日本のたばこ対策、どこまで進んだ?―条約の理想と国内法の現実を見分ける
第118回医師国家試験 A問題 第7問
国試問題にチャレンジ
我が国でのたばこ対策で実施されているのはどれか。
- a.たばこ広告の禁止
- b.たばこパッケージの警告表示
- c.ニコチン依存症の治療の無料化
- d.公共施設の屋内における空間分煙の義務化
- e.非喫煙者に対する医療保険の保険料の減額
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
我が国のたばこ対策で法令により実施されているのはパッケージの警告表示で、たばこ事業法に基づき主要表示面の50%以上に健康被害を示す注意文言が義務付けられていますが、画像による警告は未導入です。たばこ広告は全面禁止ではなく財務省の指針と業界の自主規制にとどまり、禁煙治療は2006年から保険適用されているものの自己負担があり無料ではありません。改正健康増進法は空間分煙ではなく、第一種施設の敷地内禁煙と第二種施設の原則屋内禁煙を定めており、喫煙の有無で公的医療保険の保険料が変わる制度もありません。FCTCとMPOWERの枠組みに照らして日本の到達点と課題を整理しておくと、制度の問題にも臨床での禁煙支援にも役立ちます。
解答・解説
正解はbです
わが国のたばこ対策の現状を問う一般問題である。対策の枠組みとして、次の3つを区別して覚えておくと判断しやすい。 1. 国際条約:WHOのたばこ規制枠組条約(FCTC:Framework Convention on Tobacco Control)である。日本は2004年に締結し、2005年に発効した。条約は、包装への健康警告表示、広告・販売促進・後援の包括的禁止、受動喫煙からの保護、禁煙支援、たばこ税・価格政策などを締約国に求めている。 2. 国内法令:たばこ事業法(財務省所管。包装の注意文言表示や広告に関する規定を含む)と、健康増進法(厚生労働省所管。受動喫煙防止を規定し、2018年改正、2020年4月全面施行)が中心である。 3. 医療制度:2006年度の診療報酬改定でニコチン依存症管理料が新設され、条件を満たす禁煙治療に公的医療保険が使えるようになった。 FCTCの求める対策のうち、日本が法令で実際に義務化しているもの(パッケージの警告表示など)と、条約の水準まで達していないもの(広告の全面禁止など)とを見分けることがこの問題の要点である。
選択肢考察
- ×a. たばこ広告の禁止
実施されていない。FCTCは、たばこの広告・販売促進・後援を包括的に禁止するよう求めている(憲法上の制約がある国では制限)。しかし日本では、法律による全面禁止は行われていない。たばこ事業法に基づいて財務省が「製造たばこに係る広告を行う際の指針」を定め、未成年者の目に触れないよう配慮することなどを求めている。そのうえで、業界団体の自主基準による規制が行われている(テレビ・ラジオでの商品広告の自主的な中止など)。成人を対象とした店頭広告や雑誌広告などは現在も認められており、国際的には規制が弱いと指摘されている。
- ○b. たばこパッケージの警告表示
実施されており、これが正解である。たばこ事業法と関連する省令により、製造たばこの包装には、喫煙による健康への害を示す注意文言の表示が義務付けられている。FCTCの発効を受け、2005年から主要な表示面の30%以上を注意文言が占めるよう定められた。その後の改正で、現在は50%以上を占めることが求められている。表示内容も、肺癌・心筋梗塞・脳卒中のリスクや受動喫煙の害など、具体的な健康被害を示す文言に強化されている。ただし、多くの国で導入されている画像による警告表示(病変の写真など)は、日本ではまだ採用されていない。
- ×c. ニコチン依存症の治療の無料化
実施されていない。2006年度からニコチン依存症管理料が診療報酬に設けられ、一定の要件(ニコチン依存症スクリーニングテスト〈TDS〉で5点以上、直ちに禁煙を希望し文書で同意していること、など)を満たす患者は、保険診療として禁煙治療を受けられるようになった。その後、喫煙指数の要件は35歳未満では撤廃され、オンライン診療を用いた治療も認められるなど、対象が広げられてきた。しかし、通常の保険診療と同じく患者の自己負担(原則1〜3割)があり、国として無料化はされていない。一部の自治体や健康保険組合が独自に費用を助成している例はある。
- ×d. 公共施設の屋内における空間分煙の義務化
誤りである。2018年改正の健康増進法(2020年4月全面施行)が義務付けたのは、空間分煙ではなく禁煙である。空間分煙とは、同じ室内の一角に喫煙コーナーを設けるなど、空間の中で区域を分ける方法をいう。この方法では煙の拡散を防げず、受動喫煙を防ぐ効果が不十分とされている。改正法では、学校・病院・児童福祉施設・行政機関の庁舎などの第一種施設を敷地内禁煙とした(屋外に一定の基準を満たす特定屋外喫煙場所を設けることは可能)。事務所や飲食店などの第二種施設は原則屋内禁煙とし、喫煙は基準を満たす喫煙専用室などに限っている。既存の小規模飲食店などには経過措置がある。
- ×e. 非喫煙者に対する医療保険の保険料の減額
実施されていない。日本の公的医療保険(健康保険・国民健康保険・後期高齢者医療制度)の保険料は、所得や世帯などに応じて決まる。喫煙の有無で保険料を変える仕組みはない。非喫煙者の保険料を割り引く商品があるのは民間の生命保険・医療保険であり、公的なたばこ対策とは別のものである。
日本のたばこ対策の主な経緯
・2003年:健康増進法施行。多数の者が利用する施設の管理者に、受動喫煙防止の努力義務が課された。 ・2005年:FCTC発効。包装の注意文言を主要表示面の30%以上とする規定が適用された。 ・2006年:ニコチン依存症管理料が新設され、禁煙治療に保険が使えるようになった。 ・2010年:たばこ税の大幅な引き上げ。 ・2018年:健康増進法改正(受動喫煙対策の強化)。2019年7月に第一種施設の敷地内禁煙が、2020年4月に第二種施設の原則屋内禁煙が施行された。20歳未満の者の喫煙エリアへの立ち入りも禁止された。 ・注意文言の表示面積は、その後の改正で50%以上に拡大された。
FCTCの主な内容とMPOWER
WHOは、FCTCを推進するための6つの政策をMPOWERとしてまとめている。 ・M(Monitor):たばこ使用と予防政策の監視 ・P(Protect):受動喫煙からの保護 ・O(Offer):禁煙支援の提供 ・W(Warn):たばこの危険性の警告(包装の警告表示、マスメディアによる啓発) ・E(Enforce):広告・販売促進・後援の禁止 ・R(Raise):たばこ税の引き上げ 日本では、W(警告表示)やO(保険診療による禁煙治療)は一定程度実施されている。一方、E(広告の禁止)は自主規制にとどまっており、P(受動喫煙対策)も例外規定が多いなど、国際水準と比べて不十分な点が指摘されている。
POINT
・わが国で法令により実施されているのは、たばこパッケージの注意文言(警告)表示である。現在は主要表示面の50%以上が必要で、画像による警告は未導入である。 ・たばこ広告は全面禁止されておらず、財務省の指針と業界の自主規制にとどまる。 ・禁煙治療は2006年から保険適用されているが、自己負担があり無料ではない。 ・改正健康増進法は空間分煙ではなく、第一種施設の敷地内禁煙と第二種施設の原則屋内禁煙を定めている。 ・喫煙の有無で公的医療保険の保険料は変わらない。
