「できない」より「できる」を伝える―在宅医療のデバイス管理と患者・家族への説明
第116回医師国家試験 C問題 第1問
国試問題にチャレンジ
在宅医療を想定している患者・家族への説明で適切なのはどれか。
- a.胃瘻の造設を行ったので経口摂取は控える。
- b.中心静脈栄養法での輸液中は体動を制限する。
- c.仙骨部の褥瘡拡大防止のため円座を使用する。
- d.男性では膀胱留置カテーテルを下腹部に固定する。
- e.気管切開による人工呼吸療法のため入浴はできない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
在宅医療では、胃瘻・中心静脈栄養・膀胱留置カテーテル・気管切開下人工呼吸療法などを自宅で続けますが、デバイスがあっても食事・体動・入浴などの生活を不必要に制限しないことが原則です。胃瘻があっても嚥下機能が許せば経口摂取は可能で、中心静脈栄養中もルートに注意すれば歩行や外出ができ、気管切開下人工呼吸療法でも人員と準備を整えれば入浴できます。褥瘡予防に円座は周囲の圧迫と血流障害を招くため用いず、体圧分散寝具と体位変換が基本です。男性の膀胱留置カテーテルは陰茎を上向きにして下腹部に固定し、陰茎根部の屈曲による尿道損傷を防ぎます(女性は大腿内側)。「できない」ではなく「どうすれば安全にできるか」を伝える姿勢は、患者のQOLを守る在宅医療の基本となります。
解答・解説
正解はdです
テーマ
在宅医療では、胃瘻(いろう)による経管栄養、中心静脈栄養、膀胱留置カテーテル、気管切開下の人工呼吸療法など、病院で始めた医療処置を自宅で継続することが多い。その際、医療者は患者・家族に対して「何に注意すればよいか」と同時に「何ができるか」を正しく伝える必要がある。在宅医療の目的は、医療処置を続けながらも、その人らしい生活の質(QOL)をできるだけ保つことにある。そのため、医学的根拠のない制限(食べてはいけない、動いてはいけない、入浴できない)を課す説明は不適切であり、逆に合併症予防のために正しい手技を伝える説明が適切となる。
正解を導く考え方
各選択肢を「医療デバイスがあっても可能なこと」と「合併症予防のための正しい管理」の観点から見ていく。胃瘻があっても嚥下機能に応じて経口摂取は可能、中心静脈栄養中も歩行などの体動は可能、気管切開下人工呼吸療法でも工夫すれば入浴は可能である。褥瘡対策としての円座は、かえって局所の圧迫と血流障害を招くため現在は推奨されない。一方、男性の膀胱留置カテーテルを下腹部に固定するのは、尿道の屈曲部への圧迫による損傷を防ぐための標準的な管理であり、適切な説明である。
選択肢考察
- ×a. 胃瘻の造設を行ったので経口摂取は控える。
胃瘻(経皮内視鏡的胃瘻造設術〈PEG〉などで作る胃と腹壁をつなぐ瘻孔)は、口から必要量を摂取できない患者の栄養補給路であり、経口摂取を禁止するためのものではない。嚥下機能が保たれていれば、楽しみとしての食事や嚥下訓練として経口摂取を併用でき、むしろ口から食べることは口腔機能の維持やQOLの向上に役立つ。経口摂取の可否は胃瘻の有無ではなく、嚥下機能評価(嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査など)に基づいて判断する。
- ×b. 中心静脈栄養法での輸液中は体動を制限する。
在宅中心静脈栄養(home parenteral nutrition:HPN)では、前胸部の皮下に埋め込んだポート(皮下埋め込み型中心静脈ポート)などから輸液を行うことが多い。ルートが引っ張られたり抜けたり、接続部が外れたりしないように注意すれば、輸液中も歩行や日常動作は可能である。携帯型輸液ポンプを用いれば外出もできる。また夜間のみ輸液して日中はルートを外すサイクリック投与により、日中の活動性を確保する方法もある。体動を一律に制限する必要はなく、廃用の進行を防ぐ意味でも不適切な説明である。
- ×c. 仙骨部の褥瘡拡大防止のため円座を使用する。
