朝起きたら片耳が聞こえない―突発性難聴は「時間との勝負」
第116回医師国家試験 A問題 第41問
国試問題にチャレンジ
45歳の男性。右耳の難聴と耳鳴を主訴に来院した。今朝から急に右耳が聞こえにくくなり,ジーという耳鳴も出現した。めまいはなかった。鼓膜に異常を認めない。オージオグラムを下に示す。頭部MRIは正常であった。 適切な治療薬はどれか。

- a.抗菌薬
- b.利尿薬
- c.抗ウイルス薬
- d.ガンマグロブリン
- e.副腎皮質ステロイド
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
突然発症した片側の感音難聴で、鼓膜が正常、MRIで聴神経腫瘍などの器質的疾患が除外され、原因が見つからない場合は突発性難聴と診断します。治療の中心は副腎皮質ステロイドの全身投与で、発症後できるだけ早く(目安として1〜2週間以内)始めるほど回復が期待でき、全身投与が難しい場合などには鼓室内注入も選択肢となります。めまい発作と低音障害があればMénière病として浸透圧利尿薬、耳介の帯状疱疹と顔面神経麻痺があればRamsay Hunt症候群として抗ウイルス薬とステロイドを用いるなど、随伴症状と聴力型による鑑別が治療選択を左右します。予後は約3分の1ずつが治癒・改善・不変とされ、高度難聴やめまいの合併、治療開始の遅れは予後不良因子です。オージオグラムで感音難聴を見抜き、除外診断を経て早期に治療を始めるという流れは、耳鼻科救急の基本として臨床で必ず役立ちます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・45歳の男性。今朝、急に右耳が聞こえにくくなり、同時に「ジー」という耳鳴が出現した。発症の時刻がはっきりした、突然の片側の難聴である。 ・めまいはない。 ・鼓膜に異常はなく、外耳炎、中耳炎、鼓膜穿孔、滲出液の貯留など、伝音難聴の原因になる病変はない。 ・オージオグラム(聴力図)では、右耳の気導と骨導がともに約50〜65 dB に低下しており、気導と骨導の差(気骨導差)はない。低音から高音まで全体が同じように下がる水平型(フラット型)の、中等度の感音難聴である。左耳はほぼ正常である。 ・頭部MRIは正常で、聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)や脳幹・小脳の病変など、器質的な原因は見つからない。
診断に至る考え方
突然起こった片側の感音難聴で、原因となる疾患(中耳疾患、聴神経腫瘍、Ménière病、外傷、薬剤、感染症など)が見つからないことから、右突発性難聴と診断できる。 鑑別のポイントは次のとおりである。 ・Ménière病:回転性めまい発作を繰り返し、低音域の難聴が変動する。本例はめまいがなく、聴力型もフラット型である。 ・急性低音障害型感音難聴:低音域だけが下がる。本例は全音域で低下している。 ・Ramsay Hunt症候群:耳介・外耳道の帯状疱疹と顔面神経麻痺を伴う。本例にはこれらの所見がない。 ・聴神経腫瘍:突発性難聴と同じような発症をすることがあるため、MRIで除外することが重要である。本例では除外されている。
治療の考え方
突発性難聴の原因ははっきりしていない。内耳の循環障害やウイルス感染などが仮説として挙げられている。治療の中心は副腎皮質ステロイドの全身投与である。発症から早く治療を始めるほど聴力が回復しやすいとされ、発症後できるだけ早く(目安として1〜2週間以内)治療を開始する。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬
抗菌薬は、急性中耳炎、外耳炎、細菌性内耳炎など、細菌感染による耳疾患に使う。本例は鼓膜が正常で中耳の炎症はなく、発熱や耳漏もない。突発性難聴は細菌感染を原因とする疾患ではないので、抗菌薬に効果はない。
- ×b. 利尿薬
浸透圧利尿薬(イソソルビドなど)は、内リンパ水腫(内耳の内リンパ液が過剰にたまった状態)を軽くする目的で、Ménière病や急性低音障害型感音難聴に使う。これらでは低音域の難聴やめまい発作がみられるのが典型的である。本例はめまいがなく、全音域が下がるフラット型の難聴であり、内リンパ水腫を疑う根拠がない。突発性難聴の標準的な治療薬ではない。
