StudyMed医師国家試験

逆流は上へ向かう―GERDの症状は「酸がどこまで届くか」でたどろう

第117回医師国家試験 A問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第117回 A問題 第14問

胃食道逆流症〈GERD〉の症状で生じにくいのはどれか。

  1. a.胸痛
  2. b.下痢
  3. c.呑酸
  4. d.咽頭痛
  5. e.慢性咳嗽

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胃食道逆流症、いわゆるGERDの症状のなかで生じにくいものを選ぶ問題だ。着眼点はシンプルで、「逆流した胃内容物がどこまで上がって、どの粘膜を刺激するか」をたどること。そうすれば、GERDらしい症状とそうでない症状が自然に分かれてくる。
医学生医学生
GERDといえば胸やけのイメージしかなくて、咳や咽頭痛まで含まれるのか自信がありませんでした。
ドクタードクター
そこが今回のポイントだね。まず基本から。GERDは胃酸を主体とする胃内容物が食道へ逆流して症状や合併症を起こす病態の総称で、内視鏡でびらんや潰瘍がある逆流性食道炎と、症状はあるのに粘膜傷害がない非びらん性逆流症、NERDに分けられる。
医学生医学生
内視鏡で異常がなくてもGERDと言えるんですね。消化器内科の実習で、胸やけがあるのに内視鏡はきれいという患者さんがいて不思議に思っていました。
ドクタードクター
まさにそれがNERDだ。では症状を、逆流物の到達点ごとに整理しよう。食道にとどまれば胸やけや胸痛。口腔まで上がってくれば、酸っぱい液や苦い液がこみ上げる呑酸。胸やけと呑酸はGERDの二大定型症状だ。
医学生医学生
胸痛もGERDで起こるんですか。胸痛と聞くと、まず心筋梗塞を考えてしまいます。
ドクタードクター
その感覚は正しいよ。酸が食道粘膜の知覚神経を刺激したり、食道の攣縮を誘発したりして前胸部痛が起こり、狭心症に似ることもある。非心臓性胸痛と呼ばれるものだね。ただし、胸痛をみたらまず虚血性心疾患や大動脈解離などの致死的疾患を除外して、それからGERDを考えるという順番は必ず守ること。
医学生医学生
救急外来の実習でも、胸痛ならまず心電図と言われました。咽頭痛のほうはどういう仕組みですか。
ドクタードクター
逆流物が上部食道括約筋を越えて咽頭・喉頭まで達すると、粘膜への直接刺激や迷走神経を介した反射で、咽頭痛や咽喉頭違和感、嗄声、咳払いなどが起こる。これは咽喉頭酸逆流症と呼ばれ、GERDの食道外症状の一つだ。
医学生医学生
耳鼻咽喉科の外来で、のどの違和感が続く患者さんにPPIが処方されていたのは、それを疑っていたからなんですね。
ドクタードクター
その可能性が高いね。慢性咳嗽も同じ流れで理解できる。逆流物が微量に気道へ吸引されて刺激する機序と、下部食道への酸逆流が迷走神経を介して咳反射を起こす食道-気管支反射の機序がある。痰の少ない乾性咳嗽が多く、咳喘息や副鼻腔気管支症候群と並んで慢性咳嗽の重要な原因で、喘息の増悪因子にもなる。
医学生医学生
呼吸器内科の講義で、8週間以上続く慢性咳嗽の三大原因の一つとして習った気がします。そうすると残るのは下痢ですね。
ドクタードクター
その通り、正解は下痢だ。GERDの症状はすべて、逆流経路である食道より口側、あるいは気道側に現れる。逆流は胃から腸に向かう流れではないし、腸管の運動・吸収・分泌には影響しないから、下痢はGERDの症状としては生じにくいんだ。
医学生医学生
でも、PPIを飲んでいる人が下痢をすることはありませんか。
ドクタードクター
良い質問だ。PPIの副作用として下痢がみられることや、PPIの長期使用がClostridioides difficile感染症のリスクになることは知られている。ただ、それは治療薬の影響であって、疾患そのものの症状ではない。ここを混同しないようにしよう。
医学生医学生
症状を見たら、まず逆流物の通り道に当てはまるかを考えればいいんですね。
ドクタードクター
そうだね。最後に病態と治療も押さえておこう。下部食道括約筋圧の低下や一過性の弛緩、食道裂孔ヘルニア、肥満や妊娠、高齢女性の脊柱後弯による腹圧上昇などで逆流が増える。高脂肪食や過食、飲酒、喫煙、就寝直前の食事も増悪因子だ。治療は減量や就寝前の食事を避ける、頭側を高くして寝るといった生活習慣の改善と、PPIやP-CABによる酸分泌抑制が中心になる。
医学生医学生
長く放っておくと、Barrett食道から食道腺癌になることもあるんでしたよね。病理実習で円柱上皮化生の標本を見ました。
ドクタードクター
よく覚えているね。だからこそ症状のコントロールと、必要に応じた内視鏡でのフォローが大切なんだ。重症度は内視鏡所見をもとにロサンゼルス分類で評価する、というのもあわせて覚えておこう。

