StudyMed医師国家試験

「〇〇ちゃん」は親しみか、子ども扱いか―高齢者介護で問われる個性と尊厳

第116回医師国家試験 B問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第116回 B問題 第13問

高齢者の個性と尊厳を尊重する介護の在り方について適切なのはどれか。

  1. a.親しみを込めるように高齢者の名前を「ちゃん」づけで呼ぶ。
  2. b.転落しないようにベッドに体幹をバンドで固定し安全を図る。
  3. c.排泄の自立が困難な高齢者にトイレの場所を大声で指図する。
  4. d.それぞれの高齢者の習慣や生活ペースに合わせた介護を行う。
  5. e.移動の自立が困難な高齢者に介護老人福祉施設の入所を勧める。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者介護の基本理念である「個性と尊厳の尊重」を、具体的な場面に当てはめて判断する問題だ。どの選択肢も、介護者の側から見れば善意や安全のためと言えそうなものばかり。だからこそ「本人の立場から見てどうか」という視点で読むことが大切だよ。
医学生医学生
一見どれも悪気はなさそうですね。安全を守るのも介護の大事な役割だと思うので、ベッドへの固定は正しい気がしてしまいました。
ドクタードクター
そう考える人は少なくない。でも、ベッドに体幹をバンドで縛るのは身体拘束にあたる。自由を奪って尊厳を損なうだけでなく、筋力低下や関節拘縮、褥瘡、せん妄や認知機能の悪化を招くし、無理に起き上がろうとしてかえって転落や窒息の事故につながることもあるんだ。
医学生医学生
安全のための行為が、逆に危険を生むこともあるんですね。でも、どうしても必要な場面はないんですか。
ドクタードクター
介護保険施設では身体拘束は原則禁止で、例外は「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件をすべて満たすときだけ。その場合も施設として組織的に判断し、本人や家族に説明し、時間や理由を記録する必要がある。転落対策なら、まず低床ベッドや衝撃緩和マット、離床センサー、排泄など起き上がる理由への先回りといった、拘束以外の方法を考えるんだ。
医学生医学生
ベッド柵で囲めば拘束にならないと思っていました。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。自分で降りられないように柵で四方を囲むことも、厚生労働省の手引きでは身体拘束の例に挙げられている。病棟実習でも、柵の使い方を意識して見てみるといいよ。では「ちゃん」づけはどうかな。
医学生医学生
老年内科の実習で、患者さんを下の名前で呼んでいる職員さんがいて、仲が良さそうに見えたんですが……。
ドクタードクター
本人が望んでそう呼ばれているなら別だけれど、原則としては不適切だ。「ちゃん」は幼い子どもへの呼び方で、長い人生経験をもつ大人を子ども扱いすることになる。介護者に親しみの意図があっても、本人は侮辱と感じるかもしれない。基本は姓に「さん」をつけて敬意ある言葉で話すこと。子ども扱いや侮辱的な言葉かけが繰り返されれば、心理的虐待にあたりうるんだ。
医学生医学生
OSCEの医療面接でも、最初にフルネームで確認して「〇〇さん」と呼ぶように練習しました。それと同じ考え方ですね。
ドクタードクター
その通り。次はトイレの場所を大声で指図する対応だ。何が問題だと思う?
医学生医学生
排泄の話を周りに聞こえる声でされたら恥ずかしいと思います。命令口調なのも気になります。
ドクタードクター
いいね。排泄は最も人に知られたくない行為のひとつだから、羞恥心とプライバシーへの配慮が欠かせない。それに、排泄の自立が難しい人には場所を教えるだけでは解決しない。排泄のパターンを把握して声かけの時間を工夫し、そばで小さな声でさりげなく誘い、必要なら付き添って介助する。トイレに目印をつけるといった環境の工夫も有効だよ。
医学生医学生
移動が難しい人に特別養護老人ホームへの入所を勧めるのは、現実的な提案にも思えますが。
ドクタードクター
移動が自立していないという一点だけで住む場所を決めてしまうのが問題なんだ。どこで暮らすかは本人の意向を尊重して決めることで、多くの高齢者は住み慣れた自宅での生活を望んでいる。まずはどの動作がどの程度難しいかを評価し、リハビリテーション、杖や車椅子などの福祉用具、手すりの設置や段差の解消といった住宅改修、訪問介護や通所介護を組み合わせて在宅生活を支える方法を考える。ちなみに特別養護老人ホームの新規入所は、原則として要介護3以上に限られている。
医学生医学生
そうすると、一人ひとりの習慣や生活ペースに合わせた介護を行う、というのが正解ですね。
ドクタードクター
正解。起床や就寝の時間、食事の好みや食べる速さ、入浴の時間帯、身だしなみや趣味など、長年続けてきた習慣はその人らしさそのものだ。施設の日課や介護者の都合に一律に合わせさせるのではなく、本人のリズムに沿ってケアを組み立てることが、一人の個人として尊重することにつながる。
医学生医学生
なじみのある生活が続けられると、安心感にもつながりそうです。
ドクタードクター
まさにそうで、認知症の人では混乱や行動・心理症状、いわゆるBPSDの軽減にも役立つ。認知症ケアで重視される、その人を中心としたケア、パーソン・センタード・ケアの考え方とも一致するね。介護保険法も第1条で、尊厳を保持し、有する能力に応じて自立した日常生活を営めるよう支援することを目的に掲げているんだ。
医学生医学生
できることまで介助してしまうのも、自立支援の観点からはよくないんでしょうか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。過剰な介助は残っている能力の低下、つまり廃用を招く。できることは本人にしてもらい、選択の機会を保障することも尊厳の尊重だ。最後にもうひとつ、高齢者虐待防止法では身体的虐待、ネグレクト、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待の5類型が定められている。正当な理由のない身体拘束は身体的虐待に該当すると考えられているから、医師としても入院中の抑制の指示には慎重であってほしい。

