StudyMed医師国家試験

胸骨の裏に潜む影―「場所」と「中身」で絞り込む前縦隔腫瘍

第116回医師国家試験 A問題 第66問

国試問題にチャレンジ

第116回 A問題 第66問

34歳の女性。前胸部痛を主訴に来院した。3か月前から前胸部痛が出現し徐々に増強してきた。体温36.8℃。血圧118/64mmHg。SpO2 98%(room air)。心音と呼吸音に異常を認めない。胸部エックス線写真(A)と胸部造影CT(B)とを下に示す。  考えられる疾患はどれか。2つ選べ。

第116回 A問題 第66問の問題画像
  1. a.胸腺腫
  2. b.神経鞘腫
  3. c.心膜嚢胞
  4. d.胸膜中皮腫
  5. e.悪性リンパ腫

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胸部エックス線写真と造影CTから縦隔腫瘍の鑑別を考える問題だ。縦隔腫瘍の診断では「どの区域にあるか」と「充実性か嚢胞性か」の2つが最大の手がかりになる。まずは腫瘤がどこにあるかから見ていこう。
医学生医学生
エックス線写真では縦隔の陰影が上の方で広がっていて、肺野はきれいに見えます。
ドクタードクター
そうだね。肺そのものではなく縦隔に病変がありそうだ、というのが第一歩。造影CTでは、上行大動脈・肺動脈幹・上大静脈の前方、胸骨の裏側に軟部組織濃度の腫瘤がある。この場所は縦隔のどの区域かな。
医学生医学生
胸骨と大血管の間なので、前縦隔ですね。
ドクタードクター
正解。最近は国際的な区分で血管前領域とも呼ぶ。次に中身だ。腫瘤は造影でやや不均一に染まっていて、水と同じ低吸収ではない。つまり充実性の腫瘤ということになる。
医学生医学生
前縦隔の腫瘍というと、CBTの勉強で「4T」と覚えました。Thymoma、Teratoma、Terrible lymphoma、Thyroidです。
ドクタードクター
その語呂はとても役に立つ。胸腺腫、奇形腫を含む胚細胞腫瘍、悪性リンパ腫、胸骨下甲状腺腫だね。選択肢の中でこれに当てはまるのは胸腺腫と悪性リンパ腫の2つだ。
医学生医学生
胸腺腫は前縦隔腫瘍で一番多いんでしたよね。でも好発年齢はもう少し上だった気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。好発は40〜60歳代だけれど、若い人にもみられるので34歳だからといって外す理由にはならない。胸腺の上皮細胞から生じ、CTでは比較的境界明瞭な造影される充実性腫瘤として描出される。重症筋無力症、赤芽球癆、低γグロブリン血症といった自己免疫疾患を合併しうるのも大切な特徴だ。
医学生医学生
悪性リンパ腫はどこにでも出るイメージですが、前縦隔に特に多いタイプがあるんですか。
ドクタードクター
ある。結節硬化型のHodgkinリンパ腫と縦隔原発大細胞型B細胞リンパ腫は、若年〜中年の女性に多く、前縦隔に大きな腫瘤をつくりやすい。まさに今回の患者さんの年齢・性別に合う。B症状がなくても否定はできないよ。
医学生医学生
神経鞘腫も縦隔腫瘍の代表だと思って少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのはわかるけれど、場所を思い出してみよう。神経鞘腫はSchwann細胞由来の神経原性腫瘍で、肋間神経や交感神経幹に沿って脊椎の傍ら、つまり後縦隔に好発する。大血管の前にある今回の腫瘤とは位置が合わないんだ。
医学生医学生
心膜嚢胞は、心臓のそばにできる嚢胞でしたっけ。
ドクタードクター
そう。多くは右の心横隔膜角に発生し、CTでは壁が薄く、内部が水と同じ吸収値で造影されない。今回は前上縦隔にあって造影される充実性病変だから、場所も中身も合わない。
医学生医学生
胸膜中皮腫も腫瘤が胸膜に接しているように見えるので気になりました。
ドクタードクター
そこはひっかけになりやすいね。胸膜中皮腫はアスベスト曝露が最大の危険因子で、典型的には片側の胸水と、肺を包むように広がるびまん性・結節状の胸膜肥厚を示す。今回は主座が縦隔内で、胸膜肥厚も胸水もないから考えにくい。
医学生医学生
場所で後縦隔と心横隔膜角を外し、形の広がり方で胸膜由来を外す、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、確定診断は組織診断が基本だ。CTガイド下生検や外科的生検で組織を得る。補助的に、胸腺腫を疑えば抗アセチルコリン受容体抗体、リンパ腫なら血清LDHや可溶性IL-2受容体、胚細胞腫瘍ならAFPやhCGを確認する。
医学生医学生
呼吸器外科の実習で胸腺腫の手術を見学しましたが、リンパ腫は手術しないんですよね。
ドクタードクター
そう、そこが臨床で特に大事な点だ。胸腺腫は胸腺摘出を含む外科的切除が治療の基本だが、悪性リンパ腫は化学療法、必要に応じて放射線療法が中心で、通常は切除しない。見た目が似ていても治療方針が大きく変わるから、組織型の確定が欠かせないんだ。また、リンパ腫は急速に増大して上大静脈症候群や気道圧排を起こすことがあるので、顔面の浮腫や呼吸困難の出現には注意しよう。

