StudyMed医師国家試験

責任追及ではなく「学び」のために―医療事故調査制度の骨格をつかむ

第118回医師国家試験 B問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第118回 B問題 第23問

医療事故調査制度で正しいのはどれか。

  1. a.刑法に規定されている。
  2. b.警察に通報してから調査を開始する。
  3. c.診療に起因した死亡全てが対象となる。
  4. d.医療の安全の確保に資することを目的とする。
  5. e.調査が終了するまで,医療機関は事故の説明を遺族にしてはならない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医療事故調査制度の基本を問う問題だ。押さえるべき骨格は「根拠となる法律」「対象となる事例」「報告先と調査の流れ」「遺族への説明」「制度の目的」の5つ。この制度がそもそも何のためにあるのかを意識すると、選択肢は一気に整理できるよ。
医学生医学生
医療事故というと、ニュースで病院に警察が入る場面を思い浮かべてしまいます。刑事事件の手続きの一部なんでしょうか。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。でも医療事故調査制度は2014年の医療法改正で創設され、2015年10月から施行されている仕組みで、根拠法は刑法ではなく医療法なんだ。刑法は犯罪の成立要件と刑罰を定める法律で、性格がまったく違う。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、医療法は病院の開設や医療安全について定めた法律だと習いました。
ドクタードクター
その理解でいい。本制度は医療法の「医療の安全の確保」の章に位置づけられている。目的は個々の医療者の責任追及ではなく、予期せぬ死亡の原因を明らかにして、その知見を集めて再発防止につなげること。つまり「医療の安全の確保に資することを目的とする」というのが正しい記述だ。
医学生医学生
では、警察への通報は調査の前提にはならないんですか。
ドクタードクター
ならない。医療機関の管理者が報告する先は、厚生労働大臣が指定した民間の第三者機関である医療事故調査・支援センターで、現在は日本医療安全調査機構が担っている。報告と並行して、医療機関自身が院内調査を始める。警察は流れの中に組み込まれていないんだ。
医学生医学生
でも医師法21条の異状死の届出は、警察にするんですよね。CBTの勉強で24時間以内と覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。死体を検案して異状を認めた医師は24時間以内に所轄警察署へ届け出る義務がある。ただしこれは医療事故調査制度とは独立した別の制度で、片方に該当すれば他方が免除されるわけでもない。2つを混同しないことが大切だ。
医学生医学生
対象についてはどうですか。診療が原因の死亡なら全部報告するものだと思っていました。
ドクタードクター
そこはよく狙われるポイントだね。対象となる「医療事故」は、提供した医療に起因する、または起因すると疑われる死亡・死産であり、かつ管理者がその死亡を予期しなかったもの。この2つの要件を両方満たすものに限られる。
医学生医学生
「予期しなかった」というのは、どう判断するんですか。
ドクタードクター
たとえば手術前に、その合併症で亡くなる可能性を患者や家族に説明し、診療録にも記録していた場合は「予期していた」とされ、対象外になる。また、原疾患の自然経過による死亡や、後遺障害のように死亡に至らない事例も本制度の報告対象ではない。だから「診療に起因した死亡全て」は誤りだ。
医学生医学生
最後に遺族への説明ですが、調査中に話すと内容がぶれてしまうから、終わるまで黙っておくのかと考えてしまいました。
ドクタードクター
実際は逆なんだ。管理者はセンターに報告する前に、事故の日時や状況、これから行う調査の概要、解剖や死亡時画像診断の要否などを遺族にあらかじめ説明する。そして院内調査が終わったら、その結果も遺族に説明する。遺族への説明は制度上の重要な手順で、禁止規定などないよ。
医学生医学生
流れをまとめると、管理者が医療事故と判断し、遺族に説明してセンターへ報告、院内調査をして結果をセンターと遺族に伝える、ということですね。
ドクタードクター
その通り。付け加えると、管理者または遺族から依頼があれば、センターが独自にセンター調査を行い、結果を双方に報告する。院内調査では医師会や大学病院、学会などの医療事故調査等支援団体が支援してくれる。そしてセンターは集まった報告を分析し、再発防止の提言として医療界全体に広げていくんだ。
医学生医学生
臨床実習で病院の医療安全管理室の話を聞いたとき、インシデントレポートは犯人探しではないと強調されていました。
ドクタードクター
まさに同じ考え方だね。ちなみにヒヤリ・ハットを含む幅広い事例を集める日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業や、分娩関連の重度脳性麻痺に補償と原因分析を行う産科医療補償制度も、別の仕組みとしてセットで整理しておくといい。現場に出たら、予期せぬ死亡が起きたときこそ、隠さず報告し、遺族に誠実に説明し、学びにつなげる姿勢が求められるよ。

まとめ

医療事故調査制度は2015年10月に施行された医療法上の制度で、刑法や刑事手続きとは別物であり、目的は責任追及ではなく医療の安全の確保、すなわち原因究明と再発防止です。対象は医療に起因する(疑いを含む)死亡・死産のうち、管理者が予期しなかったものに限られ、事前説明や診療録への記載があった死亡や、死亡に至らない事例は含まれません。管理者は遺族に説明したうえで医療事故調査・支援センターに報告し、院内調査を行って結果をセンターと遺族に伝え、必要に応じてセンター調査も行われます。警察への24時間以内の届出を定めた医師法21条の異状死届出とは独立した制度である点も重要です。制度の目的と流れを理解しておくことは、将来医療者として予期せぬ死亡に向き合う際の基本姿勢にもつながります。

