「場と仕組み」か「人と資格」か―医療法と医師法の線引きを押さえる
第117回医師国家試験 C問題 第31問
国試問題にチャレンジ
医療法に規定されていないのはどれか。
- a.医療圏
- b.基準病床数
- c.地域医療構想
- d.医師の臨床研修
- e.医療従事者の確保
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
医療法は病院・診療所などの医療提供の「場」と地域の医療提供「体制」を定める法律であり、都道府県が策定する医療計画の中で医療圏(二次・三次)、基準病床数、地域医療構想、5疾病6事業と在宅医療、医療従事者の確保(医師確保計画を含む)などを規定しています。一方、医師の臨床研修(2年以上、2004年度から必修)は医師という「資格」に関わる事項として医師法に規定され、歯科医師の臨床研修(1年以上)は歯科医師法に定められています。医師法には免許や国家試験のほか、応招義務、無診察治療等の禁止、異状死体の届出、診療録の5年保存など医師個人の義務も規定されています。「場・体制」は医療法、「人・資格」は医師法という線引きを意識すると、医事法制の問題を整理して解くことができ、将来自分が負う義務の理解にもつながります。
解答・解説
正解はdです
本問は、医療に関わる主な法律がそれぞれ何を規定しているかを区別できるかを問う問題である。「規定されていないもの」を一つ選ぶ形式であることに注意する。
医療法と医師法の役割の違い
・医療法:医療を提供する「体制」(場と仕組み)を定める法律である。病院・診療所・助産所の定義や開設・管理、人員・構造設備の基準、医療安全の確保、医療に関する情報提供、そして都道府県が策定する医療計画(医療圏の設定、基準病床数、地域医療構想、医療従事者の確保など)を規定する。 ・医師法:医師という「人(資格)」について定める法律である。医師の任務、免許(欠格事由、医籍登録)、医師国家試験、臨床研修、医師の業務上の義務(応招義務、診断書等の交付義務、無診察治療等の禁止、異状死体の届出、処方箋交付義務、保健指導義務、診療録の記載・保存義務など)を規定する。 選択肢のうち、医療圏・基準病床数・地域医療構想・医療従事者の確保は、いずれも医療法に基づく医療計画の枠組みに含まれる事項である。一方、医師の臨床研修は医師個人の資格・研修に関わる事項であり、医師法に規定されている。したがって、医療法に規定されていないのは「医師の臨床研修」である。
選択肢考察
- ×a. 医療圏
医療圏は医療法に基づき、都道府県が医療計画の中で設定する地域単位である。医療法上定められているのは二次医療圏(一般的な入院医療を完結させる単位で、複数の市町村からなる)と三次医療圏(高度・特殊な医療を提供する単位で、原則として都道府県全域。北海道のみ複数設定)である。日常的な外来医療を担う一次医療圏(おおむね市町村単位)は医療法上の規定ではない点も押さえておく。医療法に規定されているため、正解ではない。
- ×b. 基準病床数
基準病床数は医療法に基づき医療計画で定められる病床数の基準であり、病床の地域的な偏在を是正し、一定水準以上の医療を確保することを目的とする。療養病床および一般病床は二次医療圏ごとに、精神病床・結核病床・感染症病床は都道府県全域を単位として算定する。既存病床数が基準病床数を超える地域(病床過剰地域)では、病院の開設や増床が制限される仕組みがある。医療法に規定されているため、正解ではない。
- ×c. 地域医療構想
地域医療構想は、2014年の医療介護総合確保推進法による医療法改正で導入され、医療計画の一部として都道府県が策定するものである。構想区域(原則として二次医療圏を基本とする)ごとに、団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年の医療需要と、医療機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)別の必要病床数を推計し、地域医療構想調整会議での協議などを通じて病床機能の分化・連携を進める。病院・有床診療所は病床機能報告制度により自院の病床機能を都道府県に報告する。医療法に規定されているため、正解ではない。
- ○d. 医師の臨床研修
医師の臨床研修は医療法ではなく医師法(第16条の2)に規定されている。医師法では、診療に従事しようとする医師は、2年以上、都道府県知事の指定する病院または厚生労働大臣の指定する外国の病院で臨床研修を受けなければならないと定めている。医師の臨床研修は2004年度から必修化された。研修医の受け入れは医療機関で行われるが、制度の根拠は医師という資格に関わる法律である医師法にあるため、本問の「医療法に規定されていないもの」に該当する。なお、歯科医師の臨床研修(1年以上)は歯科医師法に規定されている。
- ×e. 医療従事者の確保
医療従事者の確保は医療法に規定されている。医療計画の記載事項に医療従事者の確保が含まれ、さらに医療機関における医療従事者の勤務環境改善の努力義務と都道府県による支援、地域医療対策協議会における医師確保に関する協議、医師の地域偏在の解消を図る地域医療支援センターの事務などが医療法に定められている。2018年の医療法改正では、都道府県が医療計画の一部として医師確保計画を策定することとされた。医師の長時間労働や地域偏在は現在の重要な課題である。医療法に規定されているため、正解ではない。
医療法の主な規定内容
・医療提供施設の定義:病院(患者20人以上の入院施設を有する)、診療所(入院施設なし、または19人以下)、助産所など。 ・病院の種類:地域医療支援病院(都道府県知事が承認)、特定機能病院(厚生労働大臣が承認)、臨床研究中核病院(厚生労働大臣が承認)。 ・人員配置・構造設備の基準、病床の種別(一般病床、療養病床、精神病床、結核病床、感染症病床)。 ・医療安全の確保(医療安全支援センター、医療事故調査制度など)。 ・医療に関する情報の提供(医療機能情報提供制度など)。 ・医療計画(都道府県が策定)。
医療計画に定める主な事項
・医療圏(二次医療圏・三次医療圏)の設定 ・基準病床数 ・地域医療構想 ・5疾病(がん、脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患、糖尿病、精神疾患)と6事業(救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児医療(小児救急医療を含む)、新興感染症発生・まん延時の医療)および在宅医療の医療連携体制 ・医療従事者の確保(医師確保計画を含む)、外来医療に係る医療提供体制の確保 ・医療の安全の確保 ※新興感染症への対応は2024年度からの第8次医療計画で6事業目として追加された。
医師法の主な規定内容
・医師の任務(医療および保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上・増進に寄与し、国民の健康な生活を確保する) ・免許(絶対的欠格事由・相対的欠格事由、医籍への登録)、医師国家試験 ・臨床研修(2年以上の必修) ・業務上の義務:応招義務、無診察治療等の禁止、診断書・検案書・出生証明書等の交付義務、異状死体等の届出義務(検案して異状を認めたら24時間以内に所轄警察署へ届出)、処方箋の交付義務、保健指導の義務、診療録の記載と5年間の保存義務 ・医師の届出(2年ごとに住所・従事先等を届け出る)
POINT
・医療法は医療提供「体制」(施設・医療計画)の法律、医師法は医師という「資格」の法律。 ・医療計画(医療法):医療圏、基準病床数、地域医療構想、5疾病6事業と在宅医療、医療従事者の確保(医師確保計画)。 ・医師の臨床研修(2年以上、必修)は医師法第16条の2に規定。歯科医師の臨床研修(1年以上)は歯科医師法。 ・一次医療圏は医療法上の規定ではなく、二次・三次医療圏が医療法に基づく。
