StudyMed医師国家試験

塹壕から世界へ―第一次世界大戦と重なった「スペイン風邪」の正体

第117回医師国家試験 E問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第117回 E問題 第23問

第一次世界大戦とほぼ時期を同じくしてパンデミックがみられた感染症はどれか。

  1. a.エボラ出血熱
  2. b.インフルエンザ
  3. c.鳥インフルエンザ(H5N1)
  4. d.中東呼吸器症候群〈MERS〉
  5. e.後天性ヒト免疫不全症候群〈AIDS〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は感染症の歴史を問う公衆衛生の問題だ。ポイントはシンプルで、各感染症が「いつ」「どの規模で」流行したかを押さえているかどうか。第一次世界大戦がいつだったかを思い出すところから始めよう。
医学生医学生
1914年から1918年ですよね。その頃の感染症というと、スペイン風邪でしょうか。
ドクタードクター
その通り。正解はインフルエンザだ。1918年から1920年頃にかけて、A型インフルエンザウイルスのH1N1亜型による世界的大流行、いわゆるスペイン風邪が起こった。ちょうど大戦の末期と重なっているね。
医学生医学生
名前からすると、スペインで発生したんですか。
ドクタードクター
よくある誤解だね。交戦国は士気への影響を恐れて流行の報道を抑えていた。一方、中立国だったスペインでは比較的自由に報じられたので、「スペインの病気」という印象が広まったんだ。発生源を意味する名前ではないよ。
医学生医学生
戦争が感染拡大に関係していたということですか。
ドクタードクター
そう考えられている。兵士が密集して生活し、大陸をまたいで大規模に移動したことが拡大を後押ししたといわれる。世界人口の3分の1程度が感染し、死者は少なくとも数千万人と推計されている。日本でも人口の約4割が罹患したと記録されているんだ。
医学生医学生
そもそも、パンデミックとエピデミックはどう違うんでしたっけ。公衆衛生の講義で習ったはずなんですが。
ドクタードクター
整理しておこう。特定の地域で一定の頻度で発生し続けるのがエンデミック、ある地域や集団で通常の水準を超えて患者が出るのがエピデミックやアウトブレイク。それが国境や大陸を越えて世界の広い範囲に同時期に広がった状態がパンデミックだ。では他の選択肢を見ていこう。エボラ出血熱はどうかな。
医学生医学生
2014年頃に西アフリカで大流行したニュースを覚えています。かなりの規模でしたよね。
ドクタードクター
死者は1万人を超える大規模なアウトブレイクだった。ただ、流行はアフリカの一部にほぼ限局していて世界的大流行には至っていない。しかも初めて確認されたのは1976年だから、時代がまったく違う。感染症法では一類感染症だね。
医学生医学生
鳥インフルエンザもインフルエンザなので一瞬迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。でもH5N1のヒト感染が初めて確認されたのは1997年の香港。主に感染した家禽との濃厚接触でうつり、ヒトからヒトへの持続的な感染は確認されていないので、パンデミックには至っていない。致命率は高いけれどね。中東呼吸器症候群は2012年にサウジアラビアで報告されたコロナウイルス感染症で、ヒトコブラクダが感染源と考えられている。
医学生医学生
韓国で院内感染が広がったのもMERSでしたね。AIDSは世界中に広がっているので、パンデミックと言えそうですが。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。HIV/AIDSは世界的流行と表現されることも多い。ただ、認識されたのは1981年の米国で、第一次世界大戦期とは時期がまったく違う。この問題は時期で切ればいいんだ。
医学生医学生
年代を押さえれば、インフルエンザ以外は全部20世紀後半以降なので外れるということですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、なぜインフルエンザがパンデミックを起こしやすいかも理解しておこう。A型はヘマグルチニンとノイラミニダーゼの組み合わせで亜型が決まる。毎年の季節性流行は少しずつ変異が積み重なる抗原連続変異、つまりドリフトによる。一方、ヒトと鳥やブタのウイルスが遺伝子分節を交換して新しい亜型が出る抗原不連続変異、シフトが起こると、ほとんどの人が免疫をもたないためパンデミックになりやすいんだ。
医学生医学生
微生物学の講義で、遺伝子が分節になっているから交雑が起こりやすいと習いました。
ドクタードクター
そのとおり。実際にインフルエンザのパンデミックは1918年のH1N1のあと、1957年のアジアかぜ(H2N2)、1968年の香港かぜ(H3N2)、2009年の新型インフルエンザ(H1N1pdm09)と繰り返されている。スペイン風邪では若年成人の死亡が多く、二次性の細菌性肺炎が大きな死因になったことも教訓だ。COVID-19を経験した今、過去のパンデミックから学ぶ意味はますます大きいよ。