まとめ

高齢者介護の基本は、その人を長い人生経験をもつ一人の大人として尊重し、本人の習慣や生活ペースに合わせた個別的なケアを行うことです。「ちゃん」づけなどの子ども扱いや命令口調、周囲に聞こえる声での排泄の指図は自尊心や羞恥心を傷つけ、体幹のバンド固定やベッド柵で囲むことは身体拘束として原則禁止され、例外は切迫性・非代替性・一時性の3要件をすべて満たす場合に限られます。また、移動が困難という一点だけで施設入所を勧めるのではなく、評価のうえでリハビリテーションや福祉用具、住宅改修、在宅サービスを組み合わせ、住む場所は本人の意向を尊重して決めます。こうした考え方は介護保険法の掲げる尊厳の保持と自立支援、認知症ケアのパーソン・センタード・ケアに通じるものです。病棟での抑制や患者さんへの声かけなど、医師として日々の診療にも直結する視点として身につけておきましょう。

解答・解説

正解はdです

高齢者介護の基本理念である「個性と尊厳の尊重」を具体的な場面に当てはめて判断する問題である。 高齢者は長い人生のなかで培ってきた価値観、生活習慣、人間関係をもつ一人の大人である。また、加齢による心身の変化の現れ方は個人差がきわめて大きく、同じ年齢でも体力・認知機能・生活能力は人によって大きく異なる。したがって介護は、施設や介護者の都合に合わせて一律に行うのではなく、その人がこれまでどのように暮らしてきたかを尊重し、残っている能力を生かして自分らしい生活を続けられるよう支える(自立支援)ことが求められる。介護保険法も第1条で、要介護者が「尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」支援することを目的に掲げている。 選択肢を判断する際は、次の視点で考えるとよい。 ・その人を一人の大人として扱っているか(子ども扱い、命令口調になっていないか) ・本人の自由や意思を不当に制限していないか(身体拘束など) ・羞恥心やプライバシーに配慮しているか ・本人の状態と希望を評価したうえでの対応か(一つの障害だけで処遇を決めていないか) この視点から、本人の習慣や生活ペースに合わせた介護を行うことが、個性と尊厳を尊重する適切な在り方である。

選択肢考察

  1. ×a.  親しみを込めるように高齢者の名前を「ちゃん」づけで呼ぶ。

    不適切。介護者に親しみを示す意図があっても、「ちゃん」づけは幼い子どもに対する呼び方であり、豊かな人生経験をもつ大人を子ども扱いすることになる。本人の自尊心を傷つけ、侮辱と受け取られうる。高齢者への呼びかけは、原則として姓に「さん」をつけ、敬意のある言葉づかいで行う。愛称で呼ぶのは本人が望んだ場合に限るのが望ましい。なお、子ども扱いや侮辱的な言葉かけが繰り返されれば、高齢者虐待防止法でいう心理的虐待に当たりうる。

  2. ×b.  転落しないようにベッドに体幹をバンドで固定し安全を図る。

    不適切。ベッドに体幹や四肢をひもやバンドで縛ることは身体拘束に当たる。身体拘束は本人の自由を奪って尊厳を損なうだけでなく、筋力低下や関節拘縮、褥瘡、食欲低下、せん妄・認知機能の悪化、さらには抵抗して無理に起き上がろうとすることによる転落や窒息など、かえって重大な事故を招くおそれがある。 介護保険施設では身体拘束は原則として禁止されており、例外的に認められるのは「切迫性(本人や他の利用者の生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高い)」「非代替性(他に代わる方法がない)」「一時性(一時的なものである)」の3要件をすべて満たす場合に限られる。その場合も、施設内で組織的に判断し、本人・家族に説明し、態様・時間・理由などを記録することが必要である。正当な理由のない身体拘束は高齢者虐待(身体的虐待)に該当すると考えられている。 転落の防止には、低床ベッドの使用、ベッド周囲への衝撃緩和マットの設置、離床センサーの活用、排泄など起き上がる理由への先回りの対応など、拘束以外の方法をまず検討する。なお、自分で降りられないようにベッドを柵で囲むことも身体拘束に含まれる。

