要介護の一歩手前で食い止めろ―フレイル・サルコペニア・ロコモの三本柱
第116回医師国家試験 F問題 第33問
国試問題にチャレンジ
高齢者の介護予防に重要なのはどれか。3つ選べ。
- a.フレイル
- b.サルコペニア
- c.トキシドローム
- d.アナフィラキシー
- e.ロコモティブシンドローム
対話形式の解説
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ドクターまとめ
介護予防とは、高齢者が要介護状態になるのを防ぎ、あるいは遅らせる取り組みであり、その鍵となる概念がフレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドロームです。フレイルは健康と要介護の中間にある可逆的な虚弱状態で身体・精神心理・社会的側面を含み、サルコペニアは筋量減少に筋力・身体機能低下を伴う状態、ロコモは運動器障害による移動機能の低下を指します。一方、トキシドロームは中毒症候群、アナフィラキシーは重篤な全身性過敏反応で、いずれも救急領域の用語です。低栄養と筋力低下が連鎖するフレイル・サイクルを、運動・栄養・社会参加の3本柱で断ち切ることが介入の基本となります。3つの概念の重なりと違いを理解しておくことは、高齢者診療や地域包括ケアの実践に直結します。
解答・解説
正解はa, b, eです
介護予防とは、高齢者が要介護状態になることをできる限り防ぐ(遅らせる)こと、また要介護状態になってもその悪化を防ぎ軽減を目指すことである。超高齢社会のわが国では、平均寿命と健康寿命(日常生活に制限のない期間)の差を縮めることが重要な課題となっている。 要介護の主な原因には、認知症、脳血管疾患、骨折・転倒、高齢による衰弱、関節疾患などがあり、このうち衰弱・骨折・転倒・関節疾患は、筋力や運動器の機能低下と密接に結びついている。こうした「要介護の手前の段階」を早く見つけて運動・栄養・社会参加などで介入するための概念として、フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドロームが提唱・活用されている。3つは重なり合う概念で、おおまかには次のように位置づけられる。 ・フレイル:身体・精神心理・社会的側面を含む、最も包括的な「虚弱」の概念 ・サルコペニア:骨格筋(筋量・筋力・身体機能)に着目した概念 ・ロコモティブシンドローム:骨・関節・筋肉・神経を含む運動器全体の障害による移動機能低下に着目した概念 一方、トキシドロームは中毒学、アナフィラキシーは救急・アレルギー領域の用語であり、介護予防の概念ではない。
選択肢考察
- ○a. フレイル
フレイル(虚弱)は、加齢に伴って生理的な予備能力が低下し、感染症・手術・転倒などのストレスに対する脆弱性が高まった状態である。健康(頑健)な状態と要介護状態の中間に位置し、適切な介入によって健康な状態に戻りうる(可逆性がある)ことが特徴である。身体的フレイルのほか、認知機能低下やうつなどの精神・心理的フレイル、独居・閉じこもりなどの社会的フレイルも含む。身体的フレイルの評価には、Friedの基準をもとにした日本版CHS基準(J-CHS基準)が用いられ、体重減少、筋力(握力)低下、疲労感、歩行速度低下、身体活動量の低下の5項目のうち3項目以上でフレイル、1〜2項目でプレフレイルと判定する。早期に発見して介入することが介護予防の中心となる。
- ○b. サルコペニア
サルコペニアは、加齢などにより骨格筋量が減少し、筋力の低下や身体機能の低下を伴う状態である(ギリシャ語のsarx〈筋肉〉とpenia〈喪失〉に由来)。転倒・骨折、ADL(日常生活動作)低下、要介護、死亡のリスクを高め、身体的フレイルの主要な要因でもある。アジアの診断基準(AWGS 2019)では、握力低下(男性28 kg未満、女性18 kg未満)や身体機能低下(歩行速度1.0 m/秒未満など)と、二重エネルギーX線吸収法(DXA)や生体電気インピーダンス法(BIA)で測定した骨格筋量の低下を組み合わせて診断する。レジスタンス運動(筋力トレーニング)と十分な蛋白質摂取による予防・改善が介護予防として重要である。
- ×c. トキシドローム