まとめ

第一次世界大戦(1914〜1918年)の末期と重なる1918〜1920年頃に世界的大流行を起こしたのは、A型インフルエンザウイルス(H1N1)によるスペイン風邪です。名称は中立国スペインで流行が報道されたことに由来し、発生源を示すものではなく、兵士の密集と移動が拡大を後押ししたと考えられています。エボラ出血熱(1976年確認)、鳥インフルエンザH5N1のヒト感染(1997年)、MERS(2012年)、AIDS(1981年)はいずれも20世紀後半以降に出現したため時期が合いません。インフルエンザは抗原不連続変異により新しい亜型が出現するとパンデミックを起こしやすく、1957年、1968年、2009年にも大流行が起きています。感染症の流行史を年代とともに整理しておくことは、公衆衛生の試験対策だけでなく、次のパンデミックへの備えを考えるうえでも役立ちます。

解答・解説

正解はbです

問われていること

第一次世界大戦(1914〜1918年)と同じ頃に、世界規模の大流行(パンデミック)を起こした感染症を選ぶ問題である。感染症の歴史を問う公衆衛生分野の問題であり、各感染症が「いつ」「どこで」「どの規模で」流行したかを整理しておくと解きやすい。

用語の確認

・エンデミック(地域流行):特定の地域で一定の頻度で継続的に発生している状態 ・エピデミック/アウトブレイク:ある地域・集団で、通常予測される水準を超えて患者が発生する状態 ・パンデミック(世界的大流行):エピデミックが国境や大陸を越えて世界の広い範囲に同時期に拡大した状態

考え方

第一次世界大戦の末期、1918年から1920年頃にかけて世界を襲ったのが、いわゆる「スペイン風邪(スペインインフルエンザ)」である。病原体はA型インフルエンザウイルス(H1N1亜型)で、兵士の移動や密集した軍隊生活が感染拡大を後押しし、戦争の帰趨にも影響したといわれる。 選択肢の他の感染症は、いずれも20世紀後半以降に認識・流行したものであり、時期の点で当てはまらない。年代を押さえれば正解はインフルエンザに絞り込める。

選択肢考察

  1. ×a.  エボラ出血熱

    エボラ出血熱(エボラウイルス病)は、1976年に現在のコンゴ民主共和国(旧ザイール)と南スーダンで初めて確認された、エボラウイルスによる重篤な出血熱である。以後、アフリカ中央部を中心に繰り返し流行しており、2014〜2016年には初めて西アフリカ(ギニア、リベリア、シエラレオネ)で大規模なアウトブレイクが起こり、2万8千人以上の患者と1万人を超える死者が出た。しかし流行はアフリカの一部地域にほぼ限局しており、世界的大流行には至っていない。また初確認が1976年であり、第一次世界大戦期とは時代が異なるため誤りである。日本の感染症法では一類感染症に分類される。

  2. ○b.  インフルエンザ

    1918年から1920年頃にかけて、A型インフルエンザウイルス(H1N1亜型)による世界的大流行、いわゆる「スペイン風邪」が起こった。これはちょうど第一次世界大戦(1914〜1918年)の末期と重なる。交戦国では士気への影響を恐れて流行の報道が抑えられた一方、中立国であったスペインでは流行が比較的自由に報じられたため、「スペイン発の病気」という印象から「スペイン風邪」と呼ばれるようになった(スペインが発生源であったわけではない)。世界人口の3分の1程度が感染し、死者は少なくとも数千万人にのぼったと推計される。若年成人の死亡が多かったことも特徴で、二次性の細菌性肺炎が死亡の大きな要因となった。日本でも当時の内務省衛生局の記録で患者約2,380万人、死者約39万人と報告され、人口の約4割が罹患したことになる。以上から本問の正解である。