  3. ×c.  排泄の自立が困難な高齢者にトイレの場所を大声で指図する。

    不適切。排泄は最も他人に知られたくない行為の一つであり、周囲に聞こえる大声でトイレの話をすることは本人の羞恥心を強め、自尊心を傷つける。また、命令口調での指図は高圧的で、本人に威圧感を与える。さらに、排泄の自立が困難な人にとって場所を教えるだけでは問題は解決しない。 適切な対応は、排泄のパターン(時間帯、間隔など)を把握して声をかける時間を工夫し、本人のそばで小さな声でさりげなく誘い、必要に応じてトイレまで付き添って介助することである。トイレの場所がわかりにくい場合は、目印や表示を工夫するなど環境面の支援も有効である。

  4. ○d.  それぞれの高齢者の習慣や生活ペースに合わせた介護を行う。

    適切。起床・就寝の時間、食事の好みや食べる速さ、入浴の頻度や時間帯、身だしなみ、趣味など、生活のしかたは人それぞれであり、長年続けてきた習慣はその人らしさ(個性)そのものである。施設の日課や介護者の都合に一律に合わせさせるのではなく、本人の習慣や生活リズムを把握し、それに沿って介護を組み立てることは、その人を一人の個人として尊重することに直結する。 また、なじみのある生活を続けられることは心理的な安心感につながり、認知症の人では混乱や行動・心理症状(BPSD)の軽減にも役立つ。認知症ケアで重視される「その人を中心としたケア(パーソン・センタード・ケア)」の考え方にも合致する。

  5. ×e.  移動の自立が困難な高齢者に介護老人福祉施設の入所を勧める。

    不適切。移動が自立していないという一点だけで施設入所を勧めることは、本人の意思や生活の全体像を無視した対応である。どこで暮らすかは本人の意向を尊重して決めるべきことであり、多くの高齢者は住み慣れた自宅や地域での生活の継続を望んでいる。 まずは移動のどの動作がどの程度困難なのかを評価し、リハビリテーション、杖・歩行器・車椅子などの福祉用具の利用、手すりの設置や段差の解消などの住宅改修、訪問介護や通所介護などの在宅サービスを組み合わせて、自立した生活を支援する方法を検討する。 なお、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)への新規入所は、2015年(平成27年)4月以降、原則として要介護3以上の人に限られている(要介護1・2でも、やむを得ない事情がある場合は特例的に入所が認められる)。

尊厳を尊重する介護の基本

・呼びかけと言葉づかい:一人の大人として、敬意をもって接する。子ども扱いや命令口調を避ける。 ・自己決定の尊重:できるだけ本人の意思を確認し、選択の機会を保障する。認知症の人でも意思決定を支援する。 ・自立支援:できることは自分で行ってもらい、残っている能力を活用する。過剰な介助は能力の低下(廃用)を招く。 ・プライバシーと羞恥心への配慮:排泄・入浴・更衣の介助ではカーテンや扉を閉める、露出を最小限にする、声の大きさに気をつける。 ・個別性の尊重:生活歴、習慣、価値観、好みを把握し、ケアに反映させる。

身体拘束

厚生労働省の「身体拘束ゼロへの手引き」では、身体拘束に当たる行為の例として、徘徊防止や転落防止のために体幹や四肢をひも等で縛る、ベッドを柵(サイドレール)で囲む、点滴チューブを抜かないように手指の機能を制限するミトン型の手袋をつける、車椅子からずり落ちないようY字型抑制帯や腰ベルトをつける、脱衣やおむつ外しを防ぐために介護衣(つなぎ服)を着せる、向精神薬を過剰に使用して行動を落ち着かせる、自分で開けられない居室に隔離する、などが挙げられている。 例外的に行う場合の3要件:切迫性・非代替性・一時性(すべてを満たす必要がある)。

高齢者虐待防止法(2006年施行)における虐待の種類

身体的虐待、介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待の5類型。養護者(家族など)による虐待と、養介護施設従事者等による虐待の両方が対象となる。虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は市町村に通報するよう努めなければならず、生命・身体に重大な危険が生じている場合は通報義務がある(施設従事者は施設内の虐待を発見した場合に通報義務がある)。

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)

常時介護を必要とし在宅での生活が困難な要介護者が入所する生活の場。2015年度以降、新規入所は原則として要介護3以上。医療やリハビリテーションを提供して在宅復帰を目指す介護老人保健施設とは役割が異なる。

POINT

・高齢者は一人の大人として敬意をもって接する(「さん」づけ、命令口調を避ける)。 ・介護は一律ではなく、本人の習慣・生活ペース・意向に合わせた個別的なケアを行う。 ・身体拘束は原則禁止。例外は切迫性・非代替性・一時性の3要件をすべて満たす場合のみで、組織的判断・説明・記録が必要。ベッドを柵で囲むことも身体拘束に含まれる。 ・排泄介助では羞恥心とプライバシーに配慮する。 ・一つの障害だけで処遇を決めず、評価と在宅支援を優先し、住む場所は本人の意向を尊重する。 ・特別養護老人ホームの新規入所は原則要介護3以上。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。