まとめ

縦隔腫瘍の鑑別では、腫瘤の発生区域と、充実性か嚢胞性かが最も重要な手がかりとなります。胸骨背側・大血管前方の前縦隔に生じる充実性腫瘤では、胸腺腫、悪性リンパ腫、胚細胞腫瘍、胸骨下甲状腺腫(4T)が代表で、若年〜中年女性では結節硬化型Hodgkinリンパ腫や縦隔原発大細胞型B細胞リンパ腫も重要です。神経鞘腫は後縦隔、心膜嚢胞は心横隔膜角の嚢胞性病変、胸膜中皮腫は胸水とびまん性胸膜肥厚が特徴で、部位や形態から区別できます。胸腺腫は外科的切除、悪性リンパ腫は化学療法が治療の中心であるため、抗AChR抗体やLDH・可溶性IL-2受容体などを参考にしつつ、生検による組織診断で治療方針を決めることが大切です。解剖学的な区域と疾患を結びつける考え方は、画像診断全般の基礎となります。

解答・解説

正解はa, eです

所見の整理

・34歳女性。3か月前から前胸部痛が出現し、徐々に増強している:亜急性に進行する胸部病変を考える。 ・体温36.8℃で発熱はない。血圧・SpO2は正常。心音・呼吸音に異常はない:急性の心疾患(心膜炎、虚血性心疾患)や肺炎、気胸などを示唆する所見はない。 ・胸部エックス線写真(A):縦隔陰影が上〜中部で拡大しており、縦隔の腫瘤性病変が疑われる。肺野に明らかな異常はない。 ・胸部造影CT(B):上行大動脈・肺動脈幹・上大静脈の前方、胸骨の背側(前縦隔)に、軟部組織濃度の充実性腫瘤を認める。内部は造影でやや不均一に染まり、液体と同じ低吸収(water density)の嚢胞性病変ではない。病変の主座は縦隔内であり、胸膜に沿って広がる像ではない。

鑑別の進め方

縦隔腫瘍の鑑別では「どの区域に発生しているか」と「充実性か嚢胞性か」が最も重要な手がかりとなる。本例は前縦隔の充実性腫瘤であり、この部位の代表的な疾患は以下である。 ・胸腺上皮性腫瘍(胸腺腫、胸腺癌):前縦隔腫瘍で最も多い。 ・悪性リンパ腫:胸腺や縦隔リンパ節から発生し、前縦隔にもよくみられる。若年者に多い縦隔原発大細胞型B細胞リンパ腫やHodgkinリンパ腫(結節硬化型)は前縦隔に好発する。 ・胚細胞腫瘍(奇形腫、セミノーマ、非セミノーマ):若年者に多い。 ・甲状腺腫(胸骨下甲状腺腫):上縦隔から前縦隔へ連続する。 したがって選択肢の中では胸腺腫と悪性リンパ腫が考えられる。確定には組織診断(CTガイド下生検や外科的生検・切除)が必要であり、補助的にMRI、血清可溶性IL-2受容体(悪性リンパ腫)、hCG・AFP(α-フェトプロテイン、胚細胞腫瘍)、抗アセチルコリン受容体抗体(胸腺腫に合併する重症筋無力症)などを測定する。

選択肢考察

  1. ○a.  胸腺腫

    胸腺は前縦隔(胸骨の背側、大血管の前方)に位置する臓器であり、その上皮細胞から発生する胸腺腫は前縦隔腫瘍の中で最も頻度が高い。CTでは境界が比較的明瞭な充実性腫瘤として描出され、造影効果を示す。好発年齢は40〜60歳代だが若年者にもみられ、本例の前縦隔充実性腫瘤の鑑別として第一に挙がる。重症筋無力症、赤芽球癆、低γグロブリン血症などの自己免疫疾患を合併することがある。

  2. ×b.  神経鞘腫

    神経鞘腫は末梢神経のSchwann細胞から生じる良性腫瘍で、縦隔では肋間神経や交感神経幹の走行に沿って、脊椎の傍ら(後縦隔、傍椎体領域)に好発する神経原性腫瘍の代表である。CTでは脊柱に接する境界明瞭な腫瘤で、内部が不均一に造影されることが多い。本例の腫瘤は大血管の前方にあり、発生部位が合わない。