トキシドローム(toxidrome)は toxic と syndrome を合わせた造語で、特定の毒物・薬物群に共通してみられる症状や徴候の組合せ(中毒症候群)を指す。例えば抗コリン性(散瞳、皮膚乾燥、頻脈、高体温、せん妄)、コリン作動性(縮瞳、流涎・発汗、徐脈、気管支漏)、オピオイド(縮瞳、呼吸抑制、意識障害)、交感神経作動性、鎮静・催眠薬などのパターンがあり、原因物質が不明な中毒の診断の手がかりとして用いる。救急医療・中毒学の概念であり、介護予防とは関係しない。
- ×d. アナフィラキシー
アナフィラキシーは、アレルゲンなどへの曝露後に急速に発症する全身性の重篤な過敏反応で、皮膚・粘膜症状(蕁麻疹、血管性浮腫)、呼吸器症状(喘鳴、上気道閉塞)、循環器症状(血圧低下)、消化器症状などが複数臓器にわたって出現する。多くはIgEを介するⅠ型アレルギー反応であり、血圧低下や意識障害を伴うものをアナフィラキシーショックという。第一選択治療はアドレナリン筋注である。救急・アレルギー領域の概念であり、介護予防とは関係しない。
- ○e. ロコモティブシンドローム
ロコモティブシンドローム(運動器症候群、略称ロコモ)は、骨・関節・筋肉・神経などの運動器の障害によって移動機能(立つ・歩くなど)が低下した状態であり、進行すると要介護になるリスクが高まる。2007年に日本整形外科学会が提唱した。原因となる疾患・状態として、骨粗鬆症とそれによる骨折、変形性膝関節症・変形性腰椎症、腰部脊柱管狭窄症、サルコペニアなどがある。評価には「立ち上がりテスト」「2ステップテスト」「ロコモ25(質問票)」からなるロコモ度テストが用いられ、片脚立ちやスクワットなどの「ロコトレ」による予防が推奨されている。介護予防において重要な概念である。
3つの概念の関係
サルコペニア(筋の問題)は、運動器全体の障害であるロコモティブシンドロームの一因となり、また身体的フレイルの中核をなす。フレイルはさらに精神・心理的、社会的側面も含む最も広い概念である。いずれも「要介護の前段階」を捉え、早期介入によって進行を防ぐことを目的としている。
フレイル・サイクル
加齢や疾患による食欲低下・低栄養 → 筋量減少(サルコペニア) → 筋力・活動量の低下 → エネルギー消費の低下 → さらなる食欲低下、という悪循環をフレイル・サイクルと呼ぶ。この悪循環を断ち切るために、運動(特にレジスタンス運動)、栄養(十分なエネルギーと蛋白質)、社会参加の3本柱で介入する。
わが国の介護予防の制度
介護保険制度のもと、市町村が実施する「介護予防・日常生活支援総合事業」では、65歳以上を対象に「基本チェックリスト」(運動機能、栄養、口腔機能、閉じこもり、認知機能、うつなどの25項目)を用いて生活機能の低下を把握し、通いの場(住民主体の体操教室など)や短期集中型のサービスにつなげる。また、75歳以上の後期高齢者を対象とした健康診査では、フレイルなどに着目した「後期高齢者の質問票」が用いられている。
オーラルフレイル
噛む・飲み込む・話すといった口腔機能のささいな衰えを指し、低栄養やサルコペニア・フレイルの入り口になるとされ、介護予防の観点から注目されている。
関連する用語
健康寿命:健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間。平均寿命との差(男性で約9年、女性で約12年)が「不健康な期間」とされ、この差の短縮が健康日本21の目標の一つである。
POINT
・介護予防の鍵となる概念は、フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドローム。 ・フレイル:生理的予備能が低下しストレスに脆弱になった、健康と要介護の中間の状態で、可逆性がある。身体的・精神心理的・社会的側面を含む。J-CHS基準は体重減少・握力低下・疲労感・歩行速度低下・身体活動量低下の5項目(3項目以上でフレイル)。 ・サルコペニア:骨格筋量の減少に筋力低下・身体機能低下を伴う状態。 ・ロコモティブシンドローム:運動器の障害による移動機能の低下。日本整形外科学会が2007年に提唱。ロコモ度テストで評価。 ・トキシドローム(中毒症候群)とアナフィラキシー(重篤な全身性過敏反応)は介護予防とは無関係。
