を図る。
回復期リハビリテーション病棟
・対象:脳血管疾患、脊髄損傷、大腿骨・骨盤・脊椎・股関節・膝関節の骨折、廃用症候群などで、急性期治療後に集中的なリハビリテーションを要する患者。 ・医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカーなどの多職種チームで、ADLの改善と在宅復帰を目標とする。 ・疾患ごとに入院期間の上限が定められており、大腿骨頸部骨折などでは一般に90日までとされる。
高齢者の主な入所・療養施設
・介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム):常時介護が必要で在宅生活が困難な人の生活の場。原則要介護3以上。 ・介護老人保健施設(老健):要介護者に医学的管理下での介護とリハビリテーションを提供し、在宅復帰を支援する中間施設。 ・介護医療院:長期療養を要する要介護者に医療・介護・生活の場を一体的に提供する。 ・認知症対応型共同生活介護(グループホーム):認知症高齢者が少人数で共同生活を送る地域密着型サービス。 ・有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅:介護保険施設ではなく、民間の住まい。
大腿骨頸部骨折
高齢者、とくに骨粗鬆症を背景とした転倒で生じやすい。転位のある頸部骨折は骨癒合が得られにくく、大腿骨頭壊死のリスクもあるため、高齢者では人工骨頭置換術が選択されることが多い。長期臥床は肺炎、深部静脈血栓症、褥瘡、廃用症候群、認知機能低下を招くため、早期手術・早期離床が原則である。
POINT
・急性期治療を終え、さらに集中的なリハビリテーションで自宅復帰を目指す患者の転院先は回復期リハビリテーション病院(病棟)。 ・大腿骨頸部骨折の術後は回復期リハビリテーション病棟の対象となる。 ・特別養護老人ホームは原則要介護3以上の常時介護を要する人の生活の場、グループホームは認知症高齢者のための共同生活の場、介護医療院は長期療養の場。 ・特定機能病院は高度医療の提供・開発・研修を担う病院で、回復期のリハビリテーションの場ではない。 ・退院先は、病期・回復の見込み・本人の意向・家族状況を総合して決める。
