眼が痛くて吐き気も―頭の病気と見誤らないための「眼圧」という決め手
第116回医師国家試験 E問題 第32問
国試問題にチャレンジ
72歳の女性。右眼痛を主訴に来院した。昨夜,右眼の痛みとともに頭痛と悪心が出現し,次第に増悪している。右眼に高度の毛様充血,角膜浮腫があり,瞳孔が散大,中等度の白内障を認める。 診断に有用な検査はどれか。
- a.網膜電図
- b.眼圧検査
- c.頭部CT検査
- d.眼部超音波検査
- e.光干渉断層計〈OCT〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
高齢者に片眼の急な眼痛、頭痛・悪心、毛様充血、角膜浮腫、中等度の散瞳がそろえば、急性閉塞隅角緑内障(急性緑内障発作)を考えます。厚くなった水晶体による瞳孔ブロックで隅角が閉塞し、眼圧が急上昇することがすべての所見の原因であり、診断に最も有用で最初に行うべき検査は眼圧検査です。前眼部OCTや超音波生体顕微鏡は隅角の形の評価に役立つものの眼圧は測れず、網膜電図や頭部CTは診断に寄与しません。治療は薬物で眼圧を下げたうえでレーザー虹彩切開術や水晶体再建術を行い、僚眼の予防も検討します。頭痛と嘔吐から頭蓋内疾患と誤認して治療が遅れると失明につながりうるため、眼所見に目を向ける姿勢は眼科以外の臨床でも重要です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・72歳の女性で、前夜から右眼の痛みが出て、頭痛と悪心(吐き気)を伴い、次第に悪化している。急に始まって進行しているのが特徴である。 ・右眼に高度の毛様充血がある。毛様充血とは、角膜の周り(角膜輪部)を中心とする紫がかった深い充血で、眼の内部の病変を示す。 ・右眼に角膜浮腫がある。眼圧が急に上がると、角膜内皮が角膜から水を汲み出す働きが追いつかず、角膜が濁ってむくむ。 ・右眼の瞳孔が散大している。眼圧が上がって虹彩の血流が悪くなると、瞳孔を縮める瞳孔括約筋が麻痺し、瞳孔が中等度に開いたまま対光反射が鈍くなる。 ・中等度の白内障がある。加齢で水晶体が厚くなると虹彩が前に押され、隅角が狭くなる。
診断へのプロセス
高齢の女性に、片眼の急な眼痛、頭痛・悪心、毛様充血、角膜浮腫、中等度の散瞳がそろっている。急性閉塞隅角緑内障(急性緑内障発作)に典型的な組み合わせである。 ・発症の仕組み: 厚くなった水晶体と虹彩が密着すると、房水が後房から前房へ流れにくくなる(瞳孔ブロック)。押された虹彩が前に膨らんで隅角をふさぎ、房水の出口がなくなって眼圧が急に上がる。 ・ほかの病気との区別: 急性ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)でも毛様充血は起こるが、瞳孔はむしろ小さくなる(縮瞳)のが普通である。頭痛と悪心が強いため、くも膜下出血や片頭痛などの頭の病気や、胃腸の病気と間違えられることがある。しかし、片眼の充血・角膜浮腫・散瞳は眼の病気を強く示す。
設問の考え方
急性緑内障発作の診断の決め手は、著しい眼圧上昇を確かめることである。眼圧検査は外来ですぐに行え、正常値(およそ10〜21mmHg)を大きく超える値(しばしば40〜50mmHg以上)が得られれば診断が強く裏づけられ、ただちに眼圧を下げる治療を始められる。隅角の閉塞を形で示す検査もあるが、最初に行うべき、最も有用な検査は眼圧検査である。
選択肢考察
- ×a. 網膜電図
網膜電図(ERG: electroretinogram)は、光を当てたときに網膜に生じる電位の変化を記録し、網膜の働きを調べる検査である。網膜色素変性などの遺伝性網膜疾患の診断や、強い白内障・硝子体出血で眼底が見えないときの網膜機能の評価に使われる。急性緑内障発作の主な異常は、隅角の閉塞による眼圧上昇である。網膜電図では、眼圧上昇も隅角の閉塞も確かめられない。
- ○b. 眼圧検査
急性緑内障発作では、隅角が急にふさがって房水が流れ出なくなり、眼圧が急激に上がる。眼痛、頭痛・悪心、角膜浮腫、散瞳といった本例の所見は、いずれもこの高い眼圧によって説明できる。眼圧検査(圧平眼圧計や非接触眼圧計など)は、短時間で行え、数値ではっきり示せるため、診断に最も有用である。眼圧が著しく高いことがわかれば、高浸透圧薬の点滴静注、炭酸脱水酵素阻害薬の内服・静注、縮瞳薬の点眼などで眼圧を下げる治療をすぐに始められる。治療効果を見るのにも使える。
