StudyMed医師国家試験

「起き上がれた」その先へ―脳梗塞急性期リハは座位訓練から一段ずつ

第117回医師国家試験 D問題 第42問

国試問題にチャレンジ

第117回 D問題 第42問

62歳の男性。左内包脳梗塞に対する薬物療法で入院中である。現在,発症後5日目である。意識は清明。血圧128/76mmHg。ベッド上で背もたれ角度を90度としても血圧の低下を認めず,神経徴候に変化を認めない。徒手筋力テストで左上下肢は5,右上下肢では肘屈曲1,手指屈曲0,手指伸展0,股関節屈曲1,膝伸展0,足関節背屈0であった。右上下肢に軽度の感覚障害を認める。  現時点で行うべきリハビリテーションはどれか。

  1. a.座位訓練
  2. b.右手での書字訓練
  3. c.左上肢の他動可動域訓練
  4. d.歩行器使用での歩行訓練
  5. e.手すりを使用しての階段昇降訓練

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、脳梗塞急性期の患者さんに、今どの段階のリハビリテーションを行うべきかを判断する問題だ。ポイントは「離床を始めてよい状態か」と「麻痺の重さからみて、どこまで進めるか」の2つ。まず、脳卒中の急性期に早くからリハビリを始める理由は何だと思う?
医学生医学生
寝たきりのままだと筋力が落ちたり関節が固まったりするから、でしょうか。
ドクタードクター
そう、廃用症候群の予防だね。筋萎縮や関節拘縮だけでなく、起立性低血圧、深部静脈血栓症、誤嚥性肺炎、褥瘡など、寝ているだけで起こる合併症はたくさんある。だから全身状態が許す限り、早期に離床を始めるのが基本なんだ。では、離床を始めてよい目安は覚えているかな。
医学生医学生
リハビリテーション医学の講義で習いました。意識障害が軽いこと、神経症状の悪化がしばらくないこと、バイタルが安定していること、だったと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。意識障害がJCS 1桁程度、神経症候の増悪が24時間以上ない、バイタルサインが安定している、の3点だ。この患者さんは意識清明で血圧も安定している。しかも背もたれを90度まで起こしても血圧が下がらず、神経症状も悪化していない。これは何を意味するだろう?
医学生医学生
座った姿勢でも脳への血流が保たれていて、起こしても大丈夫ということですね。
ドクタードクター
その通り。脳梗塞の急性期は脳血流の自動調節能が障害されているから、体を起こしたときの血圧低下が梗塞の悪化につながる心配がある。それをクリアしたわけだから、次の段階に進める。では麻痺の程度はどうかな。
医学生医学生
右側は筋力が0か1なので、ほとんど動かせない重い片麻痺ですね。左の内包で錐体路がやられて、反対側の右に麻痺が出ている。
ドクタードクター
正確だね。MMTの1は筋収縮はあるけど関節は動かない、0は収縮すら見られない状態だ。ここで離床の段階を整理しておこう。背もたれありの受動座位から始めて、端座位、車椅子への移乗、立位、歩行、そして階段昇降へと一段ずつ進める。この患者さんは背もたれ90度までクリアしたところだから、次は――
医学生医学生
端座位や車椅子座位を保つ座位訓練、ですね。
ドクタードクター
正解。座位訓練は体幹機能を鍛え、起立性低血圧や誤嚥性肺炎の予防にもなり、その後の立位・歩行への橋渡しになる。ほかの選択肢も見ていこう。歩行器を使った歩行訓練はどうかな。
医学生医学生
早く歩けるようになってほしいので、魅力的に見えてしまいました。でも右脚がほぼ動かないと、立つことも難しそうです。
ドクタードクター
そう、段階を飛ばしていて転倒の危険が大きい。それに歩行器は両手で体重を支える道具だから、右上肢も重度麻痺のこの患者さんには向かない。手すりを使った階段昇降は、平地歩行が安定してから行う、いちばん最後の段階の訓練だ。
医学生医学生
右手での書字訓練も、手指がMMT 0では無理ですよね。
ドクタードクター
その通り。書字には指を一本ずつ分けて動かす巧緻性が必要で、麻痺がかなり軽くなってから行う訓練だ。利き手の麻痺が重く回復が見込みにくければ、むしろ左手で書く利き手交換を考えることもある。
医学生医学生
左上肢の他動可動域訓練は、拘縮予防として大事そうに思えたんですが。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。他動的な関節可動域訓練は急性期から欠かせない。ただし対象は自分で動かせない麻痺側、つまり右側だ。左はMMT 5で自力で動かせるから、療法士が動かす必要はなく、自動運動で筋力を保てばいい。左右の取り違えを狙った選択肢だね。
医学生医学生
臨床実習でリハ科を回ったとき、療法士さんが麻痺側の肩や足首を丁寧に動かしていたのを思い出しました。
ドクタードクター
麻痺側の肩は亜脱臼や痛みを起こしやすく、足首は尖足になりやすいから、良肢位保持とあわせて大切なケアだ。発展知識として、内包の梗塞はラクナ梗塞のほか、分枝粥腫型梗塞、いわゆるBADとして起こることがあり、発症から数日のうちに麻痺が進行しやすい。だから離床は、毎回血圧と神経症状を確認しながら慎重に進める。逆に、発症24時間以内のごく早期に強度の高い離床を行うことは転帰を悪化させる可能性があり、推奨されていない。
医学生医学生
早ければ早いほどいい、というわけではなく、リスクを確認しながら一段ずつ、ということですね。
ドクタードクター
その通り。座位を取らせるときも30度、45度、60度、90度と少しずつ起こして、そのたびに血圧、脈拍、意識、麻痺の変化を確認する。病棟でこの手順を自然に回せるようになると、チーム医療の中で頼られる医師になれるよ。