解答・解説

正解はdです

医療事故調査制度は、2014年の医療法改正で創設され、2015年10月から施行されている仕組みである。根拠法は医療法であり、その目的は個々の医療者の責任を追及することではなく、予期せぬ死亡事例の原因を明らかにし、得られた知見を集めて再発防止につなげること、すなわち医療の安全の確保である。 本問は、この制度の「根拠法」「対象となる事例」「手続きの流れ(誰に報告し、誰が調査するか)」「遺族への説明のタイミング」「目的」という基本骨格を問うている。 制度の流れを整理すると次のようになる。 1. 病院・診療所・助産所の管理者が、医療に起因する(または起因すると疑われる)死亡・死産で、かつ管理者が予期しなかったものを「医療事故」と判断する。 2. 遺族にあらかじめ説明したうえで、医療事故調査・支援センター(厚生労働大臣が指定する民間の第三者機関で、一般社団法人日本医療安全調査機構が指定されている)に遅滞なく報告する。 3. 医療機関自らが院内調査を行う(必要に応じて医療事故調査等支援団体の支援を受ける)。 4. 院内調査の結果をセンターに報告し、遺族にも説明する。 5. 医療機関の管理者または遺族から依頼があれば、センターが独自に調査(センター調査)を行い、結果を双方に報告する。 6. センターは集まった報告を整理・分析し、再発防止策の普及啓発を行う。 この流れの中に警察や刑事手続きは組み込まれておらず、医療安全のための学習の仕組みとして設計されている点を押さえれば、正解は選べる。

選択肢考察

  1. ×a.  刑法に規定されている。

    誤り。医療事故調査制度は医療法(第6条の10以下)に規定された制度である。刑法は犯罪の成立要件と刑罰を定める法律であり、医療事故の原因究明と再発防止を目的とする本制度とは性格が異なる。医療過誤が業務上過失致死傷罪として刑法上問題となる場合はあり得るが、それは本制度とは別の刑事手続きの話である。

  2. ×b.  警察に通報してから調査を開始する。

    誤り。本制度で医療機関の管理者が報告する先は医療事故調査・支援センターであり、警察ではない。報告と並行して院内調査を開始する。警察への届出義務としては医師法第21条の異状死体等の届出(検案して異状を認めたときは24時間以内に所轄警察署へ届け出る)があるが、これは医療事故調査制度とは別の制度であり、警察への通報が院内調査開始の前提条件になることはない。

  3. ×c.  診療に起因した死亡全てが対象となる。

    誤り。対象となる「医療事故」は、提供した医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産であって、かつ管理者がその死亡・死産を予期しなかったもの、という二つの要件を両方満たすものに限られる。例えば、手術前に合併症による死亡の可能性を患者・家族に説明し診療録に記載していた場合などは「予期していた」とされ、対象外となる。また、医療に起因しない死亡(原疾患の自然経過など)も対象外である。死亡・死産に至らない事例(後遺障害など)も本制度の報告対象ではない。

  4. ○d.  医療の安全の確保に資することを目的とする。

    正しい。本制度は医療法第3章「医療の安全の確保」の中に位置づけられており、医療事故の原因を調査・分析して再発防止策を導き、それを医療界全体で共有することで医療の安全を高めることを目的としている。センターは各医療機関からの調査報告を集めて分析し、再発防止に関する提言などとして普及啓発を行う。責任追及や紛争解決を目的とした制度ではない点が重要である。

  5. ×e.  調査が終了するまで,医療機関は事故の説明を遺族にしてはならない。

    誤り。医療機関の管理者は、センターに医療事故を報告する前に、遺族に対して事故の日時・場所・状況や、これから行う調査の概要(解剖や死亡時画像診断の要否を含む)などをあらかじめ説明することとされている。さらに院内調査が終了した後には、その結果も遺族に説明しなければならない。調査が終わるまで遺族への説明を禁じる規定はなく、むしろ遺族への説明は制度上の重要な手順である。

医療事故調査制度の概要

根拠法:医療法(2014年改正、2015年10月1日施行) 対象施設:病院・診療所・助産所 対象事例:医療に起因し、または起因すると疑われる死亡・死産で、管理者が予期しなかったもの 報告先:医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構) 調査主体:まず当該医療機関による院内調査。管理者または遺族の依頼があればセンター調査も行われる。 支援:医療事故調査等支援団体(医師会、大学病院、学会など)が院内調査を支援する。

「予期しなかった」の考え方

管理者が予期していたとされるのは、おおむね次のような場合である。 ・事前に患者や家族に、その死亡・死産が起こりうることを説明していた ・その旨を診療録などに記録していた ・事情聴取や医療安全管理委員会の意見を踏まえ、管理者が予期していたと認めた これらに該当しなければ「予期しなかった」ものとして本制度の対象となりうる。

関連する他の制度との違い

・医師法第21条(異状死体等の届出):死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状を認めた医師は、24時間以内に所轄警察署に届け出る義務がある。医療事故調査制度とは独立した制度であり、片方に該当すれば他方が免除されるわけではない。 ・医療事故情報収集等事業(日本医療機能評価機構):死亡に限らず、医療事故やヒヤリ・ハット事例を収集・分析する事業であり、本制度とは別の仕組みである。 ・産科医療補償制度:分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児に補償を行い、原因分析も行う制度である。

POINT

・医療事故調査制度の根拠法は医療法(刑法ではない) ・目的は医療の安全確保(再発防止)であり、責任追及ではない ・対象は「医療に起因(疑いを含む)」かつ「管理者が予期しなかった」死亡・死産に限られる ・報告先は医療事故調査・支援センター(警察ではない)、まず院内調査を行う ・遺族にはセンター報告前に説明し、調査結果も説明する ・医師法第21条の異状死届出(警察へ24時間以内)とは別制度

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。