まとめ

胃食道逆流症(GERD)は胃内容物が食道へ逆流して症状を起こす病態で、症状は逆流物が到達する食道より口側・気道側の臓器に現れます。定型症状は胸やけと呑酸で、ほかに胸痛、咽頭痛や嗄声などの咽喉頭酸逆流症、迷走神経反射や微量誤嚥による慢性咳嗽・喘息様症状といった食道外症状を生じうる一方、腸管の機能には影響しないため下痢は生じにくい症状です。胸痛をみた場合は、虚血性心疾患や大動脈解離などの致死的疾患を先に除外することが重要です。治療は生活習慣の改善とPPI・P-CABによる酸分泌抑制が中心で、長期的にはBarrett食道と食道腺癌に注意します。逆流の経路から症状を推論する視点は、咳や咽頭違和感など一見消化器と無関係な主訴の背景にGERDを見いだす臨床力につながります。

解答・解説

正解はbです

胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)は、胃酸を主体とする胃内容物が食道へ逆流することで、不快な症状や合併症を生じる病態の総称である。内視鏡で食道粘膜にびらん・潰瘍を認める逆流性食道炎と、症状はあるが粘膜傷害を認めない非びらん性逆流症(non-erosive reflux disease:NERD)に分けられる。 GERDの症状を考えるときは、「逆流した胃内容物がどこまで達し、どの粘膜を刺激するか」をたどると整理しやすい。 ・食道にとどまる → 胸やけ、胸痛(食道症状) ・口腔まで達する → 呑酸(すっぱい液が口に上がる) ・咽頭・喉頭まで達する → 咽頭痛、咽喉頭違和感、嗄声 ・気道へ流入する、または迷走神経反射を介する → 慢性咳嗽、喘息様症状 つまりGERDの症状は、逆流経路である食道より口側(上流側)の臓器に現れる。一方、逆流は胃から腸へ向かう流れではないため、小腸・大腸の機能異常である下痢はGERDの症状として生じにくい。したがって正解は下痢である。

選択肢考察

  1. ×a.  胸痛

    GERDで生じうる。酸を含む逆流物が食道粘膜の知覚神経を刺激したり、食道の攣縮を誘発したりすることで、前胸部痛を生じる。胸骨後部の焼けるような感覚である胸やけとともに、食後、夜間の臥位、前屈姿勢で起こりやすい。狭心症に似た痛みを呈することがあり(非心臓性胸痛)、胸痛をみた場合はまず虚血性心疾患や大動脈解離などの致死的疾患を除外したうえでGERDを考える。