- ×c. 抗ウイルス薬
抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビルなど)は、水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化によるRamsay Hunt症候群(耳介の帯状疱疹、顔面神経麻痺、感音難聴・めまい)などで、ステロイドと一緒に使う。本例には皮疹や顔面神経麻痺などウイルス感染を示す所見がない。突発性難聴ではウイルス感染が原因の一つと考えられてはいるが、ステロイドに抗ウイルス薬を加えても効果が上乗せされることは示されておらず、推奨されていない。
- ×d. ガンマグロブリン
免疫グロブリン製剤は、川崎病、免疫性血小板減少症(ITP)、Guillain-Barré症候群などの免疫が関わる疾患や、無ガンマグロブリン血症などの免疫不全、重症感染症などに使う。突発性難聴の治療薬としては使わない。
- ○e. 副腎皮質ステロイド
副腎皮質ステロイドは、内耳の炎症とむくみを抑える作用があると考えられ、突発性難聴の治療で最も広く使われている中心的な薬である。プレドニゾロンなどを経口または点滴で投与し、数日〜2週間ほどかけて減量していく。早く始めるほど効果が期待できる。全身投与で十分に回復しない場合や、糖尿病などで全身投与しにくい場合は、ステロイドを鼓室内に注入する方法も選択肢になる。ただし、プラセボと比べた有効性の証拠は十分に確立しているわけではない。
突発性難聴の概要
・定義:突然発症する原因不明の感音難聴。多くは片側に起こる。 ・主な症状:突然の難聴。耳鳴、耳閉感を伴うことが多く、めまいや吐き気を伴うこともある。 ・診断の要点(厚生労働省研究班の診断基準の考え方):(1) 突然の発症、(2) 高度であることが多い感音難聴、(3) 原因が不明または不確実、の3点を満たす。参考として、隣り合う3つの周波数でそれぞれ30 dB以上の聴力低下が72時間以内に起こったものを目安とする。 ・好発:中高年に多く、男女差はない。 ・原因の仮説:内耳の循環障害(血管のけいれん、血栓など)、ウイルス感染、自己免疫などが挙げられているが、確定していない。 ・必ず除外すべき疾患:聴神経腫瘍(MRIで確認する)、Ménière病、外リンパ瘻(鼻をかむ、いきむなどの圧変化がきっかけになる)、ムンプス難聴、Ramsay Hunt症候群、薬剤性難聴(アミノグリコシド系抗菌薬など)、音響外傷、脳血管障害など。
治療
・副腎皮質ステロイドの全身投与が中心である。 ・鼓室内へのステロイド注入は、全身投与の効果が不十分な場合の追加治療(サルベージ治療)や、全身投与を避けたい場合に行う。 ・プロスタグランジンE1製剤(血流改善)、高気圧酸素療法、ビタミンB12製剤、代謝改善薬などを組み合わせることがあるが、有効性の証拠は限られている。 ・安静を保ち、ストレスや睡眠不足を避ける。
予後
おおむね、完全に治るもの、改善するが難聴が残るもの、改善しないもの、がそれぞれ約3分の1ずつとされる。予後不良の因子は、初診時の高度難聴(スケールアウトなど)、めまいを伴うこと、治療開始の遅れ(発症から2週間以上たっている)、高齢、高音域が強く障害される型などである。同じ耳に繰り返し起こることは少ない。繰り返す場合はMénière病などを考える。
難聴の種類とオージオグラムの読み方
・伝音難聴:外耳〜中耳の障害。骨導は正常で、気導だけが低下する(気骨導差がある)。 ・感音難聴:内耳〜聴神経以降の障害。気導と骨導がともに同じ程度に低下する(気骨導差がない)。 ・混合性難聴:両方が合わさったもの。骨導も低下しており、そのうえ気骨導差がある。
POINT
・突然発症する片側の感音難聴(気導と骨導がともに低下)で、原因が見つからないものを突発性難聴という。 ・MRIで聴神経腫瘍を除外する。 ・治療の第一選択は副腎皮質ステロイド。早く治療を始めるほど予後が良い。 ・めまいと低音障害がある→Ménière病(浸透圧利尿薬)。低音障害だけ→急性低音障害型感音難聴。 ・耳介の帯状疱疹と顔面神経麻痺がある→Ramsay Hunt症候群(抗ウイルス薬+ステロイド)。 ・予後不良因子:高度難聴、めまいを伴う、治療開始の遅れ、高齢。