円座はドーナツ状のクッションで、穴の部分に褥瘡部を当てて除圧しようとするものである。しかし実際には円座の縁が当たる周囲の皮膚に圧が集中し、さらに輪の内側の組織への血流が妨げられてうっ血するため、新たな褥瘡の発生や既存の褥瘡の悪化を招く。現在の褥瘡予防・管理では円座の使用は推奨されていない。体圧分散寝具(エアマットレスなど)の使用、定期的な体位変換、適切なポジショニング、栄養状態の改善、皮膚の清潔と湿潤管理が基本となる。
- ○d. 男性では膀胱留置カテーテルを下腹部に固定する。
男性の尿道は長く、陰茎根部(陰茎陰嚢角)でカーブしている。陰茎を下向きにしたままカテーテルを大腿部に固定すると、この屈曲部でカテーテルが尿道壁を持続的に圧迫し、圧迫壊死による尿道損傷・潰瘍、さらには尿道皮膚瘻を生じるおそれがある。陰茎を腹側に持ち上げてカテーテルを下腹部にテープで固定すると、尿道の屈曲が緩やかになって圧迫が減る。また固定によりカテーテルの出し入れの動きが抑えられ、膀胱頸部・膀胱粘膜の損傷や出血、尿道口からの細菌の侵入も減らせる。在宅で家族や介護者に指導すべき正しい管理方法である。なお女性では尿道が短く直線的なため、大腿内側に固定するのが一般的である。
- ×e. 気管切開による人工呼吸療法のため入浴はできない。
気管切開下の人工呼吸療法(tracheostomy positive pressure ventilation:TPPV)を受けている患者でも、気管切開孔に水が入らないよう湯の高さを肩より下に保ち、入浴中も換気を確保する人員(用手換気〈バッグバルブ〉を行う者を含む)を配置するなどの準備をすれば入浴は可能である。在宅では訪問入浴サービスや機械浴を利用する。入浴は清潔の保持だけでなく、リラクゼーションや生活の質の点でも重要であり、一律に「できない」と説明するのは誤りである。
在宅医療で行われる主な医療処置と注意点
・胃瘻からの経管栄養:注入時は誤嚥予防のため上半身を30〜90度程度挙上し、注入後もしばらく座位を保つ。瘻孔周囲の皮膚トラブル、カテーテルの事故抜去(瘻孔は短時間で狭くなるため早急な対応が必要)に注意する。経口摂取との併用は可能。 ・在宅中心静脈栄養(HPN):カテーテル関連血流感染症(発熱時はまず疑う)、ルートの閉塞・接続外れ、血糖異常に注意する。日常生活や外出は可能。 ・膀胱留置カテーテル:閉鎖式回路を保ち、蓄尿バッグは膀胱より低い位置に置いて逆流を防ぐ(床には直接置かない)。カテーテルの屈曲・閉塞を避け、男性は下腹部、女性は大腿内側に固定する。長期留置は尿路感染症の原因となるため、可能なら間欠的導尿への変更や早期抜去を検討する。 ・気管切開・在宅人工呼吸療法:気道吸引、カニューレ管理、停電時の電源確保(外部バッテリー)、緊急時の用手換気の方法を家族に指導する。入浴・外出も工夫により可能。
褥瘡予防の基本
好発部位は骨が突出し体重のかかる部位で、仰臥位では仙骨部、踵部、肩甲骨部、後頭部、側臥位では大転子部、外果部などである。予防の柱は、圧の分散(体圧分散寝具、体位変換、30度側臥位などのポジショニング)、ずれ・摩擦の回避(ベッド挙上は30度以内を目安とし、背抜き・足抜きを行う)、皮膚の清潔と湿潤の管理、栄養状態の改善である。円座や、発赤部のマッサージは組織損傷を悪化させるため行わない。
在宅医療を支える制度
訪問診療・訪問看護・訪問入浴・福祉用具貸与(介護ベッド、エアマットレスなど)は、医療保険・介護保険を組み合わせて利用する。
POINT
・在宅医療では、医療デバイスがあっても可能な日常生活(食事・体動・入浴)を不必要に制限しない。 ・胃瘻があっても嚥下機能が許せば経口摂取は可能。 ・中心静脈栄養中もルートに注意すれば歩行・外出が可能。 ・褥瘡予防に円座は使わない(周囲の圧迫・血流障害を招く)。体圧分散寝具と体位変換が基本。 ・膀胱留置カテーテルの固定:男性は陰茎を上向きにして下腹部、女性は大腿内側。 ・気管切開下人工呼吸療法でも、人員と準備を整えれば入浴は可能。