  2. ○b.  下痢

    GERDでは生じにくい。GERDは胃から食道への逆流による病態であり、腸管の運動・吸収・分泌には影響しないため、下痢はGERDの症状には含まれない。なお、GERD治療に用いるプロトンポンプ阻害薬(PPI)の副作用として下痢がみられることや、PPI長期使用がClostridioides difficile感染症のリスクとなることはあるが、これは疾患そのものの症状ではない。

  3. ×c.  呑酸

    GERDで生じる。呑酸は、酸っぱい液体や苦い液体が口腔内まで上がってくる感覚であり、胸やけとともにGERDの二大定型症状である。逆流物が食道上部を越えて口腔に達することで自覚される。胸やけと同様、食後、夜間臥位、前屈位で誘発されやすく、げっぷを伴うことも多い。

  4. ×d.  咽頭痛

    GERDで生じうる。逆流物が上部食道括約筋を越えて咽頭・喉頭に達すると、粘膜への直接刺激や迷走神経を介する反射によって咽頭痛、咽喉頭違和感(つかえ感)、嗄声、慢性の咳払いなどを生じる。このような病態は咽喉頭酸逆流症(laryngopharyngeal reflux:LPR)と呼ばれ、GERDの食道外症状の一つである。

  5. ×e.  慢性咳嗽

    GERDで生じうる。逆流物が喉頭から気管へ微量に吸引されて気道粘膜を刺激する機序と、下部食道への酸逆流が迷走神経を介して咳反射を引き起こす機序(食道-気管支反射)がある。痰を伴わない乾性咳嗽となることが多い。慢性咳嗽(8週間以上持続する咳嗽)の原因として、咳喘息、副鼻腔気管支症候群などとともに重要であり、気管支喘息の増悪因子にもなる。

GERDの病態

健常人でも一過性の逆流は起こるが、下部食道括約筋(LES)圧の低下、一過性LES弛緩の増加、食道裂孔ヘルニア、食道のクリアランス(逆流物を胃へ押し戻す蠕動能)の低下、腹圧上昇(肥満、妊娠、前屈姿勢)などにより逆流が増えると病的となる。高脂肪食、過食、飲酒、喫煙、就寝直前の食事も増悪因子である。高齢女性の亀背(脊柱後弯)も腹圧上昇の原因となる。

症状の分類

・定型症状(食道症状):胸やけ、呑酸 ・非定型症状:胸痛、つかえ感、上腹部痛など ・食道外症状:慢性咳嗽、喘息、咽頭痛、咽喉頭違和感、嗄声、耳痛・中耳炎、味覚異常、歯の酸蝕・う歯、睡眠障害など

胸痛の鑑別

胸痛をきたす食道疾患には逆流性食道炎のほか、食道アカラシア、食道けいれん(びまん性食道けいれん)などの食道運動障害がある。食道以外では、狭心症・心筋梗塞・大動脈解離などの心血管疾患、肺血栓塞栓症・気胸・胸膜炎などの呼吸器疾患、帯状疱疹・肋骨骨折・肋間神経痛などの皮膚・骨・神経疾患を考える。

診断と治療

典型的症状があればPPI(またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー:P-CAB)を投与し、症状が改善すれば酸逆流による症状と判断できる(PPIテスト)。逆流性食道炎の重症度は内視鏡所見によりロサンゼルス分類で評価する。治療は生活習慣の改善(減量、就寝前の食事を避ける、頭側挙上での就寝など)と酸分泌抑制薬が中心で、難治例では外科的治療(噴門形成術)も検討される。長期合併症としてBarrett食道とそれを母地とする食道腺癌がある。

POINT

・GERDの定型症状は胸やけと呑酸 ・食道外症状として胸痛、咽頭痛・嗄声(咽喉頭酸逆流症)、慢性咳嗽、喘息などがある ・症状は逆流経路(食道より口側・気道側)に生じ、下痢など腸管の症状はGERDとは関係しない ・胸痛では虚血性心疾患などの除外が先決 ・治療の中心は生活習慣の改善と酸分泌抑制薬(PPI、P-CAB)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。