- ×c. 頭部CT検査
頭部CTは、頭蓋内出血、脳腫瘍、眼窩内の腫瘤などを調べるのに役立つ。頭痛と悪心だけに注目すると頭蓋内の病気を疑いたくなるが、本例の頭痛と悪心は眼圧の急な上昇によって起きていると考えられる。片眼の毛様充血・角膜浮腫・散瞳はいずれも眼の病気を示している。頭部CTでは眼圧も隅角も評価できないため、急性緑内障発作の診断には役立たない。CTのために眼科的な評価と治療が遅れると、視神経の障害が進むおそれがある。
- ×d. 眼部超音波検査
眼部超音波検査(Bモード)は、白内障や硝子体出血で眼底が見えないときに、網膜剥離、硝子体の病変、眼内腫瘍などを確かめるのに使われる。前眼部を高い解像度で見る超音波生体顕微鏡(UBM: ultrasound biomicroscopy)を使えば、隅角の閉塞や虹彩が前に膨らんでいる様子を観察でき、病態の評価には役立つ。しかし、眼圧そのものは測れない。診断と治療方針の決定のために最初に行うべき検査は眼圧検査であり、超音波検査は補助的な位置づけである。
- ×e. 光干渉断層計〈OCT〉
光干渉断層計(OCT: optical coherence tomography)は、光の干渉を利用して眼の組織の断面を細かく画像にする検査である。網膜用は黄斑疾患の評価や、緑内障による網膜神経線維層の薄さの評価に使う。前眼部用は、閉塞した隅角、浅くなった前房、水晶体の前方への移動などを映し出せる。前眼部OCTは閉塞隅角の形を確かめるのに役立つが、眼圧は測れない。また、角膜浮腫が強いと画像が不鮮明になることもある。急性発作の診断で最初に行うべき検査としては、眼圧検査よりも優先度が低い。
急性閉塞隅角緑内障(急性緑内障発作)の概要
・起こりやすい人: 高齢者、女性、遠視眼、もともと前房が浅く隅角の狭い眼。加齢による水晶体の厚みの増加(白内障の進行)も隅角が狭くなる原因となる。 ・きっかけ: 暗い場所での散瞳、散瞳薬の点眼、抗コリン作用をもつ薬(抗コリン薬、一部の抗うつ薬・抗ヒスタミン薬など)、うつむいた姿勢、精神的ストレスなど。 ・症状: 急な眼痛、眼のかすみ、光の周りに虹のような輪が見える(虹視症)、頭痛、悪心・嘔吐。 ・所見: 毛様充血、角膜浮腫、浅い前房、中等度の散瞳と対光反射の低下、著しい眼圧上昇。触ると眼球が石のように硬く感じられる。
治療
1. 薬で眼圧を下げる: 高浸透圧薬(D-マンニトールなど)の点滴静注、炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド)の内服・静注、縮瞳薬(ピロカルピン)の点眼、β遮断薬の点眼など。 2. 原因である瞳孔ブロックを解消する: レーザー虹彩切開術、周辺虹彩切除術、水晶体再建術(白内障手術)。本例のように白内障がある場合、水晶体を取り除くと隅角が広がり、根本的な治療になる。 3. もう片方の眼(僚眼): 同じように隅角が狭いことが多く、発作を予防するための処置を検討する。 治療が遅れると、視神経が障害されて視野が欠け、失明に至ることもある。眼科の緊急疾患である。
鑑別のポイント
・急性ぶどう膜炎: 毛様充血はあるが縮瞳する。前房に炎症細胞が見られる。眼圧は正常のことも上がることもある。 ・結膜炎: 結膜充血(白目の周辺部ほど強い表在性の充血)で、視力低下や強い眼痛は通常ない。 ・頭蓋内疾患(くも膜下出血など): 頭痛と悪心は共通するが、片眼の充血・角膜浮腫は伴わない。
主な眼科検査と目的
・眼圧検査: 緑内障の診断と治療効果の判定 ・隅角鏡検査、前眼部OCT、UBM: 隅角の形(開いているか、閉じているか)の評価 ・網膜電図: 網膜の働きの評価(網膜色素変性など) ・眼部超音波Bモード: 眼底が見えないときの網膜剥離・硝子体病変の評価 ・OCT(網膜): 黄斑疾患の評価、網膜神経線維層の厚さの測定
POINT
・高齢の女性に、片眼の急な眼痛、頭痛・悪心、毛様充血、角膜浮腫、中等度の散瞳がそろえば、急性緑内障発作を考える。 ・診断に最も有用で、最初に行うべき検査は眼圧検査である(正常はおよそ10〜21mmHg)。 ・白内障による水晶体の厚みの増加は、瞳孔ブロックと閉塞隅角の原因になる。 ・頭痛と悪心から頭の病気と間違えないようにする。片眼の充血と散瞳は眼の病気を示す。 ・治療は、薬で眼圧を下げたうえで、レーザー虹彩切開術や水晶体再建術を行う。僚眼の予防も検討する。