  3. ×c.  心膜嚢胞

    心膜嚢胞は心膜から生じる先天性の良性嚢胞で、多くは心臓と横隔膜が接する角(心横隔膜角)、特に右側に発生する。CTでは壁が薄く、内部が水と同じ低吸収で造影されない嚢胞性病変として描出される。本例の腫瘤は前上縦隔にあり、造影される充実性病変であるため合致しない。

  4. ×d.  胸膜中皮腫

    胸膜中皮腫は胸膜の中皮細胞から発生する悪性腫瘍で、アスベスト(石綿)曝露が最大の危険因子である。典型的には片側の胸水と、胸膜に沿ったびまん性・結節状の胸膜肥厚を呈し、肺を取り囲むように広がる。本例の腫瘤は前方で胸膜に接してはいるものの主座は縦隔内にあり、胸膜肥厚や胸水も認めないため、胸膜由来の腫瘍とは考えにくい。

  5. ○e.  悪性リンパ腫

    悪性リンパ腫は縦隔のどの区域にも生じうるが、胸腺や前縦隔リンパ節から発生するものも多く、前縦隔の充実性腫瘤の重要な鑑別である。特にHodgkinリンパ腫(結節硬化型)や縦隔原発大細胞型B細胞リンパ腫は、本例のような若年〜中年の女性に好発し、前縦隔に大きな腫瘤を形成する。造影CTでは軟部組織濃度の腫瘤として描出され、増大すると上大静脈症候群や気道圧排をきたすことがある。発熱・盗汗・体重減少(B症状)がなくても否定はできない。

縦隔の区分と好発腫瘍

縦隔は解剖学的に、前縦隔(胸骨と心膜・大血管の間)、中縦隔(心臓・大血管・気管の周囲)、後縦隔(食道・下行大動脈・脊椎傍領域)などに分けられる。近年は国際的な区分(ITMIG分類)で、血管前領域・臓側領域・椎体傍領域の3区域に分ける考え方が広く用いられる。区域ごとの代表的な腫瘍は次のとおりである。 ・前縦隔(血管前領域):胸腺腫、胸腺癌、胚細胞腫瘍(奇形腫、セミノーマなど)、悪性リンパ腫、胸骨下甲状腺腫、胸腺嚢胞。いわゆる「4T」(Thymoma、Teratoma(胚細胞腫瘍)、Terrible lymphoma、Thyroid)として覚えることが多い。 ・中縦隔(臓側領域):悪性リンパ腫、気管支原性嚢胞、心膜嚢胞(心横隔膜角)、食道嚢胞、リンパ節腫大(サルコイドーシス、転移など)。 ・後縦隔(椎体傍領域):神経原性腫瘍(神経鞘腫、神経線維腫、神経節細胞腫、小児では神経芽腫)。

胸腺腫

胸腺上皮から生じる腫瘍で、WHO分類で組織型(A、AB、B1〜B3)が分けられ、進展度は正岡分類などで評価する。重症筋無力症(約30%前後に合併)、赤芽球癆、低γグロブリン血症(Good症候群)などの傍腫瘍症候群を伴うことがある。治療の基本は胸腺摘出を含む外科的切除である。

縦隔の悪性リンパ腫

Hodgkinリンパ腫(特に結節硬化型)と縦隔原発大細胞型B細胞リンパ腫は若年者に多く、前縦隔に大きな腫瘤(bulky mass)を形成する。急速に増大し、上大静脈症候群や気管圧排を起こすことがある。血清LDHや可溶性IL-2受容体が上昇しやすい。化学療法(±放射線療法)が治療の中心であり、手術による切除は通常行わないため、組織型の確定が治療方針を大きく左右する。

胚細胞腫瘍

若年者、特にセミノーマや非セミノーマは若年男性に多い。非セミノーマではAFPやhCGが上昇することがあり、腫瘍マーカーが診断の手がかりとなる。奇形腫はCTで脂肪や石灰化を含むことが特徴である。

POINT

・縦隔腫瘍は「発生部位」と「充実性か嚢胞性か」で鑑別を絞り込む。 ・前縦隔:胸腺腫、胚細胞腫瘍、悪性リンパ腫、胸骨下甲状腺腫(4T)。 ・中縦隔:悪性リンパ腫、気管支原性嚢胞、心膜嚢胞(心横隔膜角、特に右側)。 ・後縦隔:神経原性腫瘍(神経鞘腫など)。 ・胸膜中皮腫は胸膜肥厚・胸水を特徴とし、縦隔内腫瘤とは異なる。 ・胸腺腫では重症筋無力症(抗AChR抗体)や赤芽球癆、胚細胞腫瘍ではAFP・hCG、悪性リンパ腫ではLDH・可溶性IL-2受容体を確認する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。