まとめ

脳梗塞急性期は、意識障害が軽度で神経症候の増悪がなく、バイタルサインが安定していれば、廃用症候群を防ぐために早期離床を始めることが基本です。離床は受動座位から端座位、車椅子移乗、立位、歩行、階段昇降へと段階的に進め、背もたれ90度で血圧低下や神経症状の悪化がなければ次は座位訓練となります。右上下肢がMMT 0〜1の重度麻痺では、歩行器歩行や階段昇降、右手の書字訓練は時期尚早であり、他動的な関節可動域訓練は健側ではなく麻痺側に行うものです。内包梗塞ではBADのように早期に進行する病型もあるため、各段階でリスクを確認しながら進める姿勢が、安全で効果的な急性期リハビリテーションの土台になります。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・62歳男性、左内包の脳梗塞で薬物療法中。発症5日目で、脳梗塞の急性期にあたる。 ・意識清明、血圧128/76mmHgでバイタルサインは安定している。 ・ベッドの背もたれを90度まで起こしても血圧低下がなく、神経徴候も悪化しない → 座位をとっても脳血流の低下による症状の増悪がみられず、離床(ベッド上臥床から座位へ移行すること)を進められる状態である。 ・徒手筋力テスト(MMT:0=筋収縮なし、1=筋収縮はあるが関節は動かない、2=重力を除けば動く、3=重力に抗して動く、4〜5=抵抗に抗して動く)で、左上下肢は5(正常)、右上下肢は0〜1 → 内包を通る錐体路の障害による重度の右片麻痺。 ・右上下肢の軽度感覚障害を伴う。

考え方

脳卒中急性期のリハビリテーションでは、廃用症候群(筋萎縮、関節拘縮、起立性低血圧、深部静脈血栓症、誤嚥性肺炎、褥瘡など)を防ぎ、機能回復を促すために、全身状態が許す限り早期に離床を始めることが基本となる。離床開始の一般的な目安は、①意識障害が軽度(JCSで1桁)、②神経症候の増悪が24時間以上ない、③バイタルサインが安定している、の3点であり、本例はいずれも満たしている。さらに背もたれ90度で血圧・神経徴候が変化しないことも確認済みであるため、次の段階は座位訓練である。 離床は「ベッド上での受動座位(背もたれあり)→ 端座位(ベッドの端に腰かけ、足を床につけた座位)→ 車椅子への移乗 → 立位 → 歩行」と段階的に進める。本例は右下肢の筋力がMMT 0〜1と重度の麻痺であり、立位・歩行の訓練は、座位保持が安定し、必要に応じて長下肢装具などを用いられるようになってから行うものである。したがって現時点で行うべきなのは座位訓練である。