  3. ×c.  鳥インフルエンザ(H5N1)

    鳥インフルエンザA(H5N1)は、本来は鳥類の間で流行する高病原性のインフルエンザウイルスである。ヒトへの感染は1997年の香港で初めて確認され、2003年以降は東南アジアを中心に、中東・アフリカの一部などで散発的なヒト感染が報告されている。ヒトでの致命率は高いが、主に感染した家禽との濃厚接触による感染であり、ヒトからヒトへの持続的な感染は確認されておらず、パンデミックには至っていない。時期も第一次世界大戦とは大きく離れているため誤りである。感染症法では二類感染症に分類される。

  4. ×d.  中東呼吸器症候群〈MERS〉

    中東呼吸器症候群(MERS)は、MERSコロナウイルスによる重症呼吸器感染症で、2012年にサウジアラビアで初めて報告された。ヒトコブラクダが感染源(保有宿主)と考えられており、患者の多くはアラビア半島で発生している。2015年には韓国で、中東からの帰国者を発端とする院内感染を中心とした流行(186例)が起こったが、世界的大流行には至っていない。21世紀に出現した感染症であり、第一次世界大戦期とは無関係であるため誤りである。感染症法では二類感染症に分類される。

  5. ×e.  後天性ヒト免疫不全症候群〈AIDS〉

    後天性免疫不全症候群(AIDS)は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染によりCD4陽性T細胞が減少し、日和見感染症や悪性腫瘍を発症する疾患である。1981年に米国でニューモシスチス肺炎やKaposi肉腫を呈する若年男性の報告により初めて認識された。その後全世界に拡大し、現在も世界で約4,000万人が感染者として生活しており、特にサハラ以南のアフリカに多い。世界的に広がった流行という点ではパンデミックとみなされることもあるが、出現は20世紀後半であり、第一次世界大戦期の流行ではないため誤りである。感染症法では五類感染症(全数把握)に分類される。

主な感染症の世界的流行の歴史

・14世紀:ペスト(黒死病)がヨーロッパで大流行し、人口の3分の1前後が死亡したとされる。 ・19世紀:コレラがインドから世界各地へ繰り返し拡大した(複数回のコレラ・パンデミック)。 ・1918〜1920年頃:スペイン風邪(インフルエンザA/H1N1) ・1957年:アジアかぜ(A/H2N2) ・1968年:香港かぜ(A/H3N2) ・1981年〜:HIV/AIDSの世界的拡大 ・2002〜2003年:重症急性呼吸器症候群(SARS)の国際的流行(パンデミックには至らず終息) ・2009年:新型インフルエンザ(A/H1N1pdm09)のパンデミック ・2012年〜:MERS(中東を中心に流行) ・2014〜2016年:西アフリカのエボラ出血熱アウトブレイク ・2020年〜:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック

インフルエンザのパンデミックが起こる仕組み

A型インフルエンザウイルスは表面のヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の組み合わせで亜型に分けられる。毎年の季節性流行は、HA・NAに少しずつ変異が蓄積する「抗原連続変異(ドリフト)」による。これに対し、ヒトと動物(鳥・ブタなど)のウイルスが同一宿主内で遺伝子分節を交換するなどして、まったく新しい亜型が出現する「抗原不連続変異(シフト)」が起こると、多くの人が免疫をもたないためパンデミックになりやすい。

感染症法上の位置づけ(選択肢の疾患)

・エボラ出血熱:一類感染症 ・鳥インフルエンザ(H5N1)、MERS:二類感染症 ・インフルエンザ(鳥インフルエンザ・新型インフルエンザ等感染症を除く):五類感染症(定点把握) ・AIDS(HIV感染症):五類感染症(全数把握)

POINT

・第一次世界大戦末期(1918年頃)のパンデミック=スペイン風邪(インフルエンザA/H1N1)。 ・「スペイン風邪」の名は、中立国スペインで流行が報道されたことに由来し、発生源を意味しない。 ・インフルエンザのパンデミック:1918年(H1N1)、1957年(H2N2)、1968年(H3N2)、2009年(H1N1pdm09)。 ・エボラ(1976年確認)、H5N1のヒト感染(1997年)、MERS(2012年)、AIDS(1981年)はいずれも20世紀後半以降。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。