選択肢考察

  1. ○a.  座位訓練

    意識清明、バイタルサイン安定で、背もたれ90度でも血圧低下や神経徴候の悪化がないことから、離床の条件を満たしている。受動座位の次の段階として、端座位や車椅子座位の保持を練習する座位訓練が、現時点で最も適切なリハビリテーションである。早期の座位訓練は起立性低血圧や誤嚥性肺炎などの廃用症候群を予防し、体幹機能の改善や、その後の立位・歩行訓練への橋渡しとなる。

  2. ×b.  右手での書字訓練

    右手は手指屈曲・伸展ともにMMT 0で、随意的に指を動かすことができない。書字には手指の巧緻性(分離運動ができること)が必要で、麻痺が軽度の段階になって初めて行う訓練である。現時点では実施できない。利き手の麻痺が重く回復が見込みにくい場合は、むしろ非麻痺手(左手)での書字など利き手交換の訓練が検討される。

  3. ×c.  左上肢の他動可動域訓練

    左上下肢はMMT 5で、麻痺のない健側である。患者自身で十分に動かせるため、療法士が関節を動かす他動的な可動域訓練は不要である。他動可動域訓練が必要なのは、自力で動かせず関節拘縮をきたしやすい麻痺側(右上下肢)のほうである。健側については、筋力維持のための自動運動を行えばよい。

  4. ×d.  歩行器使用での歩行訓練

    右下肢は股関節屈曲MMT 1、膝伸展・足関節背屈MMT 0と重度の麻痺があり、装具なしでは立位の保持すら困難である。座位・立位訓練を経ずに歩行訓練を行うのは段階を飛ばしており、転倒の危険が大きい。また歩行器は両上肢で体重を支えて使用するため、右上肢も重度麻痺の本例には適さない。

  5. ×e.  手すりを使用しての階段昇降訓練

    階段昇降は、平地歩行が安定してから行う高度な動作である。右下肢が重度麻痺で立位保持もできない現段階では実施できず、転倒の危険が大きい。リハビリテーションの段階として最も後に位置づけられる訓練である。

脳卒中急性期リハビリテーションの基本

・脳卒中治療ガイドラインでは、十分なリスク管理のもとで、発症早期から積極的なリハビリテーションを行うことが推奨されている。ただし発症24時間以内のごく早期に高強度の離床を行うことは転帰を悪化させる可能性があり、推奨されない。 ・早期離床の目的:廃用症候群(筋力低下、関節拘縮、起立性低血圧、深部静脈血栓症、誤嚥性肺炎、褥瘡、認知機能低下など)の予防と、ADL(日常生活動作)の早期獲得。

離床開始の目安

①意識障害が軽度(JCS 1桁) ②神経症候の増悪が24時間以上ない(病型により進行の可能性があるため注意する) ③バイタルサインが安定している 主幹動脈の閉塞・狭窄によるアテローム血栓性脳梗塞、脳幹梗塞、穿通枝の起始部が閉塞して梗塞が拡大しやすい分枝粥腫型梗塞(branch atheromatous disease:BAD)などは発症数日以内に症状が進行しやすいため、より慎重に経過を観察してから離床を進める。内包の梗塞はラクナ梗塞やBADとして起こることが多い。

座位訓練の進め方

背もたれを30度→45度→60度→90度と段階的に起こし、各段階で血圧(収縮期血圧の大きな低下がないか)、脈拍、意識レベル、神経症状の悪化の有無を確認する。90度で30分程度保持できれば端座位、車椅子座位へと進める。

片麻痺のリハビリテーションの流れ

関節可動域訓練・良肢位保持(急性期から麻痺側に実施)→ 座位訓練 → 移乗訓練 → 立位訓練(必要なら長下肢装具を使用)→ 平行棒内歩行 → 杖・短下肢装具での歩行 → 階段昇降。上肢・手指の訓練(書字・巧緻動作など)は麻痺の回復程度に応じて行う。

POINT

・脳梗塞急性期は、意識清明(JCS 1桁)・神経症候の増悪なし・バイタルサイン安定を確認したら早期に離床を始める。 ・背もたれ90度で血圧低下や神経症状悪化がなければ、次の段階は座位訓練。 ・立位・歩行・階段昇降は段階を追って進め、重度麻痺(MMT 0〜1)の段階でいきなり行わない。 ・他動的な関節可動域訓練は麻痺側に行うもので、健側には不要。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。